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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十一話 詐欺師の楽園(9)

 まだスワスティカがあった頃、わたしが収容所にいたことは君も何となく感づいているかも知れない。


 列車に乗せられて連れていかれたのは、ポトツキ収容所だった。 


 そう、一番恐ろしいとされた場所にいたんだ。


 この綺譚おはなしの前にも後にも、たくさんの同族が死んでいった。あまり、そのことについて話したくないな。


 収容所では女と男に分けられて皆生活していたんだ。だから、わたしは父と別れて母と暮らしていた。


 でも、今回は母が死んで後の話だ。


 いままでこっそり食べ物を分け与えてくれていた母がいなくなった。支給されるのはほんのわずかだ。


 このまま飢えて死ぬのかな。


 そう考えてベッドで天井を見つめる毎日だった。


 毎日お腹をすかせていて肋骨も見えていたな。


 ある日、兵士に肩を叩かれて呼び出されたんだったね。


 そんなとき幼かったわたしは、収容所長を兼任していたカスパー・ハウザーの実験室へ連れていかれた。


「ようこそ」


 ハウザーは机に座ったまま手を組んで静かに言った。


「君は選ばれた。これからは群の中ではなく、僕の元で暮らすことになる」


 わたしは震えたままそれを見ていたよ。


その言葉に嘘はなかった。


 ハウザーは最初のうち、お菓子を出して歓迎してくれていた。他の仕事で留守も多いし、来ることも少なかったな。


 うん、素直に手なづけられていたね。わたしも昔から今のようだったって訳じゃない。


 信じてしまっていたんだ。


 実験室にいると宿舎にいた頃より優遇されるからね。取り上げられていたおもちゃで遊べるようになったし、本も読めるようになった。


 痩せて肋骨が見えるようになっていたわたしは一ヶ月ぐらい掛けて元に戻ったよ。


 偏食ぶりはその頃からだよ。でも、お腹が空いてたから何でも食べるしかなかった。今なら絶対嫌だ。


 そのうち友達も出来た。監視役カポのステラ・ベンヤミンだ。


 監視役ってのはその名の通り、収容所にいる他のシエラフィータ族を見張る連中だ。もちろん同族が選ばれる。


 何かあると収容所の中庭に整列させられるんだけど、その時先導するのが監視役でね。フラフラしているやつがいれば頭を殴り倒していた。


 地位を笠に着て酷いことをやるやつもいたから、とても嫌われていたね。


 ステラは当時二十の後半ぐらいだった。大柄な女だったよ。今の姿とは似ても似つかないな。


 いいものは食べているらしかった。


 怖い声で同族を怒鳴りつけてたよ。かといって監視役の仲間同士で笑い合うというわけでもなく。


 友達は多い方じゃなかった。ずっと仏頂面で、毎日わたしに食事を持ってきてくれるから、自然と話すようになったという訳さ。


「お姉さんはどこから来たの?」


「……」


 ステラは過去のことを話す柄じゃなかった。ふふふ、これは今も同じか。でも、今に輪を掛けて無口だったよ。


「一緒にチェスしよ」 


 って誘えば何も言わず頷いてやってたな。チェスの他にトランプもした。

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