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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十六話 夢みる人びと(2)

 ヴェサリウスはゆっくりとミュノーナの近くの林のなかに降下した。


「その服じゃ埒あかん俺が買ってくるわ」


「ありがとうございます」


 カミーユは感謝した。かたちだけの感謝だ。だがわざわざ買ってきてくれるというのだから言葉にしておかなければならないだろう。


「気にしやんとき」


 と言ってグラフスは物凄い速度でミュノーナのなかに入って行った。


 あまり待たずにグラフスは戻ってきた。似たような赤い服を選んでいる。


「さっさと来てきな。あ、おれは見ないで。向こうでいいわ。お前ら人間はオスとメスで別れてるやろ。おれはオスでもメスでもないが、お前らは」


 カミーユはそれには構わずその場で脱いでタオルで血を拭きまたたく間に着換えた。


「はあ、大胆なやっちゃなあ」


 血で染まったタオルは投げ捨てる。


「あかんあかん証拠になるやろ」


 グラフスはそれを拾い上げて糸の髪で目に見えないぐらいに寸断した。


「そこまで細かくできるんですか」


 カミーユは興味深く思って訊いた。


「そうや。これぐらいならオドラデクでもできるで」


 これを使えば遺骸を寸断できるかも知れない。いろいろ使えそうな場所は考えられた。ティークで作った『人獣細工』をよりたくさん増やせるかも知れない。


「町で何か話を訊きました?」


 カミーユはもう一つ気に掛かっていたことを質問した。


「そうやな。ペルッツの名前は小耳に挟んだで。まああんまいい噂やないな。前ジムプリチウスが言っとったようにリヒテンシュタットってやつを殺した話は広まってるようで、成功しとるわ」


「それはどうでもいいです。ルナさんの家はわかりますか」


「そこまではわからんかったわ。でも聞き込んでいけば何とかなるやろ」


 グラフスは暢気そうだった。


「ルナさんのお膝元で怪しい活動はしない方がいいですね。ある程度相手を絞っていって探りましょうか」


カミーユはなるべく穏やかに言った。


 特に怪しまれることもなく、ミュノーナの中に滑り込む二人。


 何やら賑やかなので、歩みを進める。すると、サーカスがやってきているということがわかった。


その名は『銀の調べ』。白銀の横断幕が張られ、名前がデカデカと張り出されていた。


 カミーユはもちろん覚えている。カミーユが所属した『月の隊商』とはトルタニア各所でよく一緒に公演を開く機会があった。


 もちろんその記憶はもう一つの人格によるものだったが。


「懐かしいですね」


 カミーユは言った。


「なんや、知ってるのか」


「ええ、少し。ヘンリクは元気かな?」


 アントンはカミーユと同じナイフ投げ師だ。もう一つの人格はヘンリクが好きだった。赤毛のそばかす浮いた同じ年代の青年だったが、本来のカミーユはなぜ、もう一人のカミーユがヘンリクを好きだったのか理解できていない。


 ヘンリクとカミーユは友達でよく一緒にナイフの投げ方を練習していた。大人しい、まあ内気な青年でカミーユと気質もよくあったらしい。


 相も変わらずヘンリクはカミーユの想いに気付いていなかった。


 何の張り合いもない、ありふれた恋。


 同年代の少女の恋愛を鑑みても、もう少し格上の相手を好きになるものではないのか、ともう一人のカミーユは思ってしまう。


 ヘンリクは客観的に見劣りする。


 まあ、本来のカミーユは恋愛を理解できないのだ。


 ただルナへ抱き始めた感情はもしかしたら恋愛と呼んでいいのかも知れない。

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