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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十六話 夢みる人びと(1)

――オルランド公国ティーク郊外


 ナイフ投げカミーユとグラフスは妖精のヴェサリウスに乗ったまま空高くを移動した。


 グラフスは美女の姿に変わっていた。普段は蛹のような形をしてヴェサリウスの肋骨に縋り付いているのだが、今日は人の姿でカミーユの隣に腰掛けていた。


 しかし、その髪の透き通った色ですぐにわかる。形を自在に変えることが出来るらしい。


「あんたはん、そんな血だらけで目立つやろ」


 グラフスは嫌そうに言った。


「『告げ口心臓』は配れましたか?」


 カミーユは訊いた。


「ああ配れたわ。人間ってチョロいな。このナイスバディでアピールしたらイチコロやった」


「今の世の中に怨みがないとあまり効果はないんじゃないですか」


 カミーユは呟いた。


「いいねんいいねん。とりあえず渡しといたら自然と広がるわ。そんなものやん? 真面目にやっても損するだけやで」


 カミーユはもう会話をする気をなくしていた。グラフスの相手は面倒くさい。


 というか、隣りにいるだけで邪魔だ。


「なんか着換えたらどうなん? おれが買ってきてやってもええで」


「ここではなく、他にしましょう」


 カミーユは言った。ここにはルナ・ペルッツはいない。長くいても仕方ないように思われた。


「それってどこや?」


「ミュノーナがいいでしょう。ルナさんはあちらには家があるって語っていました。詳しい場所は知りませんけどね」


 カミーユは言った。


「そりゃいいわ。で、何すんねん?」


「ルナさんをさらいましょう」


「さらうって殺すんやないんか」


「殺しはしませんよ。私の大事な人ですから」


「なんや笑ってる。あんたあんまり表情かえへん癖にこんな時だけにやついてきっしょいわ」


 カミーユはまた無視した。


 無視は効果がある。


 都合よく会話を途切れさせられるのだ。向こうは続けざまに話し掛けてくるが、その場合だけ答えればいい。


 ヴェサリウスは意外と早く進んだ。


「ミュノーナって行ったことないわ。あんたはどうなんや?」


「ありますよ。サーカス団『月の隊商』に所属していたからトルタニア各地を回っていたんです」


「へえ、意外に色んなとこ行ってるんやな」


「一人でではないですよ。皆と一緒です」


 皆と一緒。カミーユはその言葉が馬鹿馬鹿しく思えた。


 旅をしたのはカミーユではない。もう一つの人格だ。カミーユは記憶を共有してはいるが、実体験だとは思っていない。サーカスの仲間たちのことも何とも思っていない。


 皆と一緒、などという言葉はもう一つの人格が言いそうだ。


 今のカミーユは理解できない。何か彼らに特別な感情を抱いていたのだろうか? 


 それは自分のルナに対する感情と似ているのだろうか。


 よくはわからない。


 どちらにしろ、カミーユは早くルナと会いたかった。


 会って、その感情を壊したかった。ルナが感情を持っていると言うことがカミーユには醜く感じられた。


――この、熊のぬいぐるみのように。


 カミーユはメアリーからルナと名前を付け変えたぬいぐるみを胸の奥に隠し持っていた。ルナにはカミーユと名づけたぬいぐるみを渡している。


 この記憶はもう一つの人格も知っている。もう一つの人格はメアリーを友達と考えていたようだが本当のカミーユは違う。


 この熊の名前はルナが相応しいのだ。

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