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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十五話 死後の恋(10)

「ささいなことじゃねえよ。人間は決まりを作って生きてるんだ。決まりを破るやつはどんな理由があっても悪いやつだ」


 ズデンカは不愉快になって言った。


「でもそう簡単に世の中って上手くいくものかな? 決まりを破っても結果として世間から受けいられる場合はあるかもしれない。逆に決まりを守ってもだ。キミだって決まりはいくつも破っているだろ。十分悪いやつだ」


 ズデンカは何も言い返せなくなった。自分は矛盾に満ちている。


「この犯人を責められる? まず攻められない。キミはまず、そう言うとこは寛容になった方がいい」


 ズデンカはまた何一つ反論できなかった。


「さあ、もう帰るぞ」


 二人は警察署に向かった。


「ローベルトさんは現在取調中です」


「あ、その人は通して良いっていってましたよ」


 こんな警察官たちの会話にズデンカは送り出されて、足を進めた。


 ローベルトは取調室の椅子に坐って煙草を吹かしていた。


「ああ、戻ったか。謎はわかったか」


「『死後の恋』は人間の皮を使ったものじゃなかった。豚の尻の皮だ」


「ぷはっ、そりゃ傑作だな。だがお前さんの言うことは一理ある。鑑識に回す。あと、犯人さんも上がってるぜ。ほら、そこにいる男だ」


 痩せた男が椅子に坐っていた。


「こいつが犯人かよ」


 ズデンカは呆れた。あまりに覇気のない様子だったからだ。


「簡単だった。家の近くの郵便局で投函していて暮れて助かったよ。聞き込みをして怪しげなことをやっている孤独な男を捜し出せばすぐだった。お前さんに調べて貰ってる間にとっくに部下どもに指示をしてた、ってわけだ」


 ズデンカはなぜかそのセリフに痛みを覚えた。なぜ、嫌いな男が捕まえられてきているのに痛みを覚えるのだろう? 警察は土地勘を利用して地域のなかのやっかい者を見つけ出すのに長けている。


 自分やルナがそのやっかい者にならないとは限らないからか。


 ともかくモヤモヤした。


「お前、何でこんなことをやった?」


 煙を吐きながらローベルトは言った。部外者を交えながら取り調べるとは、本当にふざけた刑事だ。


「……その……女と……その……」


 犯人はぶつぶつ繰り返す。


「おい、ハッキリ言えや!」


 ローベルトは怒鳴り付ける。


「女と話すのが……苦手で……」


 犯人は少しどもっていた。


「何だそりゃ」


 ローベルトは顔を歪めた。


「窃盗、あるいは住居侵入の時効は過ぎているんじゃないか」


 ズデンカは自分の口が勝手に動いていることに気付いた。


「ああそうだ。たぶん起訴は出来ない。だからこいつからしっかり話は聞かないとなあ……! おい、もっとまともに話せや?」


「もう、いいじゃないか。罪にもならないことを責め立てても」


 大蟻喰まで助け船を出す始末だ。


「事件の概要を聞かないことには解放するにも解放できんのでな」


 ローベルトは冷たく言った。


 大蟻喰は苛ついたようで顔を歪めていた。


「こいつから話は聞き出せないだろうがよ。鉛筆か何かで書かせろ」


 ズデンカはたまりかねて言った。


「筆記用具類は禁じられてる。自殺でもされたら大変だ」


 ローベルトは妙なところだけ厳格だった。いや、厳格と言うより、あきらかに犯人を苛めているのだ。


――どうする? 殺すか。


 ズデンカは怒りをこらえた。そうだ。ズデンカはなぜか犯人のために怒っていたのだ。

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