第九十五話 死後の恋(8)
「実際、考えたりするのは得意だろ?」
大蟻喰は鋭い。喧嘩ばかりしているようでズデンカの本質を見抜いている。
ズデンカは考えるのが好きだ。考えて考えて考える。でも手が動いてしまう。そんな自分が情けなくなる。
「あたしは探偵の真似ごとなんかしたくない」
「探偵じゃなくてもいい。犯人さえ見つけ出せば」
「似たようなもんだろうが」
と、ここでまたローベルトが戻ってきた。
「どうした。名前と実際の失踪者と名前があったか?」
「それが奇妙なことに、名前が一致する失踪者がいねえんだよな」
「なんだと? 名前が違っても女の失踪事件が続いていたりしないのか?」
「いや、それが最近はあまり起こっていない。治安がいいわけじゃない。殺される事件なら頻繁に起こっているぞ。だが誘拐するより殺すのが手っ取り早いのか、失踪は聞かない。そして、遺体は全て見つかっており、顔の皮は剥がれていない。こりゃ迷宮入りだな」
「見つかっていない事件はないのか?」
「それを言っちゃあ、お終いよ。明らかになってない事件なんて星の数ぐらいあるだろう。だが俺たちはそれを知ることができない。証拠が見つかるまではな」
ローベルトは笑った。
――クソッ、考えちまう。
ズデンカはいやいやながら考えを巡らせた。謎が眼の前にあるのに、推理を働かせないわけにはいかない。
アルバムに書かれている名前の傾向から考えて、このオルランド周辺に在住している女たちに違いなかろう。
にも関わらず、直近で誰も失踪しておらず、遺体の確認もされているのだ。これは大いなる謎だ。
――もし、直近でなければ?
ズデンカは閃いた。よく考えればアルバムに貼り付けられた皮はだいぶ乾涸らびていたし、紙も経年劣化が見られた。
このアルバムは最近作られたものではないのかも知れない。とすれば、かなり時間を遡れば、失踪した女たちの正体がわかるかも知れない。
「もっと昔の事件を調べられないか?」
「厖大にあるからなあ」
ローベルトは面倒くさそうに言った。
「探せ」
「そりゃないぜ。一日じゃ調べきれないぞ」
「あたしも探す」
「守秘義務があるんだが」
ローベルトは渋る。
「もう歴史の出来事だろ? あたしは古い文も読める」
「わかった。来い」
ローベルトに案内されて、資料室に入るズデンカと大蟻喰。
たくさんの史料がファイルされて棚に並べられている。
ズデンカはその一つ一つを取り出して、中を覗いていった。
一時間、二時間が瞬く間に過ぎていく。
ズデンカは超速でファイルを見て行ったが、『死後の恋』に載っている名前と同じものは見つからない。しかし、本当に残虐な事件が多いものだ。
「ふむふむ、ほんとにたくさんの事件があるんだなあ」
大蟻喰がズデンカの読んでいるファイルを覗き込んだ。
「お前は静かにしてろ」
調査を邪魔されてズデンカは腹が立った。
「思い付いたんだけど」
大蟻喰は言った。
「なんだ」
ズデンカは訊いた。
「このアルバムに貼り付けられている顔の皮、そもそも人間のものじゃない可能性があるんじゃない?」
「はあ?」
ズデンカは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。




