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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十五話 死後の恋(4)

「……」


 ルナは寂しそうにズデンカは見て、黙り込んだ。


 人は多いのに、頼りになるやつが少ない。キミコは抑止力がない。


 持っている魔法のランプは恐らく役に立たないだろう。


 ズデンカは争いの種になりそうな大蟻喰を連れていくしかなかった。


 ルナはしょんぼりと食堂の椅子に腰掛けている。 


「ズデンカさま」


 キミコは不安そうな顔で遠くからズデンカを見ている。


「お前はこいつらを見張っていてくれ。大蟻喰――こいつだが――がいなければ大事には到らないと思う。待っていてくれ。ジナも、動かないでいてくれたら助かる」


 ズデンカは大蟻喰の腕を引きながら玄関を出て外に出ていった。


「ここで、フランツのやつが戻ってくるまで待つ。もう少しだと思う」


 ズデンカは言った。


 特別ここに戻れと口裏を合わせたわけではないではないが、ルナの元を離れないと明言した以上、じきに返ってくるだろう。


「あんな奴らをなんで待つんだよ。ルナを置いていくってのも変な話だ。一緒にいけば良いじゃないか」


 大蟻喰は不満そうだ。


「ルナは狙われてるんだ。一緒に連れていけるか。ここならまず安心だ」


「ズデ公はフランツを怪しんでるんじゃない? ならそんなやつに任せて大丈夫なの? ルナを殺されても知らないよ」


 大蟻喰は鋭い。ズデンカはフランツを心からは信用していない。それでもルナを守りたいというから、家を任せようと思った。


「それは……」


 ズデンカは不安になった。ルナは連れていかなければならないのではないか。


 些細なミスが命取りになる。


「ボクもルナは殺されたくない、お前以上にだ。だから連れていこう。フランツなんていうどこの馬の骨かもわからないやつに任せていいことないよ」


 大蟻喰は言い張る。


「だが……」


 どちらにしても危険はある。

 

 『仮の屋』は鉄柵があるし、守りも堅い。ズデンカは出版社に連れていく方がより危険だと判断して残すことにしたのだ。


 だが大蟻喰の言うフランツが何かしでかす可能性も否定出来ない。


 ズデンカは迷った。


「おーい」


 フランツとメアリーが走ってこちらまで歩いてきた。


「来たか」


 キミコもおそらくは鉄柵を締めるためやってきていた。


 何も言わず、物々しい周りの様子をうかがっている。


「お前にルナを預けていいのか?」


 ズデンカはフランツを睨んだ。 


「……俺はルナを守る。そう言わなかったか?」


 フランツは真剣にズデンカを見た。


「わかった。お前に任せる」


「ちょっとおい、ズデ公!」


「こいつは本気でルナが好きだ。あたしはそれぐらいわかる。だが、何が何でもルナを守れよ? もし、ルナの身に何かあったら……承知しねえからな?」


「ちょっとは信頼しろ」


 フランツは苦笑した。


「お前はルナを殺さねばならない立場だ。猟人だってことは片時も忘れたことがねえぞ?」


 ズデンカは深く釘を刺した。


「ああ」


 フランツは頷いた。


「ホントにこんなやつを信じるわけ?」


「あたしに二言はない」


 これは嘘だ。


 ズデンカだって言葉を翻したことはたぶん、これまで何度かあっただろう。


 だがフランツにルナを守って貰うと決めた。ルナの命を失うことを恐れて、ずっと一緒にいるのもよくないのだ。


 大事な存在だからこそ、ときには突き放すのも必要になる。

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