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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十五話 死後の恋(3)

「あいつら二人だけでどこかに行ってくれたらな」


 ズデンカは邪慳そうに言った。


「一緒に旅をすることになってもいいじゃないか」


 ルナは寂しそうに答えた。


「フランツは……あいつの親を殺したのはお前だ。それを忘れたか?」


「覚えてるよ」


 ルナはさらに暗くなった。


「えへへへへへ。おもしれえ話、聞かせてもらったぜ」


 ハロスがルナの肩にポンと手を置いた。


「おめえも人殺しだったんだな」


――しまった。


 ズデンカは後悔した。普段からルナの過去はハロスの前ではあまり話さないようにしていたのだ。


「何人殺したかしらねえけどよ。少なくとも一人や二人じゃねえな。俺の勘だがお前は大量殺戮者だ。血の臭いはしっかり染みついてるぜ?」


 ハロスは煽った。ルナはますます暗い表情になった。


「お前はあっち行ってろ」


 ズデンカは乱暴にハロスの頭をひっつかみ、遠くに放り投げた。


 ハロスは再生するので投げようが殴ろうがかまわない。


 ズデンカは極めて雑に扱った。 


「一緒に戦ってくれるんだし、そんなことやっちゃダメだよ」


 ルナはいつも通り穏便にとりなす。


 また、とりなす。


 ズデンカは腹が立った。


――一度ぐらいあたしに味方してくれ。


 ズデンカはそんなルナを連れて歩き出す。


 足を速めた。


 ここから先は人の数も多くなる。ハロスと絡むと必然的に怪しまれる。


 『仮の屋』は見えてきた。ズデンカたちはなかに入る。


「ルナさま。ズデンカさま」


 急ぎキミコが出てきた。


「あの方々、本当にいい加減にしてください」


 キミコは震える手で食堂を指差した。


 見るとオドラデクと自称反救世主の大蟻喰が取っ組み合いを開始している。


――こいつらを残すんじゃなかった。


 ズデンカは後悔した。


「お前ら、喧嘩を止めろ」


 二人を無理に引き剥がした。


「こいつ。ぼくに因縁を付けてきやがったんですよ」


「喰ってやろうと思った。でもこいつの糸は喰えない」


 大蟻喰はオドラデクの髪を口の端から垂らしていた。


――なんでも食おうとするんだな。


「ぼ、ぼくの髪ををををを!」 


オドラデクは顔を真っ赤にしていた。


「髪を返してやれ」


 ズデンカは大蟻喰の口から髪の毛を引っ張った。


 唾液混じりの毛が出てくる。


「きたねえな」


 そうは良いながらズデンカは、ナプキンで髪を綺麗に拭いた。


――キミコに迷惑かけてもな。これはアタシが持っていこう。


 そう言ってナプキンを懐に入れる。


「お前ら、離れろ。争いは距離があると発生しない」


 ズデンカはそう言いながら自分でもこれぐらい説得力のないセリフはないなと思った。これまで大蟻喰ともハロスとも取っ組み合ったことがある。


オドラデクのことだって何かやってくるならとっちめようと思っている。


だが傷心のルナの前で争いが続くことは避けなければならない。


「とりあえず、お前ら席に坐れ。じきにフランツのやつらが返ってくるから、オドラデクはそこに合流しろ。あたしは所用があるがこいつ――大蟻喰を連れていく。ルナはそっとしておいてくれよ」


「わたしも行くよ」


「だめだ。お前は狙われてるんだぞ」


 ズデンカは声を荒げた。

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