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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十五話 死後の恋(2)

 フランツは微妙な顔付きになった。


「ハウザーは『鐘楼の悪魔』を使って、人間に犯罪を犯させたり、化け物へと変えていった。この心臓も持っていると身体に害をなすに違いない」


 ズデンカは言った。


「俺も『鐘楼の悪魔』を持った人間と戦ったことがある。おそろしい化け物に変わった……倒すのは大変だった」


 フランツは昔のことを思い返すかのように俯いた。


「お前もかよ」


 ズデンカはあまり気分が良くなかった。自分だけが戦ってきたのだと思っていたのが、この眼の前の大して強くもなさそうな小僧もそうだと知って不快なことこの上なかったのだ。


「『告げ口心臓』は明らかにそれとは違うみたいですね。人を操ったり何かをさせるものではない。むしろ持った人間の自由意志に任せるようです」


「自由意志?」


 ズデンカは訊いた。


「はい、あくまでジムプリチウスが所持者に与えるのは情報です。その情報を『心臓』を持った人間は共有していく。もちろん、心臓を持った人間も情報をジムプリチウスに提供することが出来るようです」


「やけに詳しく知ってるな」


フランツが言った。


「はい、かなり広がっているようですからね。このミュノーナにもわずかながら入り込んでいるんではないかと思います。この様子を見ると」


 と言ってメアリーは遺骸を指差した。


「そんな……葬ったと思っていたのに」


 ルナはそう言って唇を噛み締めた。まだまだ過去はルナに憑き纏う。


 ズデンカは何も言わずルナの肩を抱いた。


「何人で掛かってきやがっても、あたしがお前を守ってやるよ」


「でも、この様子だと、我々がここにいることがばれたかも知れませんね」


 メアリーは少し苦く笑って言った。


「早く行くぞ」


ズデンカはルナを抱きながら移動した。


「お前ら人間もまじで厄介なもんに巻き込まれてるよなあ」


 血まみれの口を大きく開けながら、ハロスは笑った。


 ズデンカはハンカチを出して渡した。


「早く拭け。そんな格好をしてると、目立つ」


 「ミス・ペルッツはミュノーナにはもういられないかも知れませんね」


メアリーが言った。


「そんな! 出版社に行きたかったのに」


 ルナは悲しそうに言った。


「あたしが届けてきてやる。お前は『仮の屋』に戻ってろ。いや、やっぱりあたしがついていこう。途中で襲われても困る」


 ズデンカは足を速めた。


 屍体はメアリーがルナの放った炎のなかに置き燃やしているようだった。既にハロスによって血を吸い尽くされて骨と皮の糟のようになっていたが。屍体を見ても動揺しないあたりメアリーもそれなりの場数を踏んでいるのだろう。


 ルナは不安そうにそれを見ている。


「あいつらに任せておけ」


 連中を信頼するのは躊躇したが、この場合は仕方がない。


 ズデンカはルナを連れて先を急いだ。もちろんハロスも同行する。


「メアリーのやつ、思ったよりやるな」


 ズデンカは呟いた。


「フランツと仲良いみたいだね」


「そのようだ」


 ズデンカはさきほどの会話を思い出し苦笑いした。ズデンカがメアリーとフランツを恋人だと決め付けてかかったので、メアリーがやたらごねて謝れと言ってきた。


 ズデンカはいやいやながら謝ることになったのだ。

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