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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十四話 あなたの最も好きな場所(9)

「まあ良いじゃないか。一緒に来なよ」


 ルナは頓着がない。


「ぞろぞろと来やがるぞ」


――あたしも含めてな。


 ズデンカは思った。


 やめろと言ってやめるルナではない。なんとしてもいくだろう。


 これが平時であれば――つまり旧スワスティカの残党どもから命を狙われていないときなら、ズデンカは流石に家にいる選択をしたかも知れない。


 だが、ルナが命を落とすかもしれない今、もっとも好きな場所に二人で向かうのは危険だ。


 一行は進む。玄関を出て、鉄柵へと。ルナに手を曳かれて、フランツは困惑している様子だった。


 だいの大人が二人でそんなことをしていたら間違われやすい。


 いまだ、世間はささいなことに不寛容なのだ。


 ルナはまったくフランツに性欲を感じないためか、友達のように振る舞っている。


 だとしてもズデンカは腹が立った。

――いや、おそらくあたしは今が平時でもルナについていっただろう。


 メアリーはすましている。だが、確実に視線はフランツのほうに行っていた。


 キミコは物凄い速度で駈けていって、鉄柵を開けた。


「すまんな、いつも」


「いいのです。これぐらいしかすることはありませんから」


 距離を保ちながらもキミコは言った。


――変な奴だが、いいやつだ。


 一年以上前の印象とあまり変わっていないようなのでズデンカは安心した。


 ルナとフランツは直ちに駈け出した。ズデンカも後を追うと、


「おいおい、そいつ誰だよ?」


 待ち構えていたハロスが近寄ってくる。


「フランツ・シュルツだ。スワスティカ猟人」


「へえ、あんまり知らんねえ」


 ハロスは首を捻った。


「知らなくていい」


「そいつは誰だ」


 フランツの顔が赤くなっていた。ハロスのシャツの外した胸の間が見えたからだろう。


――ケッ、ガキめ。


 ズデンカは内心で嘲った。


「おい人間? そんなに俺に血が吸われたいのか? なぁ」


 ハロスは目を細めた。


「お前も吸血鬼か?」


 フランツは距離を取った。そこをルナにまた引っ張られる。


「ああそうだ。誇り高きストリアゴイカだ。小僧なんぞより、ずっと長く生きてるぜ」


「さあ、いこう。フランツ」


 ルナは急かした。フランツは歩き出す。


 さっきまでこの二人は殺し合っていた可能性もあったのだ。


 それがこんなに仲良く歩いているとは奇妙な話だ。


 結局はルナの人なつっこさなのだろう。


「なかなか早いですね。あの人は」


 メアリーが言った。


「興味があることなら一直線だ。興味がないなら梃子でも動かん」


「そう言う人は生きにくいでしょうね」


「ああ、生きにくい。あたしがいないとどうにもならん」


 だがズデンカはルナが自分と出会う前の二十何年間を独りで生きてきていたことを知っている。


 その二十何年間の一端が、今眼の前にある。ズデンカの知らないルナ。ズデンカはそれに嫉妬した。


「フランツはミュノーナにはよく来るの?」


「あまり来ない。通り過ぎるだけだ。最後にお前とここであったのも……」


「三年ぐらいは前だよね。もうすっかり懐かしい。まだウチのメイドは来てなかったんだよなあ」


「あの頃はお前のメイドはころころ変わってたな」


「うんうん。呆れられまくってね。ドンナに高いお給金でも嫌ですって、困っちゃったよ。今のメイドはお給金どころか私の全財産の管理もやってくれてるからね。ほんと助かるよ」


 やはり旧友だ。話は盛り上がるらしい。


 自分が褒められようが、ズデンカは歯がゆい思いをしていた。

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