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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十四話 あなたの最も好きな場所(8)

「お前はこのなかで一番弱い。メアリーはあたしと戦えたが、お前はかないもしなかったじゃねえか」


 結局追い打ちするようだがそう言うしかなった。


「……だが、俺はどこまでもスワスティカと戦える」


「ルナが元スワスティカとしてもか?」


 ズデンカは冷たく言った。


「ルナは……ルナはスワスティカではない。少なくとも俺のなかでは」 


「ケッ、矛盾だな。お前は元スワスティカをたくさん殺してきている。そのはずだよな」


「ああ……」


 と言いかけてフランツは黙った。おそらくは守秘義務があるのだろう。


「ちゃんと言いきることもできないのか。もしシエラレオーネの連中とルナが敵対する

ことになったらどうする? 猟人の立場を放棄して、ルナに味方するか? それともルナを殺すか?」


「ルナに……味方する」


「あれえ、フランツさん、言い切っちゃうんですかぁ」


 オドラデクはつまらなそうに立ち上がった。


「俺はルナが好きだ。それは確かだ……」


 フランツは頬を赤くして言った。


 ズデンカはフランツの言う好きが親愛だけではないことを改めて確認した。前からもうすうす感じではいたのだが。


――こいつはルナを好きなのか。


 ズデンカは嫌な気分になった。


「愛する人のために、国も何も捨てるんですね。なんて、素晴らしいことでしょう!」


 メアリーは皮肉めかしてスプーンを持ち上げて、ティーカップをチリンと鳴らした。


 ズデンカはこの態度にも引っかかりを覚えた。


 神経質な調子が感じられたからだ。メアリーは常に冷静な性格だ。しかし、それがわずかに崩れた。


 メアリーとフランツがどう言った関係かはよくわからないが、ズデンカによれば、メアリーは少し嫉妬しているように見えた。


自分のことじゃなく他のことならよくわかるものだ。


――こいつらもたいがい爛れてるな。


 嘲笑いたくなる。しかし、そうすればするほど自分の感情のなかに沈んでいく。


「弱いお前は益にはならず、なるとしたら無益か害だ。無益でいる限り、何もしないが害になるとわかればすぐ殺すぞ」


「……」


 フランツは緊張した面持ちで黙った。


「さあ、出かけよう。私の一番好きな場所ヘフランツを連れていきたいんだ」


 ルナは黙っているフランツの手を取って歩き出した。


「おい、ルナ」


 ズデンカはびっくりして後を追った。


「本当に好きな場所なんだ。まだ君には紹介してなかった。あ、もちろんウチのメイドにも」


 ルナはテキパキと話した。


「あたしも連れていけ」


 ズデンカは間に割り込んだ。


「私ちゃんも行きます」


 いつの間にかタオルを頭から解き放ち、髪を櫛で梳き終わっていたメアリーがついてきた。


「お前も行くのかよ」


「ええ」


「どうしてだ?」


「ミス・ペルッツが好きな場所というのがどこか気になるからです」


「ルナがフランツを連れていったからじゃないのか?」


「そんなわけないですよ」


 メアリーは澄まして答えた。


「じゃあ家にいてもいいだろうがよ」


「キミコさんがいます。私がいては迷惑するでしょう」


 キミコはいやいやながら手袋を嵌め立てで食器の片付けを始めていた。

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