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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十四話 あなたの最も好きな場所(5)

「なんだと?」


 ズデンカは驚いた。


「情報が流出しないと考えるほうがお目出たいのでは? ジムプリチウスの名前も聞こえます。ミス・ペルッツの過去を知る彼が、何らかの手段で『事実』をばらまいているのかもしれない」


 メアリーは片目をつぶった。


「ジムプリチウスのやつ!」


 ズデンカは思わず怒鳴った。


「まあ待ってください。あくまで私ちゃんが話したことは仮説です。本当かはわからない」


「やつの他に誰がいる? あいつはルナから全てを奪うと言った。強烈な悪意に基づいて動いている。……もうそんなに話が広がっていたのか」


「ええ、私ちゃんの情報網ですけどね」


 メアリーは冷静に続ける。


「ジムプリチウス、絶対に殺す。こなごなになるまで引き千切ってやる」


 激しい怒りにズデンカは襲われた。ルナを憎む者は多い。フランツ・シュルツだって、口ではああ言っているがその一人かも知れない。ルナが、虐殺に手を染めたとわかり、ハッキリ証拠が見つかれば、誰がルナを襲ってくるかわからない。ズデンカは守らなければならない。


 より、きつい、長い戦いになるだろう。一度流された情報は容易にはぬぐえないことをズデンカはよく知っていた。


「まあ、大丈夫でしょ。わたしはこれまでだってたくさん悪評を得てきたよ。社交界なんかに行くとそのたびにスキャンダルが巻き起こる。仕方ないさ。こんな生き方してるんだし」


 ルナは朗らかに言った。


「お前は気にしないかも知れないが、お前の命は一つきりだ。誰かに奪われたらどうする」


「その時はその時さ。死ぬのは怖いよ。でも、死ぬなら、その時は死ぬしかないじゃないか」


 ルナはトートロジーを使った。いつものようにはぐらかす気満々なのだ。


「あたしはお前に死なれたくない」


 ズデンカは悲痛に言った。


「わたしも死にたくないよ。でも、仕方がないものは仕方ない」


 ルナは誰よりも死が怖いとズデンカは見抜いている。本人もそれは認めている。いくらふざけて言ってもこれは本音の開陳でしかない。


「あたしが絶対にお前を守ってやる。誰も近寄らせない。カミーユのやつも……今度会ったら敵だ。殺すぞ」


 ズデンカは自分に言い聞かせるように言った。


「待ってよ。すぐそんな風に殺す殺すばっかり言って。話し合えばフランツだって……そしてメアリーだって戦う必要なんてないじゃないか。普通に話せてるだろ?」


 ルナは言った。


「まあ、そうですね」


 メアリーはハムエッグを食べ終わり、ナプキンの両端で口を拭った。


「あ、これ、キミコさんからご馳走になりました。美味しかったです。料理も上手いなんて出来るメイドさんですね」


「キミコは出来るメイドだ。あたしなんかよりもずっとな」


「ズデンカさま……」


 キミコは遠く放れて目を輝かせていたが、ズデンカと眼が合って、思わず伏せた。


「……話が脱線した。こいつらとカミーユは違う。あいつは……あいつは殺人鬼だ。人を殺すことが大好きなやつだ。それはルナ、お前もよくわかっているはずだろう」


 しょんぼりとするルナをズデンカは睨んだ。


「カミーユは、今どこにいるのですか?」


 メアリーの顔に動揺の色が見えた。


「あいつはあたしらと別れた。その後は知らん」


「私は、あなたがたと別れた後のカミーユと会い、刃を交えています」


「なんだと?」


 ズデンカはさらに驚いた。

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