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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十四話 あなたの最も好きな場所(3)

「でも、フランツのことだし、大丈夫だろ。古い仲だ」


 ルナは朗らかに笑った。


 ズデンカはそれを聞いて良い気分にはならなかった。


 なぜだかよくわかる。フランツのほうが自分よりルナとの付き合いは長いのだ。自分はせいぜい二年ぐらいしか関わりがない。


――これは嫉妬だ。


 ズデンカは自分は案外嫉妬深いとわかっていた。だが、男に対しても嫉妬するとは。


 ルナがどこかに行ってしまう。最近ではそんな予感ばかりする。


 少しでも、危険な要素が現れれば、早めに潰しておきたい。


 たとえ、ルナに嫌がられても。


「会っても、たぶんすぐに殺されると言うことはないと思うよ。話したうえで、殺されるんだろう」


 これはルナのユーモアだ。


「殺させねえよ。もしそんなことしようもんならあたしがやつを殺す!」


 ズデンカは爪で掌に穴が開く(すぐ塞がるが)ほど拳を固めた。


「殺すなら俺も手伝うよ。ひさびさに人間を八つ裂きにしたかったんだ、うっしっししっ」


 ハロスは舌舐めずりをする。


「お前は黙っとけ!」


 ズデンカは怒鳴った。


「あ、あの方は……」


 キミコは震え上がった。


「あたしの古い知り合いの吸血鬼だ。中には入るなと言ってある。大丈夫だ。おい、わかってんだろうな?」


 ズデンカはドスを利かせてた。


「へーへー」


 ハロスは手をヒラヒラさせて言った。


「ズデ公だけルナの家の入るのかよ。狡すぎるだろ」


 大蟻喰は唇を尖らせていた。


「キミコはかなり潔癖だからな。あたしらも触らずに歩くぞ。それならこい。だがハロスはだめだ。お前はここにいろ」


 ハロスと大蟻喰を置いておくと派手に喧嘩を始める可能性があった。大蟻喰は先日ハロスに任されて、まだその怒りが収まっていないだろう。


「へーへー、別に人間なんて興味もないしな」



 ハロスは大人しく従った。


「ルナさま……ズデンカさま……」


 キミコはうるうると瞳を輝かせながら、それでも二人と距離を保ちながら、屋敷のほうへと歩き出した。ズデンカはルナとジナイーダと一緒に続く。


「他に何か、留守の間に起こりはしなかったか?」


 ズデンカは訊いた。


「その……フランツ・シュルツが……ルナさまを仇だと言ったので……ジンを呼びだしてしまいました。止められていたのに、ごめんなさい」


 キミコは謝った。


 キミコは魔法のランプを持っている。ズデンカとルナが出会った直後の話だ。とある一件で手に入れただった。


「いや、仕方ない。あたしでも呼びだしただろう。あのシュルツという男には気を付けた方がいい」


「でも、ジンはいつものように願いを叶えてくれませんでした。一行のなかに知り合いもいたようで……確か名前はファキイル」


 ファキイル。知っている。フランツ一行に加わっている。


 神に作られた獣。


 または犬狼神。


  ヴルダラクの始祖、ピョートルの血を貰ったズデンカでも、とても勝つことは出来ないだろう。


 できるだけ全面戦争は避けたい。話し合いで済むなら、その方がいい。


 ズデンカは緊張した。


 人間のそれとは大きく異なるし、内臓はなくなっているため鼓動すら感じないが、それでも強く緊張した。

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