第九十三話 私に触らないで(11)
フランツもこの世界に居場所なんてなかった。
収容所から解放された後、オルランド、ヒルデガルト、カザック各政府からの賠償金やシエラレオーネ政府からの支援で最低限の生活費は出たが、誰かに守って貰った記憶は薄い。
そんななかでルナと出会った。ルナは優しくしてくれた。いや、それだけではなく人間として育ててくれた。
思いのほか、ルナは多くの人を助けている。決して声高に叫んで、社会を変えようとしない。でも静かに確実に助けている。その一人がフランツであり、キミコなのだ。そして、ズデンカもそうなのであろう。
でも、同時にルナはフランツの同胞を殺している。それも間違いない。
憎むべき敵なのだ。
だからフランツは葛藤する。
葛藤しても答えが出ない。まえパヴィッチで対峙したときは思いを伝えきれなかった。
――今、キミコに俺は何を伝えるべきだろう。
「お前の気持ちはわからないでもない。いや、俺はお前ではないのだから、本当にはわからない。だが、俺もルナ・ペルッツに救って貰った一人だ。だから、俺はルナを殺したくない。わかってくれ。この家に来たのはルナに会うためであって、待ち伏せをするつもりはない。正々堂々話し合うつもりだ。結果として決裂したところで何もしない。だからキミコ。俺の話を聞いてくれ。俺もルナを愛している」
思わず口走ってしまった。
メアリーとオドラデクは再びやってしまったなという風な視線でこちらを見ている。それもそのはずフランツは全ての隠し玉をみせてしまったようなものだ。
おまけにルナを愛していることまで。キミコがルナをどのように思っているかはわからなかったが、フランツは敬愛と感じ取った。
なら、フランツもそれと思わせておけばいいか。
本当はそうではないことを、フランツは一番よく知っている。
「でも、あなたはペルッツさまを敵だと言った」
キミコはフランツをまだ睨みながら言った。
「それは間違いない。あいつは俺たちシエラフィータ族をたくさん殺した。だが、彼奴自身もシエラフィータ族だ。収容所に入れられていたことも間違いない」
「私は収容所など関係ありません。ルナさまにお世話になった。それだけです。一宿一飯の恩だけでありがたいのに私などは何百回、ルナさまのお世話になったでしょう」
「ルナはお前にとって大事な人だろ? 俺もとってもそうだ。だから殺したくないし、死なせたくない。あいつに何かしようと企んでいる奴らがまだたくさんいる」
「私は、私は! こんなおかしくて、すごく汚いのが気になって、暮らしていくのも大変で。顔のことで苛められたし……でも、ルナさまは何も言わず私を受け入れてくださった。君にぴったりの仕事があるって、この家の管理を任されて、最初は私なんかに出来ないって思っていたけど。どうせあんまり帰らないんだから好きにしてていいって言ってくだすったから……だから……だから」
キミコは言葉に詰まった。涙が溢れているようだ。
フランツもなぜだか涙が目にたまってきているのを感じた。
「ほら、話し合えばわかるだろ、キミコ。この人も君と大概に似た境遇らしい」
ジンは白々しく語り立てる。




