第九十三話 私に触らないで(7)
「ともかくルナ・ペルッツは嫌われてますよ。金持ちだから仕方ない。普通の人がせっせと働いて一年で稼ぐ金を、毎月使っちゃったりしてるんですからね。本当の苦しみがわかっていないって思われてるみたいです。それに伴ってシエラフィータ族全体に対する反発も強くなっている。戦後社会にみんな辟易しているらしい」
「辟易だと? さんざん殺すのを煽っておいてか?」
フランツは怒気混じりに言った。
戦争中もかなり虐殺を煽り立てながらスワスティカに性格に所属してないあるいは末端だっため、咎めを受けずのうのうと暮らしている者たちも多い。
フランツは、たまにそう言う普通の人々に対して怒りを覚える。
――しかしこの後に及んで反発だと?
だが、今はそんな怒りに我を忘れている状況ではない。
――キミコを探さないといけないんだ。
「探すぞ」
「ちょっと待ってください。もう許可は頂いたんだし、手軽な部屋を探して腰を落ち着けるとしましょうよ。私ちゃんも少しは疲れています」
メアリーは片目をつぶった。
「……そうだな」
フランツも疲れはある。取り敢えず階段を探して寝室を探した。
幾つも部屋はあって、寝室は何割か存在した。ただルナの蒐集品と思しき我楽多が詰め込まれている部屋もあった。しかし、いずれも綺麗に整頓されて並べられている。
「じゅうぶん泊まれますね」
とメアリー。
「だが今わかれるのか?」
「え、わかれたくないんですか?」
「いっ、いや、一人一人になると危険かなと……」
フランツは焦った。
決して変な意味ではない。ないはずだ。
「少しぐらいは休ませて貰いたいですよ」
メアリーは笑った。
「そ、そうだな」
フランツは自室に引き取った。
メアリーは立ち去ろうとしたが、
「キミコさんも場合によっては……」
とフランツの耳に囁いていった。
殺す。ということだろう。メアリーはそれを辞さない。
だがフランツはどうだろう。キミコのようにおそらくは迷いのなかで生きている人間の命をあっさり断っていいのだろうか。
それに前も言った通り、それをやったらルナと和解することが二度と無理になるだろう。
――キミコは殺してはならない。
フランツはそう思いながら、寝室に行き床に就いた。当然のことのように眠りに落ちる。
目が覚めたとき、窓から映る空は茜色になっていた。
――また寝すぎた。
フランツは起き上がった。とは言え、ちょうどいい睡眠時間だったとも言える。外に出た途端、メアリーと鉢合わせしたからだ。
「お前も寝たか」
「ええ、さきほど起きました。シュルツさんもですね。寝ぼけている」
メアリーには少しも寝ぼけた様子がなかった。
――本当に寝ていたのか?
「ああ、そうだよ」
フランツはなぜだかふて腐れた。
「オドラデクはどうした。すぐ寝てしまったから記憶が曖昧だ」
「家中を次から次に歩き回っていたようです。ファキイルさんは部屋でじっとしています。二人は寝ませんからね」
「キミコとまた話して見ないとな」
「話して何をするんです?」
「もうすこしやつと打ち解ける」
「打ち解けて何になるんですか?」
「一応この家の管理者だ」




