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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十三話 私に触らないで(4)

 先ほどから一変して恐ろしい形相になり、オドラデクを睨み付けながらキミコは叫んでいた。


 懐からハンカチを取り出し、オドラデクが触ったところをごしごしと何度も何度も執拗にこすり続ける。


「なっ、なんなんですかぁこいつぅ! まったくもお、失礼しちゃうな! プンプン!」


 オドラデクは怒り始めた。


「お前が勝手に触ったんだろ。謝るのはお前のほうだ……キミコ、すまん、こいつが勝手に触ってしまって」


 この世のなかには潔癖症の人間が存在することをフランツは知識として知っていた。しかし実際にお目に掛かるのは初めてだ。


 ルナも手袋をはめているがそこまで潔癖ではなく、汚いものも割合平気でツンツン出来る。


 ともかく自分の世界観を持っている人間なのだろう。メイド服を着てはいるが正規に訓練を受けたわけではなさそうだった。ルナがその能力を見込んだのか、それはわからないがそれなりの給金が与えられてこの屋敷を管理しているのに違いない。


――ずいぶんお手軽な仕事だ。


 一瞬そう考えたが、外からもわかるようにこの屋敷は広い。各部屋にほこりが溜まらないように掃除するのはなかなか大変だろう。


――一日掃除して回ってもクタクタになるんじゃないか?


 そう考えると、なかなかキミコの仕事は体力がいるのかも知れない。


 キミコはまだ不安そうな面立ちでオドラデクのほうを見ている。


 フランツの謝罪もなかなか受け止めようとはしてくれなかった。


 非常識な人間を間近にして、オドラデクが面食らっているのがおかしかった。


 メアリーは賢明にも黙っている。ファキイルも同じくだ。


「とりあえず家のなかに入っていいか?」


「……はい」


 キミコはまだオドラデクを睨みながら、頷いた。


 めんどくさいやつの相手は本当に大変だ。


 フランツたちは玄関を潜って館の中に入った。


 真紅の絨毯の上にはほこり一つちり一つない。恐らく長いこと放置されているであろうに、ここまで綺麗に保たれていることにフランツは驚嘆した。


「お前が掃除しているのか?」


「はい」


 キミコは前を歩いており、後ろは振り向かずに答えた。


 大したメイドなのだろう。気難しいのは置いておいて、誰もいない屋敷を任せるのはこれほどうってつけの人物は他に思い当たらない。


「あの、すみませんが私からは一定の距離を置いて離れてください。唾が飛びますので……」


 キミコはなお後ろを向かない。


 フランツはなおさら面食らった。フランツ自身も多少は潔癖なところがある。トゥールーズでルナが鼻を啜っていたときは挨拶として頬にするキス=ビズを断った。それでもフランツもビズはやるときはやる。変な奴だと思われるのは出来るだけ避けたいからだ。


 ちなみにルナは結構好きで公的な集まりの時には良くチュッチュやっていた。フランツも過去にされたが、他の人にルナがやっているのをみるのはいい気分ではない。たしかメイドのズデンカも暗い面持ちでビズをするルナを見ていたはずだ。


 キミコは恐らくフランツたちとは違う文化圏で育っているはずだから、ビズなどもっての外だろう。


「ふふん、フランツさんも言われてやんの!」


 オドラデクは先ほどまでの怒りはすっかり忘れて腕を組み鼻で笑っていた。

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