表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1024/1238

第九十三話 私に触らないで(2)

「怪しまれたら、そのひとを殺さねばならなくなるでしょう」


 メアリーは言った。


「いや、殺したらもうルナとは話せなくなる。もし抗うなら何らかの手段で拘束するしかない」


「まあでも、話していさせて貰うのが言い手段じゃないですか? あなたのミス・ペルッツは友人ではあるようですし」


「……」


 フランツは黙った。


「まったくもう、勝手にバカ女と話を決めちゃって! ぼくが入って交渉するって手もありますよ。そういうのは得意なんです、えっへん」


 オドラデクは腰に手を当てて威張った。


 たしかにそういう話し合いはオドラデクが得意とする分野だ。しかし、フランツはオドラデクにもあまり頼りたくなかった。


 頼ると後々まで威張られるのも癪なのはあったがフランツは飽くまで自分の実力で解決したい。旅の間じゅう、他人頼り、特に犬狼神ファキイルだよりとなっていたのは内心忸怩たるものがある。


「いや、今回は俺が交渉したい。俺は何しろルナと面識がある。お前はないだろ? 現在どういう状況になっているかを伏せて説明すれば、なかに入れてくれるかもしれない」


フランツは出来る限り論理立てて説明した。


「うーん、何回いい予感しないんだよなあ。フランツさんが表に出るといつも血が流れてる気がする」


 それは否定できなかった。これまで暴力を行使して解決した事例はたくさんある。逆にオドラデクが関わって方が穏便に済んだ例は多い。


「だが、俺にやらせてくれ。さすがに友人の家で何も言わないのは俺の意地にかけて許容できない」


 本当に友人といえるのか。


 そんな言葉も過ぎった。自分はルナをどこかで愛していた。それが決して叶うことがないと知りながら。


そして、父親を殺した相手だとわかった後は敵と見なし、殺そうと思った。しかし、とても殺せはしなかった。ゴルダヴァでルナと対峙して初めてわかった。


 憎い、スワスティカの一員であるベーハイム。


 愛しているルナ。


 その二つの影が重なってもやはり、フランツはルナに生きていて欲しいと願うのだった。


「フランツに任せよう」


 後ろからずっと何も言わずついてきていたファキイルが近付いて来て言った。自分から積極的に関わってくるのは珍しい。


「なんでですかあ?」


 なおごねるオドラデクを、ファキイルは睨み付けた。前以上に激しい様子で。


「ぶるん!」


 オドラデクはたちまち震え上がり、怯えてしまった。


 見ていたメアリーも冷や汗をかいている。


 処刑人としての本能が一瞬死を感じさせたのだろう。それほどまでに長い歳月を生きながらえてきた神に類される存在の威厳は物凄いものなのだろう。


「ということで俺が今回はやらせて貰う」


 フランツはそう短く断って歩みを進めた。後は誰も会話を交わさなかった。交わしたとして、ぎこちないものになるだろう。久々に見せた犬狼神の一睨みはそれほど場を緊張させた。


一時間以上は歩いた。『仮の屋』は遠くに見えてきた。冷たい鉄柵で張り巡らされている。以前訪れたときのままだ。


「やっとついた」


 フランツは言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ