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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十二話 解剖(8)

 するとそれは床の上をのたくりながら、大きく膨れ上がり、アーロンの遺骸と同じ大きさにまでなった。


「増えました。これは面白い!」


 カミーユはパチパチと手を叩いた。


『バカじゃねえのお前? こんなハウザーみてえなことやって誰が感心する? 本当にバカかお前?』


 ジムプリチウスは怒鳴った。


『そうだそうだ』


『何やってるんだあいつ』


『いや、待て何か面白そうだ。ちょっと様子を見てみようぜ』


「これは私が個人でやってるものですよ」



『個人だと? アホ抜かせ! 俺の『告げ口心臓』を使ってるじゃねえか! 俺の威を借りて俺の抜け駆けをしたな。お前みたいな嘘吐きが、俺は大嫌いなんだよ!』


 ジムプリチウスは激怒していた。


 案の定かなり怒りっぽい、だがどこかコントロールしてているような計算高さが感じ取れた。聴衆? の多くいるなかでの発言だ。


 カミーユはこれで抜け時かと一瞬思った。べつにジムプリチウスなどよく知らないし、どうでもいいと思えばどうでもいいのだ。


なので何も言わず黙っていると、ジムプリチウスはカミーユではなく、他の皆に話し掛けた。


『お前らもよくわかったか。『告げ口心臓』を人間の身体に埋め込むんじゃねえ。自分の身体でもだ。そしたら俺はハウザーと同じになっちまう。あいつの真似だけは絶対にしたくない。俺は飽くまで自分の口と実力とこの頭だけだ。それを誇りにしてきた。変なもんを作るんじゃねえ。作るとしたって俺は止めないし、勝手にやれと言うだけだ。だが俺の眼の前には出してくるなよ。絶対にぶっ叩く』


 相対的に頭のいいカミーユはすぐに察した。つまり、カミーユが作り出すことを否定していないのだ。それもそのはず、ジムプリチウスは人の二枚舌を批判し嘘を見抜くが、自身は幾らでも二枚舌をやっているし、嘘ばかり吐いている。


 例えば前カミーユが妖精のムッシュ・ド・ラルジャンティエールを使って他の人間の頭を弄くったとき、俺はそんなことをしないと嘯いていたが、カミーユはジムプリチウスがエルヴィラ・コジンスカヤやアグニシュカの精神に鑑賞しているのをゴルダヴァのパヴィッチで見ている。


 その姿勢はおそらくはカミーユのあまり知らない戦前もそうだったのだろう。


 嘘、嘘、嘘、嘘、また嘘。


 嘘も千回万回と吐き続けていれば真実になる。


 むしろ嘘を爽快に吐き続け、突っ込みや事実の指摘はまったく無視しながら相手の二枚舌を糾弾し続ける姿勢自体が、格好いいと思え始める。


どうやら、人間という生き物はそういう風にできているらしい。


 だから、ジムプリチウスは戦後の社会でも輝き続ける。人間は少しも変わらない。


 カミーユはむしろ嬉しかった。平凡でしみったれた嘘吐きではなく巨大な嘘吐きと知り合いになれたのだから。


 単純に言えば、ジムプリチウスは聴衆を前にして『ブレない俺』をアピールしたいだけなのだろう。それを単に俗物と言ってもいいが、ここまでの指示を集めているだけにカミーユも全否定できないものがあるのだった。

 自分は自分のやりたいようにやる。カミーユは飽くまでそうすることにした。

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