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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十二話 解剖(7)

 ヴェサリウスの握力? は物凄い。


 アーロンの遺骸の喉首は潰れ、頭蓋は砕けて脳漿が湧きだしていた。


 血が溢れ、床を浸し、カミーユの赤い服はさらに赤く赤く汚れた。


 ヴェサリウスは魂をがっちりと捉え、放さず己のなかへと吸収した。


 魂の収奪は完成したのだ。


 ヴェサリウスは何も言わずに、血まみれのカミーユの方を向いた。


「うんうん、わかるよ。ヴェサリウス。私に力を与えたいんでしょう?」


 カミーユとヴェサリウスの感覚は同期している。


 ヴェサリウスは空中に軽く浮き上がると、その尾骨をカミーユの背中に突き刺した。


 痛みは走ったがカミーユは気にしない。それよりも物凄い力が身体のなかに湧き上がるのがわかった。斑の紋が青黒い皮膚に広がる。集めた魂を注入されているのだ。


「これは凄いかも」


 カミーユは微笑んでみた。ズデンカが明らかに強くなっていると感じられている現在、ただの人間のこちらも強くなる必要がある。ヴェサリウスら『シャンパヴェールのトランプ』に封じ込められた妖精たちに収集された魂を自分に注入したらどういうことになるか前から無言の相談を重ねていた。


 そして今回初めてやってみたのだ。結果は成功だった。


 身体に浮いた紋はじきに消えて行く。しかし凄まじいほどの昂揚の感覚ははまだ残っていた。


「これなら、たくさん殺せますね」


 カミーユは悦んだ。


 さて、残されたのは解剖されグチャグチャになったアーロンの遺骸だけだ。カミーユは生暖かい血の放つ温度のなかを進みながら、寝台へ生き『心臓』――アーロンのものではなくを掴み取った。


「これを上手く使えばあなたも何か役に立てるかも知れませんよ」


 カミーユはそう言って『心臓』をアーロンの魂が隠れていた場所に押しつけた。


 すると、息絶えていたアーロンの遺骸がゆっくりと蠕動し始めた。『心臓』は骨の内側に食らい付き枝を張り、紫色の液体を滴らせ始める。骨が変形し、肉が節くれ立ち、動く。


「面白い! これ面白いですよ」


 と。


『何だこれは』


『今さっき解剖とか聞こえなかったか』


『凄い叫びがしたぞ。何が起こったんだ』


『俺は『心臓』の眼で見たぞ。あの女、誰かを殺しやがった!』


 騒ぎになっていた。案の定だ。カミーユは関心なかったので放置していたが、よく考えれば『心臓』はまわりの情報を拾うのだ。



「これは失礼しました」


 カミーユは言った。


『このアホボケマヌケが、カス。余計な行動すんじゃねえ』


 この叫びはジムプリチウスだ。かなり怒っているようだ。とは言え、カミーユはジムプリチウスとは何の徒党でもない。あくまで個人スタンドアローンだ。


「はい、すみません」


 カミーユは言葉だけで謝った。


『カス、ボケが! 変なもん作るんじゃねえよ』


 アーロンだったものは四つん這いになりながら部屋のなかを歩き回っていた。もはやひとかけらも生命の息吹が感じられないのに、何かに取り憑かれたように動き回っている。


「いいじゃないですか。これはいろいろ使えそうです。そうですね。『人獣細工』とでも名づけましょう」


 かつてカスパー・ハウザーは人間を獣に代えてたりして暴れさせていたようだ。


 カミーユも目撃したことがある。ハウザーとジムプリチウスは敵対していたので、気に障るのかも知れない。


 しかし、これはそれよりももっと手軽でいい加減なものだ。


 試しに、とカミーユはアーロンの腕をちぎった。

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