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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十二話 解剖(6)

「おっ、俺なんかが役に立てるのか! そ、それはすごい、どうやればいい、教えてくれ! 少しでも兄貴の役に立ちたい! すぐにでも!」


 アーロンは目を輝かせ出し始めた。


「ふうん、そうですか……そうだなあ……じゃあまずシャツを脱いでください。胸を晒してください」


「おうふ! 大胆やなあ」


 グラフスは笑った。さっきまで怒っていたのに変わり身が早い。 


 カミーユは当然無視した。こう言う時都合の良い冗談が思い付かないのだ。


「まじか……そんなことお前……カミーユちゃんの前でやっていいのか」


 アーロンは少し緊張の様子を示した。


「全く構いませんよ、さあ」


 カミーユは何の感情も揺すぶられず早くアーロンを殺したくてむずむずしていた。


「そ、それじゃあ」


 シャツを開き、毛すらないげっそりと痩せきって肋の浮き出た胸を出すアーロン。


「ありがとうございます!」


 カミーユは目にも止まらぬ速さで、胸に鋭く尖ったナイフを突き立てていた。


「うぎゃああああああああああ!」


 物凄い叫びをアーロンは上げた。血が見る見る溢れ出す。


「そして、来て、ヴェサリウス!」


 物凄い勢いで、山羊の骨の化け物は部屋の中を占拠した。


 骨が屋根を突き破った。


「さて、解剖のお時間です」


 カミーユは返り血を浴びながら、静かに言った。


 血は別に浴びたくもないのだが思う存分好きなやり方で殺せるとなれば喜ばないわけにはいかない。


「あう、あう」


 ガタガタと歯を鳴らして口から血を吐き続けるアーロン。カミーユは見れば見るほど滑稽だった。


「ご協力ありがとうございます。あなたの献体は有り難く受けたいと思います。あなたを解剖して魂を取り出す。ヴェサリウス早う正解の解剖医です。さまざまな魂を収集して集めているのです。あなたの魂は正直期待できない。でも私は解剖したくってしたくって本当にもううずうずしているんです」


「うわーひくわー! ドン引きやわああああああああああ!」


 グラフスはいつの間にか物凄い勢いで後方へと退いていた。


 ヴェサリウスは肋骨を左右に大きく開き、アーロンの胸へ突き立てた。


 肉が裂け、骨が砕ける、見事にアーロンの肋骨は露出した。


 内臓が波打っている。青筋が張った心臓が露わとなる。


「いいですね! いいですよ!」


  カミーユも絶叫していた。久々の爽快感のある殺しだ。


 アーロンは既に死んでいた。内臓の動きもじきに止まるだろう。しかし、解剖はまだ終わらない。


 ヴェサリウスの骨は案外器用に肉を削ぎ落とし、内臓の奥の奥まで探っていった。


「いままで、あんまり手応えなかったですからねー。ヴェサリウスは魂を取ってくれてたんだけど、私も興奮できる殺しとなると」


 デジレの殺しは厭な気分になった。この眼の前のアーロンも嫌なやつだ。しかし無様に泣き叫びながら死んでいくのが娯楽になる人間とならない人間がいる。


 やがて骨の中で惨めに踞っている魂。本当にちっぽけな揺れる光はゆらゆらと揺れていた。


「あー今までので一番ちっちゃい!」


 魂の形は人それぞれだ。霊に慣れるぐらい人の形を伴っているものもあれば、そうではないものもある。カミーユが今まで捕まえた仲で一番の大物は、カスパー・ハウザーの手下のヘクトール・パニッツァだろう。


 しかしそれはカミーユの手柄ではない。


 もう一つの人格だ。


 それを考えるとカミーユは良い気にならない。

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