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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十二話 解剖(5)

だが、おそらく人生の崖っぷちぎりぎりまで追い詰められてしまっているこのアーロンという男は、ジムプリチウスよりも同族の女――ルナ・ペルッツの方が憎いようだ。


「誰もいないならあなたが突然亡くなっても誰も気に掛けませんね?」


 カミーユは訊いた。


「なっ何てこというんだ! 縁起でもない」


 アーロンは顔を真っ赤にさせた。


「でもそうなるでしょう。事実は」


「そ、そりゃそうだがよ、俺はし抜きはないぜ」


「なんやなんやくっさい家やなあ、お前なんつうとこに住んでんねん。ここゴミ屋敷やぞ?」


 顔を顰めながらグラフスが部屋の中に入って来た。


 そう言えば臭いと言えば臭いのだった。カミーユはズデンカほどではないがあまり臭いは気にしない方だ。血の臭いなどはむしろ好きだ。


「お前誰だ、ってか男かよ!」


 アーロンは顔を顰めた。


「あ? なんやお前、えろうほたえるな。俺に喧嘩売る気か」


 グラフスの方も負けてはいない。


 カミーユは止める気すらおこらず、見ているばかりだった。


「俺は強いで。お前みたいなひょろがり二散発でケーオーや。ほれ、シュッシュ、シュッシュ、強そうやろ。ボクシングってやつやこの世界で習い覚えたで! シュッシュッシュッシュ」


 と物凄いスピードでアーロンの前に拳を突き出す。


「ひっ、ひえええ!」


 アーロンはそれでも怯えてしまうのだから可笑しい。


「弱いな弱いなお前、そんな弱くてどうするんや、われ?」


 拳を突き出しながらグラフスは挑発した。


「クソッ」


 悪態を吐きながらアーロンはベッドまで後退しどっかと横たわった。


「お前らのせいでまた体調が悪くなった」


「どこか悪いんですか?」


「身体中どこもかしこもな! ずっと前からだ。せっかくこんな面白いものを拾ったのに何にもできんのがなさけねえ。ごほごほっ!」


 アーロンは咳込み始めた。


「ふむ、でもアナタの人生は楽しそうじゃないですか」


 カミーユは言った。


 単に直感から口にした。このアーロンという男は自分の境遇をどこか憐れんで貰いたく

思っている節があったからだ。


 数日前ネルダで殺した女デジレを思い出す。そういう人間がカミーユは好きではない。口ではいかにも自分が優れているあるいは劣っていると喧伝するわりに本来の目的はそこにない。デジレとアーロンは結局似ていた。カミーユは殺したいと思えば殺したいのだった。



 現に眼の前のアーロンも殺害しようとしている。


 久しぶりに自分のナイフの切れ味を試してみたいのだ。都合の良い人間の皮膚を裂いて、内臓を露わにする。


 アーロンのような孤独な人間は消えた床で誰も気付かれないので、うってつけなのだった。


 そして、ヴェサリウスは……。

 

 カミーユはそう考えるだけで楽しくなるのだった。

 

「楽しくなんかねえよ」

 

  アローンは縮こまりながら言った。 


「でもあなたも役に立てますよ」


 カミーユは明るく言った。


「役に? どんな役に? ルナ・ペルッツを何とか出来るのか?」


 急にアーロンは明るくなった。


「ええ、もしかたしたら何とか出来るかも知れませんよ。ささやかなものではありますけどね」


 カミーユは楽しそうに告げた。

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