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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十二話 解剖(3)

『まさかルナ・ペルッツがスパイだったとはなあ』


『俺はすぐには信じられん。だが正直なにやってるかわからないやつだった。凄い金持ちだしな』


『金持ってて羨ましいよなあ? 何して暮らしてるんだ。誰か支援者がいるのかもしれんしな』


 声に交わる声また声。


 ルナはよく思われていない。


 ジムプリチウスの話をにわかには信じない人々のあいだですら。


 ルナの名前はよく知られている。それだけに相当憎まれている。


 世のなかには悪名すら、憎しみすら魅力に変え、支持を増やしてしまう不思議な錬金術

を持っている人間がいる。


 例えばジムプリチウスがそのひとりだ。これ以上ないほど憎くて憎くて堪らない人間は戦後十年以上経ったいまですら、たくさんいるだろう。


 だがジムプリチウスは堂々と自分の名前を晒している。にもかかわらず、支持者をだんだん増やしていっている。


 誰から何を言われようが知らんぷりをしている人間のほうが生きやすくこの世は出来ているのかも知れない。


 だが、ルナはどうか?


 ルナはああ見えてとても繊細で脆く、寂しがり屋なところがある。少しづつ外堀を埋められていけば、最後には降参してしまうかも知れない。


 これがジムプリチウスの言う『ゲーム』なのだろうか?


 どちらにしてもルナにとっては明るくない未来が待っていることは決まっているのだ。


「楽しみだな」


 カミーユはいつも通り声に出して思考した。 


『何が楽しみなんだよ!』


 シエラフィータ族の男は怒っていた。


「別に、こちらの独り言です。ほんとうにさまざまな声が入ってきますから自然と口から漏れたんです」


 本当にさまざまな声だ。それが『心臓』から響いてくる。


 だが不思議とそのなかで話したいと思った相手の声は聞こえるのだ。


 話したい相手と、誰でも話すことが出来る。まるで夢のような道具だ。


『お前はルナ・ペルッツの友人だってな』


『ええ、旅を少々』


『旅だと?』


 相手の声が驚いた。


『そうですよまあ、何ヶ月かは一緒にいたかな』


『ふん、それがどうした。人殺しの仲間は人殺しか』


「へえ、じゃあ一度お会いしてみます?」


 カミーユは訊いた。


『なっ、なんだと!』


 相手は驚いていた。


「ええ、あなたはどちらにいらっしゃるので?」



『オルランドだ』


 声が返した。動揺を隠せていない。


『なら私もです。今すぐお会うしましょう』


『ティークだ。そこそこ大きな街だな』


 動揺の後で男の声はやや和らいだようだった。


「あ、そこなら通った記憶あります。すぐ参りますね」


 実際カミーユはもう一つの人格を表に出していたとき、サーカス団として言った記憶があった。とは言え、それは実際にはカミーユ本来の記憶ではなくもう一つの人格のものだ。はっきり言って嘘なのだが、カミーユはそれを悔いるような性格ではない。

カミーユは騎乗していた骨の妖精ヴェサリウスの速度を薦めた。


「なんやなんやおもろそうなやっちゃな。おれも逢わせてくれんか」


 ヴェサリウスの骨にしがみついていた蛹を形態をした塊が話し始める。


 グラフスだ。


「いいですけど。別にこちらも暇潰しですし」


 カミーユは冷たく言った。


 ヴェサリウスはすぐに急降下を始める。

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