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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十二話 解剖(2)

『いくらジムプリチウスさんの言うことでも根拠がないことには……』


『根拠はある。お前らに見せてやろうか』


 ジムプリチウスの声が言った。


『どうすればいいんだ』


『おいおい、これはただの声を訊くだけのもんじゃないぜ? いろいろ使い道があるんだ』


 とつぜん、カミーユの持っていた『心臓』の真ん中が大きく裂けぎょろりと目玉が現れた。



「へえ、面白い」


 カミーユは感情を込めずに言った。


『俺はこれを使ってお前たちを見ることも出来るんだ。それだけじゃない』


 開かれた目のなかから禍々しい色をした光が立ち上がった。


 目が眩むほどだったが。カミーユは楽しそうにその奥を覗いた。


 堂々とリヒテンシュタットの屋敷に入り込むルナとズデンカの姿が写されていた。


『マジか!』


『こんな証拠が残っていたのか! これはなんなんだ、幻影か』


 さまざまな声、さまざまな意見が飛び交う。 現世にあるものをまさにまざまざと定着させる技術。それは映画として一部実現されているがまだまだ白黒だし広がっていきはしていない。


 それがこうも鮮やかな『映像』としてこの世に出現するとは。


『お前らは幾らでも気兼ねなくこの技術を使えるんだぞ。集めろ。ルナ・ペルッツに関わる不審な情報を全て洗い出せ!』


「また逢いたいですね。ルナさん」


 カミーユは言った。


『お前やつと知り合いか?』


 シエラフィータ族といった男の声だ。


『ええ、あなたはルナさんの収容所でのお知り合いですよね。いろいろお話訊かせて頂いて幸いでした』


『何が知り合いなものか。奴には命を奪われかけた!』


 いきり立ったように男が言う。


『それが知り合いですよ。私はルナさんの友達です』


 カミーユは言った。あえて言ったのだ。そう言うしかない。


『友達だと!』


 男は声を叫んだ。思わず咳込んでいた。かなりすさんだ生活を送っているのだろうと推測された。


『ルナ・ペルッツはオルランド公国、及びヒルデガルト共和国、カザック自治領を含む旧スワスティカ領全てをシエラフィータ族の国へ作り変えようとしている、俺はこう考えている。よく考えてもみろ。世界各地を旅して話を集めて回っている。本当か? ソンナ純粋な動機からか? やつは、世界各地で自分シンパを募っている。実際危険なやつと接触した情報も俺は握っている。今の戦後の社会が続く限り、やつは力を持ち続ける』


『そうだよな……スワスティカにだいぶ殺されたと言っても、やつらはまだまだたくさん生き残っている。シエラレオーネ国の面積だけじゃ足りないはずだ。俺たちの国をやつらの国に作り変えようとする、その工作員がペルッツなのかも知れない』


 他の声たちが論じ出し始める。


 話に話が積み重なる。少しでも裏付けになる事実が出てくれば憶測に憶測が重なり陰謀の色を帯びる。


 そんな陰謀が集まって化け物はやがて巨大に膨れ上がり、トルタニア全土を駆け巡るだろう。


 カミーユは静かに興奮した。いままで見たこともない場景だ。


 カミーユはルナの旅を目撃している。だから、嘘だとよくわかる。


 しかしそれを自分の見たところによって正そうとは思わない。 


 恐らく誰も信じないのだ。『自分の見たもの』ほど根拠のない情報源はない。


 ジムプリチウスは何もないところに何かを見て、陰謀を作り出す天才だ。戦時中もその手腕は評判だったと聞く。


 天才が天才であるゆえんを垣間見た思いがした。

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