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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第九十一話 ずっとお城で暮らしてる(9)

「それは……ええと……ええと」


 イトゥカは顔を青くして、しどろもどろに成りながら答えた。


「借り物の民話だけではありますけども、わたしの見解ではそのなかに一つだけ真実が混じっているように思われる……あなたは確実に老婆を殺しましたね?」


「どうして……わかるのですか?」


「わたしも人を殺しているからですよ……たくさんの……たくさんの人をね」


 イトゥカは目を瞠ってしばらくルナを見詰めていた。


「……はい」


 やがて観念したのかイトゥカは静かに答えた。


「やっぱり。そしてたぶん、あなたはそのことを悔やんでいる。そして悪い魔女だったと思おうとしている。違いますか」


「はい。私はほんとうに些細な思い込みから泊めてくれたお婆さんを殺してしまいました。寝ているときに枕を頭に押しつけて……」


「なぜ、そのようなことをしたのですか」


 ルナの目が鋭く光った。


「たぶん、幼い頃の私は思い込みが迚モ強かったんです。頭に浮かんだ観念を其の儘信じ込んでしまう。部屋の壁に混じっていた砂岩を骨だと思い込んだのが原因だったと思います……」


「ああ、わかります。思い込みで殺したことはないですが、あなたの殺しはわたしのよりもずっと救われています」


 ルナは答える。


「救われている?」


 イトゥカは驚いた。


「はい、わたしは多くは自分の楽しみのために殺しました。そういう罪深い人間を前にしては……」


「おい!」


 流石に我慢できなくなりズデンカは叫んだ。


「お前がやったことは悪かもしれんが、それはここで言うことか? 誰が聞いてるかもわからんのだぞ」


「おれはきいでるよお!」 


 押し潰されたハロスの声が答える。


「いいよ、わたしの手は血で汚れている。あなたは幼いがゆえの無知でお婆さんを殺してしまっただけです。だから、何も苦しまなくてもいいんです」


 ルナは言った。


「でも、私が殺したことは……」


 イトゥカは真面目なのだ。消せない罪をずっとずっと後悔している。


「いいんです。わたしが受け止めますよ」


 ルナは言った。


――なんてすかしたことを……。


 ズデンカは思わず思ってしまう。

 

  だが、ルナは多分イトゥカを受け止めることで、自分自身を受け止めようとしているのだ。


 客観的に見ればイトゥカの殺しはルナがやったものよりは罪がないと思われた。しかしイトゥカにとってはそうではないに違いない。


 それが証拠に、イトゥカはルナの瞳をはっきり見れていなかった。


「……」


 ルナはただ優しくイトゥカを見続けるだけだった。


「もういい」


 ズデンカは言った。


「おい、この話はお前の蒐集に値するのか?」


 率直にルナに問う。


「うん。値するよ。絶対に書き記しはしないけどね」


 ルナは短く言った。


「そうか。じゃあイトゥカの願いを叶えてやれ」


 ズデンカは答えた。


「イトゥカさん、何か叶えて欲しいことはありますか」


「私たちを置いていってください。静かに暮らさせてください……ずっと、ずっと」


 イトゥカは短く言った。


「わかりました」


 ルナはそう言って寝台から立ち上がった。


「うーん」


 と思いっきり伸びをする。

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