第九十一話 ずっとお城で暮らしてる(6)
「さて、ルナに話を訊きたいが……」
と、ズデンカはベッドを見た。
「ぐがああああああああああああ! ごがああああああああああ!」
大口を開けたルナのいびきは物凄かった。ズデンカも聞いたことが何度も何度もあるがもうすっかり慣れっこだったが、ジナイーダは初めてだったようだ。
「こんなやつで、すまん」
ズデンカは言った。
「でも、こんなにいろいろあったのに熟睡できるって凄いよ。ルナってこれでも結構繊細でしょ?」
「繊細かどうか。変なことに関して繊細だったりするな」
「変なことって?」
過去について、とはとても言えなかったので、ズデンカは話を変えなければならないと思ったところへ。
ちょうど、この城の住人たちが部屋のなかに入ってくる。
「うわあ、綺麗になってる!」
ズデンカは何を言われるか気になっていたが、素直に感心しているようだった
「こっちの二人はこの城の主だそうだ。名前を訊いていなかった……何と言うんだ?」
「この子は弟のボフミル。私はイトゥカ」
少女は即座に答えた。なぜか弟に喋る隙を与えないかのように。
「イトゥカか」
ズデンカは繰り返した。
「ふがああ!」
ルナがベッドの上で人形のように仰け反り目を開いた。
「あー、眠ってたのか……」
「眠ってたのかじゃねえだろが」
ズデンカは配慮しながらその後頭部を殴った。
「ふにゃあ、いたぁい!」
ルナは寝ぼけ声で叫んだ。
「この城に泊めて貰うことになった。この二人は主人のイトゥカとボフミル。二人の他にこの城に住人はいないようだ」
ズデンカは簡潔に紹介する。
「初めまして、私はルナ・ペルッツと申します。世界各地を巡って綺譚を探し求めているものです。もし、好ましい内容でしたら、あなた、それともあなたがたのお願いを一つだけ叶えてさしあげますよ」
ルナは立て板に水のようにいつも言っていることを並べ立てた。
「そう言われましても……何も思い付きません」
イトゥカは短く答えた。ルナの名前も知らないようで困惑の様子が見えた。
「あるじゃないですか。うちのメイドからの情報ですけれど、あなたがたはこんなお城に暮らしていらっしゃる」
「言っても良いんでしょうか」
イトゥカは不安げに言った。ズデンカは既に察していた。
何か深い訳があるのだろう。
弟の眼の前では話したくないし、なおさら赤の他人の前では言いたくないのだろう。
だが、他人の人生を詮索するのがルナの性分だ。
「おいイトゥカ。弟抜きで話しにくいんじゃないのか?」
ズデンカは直接的に言うことにした。
「ええ。ボフミルがとても小さい時の話ですので……」
イトゥカは控えめに答えた。
「わかった。ジナ、頼む。ボフミルを部屋に連れて帰ってくれ。台所に穴が開いていてその奥の部屋にいた。イトゥカ、安心してくれ。こいつはボフミルと年齢も近いし、ちゃんと言ったことはやってくれる」
「うん」
ジナイーダは目を輝かせて、
「さあ、行こ」
とボフミルを急き立てて部屋の外へと出ていった。
「さて、後はハロスだが」
とズデンカは後ろでニヤニヤ笑っていたハロスを引き倒し、両手両足を背中に回して、その上にどっしり腰を下ろした。
「さあ、これで何もしてこないはずだ。自由に話せ」
ズデンカは肘を膝につき、掌に顔を伸せて言った。




