第九十一話 ずっとお城で暮らしてる(5)
意外と広い――と言っても子供部屋ぐらいの大きさの空間が広がっていて、四隅はちゃんと壁紙が貼られており、まあちょっと小綺麗な地下室とでも言った感じだ。
そして、そこに小さな男の子と少し大きめな少女が二人いる。
ズデンカとハロスを見て、部屋の隅で震えているようだった。
「お前たちが、この城の主か?」
ズデンカは二人を睨みながら訊いた。幼いとは言え、人ではない何かが擬態している可能性もある。
「はっ、はい。他には誰もいないので、そういうことになりますかね」
少女のほうが答えた。
「何でお前らだけが……ここにいる?」
「それは……」
少女は言い止した。
「おいおいおいおい、俺らには話せないって言うのかよ、あ?」
ハロスが少女の襟首を掴んで引き寄せた。
少女は声も出せないぐらい怯えているようだ。
「よせ」
ズデンカはハロスの腕を蹴り上げた。
「ここで話せないなら、あたしの主人と会ってくれ。しばらくしたら起きてくると思う。無断でこの屋敷に上がらせて貰った……そのことは謝りたい。だがどうしても、主人の体調が思わしくなく、立ち寄らせて貰った」
ズデンカは言った。
「大丈夫です。この城のほとんどの部屋は使っていないので……」
少女は答えた。
「まあどっちにせよ、来て貰うがな。引っ張ってでも。貴重な食材だ。どうやって……うっぷ」
ズデンカがハロスの口を塞いだ。
大事な交渉中に相手を脅かしてしまっては成立するものも成立しなくなる。
「こいつはちょっと頭がおかしいんだ。変なことはしない。ともかく来てくれ」
ズデンカは言った。
「はい……でもこの子は」
と少女は少年を見た。
「お姉ちゃん」
少年は少女に縋り付いた。
「お前が置いていきたいなら置いていってもいい」
ズデンカは出来るだけ穏やかに声を出すように努めた。
「もし、命を取るとしたら、この子だけは」
聡明な子供らしい。
「そんなことはしない。あたしが約束する。こいつが暴れたらその時はボコボコにしてやるから、安心して二人とも着いてきてくれ」
ズデンカは二人の目をじっと見詰めながら言った。
「……」
ズデンカはハロスを押さえ付けながら、先へと歩き出す。二人はしばらくして尾いてきた。
「あいつらを怯えさせるな」
ズデンカは小さな声でハロスに囁いた。もちろん手は退けてやった。吸血鬼なので口をしばらく塞いでも死にはしない。
「うっぷ……なんでだ? ただの人間だろうだろうがよ」
「あたしの主人も人間だ」
ズデンカは一言で黙らせる。ちらちら視線を送ってこの城の主である二人がゆっくり歩いてくるのを見守った。
さて台所に戻り、そこからルナがいる寝室を目指した。
「ズデンカ」
ジナイーダが駈け寄ってくる。
「大丈夫だったか」
ズデンカは真っ先にルナのことを訊きたかったが。
「うん。ルナのやつずっと眠ってたよ。いびきまで掻いて幸せそうに」
ジナイーダは不快な顔をした。そう言えば、ジナイーダは最近寝ていない。だんだん吸血鬼らしくなってきているのだ。
「ありがとな」
ズデンカは感謝した。
「べ、別に大したことやってないよ」
ジナイーダは少し焦った。




