表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1000/1241

第九十話 消えちゃった(9)

「俺は何年か掛けてシュブラックの故郷を探しだし、訪れてみた。同じような姓が集まっている地域だったからわかりやすかった。だが、オノレなる息子がいた記録も、記憶もすっかりなくなっていたな」


 ハロスは話を終えた。


「凄いですね! 革命広場はわたしも行ったことがありましたが、確かに噴水がありましたね。そのような謂われがあったとは! わたしも飛び込んでみるべきだったかも知れませんね!」


 ルナは拍手した。


「止めとけ」


 ズデンカは注意した。ルナが消えてなくなるなど、とても耐え切れなかった。


「しかし、お前人間なんか興味ないとか言いながら、興味津々なんだな」


 皮肉の一つでも言いたくなる気分だった。


 実際ハロスはシュブラックのことを忘れず、何十年経った今でもこと細かに覚えていた。生まれ故郷まで訪れているとはなかなかのもんだ。


「当時はまあそれなりにあったんだ」


 ハロスは少し気恥ずかしそうに答えた。


――一般的に吸血鬼は年々感情をなくしていくというが、こいつもその意味ではあたしと同じく半人前なようだ。


「でも、跡形もなく人が消え去ってしまうなんて興味深いですよ。消え去ったとして、われわれはそのことを覚えていないんだから。実例と遭遇するのは難しい。歴史に残る人物ならともかく(それでも完全に消えたら探しようがないですけど)、市井の人ならなおさらですよ。われわれは数多くの他人と顔見知りにすらなれずに人生を終えるんですからね。さすがは長い時を生きる吸血鬼だからこその貴重な体験です。ありがとうございます」


  ルナはお辞儀をした。


「ま、まあ、人間如きでも褒めてくれるなら、やぶさかではない」


 あからさまにハロスは嬉しそうだ。


――やはりこいつは単純だな。


 ズデンカは笑いを堪えた。


 しかし、ハロスの話に色々と疑問が生まれた。この世から跡形もなく消えた人間は一体どこへ行くのだろう。


 それは死ぬのとはまた違った体験だろう。あの世でもこの世でもない、何れの時間にも属さないような空間が、存在すると言うのだろうか?


「それではあなたのお願いを一つ叶えてさしあげたい……と言いたいところですが、わたしたちの旅に同行したいということですよね。たいへんありがたいです! ぜひ吐いていってくださると助かります」


 ルナは流石に口が回る。


「ああ、まあな」


 ハロスは決まり悪そうにしていた。


 自分からいていきたいと言ったのに、軽蔑している人間であるルナから歓迎されるとはあまり楽しくはないだろう。


「それでは決まりです。君、ステラを担いで」


 ズデンカは仕方なしに昏倒している大蟻食を背中に右肩に担ぎ、ルナを左肩に担いでビルディングの下まで降りていった。


ハロスは言われなくともいてくる。


――ジナを探さなくちゃな。


 ズデンカは元来た道を物凄い速度で引き返した。


 先ほどの騒ぎを聞きつけた警察官の姿も見える。


 ズデンカは顔を伏せ小走り気味に進んだ。


 しかし、クンデラは思いのほか広い。


  血以外の臭いを嗅ぎ分けられないズデンカではなかなかジナイーダたちを見付けられそうもなかった。


――向こうも移動しているかもしれん。


 ズデンカは焦った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ