○side:C(A・S)
私の名前は細波絢瀬。日本の奈良県に住む、高校1年生。
小さな頃からテレビで輝く女の子たちに憧れていた。もっと言えば、たくさんの人から熱烈な視線を独り占めしているセンターの女の子に憧れた。
でも。
残念ながら私は容姿に恵まれていなかった。顔も学歴もごく平凡な両親のせいで。
だから顔を変えるための努力をした。中学生に入ってすぐにパパ活でお金をためて。慣れてきた頃には本番も許して。稼いだお金で高校に入る直前に、美容整形を受けた。印鑑はどうとでもなったけど、保護者同伴って言われたから、お客さんに頼んだ。こうして私は生まれ変わったの!
高校は通信制の学校を選んだ。だってそうじゃない? これから芸能活動で忙しくなるはずだから。その頃には、両親は私に何も言わなくなっていたから、自由気まま。
歌と踊りは知らないけど、下手でも顔だけで売れているアイドルはたくさんいる。それに、歌と踊りは後からいくらでも練習すればいいんだもん。
というわけで早速、芸能事務所の門をたたくことにする。今の私は控えめに言って完璧。どうせ受かる。そう思って東京の大手事務所に直談判するために駅で電車を待っていたその時。
特急の電車に突っ込んだ自殺者の体の一部が私を直撃。彼の巻き添えを食う形で、私も死んでしまった。そして――。
異世界フォルテンシアに転生した。
最初は戸惑ったよ? だって知らない言葉で知らない両親が話しかけてくるんだもん。何か言いたくても言葉もろくに話せない。
だけど幼い人間の体は優秀で、2歳にもなればその全てを理解した。言語もそうだけど、転生したこと。自分がサザナミアヤセでありながら、王国ウルの第3王女セシリア・フェルト・ウルであること。何より、絶世の美少女であること。クリクリとした大きな青い瞳に、艶やかな金色の髪、長いまつげ。美男美女ぞろいのエルフ……じゃなかった。森人族と人間の混血ということもあって、容姿は前世と比べ物にならないほど整っているの!
多分、姉2人よりも可愛いと思う。
10歳になって社交界にデビューする頃には全てを確信した。フォルテンシアに転生したのは全て、神様の思し召し。前世で頑張った私へのご褒美なんだってね。
「セシリア様、今日も見目麗しゅうございます」
「セシリア、あなたは今日も凄くかわいいわ!」
「セシリア、僕と結婚しよう!」
みんながみんな、私をほめたたえてくれる。最高に、気持ちがいい! もっと褒めて? もっと私を見て?
……だけど。どうしてだかみんな長女のイリア姉様や、普段は王城にすらいない次女のアイリス姉様にご執心。弟の第1王子クランですら、私よりもちやほやされている。
それが何だか。いいえ、とっても。――憎らしい。
「もっと私を見てよっ! もっと、もっと……っ!」
でもやっぱり、届かない。知識は日本にいた頃のものがあるけど、ろくに勉強もしなかったからこれと言って役に立たないし。今の私が使えるものと言えば……。
「〈魅了〉、だったけ?」
前世の私を表すように生まれつき持っていた〈魅了〉のスキル。〈鑑定〉の結果、〈魅了〉の中では最上級の力を持っているらしい。普通は相手に好感を抱かせる程度らしいけど、私のやつは対象を意のままに操ることすら出来るとか……。
「そうだっ!」
私はとある作戦を考える。昔、侍女たちから宝物庫にある『竜呼びの笛』と『癒しの錫杖』の噂を聞いた。笛はその名の通りランダムな竜を召喚する。錫杖は一定範囲内にいる対象のステータスに刻まれている「状態:怪我」を取り除き、体力を最大値の3割分回復させるアイテム。
その2つを使ってまずは竜を呼んで、王国をピンチにする。もちろん犠牲者も出ちゃうだろうけど、まあいいよね。どうせゲームみたいな世界だし。重要なのは犠牲と負傷者が大勢出ること。
「だってその方が、みんなありがたがってくれるもんね」
で、混乱しているところに錫杖を持った私が登場! 彼らの傷を癒せば、きっとみんな私に感謝してくれるはず。それこそ巷にいるらしい、聖女様みたいに。
「早速行動だー!」
守衛を〈魅了〉で無力化して、難なく笛と錫杖をゲット! もちろん、このことは内緒にしてもらう。いずれ明るみに出るけど、その前に行動してしまえばいいもんね。案ずるより産むが易し、だっけ? 地球でも避妊してもらうの大変だったっけ。ともかく。
「ここからが私の本当の人生が始まるんだ!」
折角手に入れた私のための異世界! 私の凄さに跪いて、崇めたたえて!
さて。今、私は王城1階の大広間で避難してきた人たちを元気づけていた。これも王女の役目らしいの。民の声を聴くためだとか言ってギルド職員として働くキャラクターのアイリスお姉さま。彼女の話によると、死者が10人くらい、負傷者は多数。倒壊した建物が9軒、被害を受けた建物が15軒。
思ったよりも竜が弱くて被害は小さかったけど、問題ない。ちゃんと被害は出た。建物の倒壊に巻き込まれたり、避難中に押し倒されたりして負傷した人が苦しそうに声を上げている。感謝されるためには、今しかない!
私は部屋に隠しておいた『癒しの錫杖』を取りに戻ろうとする。
「――待ちなさい、サザナミアヤセ」
透き通った声が響いたのはまさに、その時だった。
振り返ると、人込みを割るようにして1人の少女が立っている。黒くて長い髪に、色白で華奢な身体。白い服と黒いプリーツスカートは日本にいた頃に見た学生服みたい。
「スカーレットちゃん……?」
隣にいたアイリスお姉さまが呟いた。スカーレット。どうやらそれが彼女の名前みたいだけど、そんなことよりも私にとって重要な事実がある。それは彼女が言ったサザナミアヤセという名前。
「どうして私の名前……」
私が転生者であることは誰にも話していない。だってその方が、私がなにも無くても優秀だってみんなが褒めそやしてくれるから。ともかく、この世界でサザナミアヤセという名前を知っているのは私しかいないはずなのに。
「初めまして、私はスカーレット。死滅神の職業を預かる者。この世界に害を為すあなたを殺しに来たわ」
そう言って紅い瞳を煌々《こうこう》と光らせ、静かに私の方へと歩み寄ってくる少女。
死滅神。そう自称した彼女はどうやら、この世界で死神と呼ばれているキャラクターらしかった。




