三太②
三太は全力で逃げていた。
普段全力で走ることなんてないから息も切れて、今のスピードを維持するのはしんどかった。しかし、後ろからすごい剣幕で追ってくる人がいるので手を抜くわけにはいかない。
このままではらちが明かないと思い、角を曲がった瞬間、車の影に隠れてなんとかその場をやり過ごす。
幸い相手は三太の姿を見失ったようで、しばらくあたりをキョロキョロしながらももと来た道を帰っていった。
しばらくその場でじっとしていたが、相手が去ったのを確認して車の影から出る。呼吸も落ちついてきた。
ほっとした一方で、理不尽な怒りもこみあげてくる。友達からいたずらがばれて追いかけられた話は何度か聞いたことがあるが、前を歩いていただけで追いかけられた話は聞いたことがない。今回はまさにそれだった。気が付けば急に後ろから追いかけてきた。
そこで三太は自分が知らない場所にいるのに気づく。頭の中で地図を思い描いてみるが無理だった。その時初めて迷子になっていることに気付く。遠くまで行こうとか思わなくちゃよかった。仕方ないので記憶を頼りにもと来た道をたどってみる。しかし、カーブを曲がる度に、確信がどんどん薄れていく。ある角でついに足を止めてしまう。キョロキョロと周りを見渡す。本当にあっているのだろうか、わからない。
そこでちらっと見えたカーブミラーに違和感を覚える。立ち止まってもう一度自分を映す。いつもつけてるバンダナがないことに気付いた。
迷った上にバンダナまでなくすなんて今日は踏んだり蹴ったりだ。僕が一体何をしたってんだよ、と空に向かって悪態をつく。