エミ①
朝、お父さんの出ていく音で目を覚ました。慌てて枕元の時計を確認する。よかった。まだ間に合う。急いで荷物の支度に取り掛かる。
ライブに行けなくなると分かったのは一昨日のことだった。めったにツアーをやらないグループが、それもすぐ隣の県でコンサートを開くなんてほとんど奇跡に近かったから、それだけにどうしても諦めきれなかった。なので、昨日からちゃんと準備しておいた。
お母さんは心配するだろう。勝手に一人で遠くまで行くなんて、とお父さんは叱るだろう。それでもいいと思った。最近のお母さんとお父さんは私のことを全然わかっていない。お母さんは私がまだ5年生だというのに、ずっと先の中学受験の話ばかりしてくる。それなのに、最近塾の成績が落ち始めているのに気づいていない。
お父さんなんて酔っぱらって帰ってくるくせに、私を見て「小学生は気楽でいいなあ」とか言ってくる。全然わかってない。私が学校で友達に置いて行かれないようにするのにどれだけ苦労しているかなんて想像できないだろう。私が本当に好きなのは昨日のテレビなんかじゃない。
スマホと財布をカバンの中にしまう。これで荷物は全部だ。
昨日のうちに、スマホで会場までの運賃を調べ、当日券を売っているかも調べた。残念ながら当日券は私のお小遣いでは買えなかったが、それでもよかった。ライブの雰囲気を感じられればよかったし、それに出口で待ってたらあの人に会えるかもしれないと胸がときめいた。
玄関のドアを開ける。まだ薄暗い家の中とは違い、外はまぶしかった。