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数千文字の物語

『隼人くんの日常』

俺の名前は吉田隼人(よしだはやと)。普通の高校2年生だ。趣味はゲーム。

最近新しいゲームを買ったんだが、時間を忘れるくらいのめり込んじゃって、昨日も気づいたら夜中の3時だった。そっから風呂に入って飯を食い、床についたのは朝の4時半だ。

最近はこんなのばっかで親に叱られるし、俺の体にも負担かけちゃってるし、気をつけないといけないんだけどなあ。


……なんて、ゆっくり考えてる暇も今の俺にはないんだけどな。

なんてったって、7時に起きるつもりが寝坊しちゃって今の時刻はなんと7時35分。家から学校まで、自転車で30分はかかるってのに! こんな俺でも今までずっと皆勤賞だったからな、急がないと遅刻しちまう!

そう焦りつつも飯を掻き込む俺に母さんが――

「隼人ー、ほらもう昨日遅くまで起きてたからー!」

あーもー今そういうのヤメテー!

「んーわはったよ、わはったから! きをふへるから! んじゃ、ご馳走さん!」

テキトーに返事をした俺は、ドアを蹴破るくらいの勢いで開け、自転車に跨り学校へ急ぐ。


ヤバイ、急がないと皆勤賞が……!


そして止まりもせずに突っ込んだ十字路で、俺は――死んだ。


丁度向かってきてた自動車に撥ねられたんだ。

……なんで俺はあんなに焦ってたんだろう。今となっちゃ皆勤賞なんかどうでもいい。命の方がよっぽど大事だったのに。

一回、止まりゃよかったなあ。

……それにしても体がないと、こんなに軽いんだな。空飛べるし。

「――大丈夫ですか! ……大丈夫ですか!」

あ、俺を撥ねちゃった人が青い顔して俺の体を揺さぶってる……。あぁ、だめですよソイツ。もう死んでるから。……すみませんね、俺が悪いのにアンタが色々謝罪しなきゃいけないんだから。……これだから当たり屋とかいるんだろうなあ。

……あーあ、結局恋人とかできなかったなあ。ゲームもまだクリアしてないし。


もう一度……やり直せたらいいのに。


「やり直したいんですか?」


――っ⁉︎


聞こえてきたのは若い男の優し気な声。

なんだ? この声……俺の頭に直接聞こえてくる。

「……お前、誰だ?」

「私ですか? 私は、そうですね……神、とでも言ったらいいですかね。あなたを生き返らせに来たんですよ。とは言っても時間を少し前に巻き戻すことしかできませんが」

「待ってくれ、お前何言ってるんだ? 生き返らせるって……時間を巻き戻すって、どういうことだよ」

「どういうこと……って、さっきあなたが言ったじゃありませんか。『やり直せたらいいのに』と。つまりは、そういうことです」

「……は?」

なんだよコイツ、意味わかんねえ。……やり直せる? 本当に? でも意味わかんない奴の言うこと聞いて大丈夫かな……?

「あなた結構失礼ですね。意味わかんない奴扱いだなんて」

……っ⁉︎ 今、俺しゃべったか……?

「……お前、思考を読めるのか?」

「はいもちろん」

え、こわ。今俺が考えてることも丸分かりってことじゃん。

「あなた、早く決めてくれません? 仮にもこの世界の主人公なんだから、あなたがいないと何にも始まらないんですよ」

「……主人公?」

また意味の分からないことを言い出した。そりゃ俺の世界の主人公は俺かもしれないけど。

「おっと、今のは聞かなかったことに……。で、決まりましたか?」

少々引っかかるが気にしても仕方なさそうなので、俺は自分で決めた答えを言う。

「やり直す。今度は死なない」

「そうですか、分かりました。では頑張ってください」

「ああ、ありがとう」


そして俺は何やら暖かい光に包まれていき、だんだんと視界がぼやけていった。






――あーもう、寝坊だ、寝坊! 昨日遅くまでゲームしてたのが響いた!

急がないと遅刻しちまう!

……そう焦りつつも、パンにはしっかりバターを塗る。バターは多い方が美味いからな。

そして俺はリュックを背負い、パンを咥え、ダッシュで玄関へ向かう。

「隼人ー、カッパ持った?」

母さんの言葉で窓を見れば、小雨が降っている。パンが濡れるではないか! ……だが少しは仕方ない。寝坊した俺が悪い……。

靴を履くのに少々苦労したが、自転車に跨り学校へ急ぐ。


ちくしょう、パンがべしゃべしゃになる前に食べないと!


そしてパンに気を取られて突っ込んだ十字路で、バイクに衝突した俺は死んだ。


「さっきぶりですね。突っ込むから死ぬんですよ」

辺りをふよふよと漂っていると、突然見知らぬ男の声が!

「だ、誰だお前は!」

「……あぁ、そういう感じなんですか。こういう系は困りますね。まぁ『知らない幸せ』というものもありますが。精神崩壊されるよりはマシですしね」

謎の存在は訳の分からない独り言を呟く。

「どういうことだ、何の話をしてるんだよ」

「説明が面倒なのでざっくり言うと、私はあなたの時間を巻き戻しに来ました」

「時間を?」

「そうです」

そんな魔法みたいなことができるのか? ていうか、誰なんだコイツは。

「次は死なないように頑張ってください。それでは」

「えっ? ちょ、何がどうなって……」

何も分からないまま、俺の視界は白に包まれぼやけていった。






「――やあやあ、どうだね進捗は。授業シーンまで到達したかい?」

 死亡画面を見つめる弟の横にスナック片手に腰を下ろした姉が言う。

「まだ登校シーンだよ。2連続で死んだ」

「あ〜引いちゃったか。これ運悪いと延々と死に続けるからね」

「お姉ちゃんどこまで行ったの?」

「3周目の放課後」

 ブイ字の手で得意気に彼女は語る。

「今ね、死亡パターンの全回収頑張ってんの。全部で百はあるらしくてさ」

「よくやるね、全回収」

「いやさぁ、選択時のセリフのバリエーションも死に方のバリエーションも富んでて楽しいのよ。キャラ設定もちゃんとあるし、萌え要素もあるんだよ」

「萌え要素?」

「マジでいいの。続きやったら分かるから。それと、とにかくキャラデザがいいんだよ本当に。大好き」

姉の語りが長引きそうだと悟った弟は「ちょっと続きやる」と遮り3回目の『はじめから』ボタンを押した。

食パンダッシュ、よくアニメなんかで見るけど、あれパン食べられてないよね?

いとい含め、みなさん交通安全には気をつけましょう……。


最後まで読んでくださりありがとうございました!

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表紙絵はこちら。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16729799

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