護ったのに怒られる悲しさ
王子リゴールとその護衛であるデスタンは白い石畳が敷かれた通路を歩いている。
リゴールがやたらと喋りデスタンは真顔で話を聞く、というのが、最近の二人の定番の関わり方である。
「それでですね! 昨日は会議がやたらと長引いたのです! それも有意義な内容ではなくて、愚痴兼説教のようなものでして、本当に長かったですよ!」
「そうですか」
「もう本当にどうにかしていただきたいものです! ……なんて、言っても無駄だって分かっているので、もう言いませんけど。でもですね! 本当に困ります!」
リゴールがそこまで言った時、ちょうど、二本の道が交差する地点がやって来る。といっても、なんら特別なことがあるわけではない。交差点といっても一般人が通ることのできるところではないため、誰かとすれ違うとしても大抵顔見知り。
ただ、この時だけは違っていた。
「死ねェ!」
建物の陰から刃物を持った男が現れ、リゴールに襲いかかる——が、デスタンが咄嗟に刃を掴んで止める。
「何のつもりですか」
デスタンに睨まれた男は一瞬怯みすぐに次の行動へ移れない。
そんな男のみぞおちに、デスタンは肘を叩きつけた。
みぞおちに一撃を食らった男は情けない短い声を漏らす。刃物は離し、くるりと進行方向を変えると、一目散に逃げ出した。
逃げる男を追おうと一歩踏み出すデスタンだったが、リゴールに手首を掴まれる。
「追いかけなくて構いません」
リゴールははっきりと告げた。
「しかし……」
「追いかける必要はありません。それより、なぜ刃の部分を掴んだのですか? 怪我することは分かりきっていたでしょう!」
リゴールが言う通り、デスタンの刃物を掴んだ手には血が滲んでいた。
一応手袋をはめてはいるが、厚みのある手袋ではないため、刃から手を守ることはできていなかった。
「すみません」
「もう危険なことはしないでください!」
「ですが」
「怪我するようなことはしないでください、と、以前にも言ったはずです!」
「しかし、緊急時にすら危険なことをしないとなると、それはもはや護衛でも何でもないと思うのですが……」
リゴールに襲いかかった男は別の場所にて確保された。
デスタンは手当てを受けることができ、命に別状はなかったのだが、後ほど心配しすぎなリゴールに厳しく色々言われてしまったのだった。
◆終わり◆