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095.再興軍結成

 エイベルク王国王都グランマリナ。

 秋の深まる季節、涼やかな乾いた風がさらりと肌を撫でる。

 日差しが天頂を過ぎる頃、王城に接続する桟橋に飛空艇が着陸するのを、今や遅しと待ち構えるエイベルク王国兵と、それとは別に四人の姿。


 ダニエル・アルベルト、オリバー・レクツァト、クワイエ・ペトシエ、そしてレイモンド・フォークである。

 レイモンド・フォークは平服だったが、アルベルト、オリバー、クワイエの三名は在りし日のユングスタイン王国の礼服を着ていた。


 白を下地に鮮やかなコバルトブルーの組み合わせ、フレッシュグリーンのアクセントカラー。アイアンブルーとスカイグレイの補色をあしらった正装は、見る人が見れば、ひと目でユングスタイン王国伝統のそれと分かるものだった。

 三人は遠く故郷を離れても決して故郷のことは忘れまい、と密かに用意したものだった。


 それまで直立不動で待ち構えていた所に、飛空艇のタラップが降りてくると敬礼をして主を出迎えた。


「お帰りなさいませ! ゼトラ様!」


 息ピッタリ、声を揃えて敬礼する三人に、ゼトラは目を丸くして驚いた。

 しかしその心意気に感じ入り、顔を綻ばせた。


「ただいま。出迎えありがとう!」


 嬉しいサプライズにゼトラは照れくさそうに笑い、頭をかく。

 ゼトラのその仕草も、笑顔も、それがまるで旧主アリスアトラの生き写しのようにも見えて三人は思わず言葉を詰まらせて、緩みかけた涙腺を引き絞る。


 ゼトラに続いて手を引かれてフィオリーナ、アイビス。

 その後ろにミヒャエル、マーカス、メルキュールが続いた。


 ミヒャエルも礼服姿の三人を見て驚き、悔しがった。


「ずるいぞ貴殿ら。よもやそのような出迎えをするとは」

「ハッハッハ。いつも冷静沈着なお主もついでに驚かしてやろうと思ってな」


 クワイエが胸を反らせて笑いかけると、ミヒャエルは手を差し出した。

 それぞれその手に重ねて、再会を喜ぶように破顔させた。


 アリスの旧臣四人が一同に介するのは実に九年ぶりの事だった。


 また、ゼトラはおよそ一週間ぶりの帰還とは言え、皆がその無事を喜んだ。

 跪く最敬礼の姿勢を取ると、レイモンドが真っ先に頭を垂れた。


「ご無事で何よりです。ゼトラ様」

「苦労をかけるな、レイモンド・フォーク」

「勿体ないお言葉にございます」


 レイモンドは物腰柔らかい口調ながらゼトラのために、という強い意志を感じさせた。


「ダニエル・アルベルトにも迷惑をかけたな」

「滅相もございません」


 アルベルトはゼトラの急激な成長ぶりに目を見張り、精たんな顔つきを引き締めた。


「オリバー・レクツァトも足労すまないな」

「ゼトラ様の御為ならどこでも駆けつけまする」


 オリバーはその巨体をわずかに震わせて、瞳を潤ませて微笑む。


「クワイエ・ペトシエも急ぎの旅中、大事なかったか」

「ありがたきお言葉。早馬を飛ばしてつい今朝ほど到着した次第にございます」


 クワイエもまた力強く頷き、ゼトラの帰還に間に合った事を殊更喜んでいた。


 いずれも職を辞して今はゼトラの剣となり盾となる覚悟を持ち、集っていた。

 それぞれゼトラに声をかけられて、感動に打ち震えた。


「ゼトラ殿下。ご苦労だったな」

「これは、ギュスターヴ国王陛下」


 その時、桟橋に駆けつけたギュスターヴ国王が手を挙げた。

 それに気づいてゼトラも一礼する。


「陛下自ら、恐れ入ります」

「なんの。これからすぐに打ち合わせだろう?」

「え、ええ……」


 ニヤと笑うギュスターヴ国王にゼトラは戸惑いつつ、レイモンドを見た。


「皆様がご滞在中の屋敷を保護特区に用意しておりますので、ご案内がてら、そちらで是非」

「ありがとう。今後についても詳しくはそこで話そう」

「ハッ」


 レイモンドを先頭に『明けの明星』を護衛するように前後を旧臣たちが挟む。


「あの、国王陛下?」


 キョトン、としてゼトラの後ろに立つギュスターヴ国王を振り返った。


「余も着いていくが?」

「ええ……?」


 戸惑うゼトラを見て、なお笑みを絶やさずギュスターヴ国王陛下がゼトラを促すようにポン、と背中を叩く。


「それとも夜鴉(よがらす)を忍ばせた方がよいか?」

「それは……」

「保護特区を認めているが、再興の軍を起こす前に相談せよ、と申したであろう。いちいち連絡を挟むのは二度手間と言うものだ」

「……確かに」

「安心せよ。会議中は一切口出しはせぬ」

「かしこまりました。では」


 ゼトラは苦笑しながら一礼すると、用意されていた馬車に乗り換えて保護特区に建築された、ゼトラたちが滞在するための屋敷へと案内されたのだった。




 保護特区の一角、他の建物とはさして違いは見えない地味なものではあったが、大きさとしては一番大きな建物の前に馬車が到着した。


 屋敷を守るように多くの兵が壁を作り、押しかける民衆を止めていた。

 集まった民衆もまた、ひと目でも、と背を伸ばして手を振る。


「ゼトラ様! お帰りなさいませ!」


 女性の声が聞こえて、それに応えてゼトラも手を振り返すと、それまでザワザワとしたざわつきが、ワッという歓声に変わった。


「ルゥム・ゼトラ!」

「ルゥム・ユングスタイン!」


 ユングスタインの古い言葉で、ゼトラと故郷を称賛する装飾を添えて手を振り上げる。

 期待と熱意に溢れた民衆の声に、ゼトラは笑顔で手を振って応えながら屋敷の中へと案内された。



 最初に案内されたのは、馬車留めをくぐった屋敷の裏側だった。


 離れに馬屋があり、そこにゼトラの愛馬、エクリプスも繋養されていた。

 裏庭はまるまるパドックとなっており、馬房とパドックを自由に行き来できる構造になっている。

 ストレスを溜め込まない配慮のようだ。


 久々の再会にエクリプスがゼトラの袖を掴んで『遊ぼう』とせがんだが、笑ってなだめ「会議が終わったらね?」と約束してようやく解放された。



 屋敷の構造は三階建てで、一階に大小の会議室が三部屋に応接間、給湯室、そして警備の兵が寝泊まりする部屋。

 二階にリビングやダイニングキッチン、バスルーム、三階に寝室が三部屋と書斎、バルコニー。

 一階が関係者が自由に出入りできる公共スペースとなっており、二階以上がゼトラたちが使えるプライベートエリアになっているようである。


 奥まった所にある二階に繋がる階段には既にユングスタイン王国の兵装をした者が二名張り付いており、何者も通さない、という鋭い眼光で立ちはだかっていた。

 しかしゼトラの姿を認めると、慌てて慣れない素振りで頭を垂れた。


「なるほど、効率いいな」

「恐れ入ります」


 その屋敷の間取りにはレイモンドが強く関わってたようで機能性を重視したものだった。

 レイモンドはちらりとギュスターヴ国王を見ると、わずかに口元を緩める。


「ちなみに……建設費用の半額はギュスターヴ国王陛下の私財より」

「そ、それは……ありがとうございます」

「なんの、ゼトラ殿下に受けた恩義に報いただけだ。気にせずとも良い」


 ギュスターヴ国王がフフッと笑うと、得意げに胸を反らした。

 早速会議室に向かうと、テーブルを囲んで着座した。


 上座の中央にゼトラ、その両脇にアイビスとフィオリーナ。

 それを挟むようにマーカスとメルキュール、左隣りにギュスターヴ国王。

 そこから列する形で旧臣四人とレイモンドが着席した。


「では最初に、現在の保護特区の状況から」

「うん。頼む」


 あれからさらに多くのユングスタイン人たちが集まっていた。

 王都グランマリナでは約六万人。国境都市ニアベルクでは約四万人もユングスタイン人保護特区に詰めかけていた。


 また、義勇兵を集った所、戦う意志を示した者は合計しておよそ五万人にもなると言う。


「そ、それはすごいな」


 志願率五割という驚異的な数字はギュスターヴ国王を大いに驚かせた。

 五万の兵を徴用することはエイベルク王国でもまずない。


「無論、全てが前線に立つわけではございません。半数以上は支援に、さらにそこから半数以上は予備役に回ります。兵糧の関係もありますし、前線に立つのはおよそ一万ほどかと」

「それでも十分な数字だ」


 幼子や老齢の者を除けば、男女問わず戦えるその殆どの者が、武器を取る強い意志を示していた。

 ユングスタイン人の再興にかける熱意はギュスターヴ国王も予想外だったのだろう。

 感嘆したように肩をすくめた。


「なお、この見立ては私ではなく、とある者たちによる分析です」

「とある者?」

「はい」


 ゼトラの問いに、レイモンドがかすかに頷いて説明を続けた。


 滅びゆくユングスタインから脱出し、密かに再興の日を夢見ながら他国で身を寄せた者たちは多くいた。

 その中に、ユングスタイン王国における軍閥家の者もいた。


 それは西戎(せいじゅう)大将軍家の子、ヨルク・ミュラー。北狄(ほくてき)大将軍家の孫で、リーヌス・フォーゲルと言う。


 そして偉大なる(グレート)皇帝の(エンパイア)玉座(スローン)の北、ノースランド連邦国ではクライフクロム・クーガー南征大将軍の甥にあたるラファエルクロム・クーガーなる者が指揮を取っていると言う。


「クライフクロム……!」

「はい。伯父の汚名を注ぎたいと随分と意気込んでいる、と」

「そうか……」


 北軍を率いるのが亡国の道に至るトリガーを直接的に引き、アレンマリク国王と王妃を自らの手にかけた者の末裔、という事実に、旧臣たちの表情は怒りが混じっているようにも見えた。


 その様子を気にかけつつ、レイモンドが続ける。


「ところで……」

「うん?」

「実はそのヨルク・ミュラー、リーヌス・フォーゲルの両名がゼトラ様との謁見を希望しておりまして、既に応接間に通しております」

「ふむ……」

「いかがなさいますか?」


 ゼトラは論じるまでもなく是非に、と即答しかけた。

 だが、ふとダニエル・アルベルトの目がわずかに泳いでいるのを見て、ニコリと微笑みかける。


「アルベルト、なにか心配ごとがあるか?」

「いえ……両名がゼトラ様にお会いする事にどのような意図があるのか、と考えまして……」

「なるほど……」


 ゼトラもその答えに頷いて、謁見の意図を考えた。

 そしてふと閃く。


「僕が王に相応しいか、見定める目的があるのかな……」

「そのような恐れ多いことを!」


 オリバーが遮るように、首を振る。


 再興を求める民衆は暴発寸前である、とレイモンドは言っていた。

 それはゼトラが集った民の前で「今は再興を目指さない。七竜の解放が先」と説明していないからである。

 だがもしそれが結果的にゼトラは王に相応しくない、ゼトラ抜きで再興を目指す、という方針になり得ることだった。


「まあ、いいじゃないか。自ら志願し軍を率いようという志は本物と思う。これを任せるに相応しい者か、僕も見定めたい。お互い様だ」

「はッ! では……」


 レイモンドが別室で待機する両名を呼びにいくのだった。



 少しして連れたって二人が入室すると、軍式の敬礼を取り、直立不動の姿勢を取った。


「お初にお目にかかります、ヨルク・ミュラーと申します」

「リーヌス・フォーゲルと申します。この度はかような場をお許しいただき誠にありがたき幸せに存じます」

「楽にして、座って下さい」

「ハッ!!」


 ヨルクは年は三十代後半で、頬がこけ、太い眉毛に鋭い眼光。頬にあえて傷を残していた。

 リーヌスは二十代前半といった所か。

 物腰は柔らかそうだが、目を細めた時の思慮に富む表情は、軍師的な才覚が優れそうである。


 着席するのを待ってから、レイモンドに顔を向ける。


「あいにくと僕は将軍家の事をよく知らない。母も教えてはくれなかった。改めてかつてのユングスタイン王国の政治構造について教えてくれないか」

「承知いたしました」


 レイモンドが一礼して起立すると黒板を持ち出してきて、図解しながら説明するのだった。



 まず、王国の頂点にユングスタイン王族家が在る。

 王族家の役目は全ての国民の幸せを願い、国家の最終責任者という立場である。

 それを直接的に支えるのがユングスタイン王族家から分家した公爵家。


 国王は公爵家の中からもっとも政治的才覚に優れ、信頼できる者を宰相に任命する。


 任命された宰相は爵位家より自薦他薦されたリストから才覚ある者を選び、各諸侯を選ぶ、

 国王はその推薦を吟味し問題なければ承認する、という流れだった。


 また各地方は爵位家と呼ばれる貴族が領主を務め、これは王自ら認めたもの、宰相や諸侯の推薦で認められたものがその任に就いていた。

 領主を務める爵位家は基本的には世襲制ではあるが、世継ぎがいない、言動素行に問題がある、と判断されれば容赦なく領地替え、領地没収も行われていた。


 そして国民には主に二つの税が課せられる。

 一つは国から課せられる税。

 もう一つは住んでいる地方を収める領主からの税。


 これがそれぞれ王国政府、地方領主の爵位家の主な収入になる。

 無論、それだけは足りない事がままあるので、独自に商いを始めることはよくある事だった。


 それとは別に軍事部門には四つの軍閥があり、これも世襲制で継承されていた。


 すなわり東夷大将軍ヤーン家。

 北狄大将軍フォーゲル家。

 西戎大将軍ミュラー家。

 南征大将軍クーガー家。


 将軍家には政治的実権はなく、王国政府の命令に従い行動することを基本としていた。

 それぞれ王都を囲むように国境沿いに領地を得ており、その地の守護を任じられていた。


 世襲制を取っているのは各軍閥で軍律が微妙に異なるためであり、直接的に教えを引き継ぎやすい、という理由からである。

 もちろん男子に恵まれない、血縁の者が後継を託すには素行が悪い、能力が低い等判断した場合は才覚に評判の者を、公爵家含めて貴族家から養子を取って引き継ぐ事もある。

 それは血縁を大事にしているのではなく、あくまでも名を継ぐ事を重点に置いている事を意味していた。

 事実、ミュラー家やヤーン家は数代前にそれぞれ公爵家と男爵家から養子を取って今に至っている。


 そして四大将軍家とは別に、王自ら直接的に編成する王国最強の精兵。

 超エリート集団として近衛兵団があった。


「なるほど、ありがとう」


 一通りの説明を終えて一礼したレイモンドをゼトラは見た。

 なるほどレイモンドは宰相の子孫を名乗っていたが、その実ゼトラとは縁戚の関係にあると知って、ゼトラは少し嬉しかった。


「今からおよそ百五十年前……六代前辺りで分派した旧い家らしく、ゼトラ様の縁者、公爵家を名乗るのもどうか、という思いはありまして」


 遠慮がちにレイモンドが笑う。

 しかし血縁者がアリス以外にないゼトラにとって信の置ける縁者の存在、というのは心強いものだった。


「ところで、国王はどのように選ばれるんだろう?」

「まず長子に継承権を与えられます」

「ふむ……」


 かつてのユングスタイン王国では、王座は長子たる者がこれに就いていた。

 男子であれば国王となる。女子であれば女王。

 その継承権は長子から産まれた順に与えられていくが、自らの意志で王室から継承を辞退する事も可能としていた。

 王座も年齢や健康状態を考慮して早期に次代へ継承させる事も可能。

 無論、国内外様々な情勢を見極めて、となるので必ずしも本人の意向に添えるとも限らないが。


 以上のことから、滅亡の憂き目にあったものの、アリスは間違いなく女王の座にあるべき方だったし、その子であるゼトラも、間違いなく次代の王座に継ぐ資格はあることも確かだった。


 ちなみに、国王の伴侶はある程度自由に選べる。

 それこそかつて竜角族やカイコルロ王国から伴侶を選んだように。


 ただし女王の配偶者……王配の場合は公爵家から伴侶を選ぶのが通例だった。

 由緒正しき血筋を正しく引き継ぐ、という目的があることに他ならない。

 それは古来より遺伝学上、女子がYY遺伝子、男子がXY遺伝子を持ち、X遺伝子は男子からしか引き継げないという根拠に依るものだが、いつしかそれは曖昧になったようだ。


 それが引っかかったのか、ヨルクが恐る恐る挙手をした。


「なにかな?」

「はッ……、恐れながらゼトラ様のお父君はどなたなのでしょう?」


 しかしそれには即答できず、ゼトラは首をすくめた。


「実は……知らないんだ……」

「えっ」


 その答えに誰もが驚いてゼトラに視線が集まった。


 シニキヒルで生まれ育ったゼトラ。

 確かに父はいた。

 しかしそれはエルフ族の男だった。

 母アリスとは仲睦まじかった、という記憶が幼いながら残っている。

 だが、ゼトラはエルフ族の特徴が全くない以上、それは父親代わりであったことは容易に想像できた。


 ちなみにその育ての父親はゼトラが幼い頃に命を落としている。

 それは四歳の頃で、突然の病に倒れた。

 その一年後にアリスは旅立つ事になる。


「つまり本当の父親がわからない……」

「うん……」


 しかしダニエル・アルベルトは首をひねってヨルクに視線を向ける。


「恐れながら、そのお顔をよくよく拝見させていただければ、典型的なユングスタイン人の特徴が出ているように思います」


 確かに、とオリバーも続く。


「アリスアトラ様の特徴が色濃いのもありますが、てっきり旅先で出逢ったユングスタインの然るべき者と思いましたが……」

「アリスアトラ様は教えてくださいませんでしたので」


 苦笑混じりにクワイエが頷くと、アリスが照れくさそうに笑う姿を思い出したのだろう。

 旧臣たちは揃ってクスリと笑みを浮かべた。



 しかし父が不詳ともなれば血統の正当性が失われることは事実だった。

 これに異論を挟むものがいても仕方はない。

 だが、不安げなゼトラを安心させるようにレイモンドが微笑みかけた。


「ご安心くださいませ、ゼトラ様。王室典範では、継承について定められております」


 手元に、かつてのユングスタイン王国にあった法律をまとめた本を示してページを捲る。


「あくまで女王の王配は公爵家に配慮すべし、とされていますが、絶対とは決められておりません。相手がユングスタイン人であればよいのです。ゼトラ様のお顔立ちを見れば、それは誰もが確信すること。血統的にもユングスタインの王たるに相応しい方であることに異論を挟む者はありません」


 だがこれに口を挟むようにリーヌスが手を挙げた。


「恐れながら、念の為の保障は頂戴いたしたく存じます。もし本当の父親が和国人だ、ともなればこれほど(おぞ)ましいことはございません」

「不敬だぞ、リーヌス・フォーゲル!」


 二十代前半ながら堂々とした振る舞いのリーヌスに、アルベルトが鋭く諌めた。

 しかしゼトラは笑ってそれを遮ると、ゆっくりと頷いた。


「いや、そう言われても仕方のないことだ。母に本当の父親は誰か、直接聞けば分かることだ。だからこそ、一刻も早く母を助けに行きたい。」

「えッ……!? アリスアトラ様の御身になにが!?」


 その話はまだゼトラとミヒャエルの間にだけ止めていた話である。

 初めて聞いた不穏な一言に、一同が目を剥いた。


 そしてミヒャエルがゼトラに代わり、ここまでで得た情報を述べると、一様にショックを受けて黙りこくった。


 沈黙を破るようにアルベルトがチラリとゼトラに視線を向けた。


「よもやゼトラ様お一人……いや、そこのお仲間『明けの明星』五人で奇襲をかけるわけにも行きますまい。そんなことをすれば、囚われているアリスアトラ様の身に何があるか……」

「そう、そうなんだ。それは本当に無謀だと思う」


 相手は和国。国である。

 例え個の力が傑出していようが、それが集団を相手に無双できようが、組織の前にはあまりにも無謀というものだった。

 これに立ち向かうためには、母を助けにいくためには、自分たちの力だけでは成し遂げることは出来ないことは、ゼトラも十分に自覚していた。


 ゼトラがレイモンドとアルベルトを見て、微かに頷く。


「先日、レイモンドとアルベルトに言った事がある。今は再興の軍を起こすつもりはない、と。今はとにかく『極めて深刻な(カタストロフィック)脅威(ディザスター)』に対抗するために七竜の復活を急ぎたい、とね」

「はい……」

「えッ!?」

「なんとッ!?」


 その言葉にショックを受けたのは旧臣たちだけではなく、ヨルクとリーヌスもだった。

 ここまで軍を編成して再興する気はないとは、ここまでの努力は一体なんだったのか。

 再興のために集まった民の思いをなんと考えるのか、そう問い正しくなる衝動に駆られた。


 しかし口を挟ませないようにゼトラは続ける。


「だがこうして世界を巡り、各国における和国の影響を見て状況は変わった。前言撤回するよ」


 ……その続けての言葉に、一同の目が輝いた。

 歓喜、熱意に応えるように身体がゾワリと震え、鳥肌が立った。


「では……」

「うん。ユングスタイン王国再興の軍を、ここに立ち上げることを宣言する」

予告。

和国から王国を取り戻すため、再興軍が立ち上がる。

ゼトラたち『明けの明星』もまたアリスを救出するため計画を練る。

そこに不思議な老人が五つの依頼をもって現れる。



次回「096.五つの依頼」

お楽しみに。


ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。

本当にありがとうございます。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年12月8日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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