093.夜襲の煌めきは
草木も眠る丑三つ時、という言葉がある。
それは深夜一時から三時頃の時間帯を指し、命あるモノの活動が最も鈍り、草木さえも眠りにつく時間と揶揄される。
例外的に夜行性の獣を除けば、であるが、その例外がそこにもあった。
「和国兵を追い出せ!」
「サイアルから出ていけ!」
憎悪を込めた罵声を浴びせながら、武装したサイアル人たちが街を占拠する和国兵に襲いかかっていた。
サイアル王国王都バーリエンから南西へおよそ十キロ。
通称『神の祠』と呼ばれる洞窟があった。
そこは観光地でも知られ、観光客目当ての商人が集まったピオルパィエという小さな街があった。
その街にサイアル王国兵に連れられた和国兵が、強制収容という形で占領したのは盛夏の頃である。
一体どういう事だ、と商人たちも騒いだが抵抗も虚しく退去させられた。
和国兵がその地で何をやっているのか、国民に知られる事はなかったが、軟禁状態のクアイ・ロン国王陛下より、そこはゼトラと名乗る少年が欲する七竜の封印石が眠る地である、という情報が反和国派にもたらされた。
そして今、これを取り戻すための戦いが始まっていた。
サイアル王国反和国グループは単にゼトラのために、という目的で封印石を隠す街を襲撃したわけではない。
その実、もう一つ裏があった。
むしろそれこそが今回の作戦の本懐とも言えた。
それは王都バーリエンで軟禁状態にある国王クアイ・ロン・サイアルの救出、及びサイアル王国における親和国派勢力の一掃である。
和国兵によって占拠されたピオルパィエの街が最もたる例ではあるが、他にも和国人の商会が独占して現地商会が手出しできなくなった経済圏もあった。
軟禁状態にあるクアイ・ロン国王陛下の救出。そして各都市に蔓延る和国派と和国人の排除。
その作戦の一端としてゼトラの支援としてピオルパィエ奪還作戦があった。
それまで王国政府を支配する和国派と、民衆を中心に結成された反和国派が抗していたが、いわば膠着状態に陥っていた。
これはお互いに事態を動かすには決め手に欠けていたからである。
しかし今、反和国派の元にゼトラが訪れた。
拮抗状態を大きく傾ける、バランスブレイカーが。
ゼトラの封印石の解放という目的を支援する事で、これを機に一斉蜂起を決めたのだった。
計画そのものは以前から俎上に上がっておりゼトラと接触できれば、という段階まで詰めていたと言う。
クトメとの会合の後、五人で今回の計画について念の為に各自の意志を確認した。
マーカスは「言いように利用されているんじゃないか?」と疑問を呈したが、やむを得ない事情というのがメルキュールの判断だった。
やろうと思えば自分たちだけでもピオルパィエの襲撃は可能ではないか、と検討もした。
しかしそれが可能だとしてもサイアル王国から和国派と和国の影響を一掃したい、という思いに協力したい、とゼトラは判断した。
なれば後は覚悟を決めるのみ。
反和国派の武装集団はピオルパィエの街の東の入り口と北から一斉になだれ込んだ。
「恐れるなッ! たかが素人だ!」
「東に戦力を回せッ!」
和国兵の怒号が飛び交う街の南側。森の中を密かに移動する五人の姿があった。
星灯りだけを頼りに、『明けの明星』が影から影へと、地を這うように街の西へ……『神の祠』と呼ばれる洞穴へと向かっていた。
先頭をいくマーカスが後ろに向かって『止まれ』のハンドサインを送る。
それぞれ木陰に隠れると、遠く喧騒が囁く街の様子を伺った。
高さ数メートルほどの崖の下、焚き火が見えた。灯りが届かない、真っ暗な穴も。
その洞穴の入り口に和国兵もまた数名ほど。
マーカスはあそこが目的の場所と確認して、それぞれの目を見た。
メルキュールとアイビスが頷いて『いつでもいける』とアイコンタクトを飛ばす。
ゼトラもまた、胸元にフィオリーナを引き寄せて『大丈夫?』という視線を送る。
ニコッと微笑むのを確認すると頬に唇を押し当てて、アイビスを手招きした。
アイビスが低い茂みで身を隠しながらゼトラの元まで駆け寄ると、ゼトラはアイビスを抱き寄せた。
「おまじない」
それだけ囁き、おでこに口づけした。
相手は和国兵。
幻覚魔法を仕掛けるが、もし戦闘になったら不殺をもって打ち倒す、難しい戦いになる。
その主戦力は徒手空拳のアイビスだ。
マーカスはダガーナイフのため殺さないように、となればかなり慎重になるし動きも鈍る。
メルキュールも魔法による拘束が主になる。
だがアイビスは和国人を相手になると、動きが固くなる。
憎悪の感情に任せて手加減ができなくなるかもしれない。
ゼトラはそれだけが心配だった。
おまじないをかけられて、アイビスがハッと頬を染めた。
そして一瞬俯き、おもむろに顔を上げるとゼトラと唇を重ねた。
二秒、三秒……。
二人の間にだけゆっくりとした時間が流れる。
愛を確かめ合うように、ゼトラから勇気をもらうように。
「ん……」
「ふぅ……」
軽く息を弾ませて、アイビスはニコリと微笑んだ。
「大丈夫」
私はゼトラを悲しませるようなことはしない。
ゼトラのために、みんなのために。
そういう意志が伝わる、力強い笑顔だった。
マーカスはそれを見て、メルキュールに『仕掛けるぞ』というサインを送る。
メルキュールが頷き、ゼトラに視線を送ると手を伸ばした。
ゼトラはフィオリーナに後ろに回らせて、その手を取る。
同時に、マーカスが拳大のモノを放り投げた。
それはカールウェルズ魔槍公国における人食いクジラ騒動でメルキュールが譲ってもらった和国製の爆発魔法を込めた魔具だった。
亜人の命を使い精製された魔具。
――さぞ苦しかったろう。悔しかっただろう。怖かっただろう。その無念、せめてこの一撃で。
マーカスが思いを込めて投じたそれは、数秒後、洞穴の前で爆発した。
「なんだッ!?」
和国兵の一人が爆風に晒されて、吹き飛んだ。
心の虚をつく、一瞬の隙。
「ゼトラッ!」
「うんッ!」
手をつないだメルキュールとゼトラが、同時に幻覚魔法を発動させた。
洞穴を中心に広範囲に渡って空間がぐにゃりと歪む。
パシン、パシン、と周囲から何か弾ける音が聞こえた。
「対結界を仕込んでいたか!」
しかしマーカスの懸念の声とは裏腹に、メルキュールとゼトラの膨大な魔力で放つ幻覚魔法は結界を貫いて発動した。
「な、なんだッ!?」
以前、ドワーフ族を救出した際に発動させたゼトラの幻覚魔法は、魔法をかけられたことすら気づかせない強力なものだったが、今回は結界があったためか、効果を弱められたようである。
和国兵は幻覚魔法をかけられた、と言う感覚を生じさせた。
「いくぞ!」
「うん……!」
マーカスとアイビスが動いた。
懐に忍ばせた、幻覚魔法を継続発動させるために必要な魔力の供給源となる、高純度エーテル鉱をばらまくために、崖の下へと跳躍した。
事前の打ち合わせ通りマーカスは左に、アイビスが右に別れて高純度エーテル鉱を隠していく。
その途中、戸惑うように辺りを見渡す和国兵とすれ違ったが、二人の気配には気づいていない。
二人は五芒星の配置になるように高純度エーテル鉱を隠し終わり、崖の上で幻覚魔法を出力し続けるメルキュールにサインを送った。
「おっけ! ロックさせるわよ! ゼトラは行って!」
「わかった! 行くよっフィオ!」
「はいっ!」
メルキュールの声と同時に、ゼトラはフィオリーナを横抱きにして、崖の下へと躍り出る。
そして洞穴に向かう途中、アイビスと合流してその入口にたどりついた。
入り口にはまだ二名の和国兵が警戒するように辺りを見渡していた。
懐から何かを取り出す。
その色合いと形から幻覚魔法を解除する魔具に見えた。
そこにアイビスが駆け寄り、回し蹴りを放った。
真円の如き美しき足跡は二人の顎をかすめる。
「な……ッ!」
声をあげることもできず、二人は脳を揺らされて昏倒した。
アイビスは首元に手を添えて命に別条はないことを確認すると、ゼトラに頷いた。
それを合図に、洞穴の中へとゼトラは幻覚魔法を発動させた。
洞穴の中からパシンと弾ける音が反響するのを確認して、中にアイビスが飛び込み、少しして戻ってきた。
「中は見えなかった。狭くて天井が低いし、動きづらいわ」
「わかった。マーカス! メルキュール!」
ゼトラの呼ぶ声とほぼ同時にマーカスとメルキュールが駆け寄った。
「こっちもおっけーよ。一時間は持つわ!」
「こちらの異変に気づいてる様子はない。戦力は街の入口に集中しているようだ」
「行こう!」
「おう!」
マーカスとアイビスが先行し、その後にフィオリーナの手を引いてゼトラが続く。
後方を警戒しながらメルキュールが最後尾に。
「照明魔法ぶちこむわよ!」
「頼む!」
少し進んで角を曲がり街の灯りが届かなくなった。真っ暗な洞穴の天井をメルキュールの照明魔法が走る。
照明魔法は薄っすらと奥へと続く道を照らし出した。
その道に従い、マーカスとアイビスが駆け出す。
「あれか!」
少しして広い空間に出た。
その奥に鎮座する、石造りの祠。
しかしそこには和国兵もいた。
その数およそ六名。
「襲撃だッ!」
和国兵に幻覚魔法が効いていない。
やはり幻覚魔法は範囲性であるせいか、洞穴深くまで指向性をもって発揮できなかったようである。
「いくぜッ!」
「うんッ……!」
しかしマーカスとアイビスは地を這う稲妻のごとく駆け、一気に距離を詰めた。
突き出された和国兵の短刀をダガーナイフで払い、マーカスの強烈な膝蹴りが腹に食い込む。
アイビスはそれよりもさらに速く、目にも留まらぬ掌打が別の和国兵を顎を弾いていた。
「ぐえッ」
「がはッ」
アイビスの後ろから襲いかかる相手には、振り向きざまに放った後方回し蹴りが水月に深く食い込み、身体を翻してさらに他の和国兵の側頭に強烈な裏拳をお見舞いする。
「ゲホォッ」
「うがッ」
マーカスがショートソードを突くように突進してきた兵を躱し、すれ違いざまに首元に手刀をいれた。
「うッ……!」
「野郎ッ!」
それを見た最後の和国兵が、剣を振りかぶって襲いかかる。
しかし振りかぶった所で、膝をついて昏倒した。
その背後、後頭部に鮮やかな回し蹴りを決めたアイビスが佇んでいた。
まさに電光石火。
わずか十数秒の出来事だった。
ようやく追いついたゼトラとフィオリーナが思わず「すごい!」と感激の声をあげる。
「こっちに気づいてる様子はないわ! 急いで!」
メルキュールも追いついて、後ろを振り向きながら何重にも物理結界を張った。
マーカスとアイビスは気を失い、倒れ伏す和国兵を次々と足首と手首を後ろ手に縛り上げて拘束した。
石の祠は人の倍以上の高さはあったが、その扉は開かれていた。
その中に鎮座する、赤黒く点滅する封印石。
だがその封印石はそれまで見たことのない、コードのようなものが何本も繋がれていた。
「これはッ……!?」
ゼトラがそれを手に取って封印石を触る。
「あいつら、独自の手段で封印を解除する方法を研究していたんだ!」
メルキュールの閃きが、その正体を見破った。
「じゃあ抜いていいんだね!?」
「ええ!」
祠の片隅、封印石に接続されれいる機械が唸りを上げていたが、メルキュールが強力な電力を流して沈黙させると、コードを片っ端から引っこ抜いていく。
「じゃあいくよ!」
「俺たちは警戒に回る!」
マーカスとアイビス、メルキュールは祠から出ると、様子を探りに少し道を戻る。
ゼトラが手早く封印石の解除をすると、洞穴全体が揺れた。
「わっ」
ほんの数秒ではあったが、フィオリーナがその揺れに堪らずゼトラにしがみつき、頭上に降り注ぐ小石から頭を守るように手で覆った。
「どうだ!」
「あれ……!」
その揺れにマーカスたちも気づいたのか、祠まで戻ってくると、アイビスが祠の後ろを指差した。
そこにポッカリと空いた、四角い穴。祠の後ろの壁が崩れていた。
「急ぐぞ!」
「うん!」
穴へと飛び込み、通路を走る『明けの明星』
起動制御室に飛び込んだところで、ようやく息をついた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「はー。しんど……」
体力自慢のマーカスもさすがに肩を息をしながら、膝に手をつく。
メルキュールもまたヘトヘト、といった様子で額に浮かぶ汗をパタパタと手で仰いた。
フィオリーナとアイビスもまた大きく息を荒げながら、ゼトラに掴まった。
二人を支えながらゼトラがコントロールパネルを触る。
「ようこそ七竜システム・草漠竜へ。現在本体は休眠状態中。山剴竜の警告発令に従い、起動準備に入っています。本体を起動するにはパスワードを入力してください」
スイッチを押すと流れた機械的な音声にメルキュールが飛び跳ねる。
「やった!」
「これで安心か……」
息を整えたマーカスも、安堵したようにパスワードを解除するゼトラを見つめるのだった。
強化外殻へと転送された先、他の七竜と同じように、核体が眠っていた。
棺のようなカプセルから現れたその姿に、緊張の面持ちで一同が目を見張る。
黄緑色の髪に濃い緑色のメッシュが交じる、不思議な髪色。
髪は胸元を隠すように三編みにされており、腰くらいまである。
肌の色はやや浅黒く、南国系のハーフにも見えた。
パチリと長いまつげを何度も瞬かせるとその少女は大きな欠伸をした。
「ふわ~! よく寝た~!」
随分と可愛らしい、甲高い声。
どちらかと言えば、山剴竜ことユーピテルの声にもやや似ていた。
「え…っと、草漠竜でいいのかな」
ゼトラは恐る恐る声を掛けると、くるりん、と手首をかえして目元でピースサイン。
「は~い! アーレスって言いまーす! よろしくねっ! キャピ☆」
「ど、どうも」
「マスター久しぶりじゃーん! きゃは☆」
底抜けに明るい、これまでの七竜とはまた違った、独特のキャラクターに思わずゼトラもタジタジとなった。
「あ、じゃあちょっと手をだしてもらっていい?」
「なんだろ~! 愛の告白かな~?」
嬉々としてゼトラの手をとったアーレスの間で魔力の光が漏れる。
「むむむっ。これは~?」
光が収まると、不意にカーリーが姿を現した。
「マスター、ありがとうございました。無事に座標リンクを取得できましたわ」
「よかった。上手くいって」
それは事前にカーリーに相談していたことだった。
今回の作戦にカーリーは連れていけない。
だが起動させた後、七竜の間でやってる事をどうしたらいいか、と。
そこでゼトラがカーリーに座標を飛ばせるように、予め――曰く『鍵』を用意した。
ゼトラを通してアーレスの座標さえ取得できればそこに転移します、とだけ打ち合わせしていた。
「お久しぶりですわね、アーレス」
「や~ん。カーリーじゃ~ん。相変わらず~!」
キャッキャと声を弾ませ、差し出されたカーリーの手をアーレスが握ると、アーレスは急に無表情になり、瞳が輝きを失った。
「共有リンク確認。状況確認。任務了解」
機械的な声を漏らすと、また瞳に輝きが戻る。
その表情もまた明るいものに戻ると、勢いよく手を上げた。
「はいはーい。提案がありまーす」
「なんでしょう」
カーリーがキョトンと首を傾げ、長いまつ毛を何度も揺らす。
「なんか無理やり起こすようなぞわぞわ~って不愉快な信号送ってくる馬鹿がいてさー」
それを聞いて、ゼトラが眉にシワを寄せ、メルキュールをチラと見た。
「それってさっきの封印石のやつ?」
「多分ね」
それに頷くメルキュール。
しかしそれを押しのけるように、ゼトラに飛びついてきた。
「どうしよっかなーって迷ってた所だったから、マスターが起こしてくれてよかった☆」
「そ、そう……」
首に手を回して甘える仕草をするアーレスに、フィオリーナとアイビスが微妙な表情で睨みつけた。
だがそれを気にすること無く、カーリーに向き直す。
「ってことで、マスター以外の命令を受け付けないように、プロトコル変更を提案~」
「なるほど。ということですが?」
カーリーは問うているが、聞いている相手は共有リンクで繋がっている他の七竜だ。
ゼトラたちの耳には届かない声で確認をすませると、さほど時間をおかず、首を縦に振った。
「了承されました。プロトコル変更作業開始……。……作業完了」
「はいっ、てことで以後七竜システムにハッキングしてくる馬鹿は、自動的に焼却処分されるようになりまーす」
あまりにもあっけなく、メルキュールにすらすぐには理解できない変更作業。
アーレス曰く、どうやら七竜はゼトラ以外の命令を受け付けない、より堅牢な状態になったようだ。
しかしそこに舞い込む一陣の風。
「それは随分と物騒ですね……」
「ッ!?」
「えッ!?」
突如として現れた姿に一斉に振り向き、武器を構えた。
黒いローブに深いフード。
その下には微かに眼光が見えたが、その表情は見えない。
しかしはっきりと分かることがただ一つ。
それは殺気。『明けの明星』に向けたその気配は明確な殺意だった。
「誰だッ!」
マーカスは問いつつ、大剣を薙いだ。
しかしその姿はグニャリと曲がるとマーカスの真後ろに現れた。
「何ッ!?」
マーカスが振り返り、大剣を再び向ける。
「遅い」
ふわりと動かした手がマーカスを吹き飛ばした。
「ぐわッ」
「マーカスッ!!」
壁に叩きつけられたマーカスがよろりと立ち上がり、血を吐いた。
「う……ぐッ……」
腹を押さえて睨みつける所を見るに命には別状はないようだ。
その男に仕掛けようとメルキュールは魔力を杖に込めて、アイビスもまた今にも飛びかかろうと構える。
しかし黒いローブの男はそれを遮るように両手を広げると、ゼトラをジロリと睨みつけた。
「くくく……やられましたよ。まさか現地の連中を囮に使うととはね。お優しい勇者様では取らない作戦と思っていましたが、どうしてどうして。評価を改める必要がありそうです」
「囮……ッ!?」
それを否定するようにゼトラは睨み返してショートソードの刃先を向けた。
「七竜が一柱を手に入れる所まであと一歩でしたが、まあいいでしょう。許容範囲内です」
「お前……誰だッ!」
ゼトラの問いかけに、深いフードの下でニタリと赤い口と牙が剥いた。
「和国政府を取り仕切る七人委員会の一人、ジドゥ・イェンと申します。以後お見知りおきを……」
「七人委員会……!?」
初めて耳にするそれにゼトラはわずかに首を傾げてフィオリーナを後ろに庇う。
柄を握る手に力を込めて、一太刀入れようと切っ先をわずかに上に上げたその時。
「排除排除~!」
アーレスが手を振り上げた。
黒いローブの男に巻き起こる、転送の輝き。
足元を見て、どうしようもないと悟ったか。男はニッと笑ってゼトラに一瞥した。
「くくく……またお会いできる日を楽しみにしていますよ、ゼトラ・ユングスタイン」
そして、転送の輝きに包まれて男は消えた。
「な、なんてやつ……!」
空間を支配していた殺意の塊が消失すると同時に、大きく息を荒げながらメルキュールが膝をついた。
「マーカス! 大丈夫!?」
「あ……ああ、なんとかな……」
アイビスとゼトラが慌てて駆け寄り、回復魔法を発動させる。
その光に包まれながらマーカスが大きく息をついて肩を落とした。
慎重派のマーカスですら、その殺気を前にして、本能が排除のために身体を動かした。
だが一撃で返り討ちにあった。
マーカスですら一撃で。
その事実はあのジドゥ・リェンという男が相当な実力の持ち主であることを明白につきつけてきた。
「んじゃ、強化外殻起動させちゃうね!」
「え!」
おもむろにアーレスが船内に異常がないことを確認しおわるとパネルを操作した。
「ちょ、ちょっと待って!」
ゼトラが止める暇もなく身体が上下に僅かに揺れた。
それはサイアル王国にとって史上最悪の惨事の始まりだった。
予告。
人はいつしか死ぬ。そこに差別はない。
だが死をもたらすトリガーを引いたゼトラにとってそれは受け入れがたい事だった。
七竜が復活したことで周辺の街は炎に包まれる。
地獄絵図と化したサイアル王国の惨事が、ゼトラを苛ませる。
勇者は再び立ち上がることはできるのか。
次回七竜編最終話「094.闇夜を照らし」
お楽しみに。
ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。
本当にありがとうございます。
ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。
次回更新は2020年12月5日お昼頃の予定です。
よろしくお願いいたします。




