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089.反和国派の結集

 サイアル王国、王都バーリエン。

 王城の裏庭に着陸した風崔竜(ふうさいりゅう)ことカーリーの飛空艇を、大勢のサイアル王国兵が取り囲んでいた。


 その手にはシックルソードや片刃の鎌槍が握られ、その切っ先は飛空艇に向けられていた。

 兵たちの目つきは一様に厳しく、明らかに殺気立っている。


 飛空艇からタラップが生えるように降りてきて、扉が開く。

 扉が開いた所に立っていた人物を王国兵は沈黙したまま睨みつけ、武器を握る力を込めた。


 そんなサイアル王国兵をマーカスたちもジロリと睨み返す。


「おいおい。歓迎されてないみたいだぜ」

「どういうこと? ギュスターヴ国王陛下の連絡が届いてないのかしら?」


 背後に隠れるメルキュールもボソリと呟いて軽くため息をついた。


「……いきなり王都に来たのは、やっぱりまずかったかな?」

「かもな」


 マーカスの横に立ったゼトラが「しまったなぁ」という顔で頭をかいた。

 その左手には先程目を覚ましたばかりのフィオリーナの手が握られている。

 フィオリーナもまた、おっかなびっくりという表情で、ゼトラの後ろに隠れてコソコソと殺気立つサイアル王国兵を見つめていた。


 七竜も残り二柱。

 フィオリーナの異変のこともある。

 急ぎたい、という思いは国の入り口にあたる街で入国許可を確認してから、という手順を省略させた。


 カイコルロ王国でも、アルムシタッド王国でも、キチジュ王国でも、それで問題なかったことがゼトラたちを油断させた。

 いや、ここでは油断ではなく、怠慢というべきだろう。

 その点に於いてはゼトラの落ち度である。


 しかし今のゼトラには伝家の宝刀がある。

 それはエイベルク王国ギュスターヴ国王の親書。

 ゼトラに協力すべし、と記述されたそれは、姉妹国たる古の七王国に列する国ならば、その親書は絶対的とは言わずとも、それなりに効果はあるはずだ。

 そう信じて、ゼトラはポーチからエイベルク王国の国印が記された封書を取り出して、掲げた。


「私はゼトラ・ユーベルクと申します! エイベルク王国ギュスターヴ国王陛下の親書を携えて参りました! サイアル王国国王陛下に謁見願いたく存じます!」


 ……しかし反応が薄い。

 王国兵たちの目つきはなおも厳しく、親書など目に入っていないようだ。

 反応の薄さにゼトラが戸惑っていると、取り囲む王国兵の後ろから華美な服装を身にまとった壮年の男が一歩前に進み出た。


「私はこの王国の宰相クアン・トラ・ベレイム。親書とやら、拝見させて頂いてもよろしいか」

「こちらに」


 一人の王国兵が進み出て、ゼトラの掲げた親書を受け取ると宰相へと手渡す。

 その親書を一通り目を通して、肩をすくめた。


「あいにく、国王陛下はお会いにはならぬ。許可なく我が国の地に足を踏み入れた無礼は見逃す故、早々に立ち去られよ」

「そんな……!」


 突き返された親書を受け取ったが、タラップを降りて、ゼトラが一歩進み出る。

 しかしそれを押し止めるように、取り囲む王国兵もまた一歩前に進み出て、刃をゼトラに向けた。


「聞こえていなかったのか? 立ち去られよッ!」

「……!」

「それともここで一戦交えるかッ!」


 宰相の声に従うように、王国兵はゼトラのすぐ目の前まで刃先を突き出した。

 刃先が触れ合ってジャキッと音を立てる。


「話だけでも……!」


 しかし恐れることなく、さらに半歩前に進み出るゼトラ。

 一人の王国兵――他より重装備で目立つ装飾が施されているところを見ると、恐らく部隊長が、さらに進み出ようとしたゼトラの肩を掴み、押し返すように睨みつける。


「ここで聞く話はございませぬ。お引き下さい」

「……ッ」


 低く、獣の唸り声のような凄みのある声だった。

 今にも斬りかからんばかりの勢いで睨みつける、その瞳を見てゼトラは一瞬戸惑い、そして悟った。

 その部隊長の瞳は、声こそ凄みがあり睨みつけてはいるが、敵意を感じさせない。

 むしろどこか懇願するような、悲しげな瞳をしていたのである。


「わかりました……」


 ため息をつき、そのまま後退りすると飛空艇へと戻り、再び大空へと舞い上がったのだった。


「なによアレ!」

「完全に和国の手の内に落ちた感があるな」

「こ、怖かったぁ……」

「……」


 憤慨するメルキュール。

 呆れたように首をすくめるマーカス。

 ゼトラに甘えるように腕に手を回してしがみつくフィオリーナ。

 アイビスもまた、困ったような顔のゼトラを気遣って、慰めようと腕に手を伸ばす。


 その優しさに、ありがと、と小声で囁いて抱き寄せながら椅子に腰掛けた。

 膝の上に乗ったフィオリーナがよしよし、とゼトラの頭を撫でて、アイビスもまた一人掛けの椅子には窮屈すぎるお尻をねじ込んで、吐息が頬に触れるほどにペタっとゼトラに寄り添った。

 その温もりを感じながらゼトラは胸ポケットから小さく折りたたまれた紙を取り出した。


 さらりと一読して、覗き込んだメルキュールとマーカスにその紙を渡す。


「なによこれ」

「さっき王国兵……多分部隊長かな。肩を掴んだ時、これをねじ込まれたんだ」

「……どういうことだ?」


 その紙に書かれていた内容。


『王国政府は既に毒蛇の巣。

 希望のモノは、東の街、ケントランコに。

 赤い帽子の者に声をおかけください。

 問われたら『鮫の見物に』『日を改めます』と』


「……なるほど。その王国兵ってのは反和国派とやらか?」

「かもね」


 手短に書かれた内容に、納得したように頷く。

 どうやらあの王国兵はこうなることを予見していたようである。

 予め向かうべき地を記した紙を用意しておき、ゼトラの身に及んでいたであろう危機を回避させたのだ。

 ゼトラは改めて、自分の行動が自分だけではなく仲間にも及んでいたかもしれなかったことを想像して、ゾクリと背筋を震わせた。

 マーカスが唇を噛みしめるゼトラの肩を優しく叩き、気にするな、と言うように笑いかける。


「現状、手詰まりなんだ。行くしかないぜ」

「うん……」


 力なく頷いたゼトラたちを乗せて、飛空艇は旋回しながらさらに上昇していく。

 西の港町、ケントランコの場所を地図を確認すると、船先を東へと向けたのだった。


 眼下には厚い雲に覆われて地上の様子は見えなかったが、カーリーがコントロールパネルを操作すると、モニターに地上の様子が映し出された。

 海岸線沿いに大きな町と、小さな集落が途切れ途切れに形成されているのが分かった。


「ケントランコは比較的小さな観光地らしいが……」

「これじゃない?」


 メルキュールが地図と見比べながらそれらしき街並みを指差す。

 どうやらそれに違いないようだ、と確認すると町から少し離れた森の中へと急速降下し、着陸したのだった。



 海岸線の白い砂浜を、サクサクと音を立てながら歩く『明けの明星』一行。

 額にはじわりと汗が滲み、その不快さに堪らず手のひらで拭う。

 南半球側、赤道近くである。容赦のない日照りが体中から水分を奪っていった。

 しばらく歩いていると町の中に入ったようで、すぐに桟橋が見えて、何人か釣りをしている様子が見て取れた。


「赤い帽子ねぇ……」


 マーカスが見渡すように街なかを見る。

 よく整備されており、白い石を削り取った道路に、同じく白い壁が映える美しい街並みが広がっていた。

 あちこちにヤシの木が空に届こうかと言うほどに高く生えており、その風景もまた常夏の国と呼ばれることを納得させた。

 ケントランコは小さな観光地、という情報だけだったが、いくつかの宿やコテージだけでなく、商店や住宅も立ち並んでいる。

 住・商が渾然一体となった景色は見ているだけでも楽しくなるような、面白さも感じさせた。


「あれじゃない?」


 メルキュールが遠目にやけに目立つ赤い帽子を被る老人を見つけた。

 釣り糸を垂らし、暇そうに海を見つめている。


 もし違ったら、という不安もあったが、見渡す視界の中では他に見かけない。

 意を決して、ゼトラが話しかけた。


「やあ、釣れますか?」

「ああん? 釣れやしねぇよ」


 ゼトラの問いかけに無愛想に答えた老人が、ジロリとゼトラを睨みつける。


「見ねぇ顔だが、何しに来た?」

()()()()()


 その言葉を聞いて、一瞬だけ老人が目をパチクリとしたが、カラカラと乾いた笑いで胸を反る。


「へっ。物好きなやつがいたもんだ。今の季節は鮫なんていやしねぇよ」

「そうか……じゃあ、()()()()()()


 そう言って立ち去ろうとするゼトラに、老人がぶっきらぼうなまま、わずかに声のトーンを落とした。


「……待ちな。今日の宿は決まってるのか?」

「いえ」


 あくまで自然な会話の流れである。

 だが老人の中で確信があったのだろう。ニヤリとほくそ笑むと、顎をしゃくった。


「いい宿を紹介してやるよ。ついてきな」

「……はい」


 老人と言う割には随分と矍鑠(かくしゃく)とした素振りでスタスタと歩きだした。

 その背中を見て、マーカスたちと頷きあうと、その後をついていくのだった。




 ヤシの木で囲まれた宿は外から見るとこじんまりとしていたが、ホールに入ると意外に広く、大勢の観光客で賑わっていた。

 バーも併設されており、まだ日も高い時間帯ではあったがカクテルグラスを揺らす資産家らしきご婦人方が談笑している。

 またホールの奥、大きな窓の向こうにはプールも隣接されているのも見えた。

 新婚旅行のカップルなのか、キャッキャと悲鳴を上げながら、常夏の国の下でぬるい水を掛け合っている。


 ケントランコの港町は近くにサンゴ礁が隆起した崖があるそうで、そこがなかなかの景勝地らしい。

 波風の侵食でハート型にくり抜かれた所があり、それは潮が引いたときにだけ見つかると言う。

 そこで愛の告白をしたカップルは永遠に幸せになれる、という言い伝えもあるらしく観光客には人気だと、その老人が宿に向かう道すがら教えてくれた。


 その言い伝えを聞いて、フィオリーナが目を輝かせ、アイビスがソワソワとゼトラを上目遣いで見上げる。


「あとで行こうね」

「うんっ」

「うん……」


 ニコっと微笑んで少女たちが期待する通りに答えたゼトラを見て、恋人たちは嬉しそうに腕に絡ませあう。

 そんな三人を余所に、受付カウンターのベルを鳴らした老人が支配人を呼んだ。

 中年の男性がいかにも面倒くさそうな表情で、老人をちらりと見た。


「なんです?」

「よう、支配人。儲かってるか」

「ご覧の通りですよ」


 ニヤ、と笑って賑やかなホールに顎をしゃくるところを見るに、なかなかに儲かっているようである。

 だが続けての老人の言葉にピクリと肩を震わせたのをマーカスは見逃さなかった。


()()()()()()()()()()

「……へぇ。それはありがたいですね。そちらの方々は一体どうしてこんなところに?」


 赤い帽子の老人の後ろに並ぶ五人の姿を認めて、見定めるように一瞬表情を曇らせた。


()()()()に来たんだと」


 マーカスは、今度は支配人がピクと一瞬だけ耳が震えたのを見て、思わず吹き出すのをギリギリで堪えて、ニヤリと笑った。


「それはまた物好きですね。いいでしょう。いい部屋をご案内しますよ。その前に是非、お食事でもいかがですか」


 問うてはいるが、そうしてくれ、という意図はミエミエである。


「……そうさせてもらおうかな」


 頷いたゼトラに、ニコリと支配人が微笑みかけると、バックヤードに声をかけた。

 少しして、給仕の身なりをした女性が一礼して、どうぞこちらに、と促した。


 先頭に立って歩く女性がホールの奥、通路をスタスタと歩いていく。

 そのうちの一つ、個室に案内されたが、女性は扉を閉じると素早い動きでテーブルを通り過ぎて、壁に手をかけた。

 目を閉じて、耳を済ませるように辺りをうかがってから、柱を押した。


 ガチャ、という壁から聞こえるには似つかわしくない音が鳴ると、壁が僅かに開き、そこには狭い通路と、下りの階段。


「……へぇ」


 隠し通路の存在に、マーカスが思わず感嘆の声を漏らしたが、女性が鋭く睨みつけて口元に人差し指を当てた。

 マーカスはすまん、と軽く頭をさげて、大人しく下り階段を付いていく。

 階段を降りていくと、ワインの香りが漂う一室があった。


 大きなワイン樽が並ぶ裏側、隙間を通っていくと息を殺して様子を伺う女性がまた壁の柱を押して、その先にはまた隠し通路。


 そこから少し歩くと小さな扉があった。

 扉の向こうから遮音結界特有の、飛び交う大声を小音化したサワサワとした音が飛び交うのが聞こえたが、それに構わず扉の横のスイッチを押した。

 すると、そのサワサワとした音が止まり、こちら側の気配を探るような警戒するような声が漏れる。


「誰だ」


 凄むような低い、くぐもった声。


()()をお連れしました」


 しかしそれに臆する事なく答えた女性の返事に、一瞬「おぉ」という感激するかのような声が聞こえた。


「ではどうぞ。お済みになりましたら来た通路をお戻りください」

「ありがとう」


 女性が小声でゼトラに囁くと、一礼するゼトラを待つことなく足音も立てずに小走りで戻っていった。

 その身のこなしから見るに、あの女性も相当な手練であることが伺えた。


 部屋は少々酒臭い匂いが立ち込め、日差しがわずかに届くこじんまりとした所だった。

 そこには十人程の中年の男女がいて、その顔つきから言って現地の人間なのだろう。

 一人がパチン、と指を弾いて遮音結界が張られると、それまで沈黙を保ってたのか、ふぅ、と大きく息を吐いた。


 ――この人たちが、サイアル王国の反和国派?


 それを伺うように、わずかに警戒しながらゼトラが一歩進み出た。


「ゼトラ・ユーベルクと申します」

「おぉ……」

「ゼトラ・ユーベルク……!」


 名乗ったゼトラを見て、ざわっと大きなどよめきが起きる。

 そのどよめきの中から女性が一人進み出た。

 ほうれい線が深く刻まれ、白髪が目立つ。年は五十から六十ほどか。

 どうやらこの集団の中のリーダーのようである。


「お初にお目にかかります、ゼトラ・ユー……いえ、ユングスタイン様。このような所までご足労頂き、光栄の至りでございます」


 深々と、最敬礼の姿勢を取った女性に続き、後ろの者たちも頭を下げた。


「私の名前は、クトメ・ラニアオ。サイアル王国東部地域反和国グループ『北伐の神剣』の頭目を任されております」

「ご丁寧にありがとう。クトメさん」


 白い歯を見せたゼトラに一瞬気を取られたようにクトメが頬を染めたのは、決して気のせいではない。

 それくらいゼトラの笑顔には人を惹き付ける魅力があった。

 クトメの表情を見て、フィオリーナとアイビスが一瞬微妙そうな顔をして、ゼトラの後ろで視線を合わせた。


「こちらはマーカスにメルキュール。僕のかけがえのない仲間です。そしてこの二人の女の子は右がアイビス、左はメルキュール。二人とも将来を誓い合った関係です」

「よろしくね~」


 ニコリと愛想よく手をあげたメルキュール。マーカスも軽く頭を下げて握手の求めに応じた。

 また紹介されてまんざらでもない……というより、かなりのドヤ顔で小鼻を膨らませたフィオリーナとアイビスがペコリと頭を下げた。


「ほうほう。なるほど、お話に聞いていた通りです」

「どこまで知られてるのかしらね」


 苦笑気味に肩をすくめたメルキュールだったが、クトメは真剣な表情で返した。


「冒険者ならずとも界隈ではとても有名ですよ。エイベルクより西で勇名を馳せた『明けの明星』の話は尾ひれをつけて、半ば伝説と化して海を超えてサイアルにも届いております」

「そ、そうなんだ」

「……無論、和国にも届いているようですがね……」


 クトメは表情を曇らせて俯く。

 その表情を読み取るに、事態はかなり深刻そうである。


「立ったままではなんですから、どうぞお座りください」


 クトメに座って下さい、と促されたものの椅子はない。

 中央に竜と鷲が戦う様子を描いた刺繍が織り込まれて薄汚れた絨毯があるばかりである。

 だいぶ使い込まれているのか、柔らかさは失われていた。


 クトメに続き、後ろに控えた者たちも車座になって座り『明けの明星』もクッション代わりに各々枕やタオルを敷いて、腰を下ろす。

 ゼトラが胡座をかいて座るのを待ってから、フィオリーナがペタっと甘えるように座り、アイビスももたれかかるように寄り添って足を崩した。

 メルキュールもまた正座してから足を崩すと、その膝の上にマーカスがタオルを放り投げてから胡座をかいた。


「暑いんだけど」


 不満げにそのタオルを払いのけようとするのを、マーカスが押し留めた。


「見えそうなんだよ、馬鹿」

「うぐっ……!」


 小声でやり合うマーカスなりの不器用な気遣いに、渋々そのままにするのを見て、フィオリーナとアイビスがクスクスと笑い合った。


 コホン、とわざとらしく小さな咳払いをして、クトメが滔々と現状のサイアル王国の危機を語った。


 サイアル王国の宰相始め、多くの者は既に和国政府の息がかかっていると言う。

 反和国派の者もいるにはいるが、二重スパイを警戒しており、あまり表立ったやり取りはできないでいた。

 事実、しきりに政府の内情を漏らすオドルソイと言う通産相を信用して、王都近くの寒村に反和国グループの拠点がある、という情報を伝えた所、その翌日にその寒村は火を点けられて廃墟と化した。


「現状、政府内部で信用できるのは二人しかおりません。一人はクアイ・ロン・サイアル国王陛下。もう一人は丞相、クビラ・ラアンタム」

「丞相?」

「副宰相という地位にあります」

「へぇ。どうして信用できるんだ?」

「私の実兄なんです」


 クビラ・ラアンタム丞相は、危険を犯して表向きは和国の意を汲んで行動する素振りを見せながら、その裏では国を憂いてクトメたち反和国派へ情報を流してくれていた。


 その情報によるとクアイ国王陛下は事実上の軟禁状態にあり、孤立無援となっていた。

 唯一の救いは、クビラ丞相の部下数名が身の回りの世話をしており、これを通して意思疎通を図れていることだった。


「なんだって国王陛下一人、危険な前に合わせているんだ? 他の王族は? 国王陛下一人ってわけじゃないだろう? 他にも王家を支える貴族連中だっているだろうし」

「はい。王族家としてはレアイ・ルン・サイアルという王弟陛下が一人、陛下自身にもご伴侶が複数名おられます」

「貴族連中は?」


 マーカスの問いに、苦虫を噛み潰すように顔をしかめるクトメ。

 はぁ、と小さくため息をつく。


「国王陛下と王弟陛下は元々折り合いが悪かったことが、和国を引き入れることになった発端とも言われています」

「マジかよ」


 いずれにせよサイアル王国のために、という思いを抱きながらその手段として和国に頼る者と頼らない者に別れた。

 王族を支える貴族もまた然り。


 命の危機さえ感じる事が増えたクアイ・ロン国王は妻たちを自分を支持する貴族たちに託して王城から脱出させた直後に軟禁状態になった。

 それから王弟陛下を中心に国王陛下を政治の実権を密かに奪い、専横が始まったと言う。



 そんな状況にあって、ゼトラの活躍は希望の光だった。


「まさに闇を払う光のごとき勇者と評判です」

「そんな」


 照れくさそうに笑うゼトラ。

 だが、マーカスが顔をしかめて、首をひねる。


「よくわからんな」

「何がでしょう?」


 ボソリと呟いたマーカスを見て、クトメが首を傾げた。

 サイアル王国の惨状を理解できていないのか、と思ったようだが、マーカスの表情を見るにそうでもないようだと理解して言葉を待った。


 マーカスは冒険者であり政治とは無縁の存在でありたいと思っていた。

 しかしゼトラと共にあることで、否応なく政治の泥沼をかいくぐってきた。

 その中で分かったことがある。


「冒険者にしたって、政治にしたって、なんだって同じだって思ったんだよ。結局は目的があって行動するんだ」

「ええ」

「和国はサイアル王国政府内部に深く入り込んで、何をしたいんだ? 実質的な支配か?」

「その可能性はありますね。従属国か、あるいは植民地か。生殺与奪を握って意のままに操ることが、まず第一にあると思います」

「だがそれは面倒だろう? どうしたって周囲から反発される。そんなの他国が……少なくとも古の七王国が黙っちゃいないぜ」

「その通りです。事実、私達の活動資金はキチジュやエイベルクに頼っています」

「へぇ……」

「ですが和国の狡猾なところは、決して国王陛下を害する様子がないということです」

「ふむ?」

「表向き、サイアル王国はキチジュやエイベルク始め、少なくとも古の七王国とは友好的な関係を保っています。国王陛下から実質的な政務や外交を取り上げて、ね」


 軟禁状態に置くことでクアイ国王陛下を政治から遠ざけつつ、体制も維持する。

 そこにどんな意図があり、何を意味するのか。

 クトメから与えられた情報を元に、ゼトラもまた思考を巡らした。

 ふと思いついた結論に、思わず唸った。


「そうか……体制が維持されているなら、いくら反和国を謳った所で表立って活動はできない。例えばクーデターなんて起こしようがない」

「その通りです」


 クーデターとは即ち、国家政治体制の変更を求める行動である。

 国王陛下自身は反和国なのであるから、国王陛下を廃することにも繋がりかねないクーデターは起こせない。

 王国政府は和国に与するな、と声をあげるとどうなるか。

 その声を都合よく曲解して、国民の幸福と国内政治の最終責任者である国王陛下を廃する動きに繋がりかねない。

 無論、その代わりに王弟陛下を立てる事も考えられるが、強引な手段で移譲すれば国民の支持は得られない。

 親和国派も、反和国派も、双方決め手に欠ける状況にあった。


 それを見抜いた上で、国王陛下を軟禁状態にして実質的な政治権限を奪い、政府を支配している現状を理解して、マーカスもまたうーん……と大きく唸り、ため息をついた。

予告。

反和国を標榜する組織『北伐の神剣』の拠点を訪れた『明けの明星』

和国に支配されつつあるサイアル王国を救う乾坤一擲の計画を明かされる。



次回「090.反撃の狼煙をあげよ」

お楽しみに。


ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。

本当にありがとうございます。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年12月2日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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