087.勇者vs示現流
「世界が大変なことになる」
そう言って幼いゼトラを置いて旅に出た、母アリス。
その背中を追うように冒険者となったゼトラ。
その背中が、直ぐ目の前にあるような気がして、ゼトラは感動のあまり瞳を潤ませ肩を震わせた。
今すぐにでも後を追いかけたい。
向かった先はサイアル王国か、和国か、或いはユングスタイン自治区か。
いずれにせよ、もう近くに母がいるのだ。
ゼトラは駆け出したくて堪らない衝動を抑え込むように、唇を噛み締めた。
その様子を見て、早く立ち会いたいと思ったのだろう。
ライドウがソワとしてリュウセイ師範を見たが、またカカカ、と軽やかに笑った。
「急くなよ、急くな。まずはそこもとの少年に我らの剣を見てもらってからでないと、不公平というものであろう」
「……畏まりました」
さて、とリュウセイ師範がシワの入った顔をゼトラに向けて、ニッと笑いかける。
「ゼトラ少年は普段何をお使いなさる。やはり両刃の西洋剣かな」
「え、ええ。ただのショートソードです」
そう言うと、袖に隠していたポーチからショートソードを取り出し、鞘ごとリュウセイ師範に渡す。
余計な装飾のない、中西地域ではどこにでもあるような、シンプルなものである。
それを慣れた手付きで鞘から抜き放つと、重さを確かめるように何度か軽く素振りをした。
「ふむ。よく手に馴染む。よほど使い込まれているようだ」
ゼトラに返すと、弟子の一人を呼んだ。
「コフウ、小太刀を持ってまいれ」
「は、はい!」
ゼトラと同じくらいの年齢だろうか。
コフウ、と呼ばれた少女が壁にかけられた小太刀をかかえて、一礼してリュウセイ師範に手渡す。
「重さとしては少年の得物と同じくらいであろう。持ってみなされ」
「は、はあ」
刀身はショートソードより少し長い程度ではあるが、見た目以上に重かったそれに、一瞬ふらりと取りこぼしそうになって慌てて持ち直した。
「素振りしてみなされ。刃を入れておる故、扱いには注意なされよ」
「はい」
言われるがままに鞘から抜いて、ぎこちなく振るう。
ゼトラの如何にも素人然とした素振りに、それを見ていた弟子たちの間からクスクスと笑い声が起きた。
「西洋の両刃の剣は刀身の中央、峰より鎬を当ててから引き斬る、叩き斬るような使い方をされていると思うが、我らの剣……刀は片刃。切れ味に重きを置いておる」
「は、はい」
「西洋剣と同じように扱うと容易く刃が毀れて切れ味が鈍る故、刃先から切っ先、刀の先端をかすらせるつもりで、振り抜くのが肝要。足の運びはこう」
そう言うと、素振りの構えを取ってみせた。
「なるほど」
「刀身の重さを利用して、振り下ろしながら、脇を締めて、止める」
「ふむふむ」
二度、三度、と指導されて素振りを繰り返すゼトラ。
最初こそ不格好で、ただ力任せに振るだけだったそれが、ヒュッと空気を切り裂く鋭い音に変わったのは、八度めの素振りの時だった。
「!?」
ライドウも、それを見ていた弟子たちも、そしてリュウセイ師範すらも、思わず目を見開いて、繰り返される素振りを見つめた。
リュウセイ・ゴウレンの嫌いな言葉は「天才」で、好きな言葉は「努力に勝る才能なし」であった。
齢七十二にして今は道場の師範を務めるが、かつては天下無双の達人と呼ばれたリュウセイ老人。
それは日々の弛まぬ努力の結果であり、確固たる信念として、こと剣の道において天才など存在しない、という持論があった。
無論、飲み込みの早さ、コツを掴むのが早い、頭の良い者は過去にもいた。
だが磨き抜かれた技量、刀の冴え、達人が至る境地は、才能という言葉一つで片付けるには到底及ばない領域にあることを確信していた。
それは道場きっての剣豪と称され、既に全盛期の自身を超えているであろう、と確信するアロウズやライドウとて同じであった。
アロウズも、ライドウも、日々鍛錬を重ねて今に至っている。
それ故に、剣の道に天才など存在しない、という信念があった。
だが、目の前の少年はどうか。
たった数度の素振りで、剣の鋭さが達人の領域に近づこうとしている。
単に刀の扱いが上手い、というのではない。
刀を振る中で己と向き合い、足の爪先から手の指先、髪の一筋まで刀と一体化する。
刀を通して己と見つめ合う真摯さ、何十年と刀を振り続けて至る境地。
ゼトラは既にそこにあった。
――認めたくないが、よもやこれが天才というものか……。
ピュゥ、と空を切り裂く切っ先を、愕然として見つめた。
それはライドウも思いを同じくするところであり、これから相対する少年の剣の冴えに、武者震いが止まらなかった。
――なるほど、アロウズ殿を打ち負かしたのは道理である。
思わぬ強敵の登場に、図らずも不敵な笑みがこぼれそうになるのを堪え、ゆっくりと深呼吸を繰り返して拳を握りしめた。
「ふむ、そこらでよかろう」
「あ。はい」
刀を振る度に、その鋭さが増していく楽しさに、つい夢中になっていたゼトラが、声をかけられて我に返ったように動きを止める。
じわ、と額に浮かぶ心地よい汗を拭い笑顔を見せた。
「なかなか良い太刀筋。巻藁も斬れそうだ」
「!」
ニコリと笑うリュウセイ師範を、抗議するようにライドウが口を尖らせる。
「恐れながら先生、にわか仕込みで斬れるほど甘くはありませぬ」
「まあやってみればわかろう」
「……ッ」
ライドウは正直、腹立たしかった。
リュウセイ師範は誰にも別け隔てなく優しく、そして厳しく指導する人であった。
ただしそれはあくまで弟子に対して、である。
道場には年に数度、体験入門と称した観光目当ての酔狂な者もいるが、そういった者に対しては扱いは目に見えておざなりだった。
だがゼトラに対しての指導の熱の入れようは、これまで見たことがないほどである。
天才を嫌いながらゼトラという才能の塊に惚れ込んでいる。
その矛盾が腹立たしかった。
そしてまたそれに応えて鋭さが増していくゼトラの刀の冴えもまた、苛立たせた。
これまで積み上げてきた努力が、にわか仕込みの才能に負ける。
そんな気がして対抗心を燃え上がらせた。
「では拙者が最初に試技を」
「うむ」
五本横並びに立てられた巻藁を持ってこさせると、道場の中央に置かせた。
これに相対してライドウが目を閉じ、精神を集中させる。
それを場外まで戻り、フィオリーナの手を取って固唾を飲んで見守るゼトラ。
「キェイ!」
裂帛の気合を放ち、五本の巻藁が右上から左下に袈裟斬りにされて、空に飛んだ巻藁の先端を、返した刀でさらに斬り飛ばした。
「おー!」
「素晴らしい!」
弟子たちの間からもどよめきが沸き起こる。
ゼトラも思わず拍手をして、感嘆の息をついた。
「すごい!」
「心技体、全てを兼ね備えてこそ刀は切れ味を増すもの。あの粋に到達するには相応の修練が必要ですぞ」
リュウセイ師範の言葉の通り、巻藁は斬られた衝撃で歪むこと無く、まっすぐに立っていた。
刀の切れ味の鋭さだけではなく、それを振り抜く技の冴え。
そこまでして初めて為せる業の凄みは、ゼトラも即時に理解できた。
ライドウが納刀して一礼すると、ゼトラの前に太刀を差し出す。
「それでも、というのであれば」
「……わかりました。やってみます」
その太刀を受け取り、代わりに立てられた巻藁の前に立つ。
抜刀して上段に構えると、精神を集中させた。
「ハッ!」
気合を乗せて五本まとめて巻藁を袈裟斬りにして、刀を返して、空に飛んだ巻藁を右薙ぎで斬り飛ばす。
しかし五本の内、三本が斬られ、残りの二本は空振った。
だがそこで、さらに刀を返して下からすくい上げるように、空振った二本の巻藁の先端を斬り飛ばした。
「ッ!?」
「おぉッ!」
教わった通りに刀先で斬り飛ばす業を見せつけて、ゼトラは安堵するように息をつくと、納刀し一礼した。
「すご~い!」
フィオリーナが身体を弾ませて、キャッキャと手を叩く。
それを見ていた一門の弟子たちも、ライドウもその才能を認めざるを得なかった。
――この少年は、天才だ。
恐るべき技の冴えは、既に達人の領域に到達しようとしている。
しかし唯一の救いは、斬られた巻藁が斬撃でわずかに歪んでいることか。
技量という点ではまだライドウに一日の長が見て取れた。
だからこそ、認めなくなかったのだろう。
努力にまさる才能なし。
師の教えを体現するためにも、ゼトラとの試合には負けられない。
その思いを強くするのだった。
少しの休憩を挟んで、いよいよゼトラとライドウが立ち会おうとしていた。
「がんばってね!」
「うん」
フィオリーナが無邪気に手を取って活をいれるように握りしめる。そして勝利を願うように左頬に唇を押し当てた。
ゼトラは心配そうに見上げるアイビスを見て、ニコリと笑って自分の右頬を指す。
「!」
頬を染めて口を尖らせると、右頬におずおずと唇を押し当てた。
「がんばって……」
「うん。これでもう絶対に負けない」
ゼトラは力強く頷くと、仕切り線まで静かに進み出た。
ゼトラたち『明けの明星』と反対側に、目を閉じて精神を集中させたライドウが木刀を腰につける。同じく仕切り線まで進もうとした時、リュウセイ師範がその背中に声をかけた。
「ライドウよ」
「はッ」
「禁技を使え。許す」
「……! いや、しかし門外不出の必殺剣を……」
「使わねば負けるぞ」
「……ッ!」
少し逡巡して、わずかに頷くと厳しい目つきになった。
殺し合いではない、稽古を兼ねた試合であるため真剣ではなく木刀である。
しかし不慮の事故もありうる事を考慮して、鉄板を仕込んだ額当ての鉢巻を結びなおし、仕切り線まで進んだ。
ゼトラが一礼して木刀を正眼に構える。
ライドウもまた木刀を抜くと、しかし挨拶をすることなく正眼に構えた。
そして正眼の構えから上段へ、さらに柄を己の顔の位置まで持ち上げる、独特の構えを見せた。
「?」
それはゴウレン道場に於いて古来より伝わる禁技の型とされた、豪煉示現流の『蜻蛉』と呼ばれる構えだった。
ライドウは普段堅苦しい所こそあるが、決して厳しさを表に出さない穏やかな一面があった。
だが今、ゼトラと対峙している姿は、普段からは想像もできないほどに、厳しさを超えた雰囲気があった。
それは殺気――。
全力で殺す。絶対の覚悟を持って、確実に殺す。
その意志を瞳に滾らせて、殺気を放ち、ゼトラと相対していた。
「門外不出、一撃確殺の示現の型、お見せいたしまする」
「……!」
じり、と間合いを詰める両者。
固唾を呑む弟子たちとリュウセイ師範、そしてマーカスたちの視線が集まる。
何故キチジュ王国において豪煉示現流が禁技の型と呼ばれて伝承されてきたのか。
それは豪煉示現流が、必ず相手を死に至らしめる技だったからだ。
国家に仇なす不貞の輩を確実に仕留めるための、必殺の刃。
それがゴウレン道場に古来より密かに伝承されてきた豪煉示現流という型だった。
抜いたが最後、確実に相手の生命を奪うまで刀を振り続けよ。
恐るべき覚悟を持って臨む、最強の剣。
故に相対する者に挨拶など無用。
ただ、命を奪う覚悟を持って、雲耀の初太刀で仕留めよ。
その教えに従い、ライドウが床板を蹴った。
「キェアーーーッ!」
猿叫とも称される気合を乗せて、一の太刀が振り下ろされた。
――受けたらダメだッ!
ゼトラの天賦の才が、本能が、その初太刀の恐ろしさを見抜いた。
刀をあわせることもなく、咄嗟に横っ飛びに撥ねて躱す。
「キェイッ!」
しかし振り抜かれたはずの初太刀は刀を返し、片仮名の「レ」の字のように追撃する。
その切っ先がゼトラの鼻先をかすめた。
木刀であるにも関わらず、かすめた服を切り裂き、鼻先から血が滲んだ。
さらに後ろ飛びに一歩引いたゼトラと間合いを詰めて、さらに命を断つ一閃が襲いかかる。
――躱しきれない!
それを払いのけるように木刀を合わせて防御したが、体重の軽いゼトラは勢いよく横に吹き飛ばされた。
「キャッ!」
「おぉッ!?」
悲鳴を上げて、顔を覆うフィオリーナとアイビス。
木刀が擦れあい、摩擦で焦げた匂いが辺りに立ち込めた。それほどの恐るべき剣の速さ。
しかし飛ばされてすぐに体勢を立て直し、正眼に構えたゼトラを見て、リュウセイ師範が声を上げて驚いた。
よもや一の太刀を躱すとは。
その時点でも驚いたが、まさか二の太刀まで躱されるとは。
ようやく届いた三の太刀。だがそれを受け、なお無事であった事に驚愕した。
豪煉示現流の教えの一つに「一の太刀を疑わず。二の太刀不要」というものがあった。
躱される前提で一の太刀を振るうな。一の太刀を持って仕留めることを心がけよ。
もし初太刀を受けようと構えるのなら、受けた得物ごと斬り捨てよ。
音速の刃を身上とする教えである。
念の為に二の太刀、三の太刀も教わりはする。
だが実際は、初太刀で命を奪え。仮に一の太刀を躱されたなら二の太刀、三の太刀をもって確実に命を断て、というものだった。
それだけに、躱し、耐えたゼトラの体捌きに驚かざるを得なかった。
リュウセイ師範はゼトラの素振りを見て、豪煉示現流を使うライドウとは五分と予測した。
故に引き分けで上等。勝てば御の字。
ゼトラとの戦いを経て必殺の剣として伝承されてきた豪煉示現流はさらに高みへと昇華されるはずだ。
そう睨んで、門外不出の必殺剣を持って臨め、とけしかけた。
だが、三の太刀を受けても平然として立ち向かおうとするゼトラの底なしの力量を垣間見た。
ゼトラは豪煉示現流をも上回るのではないか。
そう思うと悔しくもあり、久しく見せなかった、剣豪としての胸の高ぶりを感じざるを得なかった。
一方ゼトラは、女神たちの祝福を受けて絶対に勝つ、これで負けることはない、と自信に満ち足りていた。
だがそれは驕りであることを思い知らされていた。
――このままじゃ勝てない!
流れるような刀捌きのどこにも反撃の隙がなかった。
直感で、このままでは豪煉示現流の構えを取ったライドウに勝てる要素がないことを、肌で感じ取っていた。
いま時点でも、力も、魔力も、ライドウに勝るであろう。
だが代々伝承されてきたライドウが極めし技の冴えには及ばない。
ではどうするか。
――全力を出す。
至ってシンプルな結論に、ゼトラが瞳を紅く灯らせた。
やられる前に、やる。
音速の剣をも上回る、神速の踏み込みで、仕掛ける。
さらに力を解放して踏み込もうとした瞬間。
「待てッ! ゼトラッ! フィオの様子がおかしいッ!」
「えッ!?」
「ぬッ!?」
マーカスの声が、ゼトラとライドウの間に割って入った。
ビクリと身体を踏みとどまらせて、ゼトラは控えるフィオリーナを見た。
木刀を投げ捨てると、胸を抑え、苦しそうに肩で息をするフィオリーナに駆け寄り、その手を取った。
「これは……!?」
「魔力枯渇症状よ……!」
「そんな! ものの数分しか経っていないよ!?」
「おかしいわ! どうして……」
メルキュールが魔力の流れを読み取る魔法を発動させると、眉をしかめた。
「とてつもない魔力の流れ……! これは初期症状に近いけど……今まで見たことないくらいの魔力量だわッ!」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、うぅ……!」
脂汗を額に浮かべ、なおも苦しそうに美しい顔を歪ませるフィオリーナの全身を抱きすくめる。
触れ合う肌の間に、魔力の輝きが放たれた。
「うぅ……くぅ……」
ようやく落ち着いてきたのか、少しだけ息を和らげて、何度も深く呼吸を繰り返した。
「大丈夫……?」
ゼトラが泣きそうになりながら顔を見合わせたが、微かに首を振った。
「ごめんね……試合の邪魔しちゃった……」
「そんなこと、試合はいつでもできるんだ。気にしないで」
「うぅ……」
また痛みが走ったのか、胸を抑えて力尽きるようにガクリと気を失った。
その様子を後ろから見ていたリュウセイ師範が残念そうに首を振る。
「ふむ……。ご伴侶殿がそうあってはこれ以上は難しいか。ここまでとしておこう」
なおも殺気を滾らせて構えるライドウの肩を叩いた。
それにようやく気づき、我に返ったライドウも構えを解いた。
「致し方ありませんな。機会あれば、またいずれ」
一礼すると木刀を弟子の一人に託して、大きく肩で息をついたのだった。
突然の、フィオリーナの異変。
彼女の体の中で、一体何が起きているのか。
それを確かめるには、風崔竜ことカーリーに診てもらうのが早いのではないか、という結論になった。
早々にシン・エドの王城の裏庭で待機していた飛空艇に戻り、早速フィオリーナを診たカーリーが首を傾げた。
「……このヒトの身体に巣食う、七竜の魂の欠片の力が強まっているように見えます」
「七竜の……」
「どういうこと? そもそもその七竜ってどこのどいつよ? 解放済みの七竜の誰かじゃなく?」
「いえ、シグナルは解放済みの七竜ではないですわ」
「ますます分からんな。解放されていない七竜の力が、どうしてフィオリーナに取り憑いているんだ?」
「さて? そこまでは分かりません」
「念の為確認しておくけど、あと二柱よね? 解放されていない七竜って」
「ええ。地図上のここと、ここに、強化外殻から未解放を告げるシグナルの発信を確認していますわ」
そう言ってカーリーが指し示した地図。
確かにサイアル王国の王都近くと、ユングスタイン自治区のかつて王都があった場所の近くにマーカーが赤く点滅している。
なお、解放済みの七竜は、キチジュは勿論、エイベルクやバインクレといった各地にマーカーが青く点滅していた。
「残っている二柱のうち、どちらがフィオリーナの精神魂に巣食っている七竜かっていうのはわからないの?」
「分かりません。強化外殻起動前は固有シグナルを発しませんわ」
ふむ、とゼトラが頷き、メルキュールを見る。
メルキュールの中でも、確信めいたものがあったのだろう。
頷き返して、カーリーを見た。
「……以前も言ってたけど、残りの二柱を解放したら、フィオリーナのこの症状は解消されるのね?」
「はい。それは間違いなく。魂の融合とでも言いますか、欠片が吸収される形でこのヒトの症状は収まるはずですわ」
「そっか。じゃあやることは一つね」
「ああ」
メルキュールとマーカスが頷き合う。そしてゼトラに視線を向けた。
ゼトラもまた頷いて、腕の中で眠るフィオリーナを見る。
「急ごう。残り二柱……」
「ええ!」
別れの挨拶もそこそこに、王城の裏庭から慌ただしく飛び立った風崔竜の飛空艇の羽ばたきをキチジュ王国ライセン宰相が見上げていた。
――どうかご無事で。
勇者たちの旅の行く末を心の中で祈るのだった。
一方、飛空艇の中。
「不思議な……面白い国だったね」
「そうねぇ」
ゼトラは胸元で眠り続けるフィオリーナを抱きかかえる。
それに応えてメルキュールが頷いた。
「それにしたって、王様は既にいないのに、王国だなんて」
不思議な国、という点で言えば王なき王国を称する点も不思議であった。
しかしその理由を聞けば自然と深刻な顔にならざるを得なかった。
和国の手は、確実に世界中に伸びている。
海を隔てた隣国、キチジュ王国でこれなのだ。
これから向かう先、和国に最も近い隣国、サイアル王国ではどうなのか。
それを想像すると不安だけが胸を締め付けた。
予告。
ライドウと再戦を約束してゼトラたち『明けの明星』は旅立つ。
向かう先は常夏の国、サイアル王国。
和国に最も近い国ではその影響下にあって混乱を極めていた。
事態は終局に向かって大きく動き出そうとしていた。
次回「088.赤道下の混乱」
お楽しみに。
ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。
本当にありがとうございます。
ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。
次回更新は2020年11月30日お昼頃の予定です。
よろしくお願いいたします。




