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086.母の背中

 キチジュ王国に眠る七竜を封じる入り口。

 それは、水位が下がりつつある湖底にあるようである。


「へぇ。凝った仕掛けを作ったもんだな」

「ホント。この大量の水、どこに流れ出してるんだろ」


 おおよそ人の背丈以上水位が下がった所で、流れが止まったようだ。


「ねえ見て! あれ!」


 湖底を覗き込むように見ていたフィオリーナが何かに気づいて指差した。


「あれか!」


 湖底が自然ではありえないほどに、真四角にえぐられて穴が空いていた。


「あそこが入り口のようだぜ!」


 騒ぐ冒険者の血を抑えることもできず、マーカスが真っ先に泥濘(ぬかる)む湖底を駆け下りていくのだった。



 起動制御室に向かう通路の途中、ゼトラが興味深そうに視線を送るのに気づき、ライドウが首を傾げた。


「なんですかな?」

「ライドウさんはアロウズ・ロドルゲスさんという方は存じていますか?」

「久方ぶりに聞きましたな、その名は」

「じゃあやっぱり」

「同門の朋友にございます。それがしとは腕を競い合う仲でした」

「へぇ」

「武者修行の旅に出る、と和国へ向かったようですが、以後は音信不通。何やら西国で決闘に負けたという噂は聞いておりますが、いずこで何をしているやら」

「……」

「ところで何故(なにゆえ)にアロウズをご存知で? さては西国の地で見かけましたかな?」


 その決闘の相手こそゼトラなのであるが、どう答えればいいのか戸惑っているとメルキュールが思い出したように膝を打った。


「あー! ゼトラがこてんぱんにしちゃった人か!」

「ちょ、ちょっと、メルキュール……!」


 言い方ってものがあるだろう、と慌てたようにゼトラはメルキュールの口を遮ぎろうとしたが時既に遅し、である。


「……どういうことですかな……?」


 ギラリ、と気迫のこもった視線をゼトラに向けたのだった。


 カールウェルズ魔創公国での八公爵家トーナメントでの活躍を、フィオリーナが我のことのように自慢気に語り、マーカスも加わってゼトラの剣技の凄まじさを説明すると、ライドウは不敵な笑みを浮かべて、なかば睨みつけるようにゼトラを見た。


「それはそれは、実に興味深い。是非にお手合わせを願いたいものですが……」

「えぇ……?」


 目を細め、今にも斬りかからんばかりに向ける視線に、ゼトラは戸惑いを隠さず、助けを求めるようにマーカスを見た。


「ま、時間があれば相手してやれよ」

「えー……」


 ニヤリと笑い、何の助けにもなっていないマーカスの言葉に、ゼトラがあからさまに不満の声を上げた。

 ふと視線を下げると、フィオリーナもゼトラのカッコイイところを見てみたい、と言わんばかりに瞳を輝かせているのが視界に入ってしまった。


 ゼトラははぁ、と小さくため息をついて、首をすくめる。


「じゃあ、時間があれば……」

「おおっ、では是が非でも時間を作りましょうぞ」


 既にやる気満々で、心が踊りだすのを抑えきれないように、ライドウは何度も頷くのだった。


 なお、キチジュ王国に封印されていた七竜は月威竜(げついりゅう)と言い、その別称としてツクヨミ、と名乗った。


「お久しゅうございます。マスター。ツクヨミですわ」


 黒く、ツヤのある髪の毛は腰よりも長く、全裸のようにも見える体つきを隠すように翻した。

 その肌は不自然なほどに白く、絹のようにも見える美しさがあった。


「お久しぶりね、ツクヨミ」

「あらあらウフフ、カーリー。あなたも」


 ツクヨミが優雅にも見える仕草で、差し出されたカーリーの手を握り返すと魔力の輝きが受け渡しされた。


「共有リンク確認。情報確認。状況確認。任務了解」


 ツクヨミが機械的に言葉を並べるのをゼトラがじっと見ていると、ニコリと穏やかな笑みを浮かべて微かに頷いた。


「私はこれから強化外殻を起動いたします。マスターはカーリーと共に外へ。その後、テュールの演算に加わります」

「わかった」


 そう言うと、コントロールパネルを操作するツクヨミ。

 ゼトラたちはふわりと身体が浮く光に包まれて外部……元いた小島へと転送されたのだった。


 カーリーの飛空艇に乗り込んで上空で旋回待機することしばし。

 突如としてミョウジン湖から巨大な水柱があがった。


「月威竜とやらの復活か……!」


 ビリビリと震える大気の振動が伝わる飛空艇の中、モニターに映る地殻変動。

 マーカスも息を呑んで、モニターを睨みつける。


「何度見ても、圧倒的よね……」

「なんという……これほどとは……!」


 メルキュールが呟くように唸り、初めてそれを見るライドウも驚愕の声を漏らす。


 大きな水柱の間からゆっくりと浮かび上がる、巨大な白い球。

 卵のように少し先端が尖ったところから、糸が解ける毬のように、少しづつ形が崩れていく。


 地下にこれほどの巨体が埋まっていたとは、にわかには想像しがいほどに、大きな、あまりにも大きな竜が、姿を現した。


 白く輝く大きな翼を広げ、空を覆い隠す。


 体表もまた銀白色(プラチナシルバー)に輝く巨大な竜……月威竜の姿の頭頂は、はるかに高く、成層圏にまで届きそうである。

 ゴゥ、と軽く咆哮を上げただけで大気が震えた。


 その時、飛空艇のモニターに映る、ツクヨミの穏やかな顔。


「マスター、起動完了しました。この場で()()()()()待機します」

「あまり人々を怖がらせないようにね」

「……善処します」


 神々しささえも感じるその姿に、近づく者がいるとは到底思えないが、念の為注意を払うように、と注文をつけると王都シン・エドへと戻ったのだった。




 王都へ戻るとまずはライドウがことのあらましを宰相に説明した。


「ご苦労でしたね。ゆっくり休んでください」

「ハッ」


 ライセン宰相の労いの言葉をかけられたライドウが、恭しく頭を下げて退室するのを待って、今度はゼトラに向きを直す。


「急ぐ旅でしょうが、今日の所はこのままご一泊いかがですか」

「そうさせてもらいます。着物も着てみたいようですし」


 そう言ってゼトラがフィオリーナに微笑みかけると、フィオリーナも照れたように笑う。

 それを微笑ましく頷くと、ライセン宰相は宿の手配をするように、侍女へと申し付けるのだった。




 王城から程近い場所にある宿は、外装は普通のそれと代わりはないほどに質素なものだった。

 だが内装はまさに豪華絢爛という言葉に相応しく、ところどころには金をあしらった装飾。

 陶磁器や、生花といったキチジュの文化を楽しませるオブジェクトが、贅沢な空間の中でアクセントになっていた。


「すっごいねぇ……」


 ライトの照り返しで美しく輝く陶器に吸い寄せられるように、フィオリーナが思わず立ち止まった。

 人の背丈よりやや小さいそれには、梅の木が描かれていた。

 残雪の枝に止まる小鳥の姿。

 戯れるように羽ばたく小鳥の(つがい)


 一つの絵柄の中で冬から春へと移ろいゆく季節を描いたそれに、アイビスもまたうっとりと目を細める。


「高そうだな……」


 マーカスの無粋なコメントに、舌打ちしたメルキュールが小突いた。

 その様子を見て、案内役の侍女が思わずクスクスと笑う。


「確かにお高いですね。その壺は金貨十三万枚の値がつけられています」

「十三万!」


 依頼報酬の何倍もの値を付けられたそれに、さすがにメルキュールも目を剥いた。


「当代随一の陶芸家、ハクザンによるものです。造形しかり、絵付しかり、二つとない名品です」

「なるほどねー」


 分かったような、分からないような、そんな声でしたり顔のメルキュール。

 芝居かかった仕草で腕組すると、何度も頷いた。


「わかってないだろ」

「高い理由はわかったわよ」

「どうだか」


 そんなメルキュールにいつもの調子でツッコミをいれるマーカスの掛け合いに、一同はクスクスと笑い合うのだった。



 用意された部屋――宿自体がそうであるのだが――海外の然るべき身分の来賓向け、というものらしく、品のある豪華さと、落ち着きを感じさせるものだった。

 寝室は二つあり、それぞれ天蓋付きのキングサイズのベッドが一つ、セミダブルベッドが二つあった。


「んじゃ、あんたたちはこっちで、私達はこっちね」


 早速ベッドの配置を決めると、お目当ての部屋付きの露天風呂を覗く。


「わーお。いいじゃない~」


 檜でこしらえられた屋根付き風呂はいつぞやの時に泊まったスイートルームよりも広かった。

 浴槽に乳白色の湯が溢れており、硫黄の微かな匂いが鼻をくすぐる。


 遠くまで広がる城下の灯りが、夜景を美しく、賑やかに彩っていた。


 だが、男女をわけへだてる、肝心の間仕切りがない。

 更衣室は男女で分けられているにも関わらず。


「晩ごはんまで時間あるし、先に入っておいでよ、それまでゆっくりしてるから」

「……」


 フィオリーナの一緒に入ろう?という視線から逃げるように、背を向けるゼトラ。

 ちらりとアイビスを見ると、ソワソワとして何かを期待しているようである。


「……ま。いいんじゃないの。眼福でしょ」

「おまえなあ」


 呆れたように見るマーカスの視線を、メルキュールがからかうように笑う。


「どうせ欲情しないんでしょ。正直、今更感あるわ」

「……」


 単にふてくされているのか、或いは開き直りなのか。

 ニヤリと笑ったメルキュールが着替えを持って更衣室に入っていった。


 はぁ~、とわざとらしく大きくため息をついたマーカスがポン、とゼトラの肩を叩く。


「覚悟を決めるか……」

「無の境地に至る鍛錬だと思うよ……」


 早々に着替えの準備を進める女性たちの背中を見送ると、男たちも更衣室へと向かうのだった。



 ゼトラとフィオリーナ、そしてアイビスは互いに思いを通わせる恋人同士なのだ。

 別段そこまで気にする事もないと思うのだが、やはり恥ずかしい、照れ、といった心理的抵抗はあるのだろう。


 先に男性陣が入り、見えないようにそっぽを向いている間にバスタオルで前を隠した女性たちがこれに続く。

 フィオリーナとアイビスが、乳白色の湯で顕になった素肌を隠しながら、いそいそとゼトラの横に移動した。


「えへへ」

「うふふ……」

「はは……」


 お互いに照れ笑いを浮かべながら、ピトっとゼトラの肩に頭を預ける。

 そんな様子をお互い距離を取った大人たちも微笑ましく見守り、ふと視線が合った。


「見んなよー」

「見せようとするな」


 メルキュールが胸元を隠しながら、またからかうように笑い、マーカスはそっぽを向く。

 そんなやり取りに、子どもたちも破顔するのだった。




 翌日。

 せっかくだから、と観光のため街へと繰り出した一行は、早速紹介された着物屋へと駆け込んだ。


 キチジュ王国の人々が身にまとう着物は緑や青、橙色など多種多様だったが、比較的藍染と朱色染めが多いようにも見受けられた。

 聞けば年毎に流行りの色は移り変わるようである。


 フィオリーナは朱色に鶴の絵柄をあしらった着物が気に入ったようだ。

 着付けを手伝ってもらい、髪もキチジュの途中みかけた町娘と同じように結わえ直して、(かんざし)で止めていた。

 アイビスが選んだのは薄緑色の下地に白色の牡丹の花柄のあしらったもの。

 あいにく簪を使うほど髪は長くないので、前髪の分け方を芍薬の花の髪留めで変えているのもゼトラには新鮮に映ったようだ。


「ど、どう……?」


 上目遣いでゼトラを見る恋人たちの姿に、ゼトラは息を呑んだ。


「……」

「だ、だめだった?」


 急に不安になったフィオリーナが、ソワソワと身なりを気にしだしたのを見て、ゼトラは慌てて首を振った。


「すごい。びっくりした」

「えぇ……?」

「もう、可愛すぎて……」

「っ!」


 ひと目も憚らず、腰に手を回して抱き寄せた。


「ふわ……」

「うひゃ」

「あぁ、なんて可愛いんだろう。こんな可愛い子が二人とも僕の恋人だなんて」


 ゼトラの顔が近づき、頬を染める少女たち。

 甘えるように頬をすりよせてきて、少女たちはくすぐったそうに微笑んだ。


「なんかいつもよりいい匂いがする……」


 クンクン、と鼻をひくつかせるゼトラに嫌がる素振りも見せず、少女たちは成すがままにさせながら、間近に迫ったゼトラの唇を吸い寄せられるように見つめる。


「なんかね、香水をつけてもらったの。好きな男の子を振り向かせる香水。夢中にさせるんだって」

「既に夢中になってるのに、これ以上夢中にさせてどうするの?」


 冗談めかして笑うゼトラだったが、わかってるくせに、という視線でぽーっと頬を染めて口を尖らせ、目を閉じた。

 要求に応えて軽く唇を触れ合わせると、大事な宝物のように、また抱き寄せた。


「ほらほら、いちゃつかない。人の目を気にする~」

「あう……っ」


 アイビスが顔を真っ赤にしながら慌てて離れ、フィオリーナも名残惜しそうにゼトラと手を繋ぎ直した。

 メルキュールは藍染に菊の花をあしらった着物で、大人びた印象をさらに引き立てている。


「メルキュールもすごい。いつも以上に美人だと思う」

「あら。嬉しいこと言うじゃない」


 ふふ、と笑い、まとめ上げた下げ髪をひらりとなびかせた。


「あなたたちも似合ってるわよ」

「うんうん」


 ゼトラとマーカスもキチジュ王国の伝統的な装束を着込んでおり、可愛らしい女性たちと並んでも遜色ないものだった。


「小袖に袴だったか。慣れない内は裾を踏んでしまいそうだぜ」


 模造刀の大小を腰につけて、マーカスがぎこちなく笑う。


「ま、いいお土産が出来たって思えばいいじゃない」


 着物はお値段は少々張るもので、貸付もできるが、気に入ったら購入も可、というらしい。

 だが少女たちの嬉しそうな様子を見るに、どうやらこれは購入の流れになりそうである。


 さて、このまま王城に戻って、ありがとうございました、お世話になりました。ではサイアル王国へ……とは行かないのは、警護と称して『明けの明星』一行を見守るライドウ・コウジンの姿を見れば明らかだった。


「さてゼトラ殿、よろしければ拙者が日頃鍛錬に打ち込んでいる道場にご案内したいが、よろしいですかな」

「あ……はい」


 朋輩のアロウズを打ち負かした剣と是が非でもお手合わせ願いたい、というオーラをムンムンに醸し出しながら、先頭になって連れ立つのだった。




「キェエエエイッ!」

「タァーーーッ!」


 気合を乗せて、竹刀を激しく打ち合う道場。

 狭い道場では場所が足りず、木人や巻藁が並ぶ庭先にまで大勢の弟子たちが打ち合っている。

 その数二十名ほどか。男性だけでなく、女性も目についた。

 年は概ね若く、溌剌とした声が辺りに響く。


 二人一組となって竹刀を合わせる打ち合い稽古。

 門をくぐった先で、迫力に圧倒されて呆然と見やった。


「へぇ、すごいな」


 マーカスも驚いて、目を輝かせた。

 やはり剣を扱う者同士、惹かれるものがあるのだろう。

 うずうずとした様子を隠そうともせず、打ち合う姿に思わず顔を綻ばせていた。


 しばらく見ていると、老年の男性の鋭い声が飛んだ。


「そこまでッ!」

「ありがとうございました!」


 打ち合っていた者同士、間合いを取って一礼するのを待って、ライドウが玄関をくぐった。


「リュウセイ先生、お待たせしました」

「おう。ライドウ」


 一筋に伸びる白い顎髭をなでつけ、鋭い眼光を飛ばした老人の雰囲気に、ゼトラも思わず息を呑む。


 ――この人、強い……。


 ゼトラにも分かるのだろう。

 木刀を手に持ち、ただ佇んでいるだけにも関わらず、これまで対峙してきたどの者よりも強者たる雰囲気を感じさせた。


「ふむ……なかなかの強者共よ。女子(おなご)の方もかなりの力量と見た」

「わかりますか」

「うむ。特にそこもとの少年は底が見えぬ。なるほど、お主が申したアロウズを打ち負かしたとはそやつか」

「ええ、そのようです」


 一体何者か、とジロリジロリと無遠慮に集まる弟子たち視線を浴びながら、ゼトラがぎこちなく礼をする。

 マーカスたちも、床板や壁に染み込んだ汗や道着が放つ独特の匂いに一瞬顔をしかめつつ、それを表に出さないようにして、ゼトラに続いて頭を下げる。


「ゼトラ殿、こちらは我らが教えを請うております、リュウセイ・ゴウレン師範です」

「初めまして、ゼトラ・ユーベルクと申します」

「ふむ、ユーベルク?」


 ゼトラが名乗ると、リュウセイ師範が何かを思い出すかのように微かに首を傾げた。

 だが弟子の一人が鋭く反応した。


「ユーベルクだと!」


 ざわ、と囁き合う声と、半ば殺気混じりの視線がゼトラを捉えた。

 このパターンは、間違いなく母アリスがなにかやらかしている反応である。

 困ったように笑い、ゼトラが肩をすくめた。


「母アリス・ユーベルクをご存知でしたか」

「おぉ……そう言えば……」

「あぁ!」


 それまで名ばかりで姓の方は聞いていなかったのか、ライドウもまたゼトラに細めた視線を向けた。


「なるほど、ゼトラ殿はアリス殿のご子息であったか。道理でどこかで見た顔だと」

「ど、どうも……」


 頭をかいてお辞儀したゼトラに、なるほどなるほど、と何度も頷いてギラリと目を輝かせる。


「えっと……母が何かしましたか?」

「いや……まあ、その……」


 しかし、その問いには言葉を濁して視線を背けるライドウの様子に、ゼトラは不思議そうな顔をした。

 それを見て、リュウセイ師範がカカカ、と軽やかに笑った。


「ライドウよ、お主もまだまだ未熟よな」

「む……」

「負けた事を口にするのは恥ではない。負けた事をいつまでも引きずり、学べぬ者こそ恥と知れ」

「は……ッ」


 リュウセイ師範に諭されて、ライドウは苦々しい顔を浮かべ、重い口を開くのだった。


 どうやら母アリスはキチジュ王国でも片っ端から冒険者ギルドが抱える高難度依頼を解決していたようである。

 その評判を聞きつけたキチジュ出身の冒険者が、王国でも随一の評判を誇るゴウレン道場に顔を見せてはどうか、と誘ったらしい。

 アリスも最初は乗り気ではなかったようだが、腕試しと思えばいいじゃない、と半ば強引に連れられた。

 マーカス同様、剣を振るって戦う者として弟子たちの激しい打ち込みを見て思う所があったようだ。

 ひょんな流れから、模造刀を使った真剣勝負になってしまった。

 その相手こそライドウ・コウジンその人であり、その結果はと言うと……。


「よもやあの間合いで雷の術を使うとは、油断しておった……ッ!」


 ということである。

 今なお歯ぎしりする所を見れば、相当に悔しかったのだろう。


 命を奪わぬ限りは使えるものはなんでも使ってよい、というルールでの真剣勝負。

 一進一退のギリギリの攻防を繰り広げながら、それまで魔法を使う気配を見せなかったことでライドウは完全に油断していた。

 裂帛の気合に乗せて放たれた剣を受け止めきれず、アリスが体勢を崩して膝をついた。

 それを好機と見て果敢に踏み込んだ瞬間に、地を這う稲妻が足元を襲った。


 慌てて跳躍して回避したが、爪先にわずかに電撃が走り、着地で体勢を崩した。そこに超速で間合いを詰めたアリスの小手打ちが決まり、木刀を叩き落された。

 そして喉元に切っ先を突きつけられて、勝負あった。


「いや、あの動きは見事なものであった」


 感慨深げに頷くリュウセイ師範。

 一方のライドウは、その時の悔しさを思い出したのか、恨めしそうにゼトラを見る。

 母に受けた悔しさは、子で晴らそうとでも言うのか、是非立ち会い願いたい、と改めて頭を下げた。


 ちなみに、その時の戦いを見て同輩のアロウズ・ロドルゲスは「世界は広い!」と感じ入った様子で、武者修行の旅に出る。

 その足は和国に赴き、東国一の称号を得た。

 運命は巡りに巡って、カールウェルズの地でその子であるゼトラと相見えようとは思いもしなかったに違いない。


「あれはちょうど一年前程であったか」

「つい最近のようにも感じます」

「一年前……!」


 ゼトラが母アリスと別れて十年になる。

 世界中を旅する母の背中を追うように冒険者となって、その足跡を探し、追い続けてきた。

 四年前はカールシア大陸西部にいた。

 二、三年程前はアムスト大陸はアルムシタッド王国にいたようだ。

 そして今、ようやく一年前の母の背中を捕まえようとしていた。

予告。

ゼトラと立ち会いたいと願うライドウ。

リュウセイ師範はライドウに告げる。

「示現流を使え」と

密かに伝承されてきた世界最強の必殺剣がゼトラに襲いかかる。



次回「086.勇者vs示現流」

お楽しみに。


ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。

本当にありがとうございます。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年11月29日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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