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083.睦言

 歓待の宴もようやく終えてマーカスとメルキュールもようやく開放されたようである。

 以前のような深酒で酩酊はしていない様子だが、気分良さそうに別館のゲストルームに案内された。


 また恋人たちも仲良くダブルベッドに身を寄せあって眠りにつこうとしていた時のこと。

 アイビスがゼトラの頬をつねって、ぷくりと頬を膨らませた。


「もう! 恥ずかしかった……!」

「アハハ、ごめんね」


 アイビスを抱き寄せて、頬にキスをする。


「でも嬉しかった。アイビスの気持ち、ちゃんと聞けて」


 そう言うが、キスをされたところでアイビスの腹の虫は収まらないのだろう。

 モジモジとしながら、口をとがらせ、上目遣いで睨む。

 お互いにふんわり好意をいだき合う関係から一足飛びで婚約まで駆け上がった二人である。


 ゼトラはどう思っていたのか、その気持ちをちゃんと教えてほしい、という事なのだろう。

 催促するように、お返しのキスをしてじっとゼトラの目を見た。


「うーん……。僕は……そうだなぁ」

「うん……」


 ドキドキとして肩を抱くゼトラの腕に手を添える。


「初めての依頼のときかな」

「初めての……。マザーゴブリン討伐の?」

「そう、それ」

「……?」


 一体あの時、どこにゼトラがアイビスに惹かれる所があったのか、アイビスにはとんと見当がつかないのだろう。

 キョトンとして、小さく首を傾げる。


「あの時、流れるような動きで子鬼(ゴブリン)を倒したよね」

「そうだった……かな」

「そうだったよ。あの動きを見てさ、すごくカッコイイって感動したんだ」

「そ、そう……」

「僕は結局、力任せだし」


 そう言ってぶんぶんと剣を振るう真似をして笑うゼトラに釣られて、アイビスも思わずクスクスと笑う。


「それからかな。アイビスのことがすごく気になりだしたの」

「そっか……」

「でも最初は、すごい愛想悪くてさ。いつもそっぽ向いてて」

「う……」


 その当時のアイビスは人付き合いのなんたるかを知らない少女である。

 無論、命の恩人であるアリスの子であろう、とはなんとなく感づいてはいたが、だからどうすればいいのか、なんて考えもしなかった。

 その当時を思うと、アイビスの胸もチクリと痛むのだろう。申し訳無さそうに俯く。

 それを察したのか、アイビスの頬を撫でて、気にしないで、と囁き唇を押し当てた。


「振り向いてもらおうって僕なりにすごい頑張ってたんだよ」

「そ、そう?」

「そうだよ」


 ようやく掴んだ大事な宝物をそっと抱きしめて、頬をすり合わせる。


「もうさ……どんどん好きになっていくんだ」

「……」

「かっこいいなぁって気持ちから、可愛いなぁって気持ちに変わっていって……」

「うん……」

「顔……外見だけじゃないんだよ。さりげなく気遣ってくれる優しさとか。そうだな……すごく居心地がいいんだ……」

「うん……」


 こつん、とおでこを合わせて、唇が触れ合う寸前まで顔を近づけて囁く。


「悩んでる僕を支えてくれて……僕の弱さを受け止めてくれて……」

「それは……私もだよ……」

「うん。支え合って……守りたいって思うんだ」

「うん……」

「こんなに可愛くて……強くて……優しくて……。ああ、僕はホントにアイビスのことが好きだなぁ……。大好き……大好きだよ……アイビス……」


 背中にまわる、心地よい腕の強さにアイビスも満足したのだろう。

 頬を伝う涙を拭い、コクリと頷いて、目を閉じる。


 唇を重ねる恋人たちを祝福するような南国の虫たちの大合唱。

 まるでお互いの呼気を交換するように長い長い時をかけて、ようやく口を離し、微笑み合う。


「私も好き……大好き……ゼトラのことが大好き……」

「うん……ありがとう……好きになってくれて……」

「私も……嬉しい……」


 お互いの背中にしっかりと腕を回して抱きしめ合うのだった。


「ねね。私は?」


 ひょこっとゼトラの背中から顔を出したのは先程まで眠っていたはずのフィオリーナである。

 ゼトラの愛情を独り占めしていたアイビスは、ニコニコ顔のフィオリーナを見て目を丸くした。


「お、起きてたの?」

「えへへ」


 んしょ、と上体を起こすと、抱き合う二人の上に重なるようにまたがった。


「お行儀悪いわ」


 晒された白い太ももを隠すようにめくれたスカートを直すと、アイビスが体勢を少しよじってゼトラとの間にフィオを押し込んだ。


「うふふ!」


 少し空いたスペースに遠慮なく潜り込み、なおニコニコと微笑む。


「ねーねー。ゼトラはいつ私のこと、好きになってくれたの?」

「えー? うーん……そうだなぁ……」


 思い出すように目を瞑り、考える仕草をするゼトラ。

 ねだるように頬に唇を押し当てて、フィオリーナが期待の眼差しを向ける。


「あ、ちなみに私は、前にも言ったけど、最初出逢った時に、一目惚れ!」


 言っちゃった、と口元を隠して微笑むフィオリーナの頭をそっと撫でてゼトラもニコリと微笑む。


「僕も一目惚れなのかな。あの闇のようなモヤの中からフィオが出てきて、なんて可愛いんだろうって思ったもの」

「えへへ」


 モジモジとしてぎゅーっとゼトラにしがみつく。


「んー。でも本当に僕の中でフィオの存在が大きくなったのはニアベルクで『蒼炎』のやつらに酷い目に合わされたときかなぁ」

「うんうん」

「あの時、頭の中が真っ白になったんだけど。あとで思い返した時に自分の大切なものを傷つけられて、許せないって思ったんだ」

「うん……」


 フィオリーナごと包み込むようにゼトラとアイビスが手を取り合い優しく微笑む。


「あの時、フィオもアイビスも、僕にとって大切な存在だって気づいたんだと思う。僕にとって欠かせない存在だって」

「えへへ」

「うん……」


 フィオリーナが嬉しそうにその手に重ねて頬ずりする。


「僕にとってアイビスは遠慮なく甘えられる存在なのかな……。いっぱい甘えて、どんなにつらいことがあっても一緒に頑張れる。そういう存在」

「うん……」

「僕にとってフィオリーナは自分を奮い立たせてくれる存在。こんなに可愛い女の子が僕のことを自慢してくれるような、そういう存在でありたいって思わせてくれる」

「うふふ!」

「うん……僕はやっぱり、二人とも好きだな……大好き……フィオのことも、アイビスのことも、同じくらい。許されるならずっと側に居てほしいって思うもの」

「うん! ずっと一緒だよ!」

「うん……」


 だが、『ずっと一緒に』という約束は果たされることはない。

 ゼトラを待ち受ける過酷な戦いによって、その約束はいとも容易く破られてしまうことは少女たちは理解はしていた。納得はしていないが……。

 しかし今だけは、抱きしめ合う三人の間でだけは、その約束は永遠不変のものであると錯誤させるには十分だった。


 温もりの中から抜け出すように、よじよじとフィオリーナが体勢を入れ替えて、ゼトラの両脇に寄り添ういつものポジションになると、フィオリーナとアイビスが視線を交わしてクスクスと笑う。

 それを見て、ゼトラは首を傾げた。


「今更かもしれないんだけど、二人はお互いのことをどう思っているの?」

「え?」

「アイビスはフィオのこと……フィオはアイビスのこと、どう思ってるのかなぁって」

「うふふ、秘密!」

「え~」


 いたずらっぽく笑うフィオリーナと、それに同意するように頷くアイビス。

 ゼトラは二人のことを等しく愛情を注いでいる、これからも注いでいくつもりではある。

 ゼトラの愛情は真剣そのものであり、本物であることは、二人とも疑っていない。だが、肝心の二人の間ではどう思っているのか。

 やはりゼトラは気になるのだろう。


「教えてくれないの?」


 口を尖らせてフィオリーナとアイビスを交互に見つめる。

 しかしフィオリーナとアイビスはニコニコ笑って口を開こうとしない。


 フィオリーナとアイビスが、ゼトラを巡って言い争うとか、そういった事は今まで、少なくともゼトラの前で起ったことはない。

 当然ながら仲違いしているようには見えないし、むしろ仲がいいようにも見える。


 そう言えばお風呂はいつも二人一緒に入っている。

 きっとバスルームの中で二人はお互いのことを話し合っているのだろう。


 気にはならないと言えば嘘にはなる。

 だが女の子が秘密にしたいことなのだ。

 それが仮に、ゼトラにとっては些細な事であったとしても、根掘り葉掘り聞くような真似は野暮というものだろう。

 そう思って、ゼトラなりに二人の仲は問題ないのだろう、と納得することにした。


「あっ」


 ハッと思い出してゼトラが慌てて上体を起こした。


「ど、どうしたの」

「そう言えば今日、アルベルトに報告するの忘れてた」

「あぁ……」


 律儀に一日の出来事にダニエル・アルベルトに報告することを日課としていた。

 今日はバタバタとしていてすっかり忘れていたことを思い出し、リンクドスネールを送受信モードに切り替えた。


「ダニエル・アルベルト、聞こえるかな」

「……」

「アルベルト?」

「……はっ。ゼトラ様。少々お待ちを……」


 少し間をおいて、リンクドスネールにノイズ混じりの返事があった。

 ゼトラが無事に風崔竜(ふうさいりゅう)の封印を解除したことや、水蒙竜(すいぼうりゅう)火崙竜(かろんりゅう)が封印されていた地に戻ったこと、そして明日にはキチジュ王国に向かうことを告げると、通信の向こう側でアルベルトが安堵したように微笑むのが聞こえた。


「それはようございました。皆様お変わりございませんか」

「うん。アルムシタッド王国では母さんが随分と活躍していたようで、僕も随分と歓迎されてね。さっきまで歓待の宴で大騒ぎだったよ」

「ハハハッ、それは結構なことでございましたね」

「うん。そちらはどう?」

「それが、実は少々厄介なことになっておりまして……」

「厄介なこと?」

「ええ……」


 曰く王都グランマリナのユングスタイン人保護特区には続々とユングスタイン人が結集していると言う。

 そして戦える者、戦う意志ある者が率先して武器を取り、自主的に鍛錬を重ねていた。

 レイモンド・フォークが懸念していた軍師不在のことも、旧王国軍の将軍の家系にあるものが名乗りを上げて、再興軍の編成を積極的にすすめていた。

 今やその規模は二万人にもなろうとしていて、第四軍まで編成が進んでいると言う。


 当然ながらゼトラは現時点において再興の軍を興すつもりはなく、なにはともかくも七竜の復活と『極めて深刻な(カタストロフィック)脅威(ディザスター)』との対峙を優先する意向であることはアルベルトも承知している。


 だが人々は『極めて深刻な脅威』とは何かが分かっていない。

 人類が一致団結して立ち向かわなければならない相手であると認識できないのだろう。

 ゼトラの意向にはなかなか理解が及んでいなかった。


 それ以上にユングスタイン人が結集して思うは遠き故郷の事である。

 軍事蜂起を起こすまでには至っていないものの、毎日のように気勢をあげてユングスタイン王国再興を願う声が高まっていた。

 和国をどう攻め入るかといった作戦会議が連日に渡って行われていると言う。


「勝手ながら私は既にギルドマスターの職を辞する意向を固めております。民を抑えるには冒険者の肩書を棄てるときがきたのだ、と判断いたしました」

「そうか……すまない。それはオリバーには?」

「伝えております。オリバー自身もマスターを辞したい考えがあるようですが、ゼトラ様の主命もありますので……」

「わかった。僕からオリバーに伝えておく」

「承知いたしました。ゼトラ様におかれましても、どうかお気をつけて……」

「ありがとう。また明日連絡する」

「ハッ……」


 通信をきると、深くため息をついて頭を抱えた。


「……」


 遠い目でこれからどう動くべきなのか、どうすれば結集したユングスタイン人を納得させることができるのか、考えを張り巡らせた。


 今はただ堪えよ、その時ではない。


 それで納得してくれればどれほど簡単であろうか。

 そこまで聞き分けがよければ苦労はしない。


 ……なにせ二十五年である。

 望郷の思いは、そう簡単に抑え込めるものではない。


 ゼトラとて、かつてのユングスタインの住まいを見てみたいと思っている。

 未だ見ぬ故郷がどのような所で、どういう暮らしをしていたのか。


 ユングスタイン生まれ、ユングスタイン育ちではないゼトラでさえそうなのだ。

 二十五年前に逃げ出した者たち……当時の悲惨な記憶が色濃く残る年齢というと、今は三十歳以上の者になろうか。

 そういう者たちとって、故郷の思いはゼトラ以上に強いことは、ゼトラなりに十分に理解しているつもりである。

 その者たちにただ堪えよ、と言って素直に聞けるものではないことは、これも想像に難くないことだった。



 ゼトラが通信する様子を見守っていたフィオリーナとアイビスは、考え込むゼトラを邪魔しないように、目を合わせて微かに笑みを浮かべる。

 軽く頷きあうと、静かにその様子を見守り続けるのだった。


 ふとゼトラが顔をあげて、リンクドスネールを再び送受信モードに切り替えて、レイモンド・フォークを喚び出した。


「いかがなさいましたか、ゼトラ様」

「息災であるか」

「ありがたきお言葉にございます」

「うん。ダニエル・アルベルトから王都グランマリナのユングスタイン人保護特区の様子を聞いた。随分と血気盛んで抑えるのに苦労している、と。ニアベルクはどうだろうか」

「ふむ……。ニアベルクでも同じございますね」


 やはり国境都市ニアベルクでも同じく再興軍結集の動きが盛んであると言う。

 武器を取り、気勢を上げて再興を願う声がレイモンドの元にも続々と届いていた。


「そうか……」


 一瞬顔をしかめて、軽くため息をつく。


「レイモンドは和国政府と交渉できる余地はあると思うか?」

「交渉……でございますか」

「血を流し合うようなことは避けたいのは我々も、和国政府も同じはずだ。どうすれば交渉に持ち込み、ユングスタインの旧領を取り戻すことができるか、レイモンドには考えがあるのでは、と思ったが」

「……そうでございますね……」


 ゼトラの問いに少しの沈黙があった。

 言葉を選ぶように、ぽつりぽつりとレイモンドが紡ぐ。


 まずゼトラ……ユングスタイン人にとって得られる最良の結果は、現在ユングスタイン自治区として定められている地を分離独立させて、ユングスタイン王国として再興することにある。

 和国政府は当然ながら影響を残そうと画策するだろう。

 それは一部認めて、和国とは良き隣人として振る舞いつつ、年月を重ねて少しづつ排除していく、という政策が考えられる。


 だが致命的なのは、現在ユングスタイン自治区で行われているという、民族同化政策である。

 配偶者を和国人のみに限定し、ユングスタイン人同士の結婚を禁止するその政策はユングスタイン人というアイデンティティそのものを無くそうという意図があるのは明白だった。

 つまり和国政府は地図上からユングスタイン自治区という名称そのものを消してしまいたいのだろう。

 その意図を汲むなら、自治区をそのまま王国へと塗り替える交渉は相当に難航しそうである。


 そもそも和国政府がゼトラの呼びかけに応じて素直に交渉の席につくことすら考えにくい。

 エイベルク王国始め、古の七王国を調停人として交渉の場に引きずり出すことが大前提となるだろう。


 だがこれまでの和国政府の高圧的、強硬的な姿勢を考えると、余程のことがなければ交渉に応じることはないと見ていい。


「ただそれを可能とする……『余程の事態』に持ち込む策はございます」

「と……言うと?」

「ゼトラ様が七竜をお使いになれば……」

「……は?」


極めて深刻な(カタストロフィック)脅威(ディザスター)』に対抗するための七竜システム。それを制御できるゼトラ。


 ゼトラが七竜を操作して、和国を七竜で包囲してしまう。

 交渉に応じねば滅ぼすぞ、と恫喝する。


 そうなれば否が応でも交渉の席に着かざるを得ないだろう。


「ない。それは断じてありえないよ、レイモンド」


 レイモンドの案を、ゼトラは即答で否定した。

 また同時に、ゼトラの脳裏には別の考えも浮かんだ。


 ゼトラ自ら、和国人を皆殺しにしてしまえばいい。

 和国人全員と言わずとも、政府首脳部をその圧倒的な力で殲滅してしまえばいい。


 ゼトラにはそれを出来るだけの力がある。

 一度決意すれば、誰であってもそれを止める事はできない。


 だが、それでいいのだろうか?

 そんなことをすれば和国だけではなく、ユングスタイン以外全ての国を敵に回すことになりかねない。


 ユングスタイン王国は何かあれば七竜を使って恫喝する国。

 ゼトラは畏怖ではなく、恐怖の目で見られる王となるだろう。

 歯向かう者を片っ端から粛清していく恐怖の王して……。


 果たして旧領を取り戻した……いや、恐怖の王から与えられた地で、民はそれで喜ぶだろうか?

 ゼトラの両脇でフィオリーナとアイビスはどう思うだろうか。

 それで幸せと言えるだろうか。


 仮にそうしたとして、ゼトラが存命中はそれでいいだろう。

 ゼトラが願う、人と亜人が仲良く暮らす国。

 文字通りユングスタイン王国は人と魔族の国になるだろう。

 魔族の王……恐怖の魔王が支配する国として世界中から恐れられ、ユングスタイン王国は栄えるだろう。


 しかし人はいつか死ぬ。

 ゼトラもまた同様である。


 ゼトラが死に、その後を継ぐ者がいたとして、やはり周囲から恐れられる国であることに変わりはない。

 そして恐怖で押さえつけられた民から、いつしか魔王を滅ぼす勇者が現れる。

 その時こそ、ユングスタイン王国はこの世界(ファレアス)から永遠に消滅するのだ。


 そして残るのは、七竜を使役して世界を破滅に招き、民を恐怖に陥れた最悪の悪魔、という伝聞だけである。



 ゼトラは何度も首を振って、やや怒気を混じえてそれを否定した。

 ダニエル・アルベルト曰く、レイモンド・フォークは目的のために手段を選ばないところがあると言う。それで不要に敵を作りやすいとも。

 その片鱗を見た気がして、ゼトラは口をへの字にする。


「その選択肢は絶対にありえない事は念頭に置いてくれ。あくまで平和裏に、最も血が流れるのが少ない方法……。交渉によって解決する方法を考えてくれないか」

「ハッ……承知いたしました」


 最も血が流れる少ない方法は、即ち七竜システムを使った恫喝である。

 その時点でゼトラの指示は大いに矛盾しているが、それを除いた方法を模索するようレイモンドに伝えると、通信を切った。


 大きく息を吐きながら肩を落とす。

 しかしまたすぐにオリバー・レクツァトを呼び出すと、ニアベルクのユングスタイン人が暴発しないように、よくよく説得するように、と。

 もしマスターという職が邪魔になるのであれば辞しても構わない、と告げると、オリバーは恭しくその主命を承ったのだった。


 ゼトラが全ての通信を終えて、どーっと精神的な疲れを感じたのだろう。

 仰向けでベッドに倒れ込んだ。


 と、ちょうどそこに、アイビスの膝。


「あれ?」

「お疲れ様……」


 ゼトラの頭を両手で受け止めたアイビスが、見上げたゼトラの髪を愛おしそうに撫でて、唇を重ねる。

 きっとドッと疲れて仰向けに倒れるだろうと見越していたのだろう。


 一方、待ってました、と言わんばかりにフィオリーナがゼトラにまたがって、ゼトラの顔をマッサージするように揉み揉みとほぐしてニコニコと笑う。


「難しい顔をするゼトラも、かっこよかった」

「そ、そう?」

「うん!」


 えへへ、と笑いながら胸元に顔をうずめた。



 もうすっかり夜遅くなっている。時計の針がまもなく天頂を指そうとしていた。

 いつもの寝る時間をとうに過ぎており、ゼトラが大きく欠伸をすると、アイビスからフィオリーナにそれが伝染する。

 それを見てクスクスと笑い合うとベッドに潜り込んだ。


「おやすみ……」

「うん、おやすみ」

「おやすみー」


 三人それぞれに、おやすみのキスを交わして目を瞑る。

 ゼトラは両脇の温もりを確かめながら穏やかな笑みを浮かべて眠りについたのだった。

予告。

アルムシタッド王国を離れ、キチジュ王国へ向かう『明けの明星』

そして謁見の場で王国政府宰相に問われる。

「七竜を使ってどうする気だ」と。

しかしゼトラにはその質問が理解できなかった。

繰り返される激論の果てにあるものとは。



次回「084.東の果ての国」

お楽しみに。


ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。

本当にありがとうございます。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年11月26日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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