079.火竜の静かな目覚め
ミンダ国王は控えていたマーカスたちを手招きして呼び寄せた。
フィオリーナが駆け寄ってきて、それまで途切れていた魔力の供給を取り戻そうと、どちらからと言いうわけもなく、そっと腰に手を回して微笑み合う。
それを遠慮がちに見ていたアイビスに、ゼトラは迷うことなく手を取って、抱き寄せた。
アイビスは少しはにかみながらゼトラの胸元に吸い込まれる。
両脇に美少女を侍らせるいつもの配置について、それを微笑ましそうに見守っていたミンダ国王は空を指差した。
ベランダから見える城下町の隙間から見える彼方先に、噴煙を上げる山があった。
「あそこに噴煙をあげる火山が見えるだろう」
「ええ」
「伝承ではあそこに七竜が封印されているとされている」
「火山の中ですか?」
「そうだ」
そりゃまた、とマーカスが首をすくめた。
「封印石の場所は分かっているのですか?」
「うむ。実しやかに伝えられていたため、にわかには信じがたかったのだが、ここから北東へおよそ十キロほどの所に王墓がある。初代国王の王墓がひときわ大きいのだが、その中にあった」
「王墓の中に!」
「驚くのも無理はない。私もよもや、まさか、と思っていたからな。ギュスターヴ国王より七竜の件で連絡があってから調べさせた所、確かに存在した」
ミンダ国王は既に厳重に警備をさせた上で、ゼトラが訪れたらすぐに王墓の中を案内できるように準備を整えていると言う。
「ありがとうございます、国王陛下」
「なんの。世界のために、という殿下の志に添えられただけでも誇りに思う」
そしてミンダ国王も交えて打ち合わせをした。
ゼトラたち『明けの明星』はエーテルモービルで王墓に向かう。
テュールとユーピテルは飛空艇で後を追って、王墓の外で待機。
強化外殻の起動で不測の事態が起こりうる可能性もあるため、念の為指示を出せるように国王は王城に待機することになった。
「ではご武運を、殿下」
「お世話になりました、国王陛下。無事に復活させることが出来たら一度戻ります」
「うむ。無事であれ」
「はい!」
ゼトラたちは一礼すると、急ぎ足で王墓へと向かうのだった。
カイコルロ王国王墓はその広さもさることながら、一基ごとの大きさも圧倒的だった。
「ひゃ~。さすが王様の墓ね~」
「すごいね~」
天然石を削り、積み上げたそれは人の背の高さの何倍もあり、初代国王の墓に至っては屋敷と見紛うような豪勢さである。
「ゼトラ様、こちらです」
警備していたカイコルロ王国の近衛兵なのだろうか、事前に連絡がついていたのだろう。
王墓の入り口で戸惑っていると、王国兵が先頭にたって初代国王の王墓の裏側へと案内された。
そこには蓋をしていた石が取り除かれ、人が一人ようやく通れる程度に狭く、急な階段状になっていた。
「ここから先しばらく降りると左右に別れる突き当りに出ます。左は棺の間となっており、右の間は宝珠の間。その中央の壁は押し上がる仕組みになっております。そこからにさらに下る階段がございまして、そこから三度折り返して下ると、ご所望のモノが」
「ありがとう。行ってきます」
「はっ。お気をつけて!」
頭を垂れて敬礼する近衛兵に見送られ、王墓へと入っていった。
通路は狭く、空気が淀む息苦しさを感じさせたが、幸いにも照明魔法が一定間隔で焚かれており、足元の暗さを気にすることはなくて済んだ。
そして言われた通りしばらく歩くと、左右に別れる突き当りにあたった。
「壁を押す……」
そっとゼトラが壁を押すと、ガコン、と留め金が外れる音がして、ゆっくりと上に開いた。
「へぇ。石造りでこんなこった仕掛けをしてるんなんて。二千年以上前のモノにしちゃすごいわね」
メルキュールが興味津々でそれを見上げ、狭い通路をまた進み、何度か折り返すように階段を下っていく。
そして広い空間に出た。
「あった!」
やはり冒険者の性が疼くのだろう。
マーカスが嬉々として駆け寄る。
「これは間違いないな。バインクレやエイベルクで見たものと同じだ」
「じゃあ解除方法も同じね」
部屋の中には高さ二メートルほどの巨大な封印石が鎮座していた。
部屋は、壁の一部に悪霊除けの文様が刻まれている程度で、それ以外に特に目立った所はなく、ただ均した石を組み上げただけの壁となっていた。
ひとしきりをそれを見ながらメルキュールが素早くメモに取って、改めて封印石を見る。
「うん。模様も同じね。手順も同じはず」
「わかった」
念の為にメルキュールが「こっちからこっちに」となぞる順番を指定しながら、解除する手順を取った。
そしてゼトラが手形に手を合わせると、まばゆい輝きを放つ。
「この輝きは慣れないな……」
「ほんと……」
ゼトラと封印石から放たれる魔力の輝きに目を背けながら、落ち着くのを待つ。
ゼトラから封印石へ強烈な魔力の流れ込む輝きがようやく収まると、封印石から解放されたゼトラが安堵したように息をついた。
離れたところでそれを見守っていたフィオリーナとアイビスが駆け寄り、心配そうに頬に手を伸ばした。
やはりあの魔力の輝きは人の常識を超えた莫大なものであり、これが三度目と言っても心配になってしまうのだろう。
「大丈夫だよ」とゼトラは微笑み、少女たちをいつも通りの力でそっと抱き寄せる。
その優しい力強さに、少女たちはゼトラの胸元で喜びの表情を見せた。
そして辺りを見渡し、ゼトラがポツリと呟く。
「バインクレの時は少し離れた所に扉が開いたけど、今度はどうなるんだろう?」
「外に出ないといけないとかは勘弁してほしいわね」
ボヤくメルキュールだったが、幸いにもそういう事はなかったようである。
特に目のつく所がなかった壁の一角に突如として亀裂が入り、音を立てて崩壊した。
「おわ!」
部屋に満たされた砂塵が落ち着くのを待って、その崩壊した壁を見ると、その先に扉があった。
「うん。この扉、バインクレのときと同じだわ。この金属の光沢感……先史文明のものよ」
目を輝かせたメルキュールがその扉を確認して笑顔で頷く。
「これで七竜も三柱めか……」
「とんでもないことになっちゃったわね。私たちの旅も」
「全くだ」
マーカスが苦笑して頷き、扉を開けたゼトラの後に続く。
そして通路を歩くとまた扉が出てきて、その扉を開けると、バインクレでの時と同じ機械に溢れた部屋に出た。
「うん……このモニターの配置……あそこと同じだわ」
メルキュールが懐から取り出したメモを見比べながら認証パネルを指差した。
「ゼトラ、これよ」
「うん」
メルキュールに促されてゼトラがコントロールパネルを操作すると機械的な音声でアナウンスされた。
「ようこそ七竜システム・火崙竜へ。現在本体は休眠状態中。山剴竜の警告発令に従い、起動準備に入っています。本体を起動するにはパスワードを入力してください」
「やった!」
メルキュールがパチン、と手を合わせて喜ぶ。
ゼトラもまた笑って頷き、パスワードを入力する。
そして水蒙竜の封印を解除した時と同じようにどこかへと転送されて、また通路を戻ると、強化外殻の中……火崙竜の核体をしまう棺のような場所へと出た。
「これが……火崙竜」
棺がゆっくりと開くと、そこに一人の少女。
背丈はメルキュールと同じくらいか。
肌は日焼けしたかのような小麦色。髪の色は燃えるように明るい赤色である。
髪は肩ほどの長さで、とても健康的に見える姿をしていた。
パチリと目を開けた少女はおもむろに棺から飛び降りると、ふわぁ、と大きな欠伸を一つして、ゼトラの前に跪いた。
「久しぶりだね、マスター」
ゼトラは微かに笑みを浮かべながら、ペコリと頭を下げる少女を見下ろす。
「はじめまして、火崙竜……でいいのかな」
「ああ! オレの名前は火崙竜! 愛称はオニャンコポンって言うんだ!」
「オニャンコポン! 可愛い!」
アハ、とフィオリーナが笑い、目を輝かせる。
「だろ? 気に入ってるんだ。一応言っておくけど、オレを開発した人たち曰く、古代の神様から取ったありがたい名前らしいぜ」
「へぇ」
「ま。長いからニャンちゃんとでも呼んでくれよ」
「うん。よろしくね、ニャンちゃん」
オニャンコポンは随分と気さくそうな人柄のようで、フィオリーナの笑顔を見て、へへ、と鼻をこすって笑った。
「さて早速だけど、強化外殻があるこの場所は、火山の中……と聞いてるけど、間違いないかい?」
「待ってくれ。確認するよ」
そう言うとオニャンコポンは操縦席に戻ると、コントールパネルを操作した。
いくつも展開されたモニターに、地下内部と思われる映像や火口から溢れるマグマと思しき映像が映し出される。
「うん。火山の中だね。ま、問題ないだろ。じゃあ起動っと……」
「待った!」
「ええ?」
パネルを操作しようとしたオニャンコポンを、ゼトラが慌てて止めた。
小首を傾げたオニャンコポンにゼトラが苦笑する。
「このまま強化外殻を起動させたら、どうなる?」
「んー。ちょっとシミュレーションしてみるぜ」
オニャンコポンがパネルを操作すると、いくつかの数値がモニター上に高速で流れていく。
「ほいっと完了。うん。ええとね、火山を中心に十キロくらいが吹き飛ぶね。じゃあ起動……」
「だからダメだって!」
「なんでさー!」
オニャンコポンがぶーと頬を膨らませて、ゼトラを睨みつける。
「周辺に住んでいる人がいるんだ。被害を受けないように、ちゃんと避難させてからじゃないと」
「えー。人なんてどうやったって簡単に死んじゃうんだから、いちいち気にしてたってしょうがないだろ~。それに『人の卵』は強化外殻内にも保管されてるしぃ」
「ダメったらダメなの!」
「マスターは相変わらずだぜー。十二万年前もそうだった!」
「そ、そう」
その十二万年前のことを持ち出されても当のゼトラは分かりはしないのだが、しかしどうやら十二万年前のゼトラ・システムは世界を守るだけではく、そこに住まう人を守ることにも注力していたようだと知って、少し嬉しかったのだろう。笑みを浮かべてオニャンコポンに手を差し出す。
「ダミーコアがあるんだよね」
「あるぜっ」
「じゃあそれでも強化外殻は起動できる?」
「できるぜっ」
「じゃあ十日くらい待ってほしい。避難を完了させてから起動してくれないかな」
「しょうがないなー。わかったぜっ」
オニャンコポンは肩をすくめると、ゼトラの手を取って操縦席から降りるとダミーコアを起動させる準備に取り掛かった。
「そこのステップから上に移動しといてー。飛空艇もだすぜー」
「あ、うん……」
「たまには外の空気吸わないと錆びちゃうぜ」
どうやら水蒙竜と同じく、主制御ルームの上に、強化外殻から分離する飛空艇があるらしい。
コントロールパネルを操作するオニャンコポンが忙しそうに手を動かして、起動準備に入った。
メルキュールがオニャンコポンの背中越しにそれを見ながら、問いかける。
「どうでもいいけど、あんたの性格、テュールと比べると随分と人間的ね」
「ハハ! そりゃオレを開発したヒト族の趣味だと思うぜ! 基本人格は開発者の好みが出るらしいからな!」
「ふーん。先史文明の開発者も色々なのねぇ」
オニャンコポンに言われた通り階段を登ると、主制御ルームと似たような部屋に出た。
ダミーコアを起動させたオニャンコポンが飛空艇の操縦席に座り、パネルを操作する。
「とりあえずこれ着といたほうがいいわよ」
メルキュールがポーチから白のワンピースを取り出し、オニャンコポンの胸元に押し付けた。
「なんだいこりゃ」
「あんたみたいに素っ裸で外を出歩いたら、人はびっくりしちゃうの」
「オレに生殖機能はついてないぜ」
「そういう問題じゃないって」
メルキュールが笑ってなおも押し付けると、それを渋々受け取る。
「悪いけど、しばらくは着といてよ」
「しょうがにゃいなー」
オニャンコポンはゼトラに言われるがまま頭からガバリとワンピースを被ったのだった。
ゼトラたちは全員を連れてカイコルロ王国王城ペレイレアに戻ると、待ち構えていたミンダ国王と謁見した。
火崙竜の強化外殻の起動に伴い、火山の周囲十キロ程が吹き飛ぶという事と、その被害に巻き込まれないようにできるだけ遠くへ避難させておいた方がいい、と申し伝えるとミンダ国王は速やかに避難準備に取り掛かるよう指示を出した。
王城の前に鎮座する二艇の飛空艇。
着陸態勢から見れば、それは竜というよりは翼を折りたたんだ鳥のようにも見えた。
一体は紺色の水蒙竜のもの。
もう一体は濃紅色の火崙竜のものである。
「いよう。ユピ、テュール。久々だなー」
「なんじゃニャンめ。相変わらずのデカパイじゃな!」
「ワッハッハ! おまえは相変わらずのちびっこじゃないか!」
「ええい! やかましいわ!」
七竜同士の再会も久々なのだろうか。
オニャンコポンがユーピテルと無邪気にじゃれ合い笑い合う。
テュール曰く、七竜は人に造られた決戦兵器である以上、喜怒哀楽は勿論、久しぶり、という感慨の感情すらも本来持ち合わせていないと言う。
だがこうして久々の再会を喜ぶやり取りを見るに、それは人の感情の発露ではなく、プログラムされた様式美であり、人のそれとは違う別の意味でもあるのだろう。
「マスター。我々は山剴竜の強化外殻修復に専念するため、一度戻ります」
テュールがユーピテルと連れ立ち、ゼトラに向いた。
「そうか。じゃあこの先はニャンとアルムシタッドへ向かえばいいのかな」
「はい。そのように」
あっさりとしたやり取りを済ませてテュールとユーピテルは水蒙竜の飛空艇へと乗り込むと、大空へと飛び立った。
「冒険者ギルドは正門近くにあるみたいだから城下の外で待機してて」
「あいよー」
ゼトラは残ったオニャンコポンにあの辺り、と指差して指示を出すとオニャンコポンも火崙竜の飛空艇に乗り込み、ふわりと飛び立った。
「では国王陛下。ひとまずここまでになりそうです」
それを見てゼトラは言葉少なく礼を述べると、ミンダ国王も笑顔で応える。
「殿下とはまた世界の行く末、国のあり方について政治談義でも興じたい。壮健であれ」
「はい。国王陛下。短い間でしたが友誼を結ぶ事ができたこと心強く思っております」
固く握手を交わして再会の約束をすると、エーテルモービルに乗り込んだ。
所変われば街並みも変わり、天然石を削り出した土台から土壁で構成された屋敷が立ち並んでいる。
その中を、二台のエーテルモービルが颯爽と駆け抜けていく。
住民たちは通りの真ん中を駆けるそれを、物珍しそうに見ながら見送った。
そして何度か入り組んだ角を曲がって正面城門につながる通りに出ると冒険者ギルドが見えた。
日は天頂を超えて間もなく午後になろうとしていた。
「こちらのギルドマスターにゼトラ・ユーベルクがお会いしたいと伝えていただけますか」
「はい! ゼトラ様ですね! お待ちしておりました!」
ゼトラがギルドの総合窓口で声をかけると、受付嬢がぴょんと立ち上がって深々と頭を下げた。
ギルドホールには多くの冒険者が集い、今日の稼ぎの種を探そうと依頼掲示板を眺めている。
ゼトラたちを興味深そうに見つめる視線は少なく、声をかける勇気ある者はいないようである。
「おまたせしました!」
そそくさと戻ってきた受付嬢に案内されてマスタールームへ通されると、そこには胸元の襟を大きくはだけさせた、ラフな格好の細身の男が居た。
「ゼトラ様。お会いできる日を心待ちにしておりました。アリスアトラ様が忠臣の一人クワイエユーアーチ・ペトシエと申しまする」
案内した受付嬢が退室するのを待って、最敬礼の姿勢をとって頭を下げる男。いわゆる南国系の容姿だったことにゼトラは興味を覚えつつ、微笑む。
「丁寧にありがとう。ゼトラ・ユーベルク……。いやゼトラ・ユングスタインと名乗るべきか」
「……ッ!」
もはやその素性を隠す事もなく微笑みかける未来の王に、クワイエは感慨深げに頭を垂れた。
「だが申し訳ないが事態はやや急ぐことになってしまっている。あまりゆっくり出来ないのが残念だ」
「朋友ダニエル・アルベルトより伺っております。七竜の復活でございますな」
肩をすくめて笑うゼトラ。
その重責を負わせるしかない不甲斐なさに自責の念でも駆られたのか、クワイエは静かに頭を垂れる。
「王たる御身に世界の行く末を託し、何も手助けできることもないとは忠臣と名乗るに非ず。あまりに残酷な仕打ちでございます」
ぽろりと涙をこぼし、クワイエが拳を震わせた。
「案じるなクワイエ。そなたが母と共にいたからこそ僕はこうして在るのだ。それだけでも感謝しきれぬことだ」
「勿体ないお言葉にございます」
「これから世界は大きく変わっていくように思う。僕自身、この後どうなっていくか読めていないが如何なる時代になろうとも母に対するそなたの忠義は生涯忘れることはない」
ゼトラの温かい言葉にクワイエは肩を震わせ、頬を伝う涙が床に落ちた。
その手を取って、顔を起こすよう促すように、肩に手を置く。
「全ての片がついたら、ダニエル・アルベルト、オリバー・レクツァト、ミヒャエル・アインホルン、そして母も交えて語らおうではないか」
「は……ッ!」
二十五年前のあの日、死の影に怯えながらの逃避行。
そして幾度となく絶望の淵に立たされた日々。
その主アリスは消息不明となり、いくら情報網を広げようとも要として知れず。
そのアリスは遠くアルムス大陸はアルムシタッドへ、そしてミヒャエルの読みではキチジュを経由してサイアル、和国に向かったのではないかと言う。
今まさに職など放り出してミヒャエルを追って和国へ侵入しようかと計画していた所だった、と打ち明けるとゼトラは笑って止めた。
「もしそれでも、というなら僕に仕えて欲しい」
「殿下に……」
「今、エイベルク王国ではユングスタイン再興を目指してユングスタイン人含めて義勇軍を結集しつつある。だがその溢れんばかりの思いによって暴発するやもしれないと考えている」
「暴発……でございますか」
「今は再興どころではない。まずは七竜の復活、そして強大な敵に人類が一致団結して立ち向かわなければいけない。そのためにもエイベルクで武装蜂起に至らぬよう、暴発しないようにその抑えとなってほしい」
「……なるほど……畏まりました。その任、しかと拝命いたします!」
実のところ、クワイエはアムスト大陸カイコルロ王国の冒険者ギルドのマスターに就任したことを後悔もしていた。
アリスアトラを支えるため、という仲間との誓いはあったが、そのアリスアトラがカイコルロ王国に訪れたのは一度きりだった。その後はカールシア大陸の西……アルムス大陸へと向かったという噂を聞いて、自分は一体何をやっているのか、とやさぐれて酒に溺れることもあった。
それ故に、ゼトラのその言葉は、クワイエにとって希望の言葉だった。
主を、そして己を見失いかけていたクワイエにとっては、ゼトラの言葉はユングスタイン亡王国の近衛元騎士として誇りを取り戻せすきっかけでもあった。
クワイエは与えられた新たな任務に、歓喜に身体を震わせながら、頭を垂れたのだった。
予告。
無事に火崙竜を解放し、最後の旧臣とも出逢いを果たしたゼトラ。
次なる地はアルムシタッド王国。
唯一確かな情報、母アリスが向かった地である。
次回「080.母の面影」
お楽しみに。
ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。
本当にありがとうございます。
ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。
次回更新は2020年11月22日お昼頃の予定です。
よろしくお願いいたします。




