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078.国の形

 カイコルロ王国王都レトアーニア。

 王城に通された『明けの明星』一行。

 国王を目の前にして最敬礼を取る少年にミンダ国王は目を細めた。


「ようこそ我がカイコルロ王国へ、ゼトラ殿。我こそはカイコルロ王国国王、ミンダ・ヤケビ・カイコルロである」

「お初にお目にかかります。ミンダ国王陛下」


 国王の容姿はやはり南国系と呼ばれるものではあるが、その振る舞いや発する威圧感、緊張感はこれまで謁見してきた王家の者と同じものだった。

 年はまだ若く、三十代後半といった所だろう。


 だがミンダ国王の目に映る少年の姿は十代にしては堂々たるもので、その情報網で入手していたゼトラの素性の噂は真なりと確信したようだ。


「さて、急ぎだろうが一点だけ確認させてほしい」

「はっ」

「やはり貴殿はユングスタイン王国の遺児であろうか」


 何一つ回りくどい言い方をしないストレートな質問にゼトラはニコリと微笑み、頷く。


「おお、そうであったか……」


 感慨深げにミンダ国王は頷き、その瞳が潤んだ。


「ゼトラ殿……いや殿下とお呼びしよう。どうか姿勢を崩して、どうかこちらへ。そこもとらも楽にせよ。諸侯らは退席してよい」

「ハッ」


 ミンダ国王はゼトラの側まで寄ると、その手を取って謁見室に接するベランダへと連れ出した。

 マーカスたちもそれを見て姿勢を崩し、辺りを見渡す。


 列席する諸大臣は一礼して列をなして謁見の間から退室し、その警備にあたる近衛兵も一糸乱れない動きでその後に続く。

 残った数名は王直属の近衛兵士なのだろう。

 休めの姿勢を取ったが、不動のまままっすぐに前を向いている。

 どちらかと言うと女性の姿が目立つのは国王の趣味なのか、或いは女性の方が強い国柄なのか。


 マーカスたちは侍者に謁見室の壁沿いに用意されたソファへ案内されて腰掛けると、ベランダで親しげな笑みを浮かべるミンダ国王を見た。


 ミンダ国王は席に座るように促し、ゼトラは一礼して腰掛ける。


「古の七王国に列する国はいずれも姉妹国。そう畏まらずともよいのに」

「いえ、その国は今は亡く、ただのゼトラに過ぎません」


 ミンダ国王は苦笑して、畏まるゼトラの肩の緊張をほぐそうと、ぽん、と手を置いた。


「ユングスタインとカイコルロは遠く離れた地であるが、その実、遠い昔に血縁関係にあったことはご存知かな?」

「いえ、初耳です」

「そうかそうか」


 嬉しそうに微笑み、昔語を始めた。


 カイコルロ王国が起ったのは他の古の七王国とほぼ同時期で、およそ二千年前頃、とされている。

 アムスト大陸は元来より少数民族が入り交じるところで、カイコルロ王国も最初は小さな国だった。

 幾度も領地を巡って争うことがあったが、その争いに打ち勝ち、現在の広大な領土を得るに至った。


 だが地勢的に遠い関係にありながらユングスタイン始め古の七王国は、南海交易路――エイベルク王国からサイアル王国、そしてキチジュ王国を経由して交流が盛んだったようだ。

 機を見ては南国のカイコルロと北国のユングスタインはお互いに物珍しい贈り物を届ける友好関係を築いていた。


 だがそこに転機が訪れたのは、およそ四百年程前の秀和帝国の勃興である。

 秀和主義を唱えカールシア大陸極東部を支配した帝国は独占的に南海交易路を有して、往来に制限をかけた。

 その影響でユングスタイン王国とカイコルロ王国の関係は次第に滞るようになる。


 また同じ頃、カイコルロ王国に一つの問題が起きた。

 代々南国系の血筋を受け継いできた王家に白化子(アルビノ)の女子が産まれた。

 顔つきこそ南国系と呼ばれるものだが、赤色の目と真っ白な肌と髪は、南国系民族からは忌み子と嫌われた。

 それは赤色の瞳が魔獣と似通っているためでもある。


 アムスト大陸での白化子の運命は過酷で、産まれてすぐに殺されるか、不憫に思った親が隠し守り育てるか、である。

 だが、それもいずれ見つかると、村人たちから誹りを受けて無残に殺されることは多々あった。

 奇跡的に生きながらえて天寿を全うすることは極めて稀だった。


 王家の娘とは言え、その運命は同じ辿るものと覚悟したが、その救いの手を伸べたのはユングスタイン王国だった。


 どこかでその情報を聞きつけたのだろう。

 ユングスタイン王国大使館の大使が、密かに身元を引き受け、ユングスタイン王国で育てることを申し出た。

 カイコルロ王家としても是非もなく、と頭を下げて白化の赤子はユングスタイン王国へと引き取られた。

 その子はユングスタイン王国の貴族の元で健やかに育ち、いずれ大人になるとユングスタイン王家に嫁いだ。

 エイベルク王国の国王とカイコルロ王国の王妃の間に産まれた子は衆目美麗で民衆の人気を博し、その英明さからも後継者と期待された。

 その期待に応えてユングスタイン王国の王座に就くと、為政者としてよく働いたのだった。


 その話がカイコルロ王国に伝わると美談として持て囃された。

 以来、白化子を残酷に殺すという風潮は途絶え、むしろ大切に育てられるように変わっていった。


「以来、カイコルロ王国はユングスタイン王国に格別の思いを寄せてきた。我が国の忌まわしき風潮を美談に変えてくれた親愛なる国として、ね」

「そんなことがあったんですね……」


 ゼトラは自らに流れる血にカイコルロも含まれていると聞いて、何故か嬉しかった。

 遠い祖先には亜人……竜角族の血も流れていると言う。

 ユングスタイン王家は古来より自国の民族だけにこだわらず、多くの民族に対して寛容な文化だったようだ。


「二十五年前にユングスタイン王国が滅亡の憂き目にあった時、大変心を痛めた。何も出来ないままだった我と、当時国王だった我が父は大変悔いたよ。何故多大なる恩恵を受けた国を救えなかったのか、と……」


 当時、その悲劇に涙を流した国王は、総力を以てユングスタイン王国滅亡の真相を追った。

 だが地勢的な遠さもあって、その真相にはなかなかたどり着けないでいた。

 しかし隣接する和国政府がそれに関わりがあるとは薄々感づいていたようで、もしただの悲劇ではなく和国政府による陰謀であるなら、絶対に許さない、いかなる手段をもってしても再興を支援する、という決意を既に固めていたようだ。


 その意志は急死した父の後を次いで王となったミンダ国王にも受け継がれ、和国政府に対しては常に一定の距離を置いて接していた。


「和国政府とはその国の興りからして不穏でね。我が国では元々かなり悪感情が強いんだ。だから国交協定は結んでいない。よって大使館も存在しない。ただ特例的な連絡事務所がある程度さ」

「どうして最初からそんなに印象が悪いんですか?」

「うむ……」


 曰く、彼らが掲げる秀和主義にあると言う。


「エスノセントリズム、という言葉を知っているかね?」

「いえ、初めて聞きます」

「そうか……」


 エスノセントリズム。自民族中心主義、自文化中心主義とも呼ばれ、端的に言えば、自民族が最も優れた文化を誇る民族であり、その周囲の国はそれに劣る、という考えである。


「彼らの掲げる秀和主義、和に秀でた神の民によって調和をもたらす、という考えの根底にはそのエスノセントリズムがあると言われている」


 自文化がどこよりも優れ、美しいものだ、と、誇る風潮は特段珍しいものではない。

 だがより先鋭化し、他国にもそれを普及しよう、というのが秀和主義にあるようだ。


「『お前たちはいつも争いばかりをしているから、争いを好まない秀和主義を学べばこの世界から争いがなくなる。だから私たちの文化を受け入れろ』という事のようだ。随分と傲慢だろう?」

「ええ……」

「それでいて侵略的、支配的に接してくるのだから矛盾していると思うのだが、彼らはそれを否定する。秀和主義を盲信しているとも言える」

「厄介ですね」

「全くだ」


 ともあれ、そういった経緯があってカイコルロ王国は和国政府とは地勢的にも政治的にも縁遠い存在だった。


「なるほど……和国という国がどういうものか少し分かったような気がします。ですが、国王陛下」

「ん?」

「私は現時点ではユングスタイン王国を再興する意志はありません。正確には保留と言ってよいでしょう」

「ふむ……」

「今はなにはともかくも、七竜を復活させ『極めて深刻な脅威』に対して人類は団結して取り組まなければならないと考えます。もし団結にユングスタイン王国の再興が邪魔になると言うのであれば、再興を完全に諦める覚悟もあります」

「なんと!」


 ゼトラの真っ直ぐな瞳に、ミンダ国王は胸を打たれた。


 この少年は、その若さでありながら自らを犠牲にしてでも世界のために戦う覚悟を持っている。

 なんという自己犠牲精神。なんという献身精神。


 これぞ王の姿であると、ミンダ国王は感動した。

 頬を伝う涙を服の袖でそっと拭うと、大きく頷いた。


「ゼトラ殿下のお覚悟、然と承知した。しかしそれでも、だよ」


 ミンダ国王は遠くに血を分けた縁類の悲劇を、黙って見過ごすことはできなかった。


「それでもユングスタインに住まう民がかつての王の復活を望むのであれば、出来る限りの支援をさせてほしい。それは再興を望む多くの民にとっても悲願ではないのか?」

「民は……どうでしょう」


 ゼトラは口を真一文字に結び、かすかに俯く。


「国王陛下、(とみ)に私は思うのです」

「ふむ?」

「民が飢えず平穏に生活できる社会であれば国という枠組みにこだわる必要はないのではないか、と。ユングスタイン再興のために軍を興せば、ユングスタイン人のみならず多く人々の平穏が失われます。そこまでしてやることなのか、と」

「ふむ……。それは一理ある。だがな、殿下」

「はい」

「それは恐らく殿下が国が担保した平穏な社会の中で、国の一員として生きていないから言えることだと思う」

「と、言いますと」

「殿下は本来ユングスタインの王子でありながら今は一介の冒険者。定住する地もない根無し草だ」


 ミンダ国王の真剣な口調に、ゼトラは反論することなく頷く。


「ある意味で平穏の地を求める事ができる自由な身とも言えるが、しかしそれは、それを支える圧倒的な個の力、財力、そして仲間があってこそ、成立しているものだ」

「はい……それは確かに」

「だが多くの民はそうではない。圧倒的に弱く、頼れる仲間がいない方が多いだろう。平穏な地を求めて国を旅するほど財はない。ではそんな弱者たる民が平穏な生活を営める社会を得るにはどうする?」

「それが国、という枠組みですか?」

「そうだ。国が平穏な生活を保障するのだ。根無し草に雨風しのげる屋根のある家を用意する。飢えているならパンと水を与える。貧乏に苦しむなら贅沢までさせてやることはできないが、世間に後ろ暗い思いをしないで済む程度に生活の支援をする。しかしそれに頼り切りになってしまっても困るから国の支援なしで自立できるように支援する。言わば平穏な社会の営みとは命の保障だ。それができるのは国という枠組み以外にはない」

「……」

「もし平穏な社会は自分で手に入れる、国など必要ない、という者がいるならそれは好きにすればいい。だが平穏な社会とは脆く、強い国でなければ決してそれを守ることはできない。もしそれを(うそぶ)くとすれば、その者は既に社会において若くして成功したものか、あるいは生まれついての成功者か、才覚があり、財力を持ち、自力でどうにかできる者だ。圧倒的多数の弱者に対して目を向けていないと思う」


 ミンダ国王のチクリと刺すような言葉に、ゼトラは深く頷きながら、しかし、それでも、という思いを込めた。


「なるほどそれは確かに道理です。ですが国王陛下」

「なにかな?」

「最初に申した事の繰り返しになりますが、既にその平穏な社会を手に入れていたとしたら? 例えば和国のユングスタイン自治区の住民。或いはエイベルクのユングスタイン人保護特区の住民。再興の軍を興さなければ平穏な社会は保たれます。逆に再興の軍を興すとその平穏な社会は失われます。私はその事を思うと再興の軍に号令をかけることに、躊躇してしまうのです」


 ゼトラの心の悲鳴にも近い言葉に、ミンダ国王はまた涙ぐみ、頬を袖で拭った。

 この少年の双肩にどれほど多くの思いが圧しかかっているのか。

 そしてこの少年はその思いに応えようと日々葛藤を繰り返しているのだ。


 ある意味で、その重責から逃れられる七竜の復活は、この少年にとっては僥倖であったのかもしれない。


「ゼトラ殿下のお悩みはよく分かる。だが国という枠組みにはまだ大事なことがある」

「……それはなんでしょう?」

「それは法の下における平等と、自由の保障だよ」

「平等と自由……」


 ミンダ国王と同じ言葉を繰り返し、ゼトラはまた俯いた。

 ミンダ国王の言いようを全て受け入れ、自分なりに咀嚼しようと。


「先の白化子のようなイレギュラーな存在でも、社会から害されず万民と同じ扱いを受けられるように平等を保障する。それは法を()く国にしかできない事だと思っている」

「……確かに」

「平穏な社会を保つには法がなくば儚く脆い。わずかな悪意にあっけなく破壊されるのは殿下もユングスタイン王国の滅亡の真相の噂を聞けば理解はあるはずだ」

「はい。それは裏付けはないことですが、事実なら許しがたいことです」

「うむ。そして自由の保障。これこそが国の役割として最も大事な責務の一つであると考えている」

「責務……ですか」

「そうだ。だが自由とはとにかく難しい。何事も自由を許せばそれはただの無法行為にさえなりうる。故に自由にはある程度の制限も必要になってくる。例えば公共の福祉に反しない限り自由を認める、であるとかな」

「しかし自由と制限では言葉の意味としても矛盾しませんか?」


 首を傾げるゼトラに、ミンダ国王は優しく微笑み、首を振った。


「いいや、矛盾しない。自由の反対は専制、統制、束縛だ。制限ではない。無論、国家は個人の自由を害しないことは大前提だ。だが先に申した通り他を害しない限り、社会に害しない限り、個人の尊厳の保護を前提とした、という制限をかけた自由こそ、国が保障する自由だと私は思っている」

「なるほど……」


 ミンダ国王の主張にゼトラはいちいち頷いてその考えを咀嚼する。

 その様子を見ながら、言葉を続ける。


「例えば、殿下が冒険者として類まれな活躍を見せていながら世間に騒がれることなく平穏にすごせているのは、報道の自由に対して制限をかけた恩恵だという事は、理解しているかな?」

「はい、それは勿論。どの国にあっても煩わしい思いをせずに済んでいるのは大変助かっています」

「うむ。報道の自由も実に難しい問題で、度々マスコミ各社と議論になる」

「そ、そんなにですか?」

「半年に一度、会合が設けられて、報道の自由の拡大を求めるマスコミと各国政府は議論しているがその度に大荒れだよ」


 ミンダ国王はその事を思い出したのか、乾いた笑いを発して頭をかく。

 ゼトラもそれを察したのか、労うように笑みを浮かべた。


「報道の自由の根元にある知る権利は大切だと思う。直接的に関われない政府内の出来事を知ることであるとか、例えば組織の不正の監視者として報道の自由は絶対に守らなければいけない。だがそれが個に向くと、途端に弊害が大きくなる。個の自由を害し、或いは社会的な活動を不自由にして、最悪は社会における存在意義さえも抹殺されることになる」

「そうですね……」

「マスコミの商売道具である言葉、文字は武器である。だが同時に暴力にもなる。無神経、無配慮、無遠慮な言葉は容赦なく、残酷に個を傷つけ、自由を害し、平穏な社会を大いに乱す外患とさえなりうる。マスコミに限らず、自由というものは一度それを獲得すると、言わば特権化してしまうと思っている」


 ミンダ国王はそこで言葉を区切り、ふぅ、とため息をついた。


「自由を神聖視し特権化させると、それが途端に他の自由を損なうものであることを、多くの者は認識していない。獲得した自由を害するな、と言えばこちらも黙らざるを得ない。故に各国政府は報道の自由の拡大には慎重にならざるを得ない。それはあくまで国を構成する個人の尊厳を守るためでもある」


 国家は自由は保証する。何者にも束縛されてはならない。だが他者や社会を害する自由は認められない。という主張にゼトラは大いに同意するところで何度も頷いた。


「だが一方で、自由に制限をかけすぎることもよくない。例えば政府に対する批判意見さえも制限をかけたらどうなると思う? 政府の対応を批判したら収容所送り、或いは反体制派として目をつけられ、なにか発言しようものなら警察権力が飛んでくる、なんて横暴は許せるかな?」

「許せません。批判も含め、自由な議論こそ、よりよい国の在り方のために必要なことです」

「その通りだ」


 ミンダ国王はそうあって欲しいと思っていた通りの解を示したゼトラを見て満足気に大きく頷き、また続ける。


「その上で、この例えではどうだろうか。実は殿下を焚きつける事にもなりそうで申すべきか迷っていたが、聡明な殿下であれば答えをだせるのではなかろうか」

「なんでしょう?」

「殿下は、和国支配下に於けるユングスタイン自治区の現状をどこまで存じているかな?」

「……恐れながら無知に等しいです」

「いやそこは謝らずともよい。そこまで詳しいなら既に冒険者をやめていたかもしれない」

「どういうことですか?」

「うむ。我が国は親愛なるユングスタイン王国の滅亡の憂き目を目撃したことを機に、積極的にかの地におけるその後の実情を見つめ続けている。諜報員を送り込むことで、ね」

「……」

「そしてその実情はかなり厳しい」


 ゼトラは小さく「えっ」と驚いて、眉をしかめた。


「まず結婚の自由がない。正確にはユングスタイン人同士の結婚が認められていない。男女問わずその配偶者は和国人でなければならない、と定められているようだ。どうやら民族融和政策と称するものらしい」

「……!」

「そして反政府的な発言、批判意見を述べようものなら問答無用で『秀和教育所』なる強制労働所送りだ。それは個人ではなく縁戚一族郎党まとめて、という苛烈なものだ」


 ゼトラは愕然として目を見開き、拳を震わせる。

 自分の知らないところで、本来であれば王たる自分が守らなればならない民が、そのような目に合っているとは。

 無知であることを今更ながら恥じていた。


「ユングスタイン自治区での生活は確かに平穏だろう。そして自由もある。だがそれは和国政府に仇しない限り、という強い制限だ。発言一つするのに身をすくませ、常に言葉を選びながらの生活など、余所から見ればそこに自由は無いに等しい。それでも自由だから、平穏だから、とそのままにしておけるだろうか? その平穏を保つ理由が、どれほどあろうか?」

「……」


 ゼトラはその問いかけには答えられなかった。

 正確には、答えは既にあったが、それを口にすることはできなかった。


「すぐに答えは出せません……考えさせてください……」


 代わりにそう答えるので精一杯だった。


「うむ。だがこれは紛うことなき事実であり、確かな情報だ。よくよく考えてほしい」

「はい……。ところで国王陛下」

「ん?」

「その惨状……いわば横暴は陛下だけではなく、恐らく周囲の国々も知るところのはず。非難されないですか?」

「したさ」


 ミンダ国王はニヒルな笑みを浮かべて首をすくめる。


「だが『それは我が国の平和を乱す内政干渉である』の一点張り。通商協定を結ぶ国には報復措置を取る始末だ」

「……」


 そして厳しい顔つきのまま沈黙したゼトラの気を紛らわそうと、努めて明るい口調でミンダ国王が笑顔を見せた。


「そう言えば、冒険者ギルドのギルドマスター、クワイエ・ペトシエは個人的に仲良くしていてね。かつてはユングスタイン王国の近衛兵で、殿下の母君の忠臣であると聞いたが、お会いしたかな?」

「いえ、七竜を復活させた後にでも会おうと考えておりました」

「ああ。そうか、それならば急ぎ本題に移らなければな」


 そう言うと、ミンダ国王は控えていたマーカスたちに手招きしたのだった。

予告。

王都を後にする『明けの明星』

向かう先は封印石が眠る王墓。

そして解放される伝説の七竜の姿とは。



次回「079.火竜の静かな目覚め」

お楽しみに。


ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。

本当にありがとうございます。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年11月21日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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