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076.愛の歌

「あ、そうだ。レイモンド、ダニエル。僕はこの子たちを結婚することにした」

「え!? あ、はい。えぇ!?」

「え! あ!? は、はあ……」


 ゼトラが大事そうに両脇の少女の肩を抱いてニコリと微笑んだ。

 唐突な報告にレイモンド・フォークが二度見、ダニエル・アルベルトが三度見して、目を白黒とさせる。

 同じくギュスターヴ国王も絶句してポカンとした。


 その様子があまりにも可笑しかったのだろう。

 マーカスとメルキュールが笑いを堪えきれず、口元を抑える。


「話が飛びすぎだろ」

「あ、ごめん」


 からかうようなマーカスの言葉に、頭をかいてゼトラが笑う。


 そしてゼトラは二人と結婚する夢を見たことと、それは夢ではなく未来のことである、と告げられた事。

 その夢を実現するために二人と結婚することにした、と説明した。


 だがその説明を聞いてレイモンドは困惑して作り笑いを浮かべる。


「いや、まあ……。それは大変結構なことではございますが……」

「ええ、ただ……その……」


 アルベルトが遠慮がちに肩をすくめた。


「恐れながら、年齢的にいささか若く、多くの者が困惑する恐れもございますが……」

「それはもちろんだよ」


 ゼトラが笑って頷き、また両脇の少女を抱き寄せた。


「皆が心より祝福してくれる年齢まで待つさ。今はただ将来を誓いあった、とだけ受け止めてほしい」

「ハッ……おめでとうございまする」

「心よりお祝い申し上げまする」

「ありがとう」


 改めて頭を下げた二人をゼトラは満足気に見て微笑んだ。

 そしてまたギュスターヴ国王もようやく笑顔になった。


「余からも祝福させてくれゼトラ殿下。しかし不思議なものだな。夢の中のゼトラ殿下に……?」

「はい。あれはきっと、もう一人の自分……。テュールが言っていた、コアシステムそのものだと思います」

「コアシステムか……。『極めて深刻な(カタストロフィック)脅威(ディザスター)』と言い、神話にすら触れられていない事がいくらでもあるのだな……」


 ギュスターヴ国王は腕組して目を閉じる。

 過去の出来事を未来に伝えることがどれほど難しいことか改めて思い知り、国王という立場でどうするべきなのか、考えを張り巡らせているのだろう。

 ふと視線を上げて、表情が暗いアイビスとフィオリーナを認めた。


「うむ。そちらのご婦人方いささかお疲れのようだ」

「あ……。大丈夫?」

「……うん」


 作り笑いを浮かべたフィオリーナが小さく頷いた。

 それを気遣うようにギュスターヴ国王が笑いかけて、立ち上がった。


「ひとまずこの場はお開きとしよう。殿下、カイコルロに向かう前に一声かけてくれないか」

「畏まりました」


 ギュスターヴ国王がゼトラに握手を求め、健闘を祈るように強く握りしめる。

 ゼトラもそれに応じて笑顔で握り返したのだった。



 五人でゲストルームに戻るなり、アイビスがメルキュールに耳打ちすると、メルキュールがマーカスを小突いて早々に退室した。

 背中を押されて追い出されたマーカスが困惑して振り返る。


「な、なんだ?」

「喧嘩するってさ」

「なんだそりゃ。いきなりだな」

「そりゃゼトラがあんな事言ったら怒りもするでしょ」

「そんなに引っかかること言ってたか?」


 困惑を隠さないマーカスを見て、メルキュールがため息をつく。


「あんたも大概鈍感ねぇ……」


 首を傾げるマーカスに、メルキュールが苦虫を噛み潰した顔で呟く。


「いい? ゼトラは全部一人でやる気なのよ……」




 一方、部屋に残ったゼトラはジトリと睨みつけるフィオリーナとアイビスに怖気づいて、誤魔化すように笑みを浮かべていた。


「えっと……怒ってる……?」

「怒ってる!」

「すごく怒ってる……」


 フィオリーナは肩を震わせ、アイビスは口を真一文字に結んで、美しい顔に怒りをにじませて、ゼトラを睨みつける。

 ゼトラはそれを笑って誤魔化そうとしたが、むっとした表情の少女の前にその笑顔は消えて、頭をかいた。


「……一人で行く気なんでしょ?」

「どうして……? 連れて行ってくれないの……?」

「……」


 ゼトラは俯き、口を尖らせる。


「危険だから……」

「今まで危険なところも一緒だったのに!」

「そんなの今更だよ……」


 しかし少女たちの反論に顔を上げられず、視線を背けながらボソボソと言葉尻を濁す。


「今回はそうじゃないよ。今までとは比べ物にならないし……」

「でもでも! 地上に安全な場所はないんでしょ!? じゃあどこにいたって同じじゃない! 側にいさせてよ!」

「ずっと一緒にいようって……約束したじゃない……」

「……」


 アイビスは涙を流し、ゼトラを睨みつける。

 フィオリーナもまた答えようとしないゼトラの手を取った。


「私はどうなるの? こうして手を握っていないと、私死んじゃうよ」

「それは……七竜を復活させるまで一緒にいるつもりだよ」

「その後は……?」

「七竜を全部復活させた後はどうするの?」

「……」

「答えてよ! 教えてよ! ゼトラが考えてること! どうして全部一人でやろうとするの!?」


 フィオリーナが突き飛ばすようにしてベッドにゼトラを押し倒す。

 その胸に飛び込んで肩を震わせた。


「一人にしないでよ……」


 アイビスもまたその横に腰掛けて、ゼトラを見上げた。


「教えて……ゼトラはどうするつもりなの……?」

「……」


 訴えるような瞳に負けてゼトラは軽く息を吐いた。

 ようやくといった感じで重い口を開く。


「僕は二人のことを愛してる。そしてこの美しい世界のことも。世界とそこに住む人を守るのにはそうるしかないと思ってる。なるべく遠くに離れて……そこで戦うのがいいんじゃないかって……」

「どうして……そんな……」


 テュールは言っていた。

 過去に二度起きた『極めて深刻な脅威』との戦いで人類は二度とも滅亡した。

 つまりそれは世界を滅されずには済んだが、人類は守れなかった、という事だ。

 強化外殻に保存されていると言う『卵』で人類は復活したが、それは七竜システムが人類ではなく世界を守る事が主目的であるため、人類の生死そのものには興味がないことだと言うことを示していた。


 しかしそれでは駄目だ、とゼトラは感じていた。


 恐らく『極めて深刻な脅威』との戦いは地上に影響を及ぼす程の強大なものなのだろう。

 世界も守り、人類も守る。

 二度の()()を繰り返さないために、どうすればいいのか。

 ゼトラなりに考えて出した結論。

 それはテュール曰く今なお星の外の遠くにあるという『極めて深刻な脅威』本来の所まで討って出る、というものだった。


「……じゃあ私は……?」

「私たちはどうなるの……?」

「……」


 懇願する瞳を見返そうとせず視線を背けてまたポツリと呟く。


「地上に残っていてほしい」

「そんなのやだ!!」

「絶対にイヤ……!」


 そう言うと分かっていたのだろう。

 ゼトラも少し苛ついたようにアイビスとフィオリーナを睨みつけた。


「だって、しょうがないじゃないか! 僕は二人を守りたいんだ! 一番危険かもしれない所に二人を置けないじゃないか!」

「強化外殻の中でもいいじゃない……!」

「聞いてなかったの!? 損傷すれば強化外殻の中だって危険なんだ!」

「じゃあどうしてあんなこと言ったの!? 永遠に一緒だって! あんな優しいこと言って、喜ばせて! ずるいよ! ひどいよ!!」

「……ッ!」

「それに……」


 アイビスは先の戦いでボロボロになったゼトラを思い出したのか、締め付けられる胸に手を添えた。


「それに、ゼトラは死んじゃうかもしれない……そしたら私はもう生きていけない……生きる意味がなくなるわ……」


 ポロポロと涙をこぼしてゼトラを睨む。


「どうせ死ぬなら、一緒がいい。側にいさせてよ……」

「アイビス……」


 ゼトラはその頬の涙を拭い、しかし首を振る。


「マーカスとメルキュールがいるじゃないか」

「ゼトラの代わりはいないわ……!」


 そう言うとゼトラを突き飛ばし、ベッドに倒したその胸に飛び込んだ。

 肩を震わせ、その温もりを逃さないように、深く……。

 ゼトラの両肩で嗚咽を漏らす少女たちの頭を優しく撫でて、ゼトラは落ち着くのを待った。


 アイビスはようやく落ち着いた様子で顔を上げて、泣きはらして赤く腫れた瞳でゼトラを見る。

 ゼトラもまた、瞳を潤ませて、それでも笑顔を絶やすことなく、二人を抱き寄せた。


「わかってほしい……。僕は二人を守りたい……。世界も守りたい……。だからそうするしかない、と……」

「……私はどうなるの……?」


 フィオリーナは不安げにゼトラを見る。


「……七竜を復活させるまでは一緒だよ……その後は……前みたいに……」

「そんなの……そんなの絶対やだ!」


 フィオリーナは前の……魔力枯渇状態に陥り、身体組織が崩壊するのを防ぐために極端に時間の進行を遅らせた時空断絶結界内で生きながらえていた事を思い出した。


「あんな思い……二度としたくないよ!」

「フィオ……」

「私……私ね、すごく怖かった。寂しかった。お母様とお父様が私のために命を投げ出して、死んでいくのをただ見ることしか出来なかったのよ!」


 フィオリーナは嗚咽をこらえながら、それまで溜め込んでいた思いを全て吐き出そうとゼトラにすがった。



 フィオリーナは幼い頃に発現した魔力吸収体質に自ら怯えていた。

 自分のせいで両親さえも命を落として、ただ見ることしか出来なかったことに恐怖した。


 どうして……。

 どうしてそこまでして生きなければならないのか。

 自分に問いかけ、これ以上迷惑をかけ続けるならいっそ死んだほうがいいのではないか、と幼いながら自覚した。

 だが周りの大人達はそれを止めた。


 喉にあてたナイフを取り上げて死んではいけない、と説得した。

 それでは自ら犠牲になった両親の思いを無駄にする、と。


 どうして?

 何度も問いかけた。

 周りにも自分にも。

 どうしてそこまでして生きてなきゃいけないの?


 それでも生きる意味がある。

 無駄な命なんかない。

 この世に生を受けた意味を探すためにも生き続けなくてはいけない。

 そう諭された。


 だがいよいよ限界が近づき、メルキュールによって時空断絶結界を張られた。


 周囲から分け絶たれた世界の中で、フィオリーナは孤独に耐えた。

 魔力が奪われ続けて痛む胸を抑えながら、必死の思いで耐え続けた。

 そんなフィオリーナを心配そうに見守る大人たち。

 だが忙しなく動く周囲の映像は、世界から取り残されたようにも見えて、ますます孤独な思いにさせた。


 ――もうダメだ……無理だ……。


 諦めて、崩壊する身体は魔素へと代わり、暗い濁りとなって意識を包み込んだ。


 暗闇の中、膝を抱える。


 ――これで……もう……。


 命尽きようとしたその時、手が差し伸べられた。

 暖かく、力強い手。


 フィオリーナの本能が、生きたいと願う本能が、その手を掴んだ。


 たちまち身体が元に戻り、意識が戻った時、目の前にいた少年。

 どこか幼く、強い意志を放つ瞳。


 フィオリーナは理解した。悟った。


 私はこの人と出逢うまで待っていたんだ。

 私はこの人と添い遂げるために、今まで生きていた。


 それまでの孤独を、孤独の飢餓を、寂しさを埋め尽くすように甘えた。

 目一杯、自分なりに。


 だがその人は、余りにも強大な存在に立ち向かう人だった。

 その人は今、自ら離れようとしている……。


「そんなの……そんなの絶対やだよ……私も連れてってよ……」


 あふれる涙を拭おうともせずフィオリーナはゼトラの胸元ですがりつく。


「……」


 それにゼトラは答えず、ただ愛おしそうに頭を撫でる。

 ふとアイビスが顔を上げて、ゼトラを覗き込んだ。


「勝てるの……? 勝って、ちゃんと帰ってきてくれるの……?」


 アイビスはくしゃくしゃに顔を歪ませてゼトラの頬を撫でた。

 だがゼトラの瞳は力強く、優しくアイビスを見て、頷いた。


「勝つ……! 勝ってみせるよ……!」

「どうしてそんなこと言えるの?」

「分かるんだ」

「え……?」

「僕は『極めて深刻な(カタストロフィック)脅威(ディザスター)』を討ち果たして、みんなの所に戻るんだ」

「……」

「そういう未来があるって夢で見たんだ。諦めなければその未来は必ず掴み取れるって、そう信じてる」


 アイビスとフィオリーナの視線がニコリと微笑むゼトラの瞳に吸い込まれる。

 先刻将来を誓いあったばかりではあるが、ずっと前からそういう関係であったような、不思議な感覚が身を包みこんだ。


「……私もそれを信じていいの?」

「もちろんだよ。むしろ信じてくれなくちゃ、僕も自信なくなっちゃうよ」


 いたずらっぽく笑うゼトラに、フィオリーナとアイビスもようやく笑顔になって、頬に唇を押し当てた。

 ゼトラはがまた愛おしそうに頭を撫でて、そっと耳元で囁く。


「僕は絶対に二人の元に戻る。だから信じてほしい」

「うん……」


 今度はゼトラから少女たちの頬に唇を押し当てて、そっと抱きしめた。

 少女たちも目を閉じて、その温もりに身を委ねる。


「わかった……。約束……ね?」

「うん。約束する」

「絶対だよ?」

「絶対に」


 そう言って、また何度も頬に唇を押し当てあって愛を誓い合うのだった。

 だがその時。


「あぅ……っ」


 予兆なくフィオリーナが身体を跳ねさせて、悲鳴を上げた。


「!?」

「フィオ……!」


 そのままゼトラの胸元にバタリと倒れ、意識を失った。


「フィオ、フィオ、どうしたの? 大丈夫?」


 ゼトラの呼びかけに答えず、フィオは力なくグッタリともたれかかる。

 アイビスもまた心配そうにフィオリーナの心音を聞いて、脈を測るように首筋に手を当てる。


「なにかしら……身体はどこも異常なさそうなのに……」

「とりあえず相談したほうがいいかも」

「う、うん……」


 フィオリーナを横抱きにして部屋を出ようとした時、ガチャリと音を立てて扉が開いた。


「……テュールに、ユピ……どうしたの?」


 扉を開けて飛び込んできたのは、水蒙竜(すいぼうりゅう)ことテュールと、山剴竜(さんがいりゅう)ことユーピテルだった。

 テュールは相変わらずの感情を表に出さない顔つきだったが、小首を傾げる仕草はどこか人間的にも見えた。

 ゼトラの問いかけに、最初に答えたのはユーピテルだった。


「……共鳴(レゾナンス)コールを試行した所、近くに反応があったから来たのじゃ」

「共鳴コール?」


 互いの存在を確認するための、あるいは七竜同士で呼び合う機能の一種である。

 だがテュールがフィオリーナを指差して、かすかに目を細めた。


「妙ですね。そちらの方から七竜の反応があります」

予告。

フィオリーナから反応があるという七竜。

その謎を解くため、再び旅立つ。

向かう先はエイベルクから南、カイコルロ王国である。

暑き地での新たな出逢いは何をもたらすのか。


次回「077.南国の地」

お楽しみに。


ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。

本当にありがとうございます。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年11月19日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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