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073.解き放たれる水竜

 自然の岩穴はすぐに四角く、人工的なものへと代わり、少し登った所に水面があった。

 深海の入り口の場所にあったというのにそこは壁全体が薄く光を放っている。


「すごい……! これって十万年以上の昔にできたものなんだよね……!」

「ええ! とんでもない大発見よ!」


 興奮を隠そうともせず、水面からあがったゼトラとメルキュールはその壁を見る。


「鉄……でもないか。何か金属であることは間違いなさそうだが……」


 金属の壁をコンコンと叩き、軽い反射音にマーカスも目を輝かせる。


「十万年以上の昔の遺跡がこんだけ綺麗な状態でそのまま残ってるなんて考古学の研究者が見たら飛び上がっちゃうわ」


 そのままゆっくり進むと直ぐに足に地がついた。

 階段上になった所を上がると金属製の床をしっかりと踏みしめて、ゆっくりと見渡す。

 通路の先はまっすぐに暗闇に溶け、五人の呼吸以外は何も聞こえない。


「なんか怖い……」


 フィオリーナが怯えたようにゼトラの腕に絡み、アイビスもまた、ゼトラの腕に手を伸ばす。


「行こう」


 ゼトラもまたアイビスの手を取って、ゆっくりと歩き出した。


 しかしすぐに通路は突き当りになった。


「扉……かしらね。どうやって解錠するのかしら」


 扉らしき継ぎ目はあるものの、メルキュールが無機質なそれを見て、首を傾げる。

 どこかに取っ手のようなものはないかと隅々に目を向けるがそれらしいものはない。


「うーん……ちょっと、ゼトラ」

「うん」


 顎をしゃくり、ちょっと触ってみてよ、と促されて、ゼトラがその壁に手を伸ばした。

 すると微かに金属が触れる音がして、壁が真横に分かれた。


「やった!」


 扉が開き、すぐ目の前の階段を嬉々として上がると、そこにはまた無機質な機械類が並んでいる。


「すごいわ。十万年以上前の古代は、私たちよりも遥かに進んだ文明だったんだ」


 メルキュールはひと目見て先史文明が、今代の魔法科学文明よりも遥かに進んだものだと見抜いたのだろう。

 余計な所を触らないでね、と念押しした上で機械を一つ一つ、じっくりと見ていく。


「これはマジックポーチの表示魔法(インデックス)に似てるわね。七竜のモニターかしら……」


 空中に浮き上がるようなモニターにはメーターのようなものが映り、微かに動いている。


「メルキュール、これ見て……」


 別のモニターを見ていたアイビスが何かに気づき、手招きするとその横から覗き込む。


「時計……かしらね」

「数字だと思う……」

「うん……古代文字だからさすがにわからないけど、下桁から刻むようなこの表示は時計と見ていいわね、一、十、百……」


 おそらく年の部分を指すのだろう、と予想して桁を数えるメルキュールが目を見開く。


「うん。十万桁だわ。間違いない。これはまさしく十万年以上前のものよ……!」


 そしてポーチから紙とペンを取り出し、その古代文字の数字のメモを取る。


「同じ十進法、六十分刻みの二十四時間表記なら、すぐに分かるわ。ちょっと待ってて」


 そう言うと、これは一、これは二ね、と何度も見比べながらその数字を見比べて、大きく息を吐いた。


「分かったわ。これ」

「どうだった?」

「とんでもないわよ。十二万とんで三百二年、百八十六時間ってとこね。多分、七竜が封印されてから経過した時間を示してるんだわ」

「十二万年か……山剴竜(さんがいりゅう)の言っていた通りだな……」

「十二万年も経ってもなお経年劣化が見られないなんて、古代文明はとんでもないわ……」


 メルキュールが感動を超えて呆れたようにまた機械の部屋を見渡し、一つのモニターに視線を落とす。


「でもここって七竜の中なの? 山剴竜には核体(コアボディ)とか言うの女の子が居たじゃない?」

「どうなんだろうな。あいつが言っていた、強化外殻というやつか?」

「んー……それもなにか違う気がするのよね……なんだろう。七竜を制御する別室みたいな……そういう役割の気がするのよね」

「じゃあここからまた別に転送されるのか?」

「うーん……」


 うんうん唸るマーカスとメルキュールを見てフィオリーナが笑う。


「七竜に『もしもし起きてくださーい』って呼びかけるとか?」

「あははっ、それあるかもね」


 可愛い冗談を言うフィオリーナに思わずメルキュールも吹き出したが、しかしいくらモニターを眺めたところでここから先、どうすればいいのか見当がつかないようだ。

 それはメルキュールがそうなら他の四人もそうで、途方に暮れて機械を見渡す。


 ――そこのパネルの下のスイッチを押すんだ。


 その時、ゼトラがビクリを肩を竦ませた。


「え?」


 回りをキョロキョロと見渡し、頭の中に響いた声の主を探す。


「どうした?」

「ん……なんか声が聞こえた……ここを押せって……」

「は? 大丈夫?」

「わからないけど……」


 メルキュールが心配そうにゼトラを見る。同じくフィオリーナとアイビスも不安げにゼトラの横顔を見たが、ゼトラはまっすぐに、一つのモニターを見た。

 そしてスイッチの一つに手を伸ばす。


「ちょ、ちょっと」


 慌てて止めようとしたメルキュールに構わず、スイッチを押すと機械のような無機質な音声が部屋に響いた。


「ようこそ七竜システム・水蒙竜(すいぼうりゅう)へ。現在本体は休眠状態(スリープモード)中。山剴竜(さんがいりゅう)の警告発令に従い、起動準備に入っています。本体を起動するにはパスワードを入力してください」

「パスワード……詠唱文のロック機構のようなものかしら」


 メルキュールが目を白黒とさせてモニターに映る古代文字を見る。


「なにかしら、何か入力する感じね……」


 ――パスワードは、この順番に押すんだ。


 またゼトラの頭に声が響き、それに従うように、文字をなぞる。

 メルキュールはそれを止めようともせず、じっと見つめた。


「パスワード入力確認。水蒙竜(すいぼうりゅう)起動します。強化外殻へ転送開始」


 また無機質な音声が響き、ガタン、と大きく部屋が揺れた。


「なんだッ!?」


 警戒するようにマーカスが身構えたが、振動はすぐに収まる。


「転送完了」


 無機質な音声はそこで沈黙し、メルキュールが首を傾げる。


「今ので転送し終わったの? 転送魔法系特有の波動も感じなかったけど……」



 その時、入ってきた扉が音もなく開き、それに気づいたアイビスが指差した。


「見て……扉が……」

「いつの間に……」


 一様に不安げだったが、ゼトラただ一人、冷静にそれを見た。


「行こう」


 そう言うと、一人扉へ向かい、慌てて他の四人もそれを追いかけるのだった。


 扉を出ると、すぐに登り階段があった。

 そして迷うことなく階段を上がると、広い空間に出た。


「これは……?」


 メルキュールが首を傾げたところで、空間の中央に鎮座していた細長い物体――棺のようにも見えるそれが音もなく開いた。

 蓋をしていたそれが上に持ち上がり、中には人の姿……。


「まさか、あれが水蒙竜(すいぼうりゅう)核体(コアボディ)?」


 メルキュールが呟くように見たそれは、髪の色は青く、腰ほどまで長い。

 服はまとっておらず、ベージュ色の肌がむき出しになっている。

 膨らんだ胸やくびれた腰つきから言って、女性なのだろう。

 だが、それ以外は女性器らしきものは見当たらず、のっぺりとしていた。


 蓋が上まで開ききると、その女性の長い睫毛が微かにゆらぎ、何度か瞬いて、一行に視線を落とした。


「……」


 一行もその様子を探るように見つめ返した。

 その物体から足音も立てず女性が降りると、まっすぐにゼトラの前に進み、跪いた。


「ようこそ水蒙竜へ、マイマスター」

「マスター……」


 ゼトラはキョトンとしてその女性を見下ろし、戸惑いの表情を見せる。

 その様子がおかしいと思ったのだろう、その女性…… 水蒙竜の核体が微かに首を傾げて見上げる。


「なるほど……マスター自身はまだ覚醒していないようですね。記憶が欠如しているように見受けられます」

「記憶が……?」

「お待ちを……マスターシステムにリンク開始……接続できません。マスターコアは観測可能事象内には存在しない模様。なるほど……」


 水蒙竜は一人納得のいく素振りを見せて、思案顔になった。


「どうしよう? どうすればいいんだろう?」


 ゼトラが困惑してメルキュールを見るが、メルキュールもまた肩をすくめて苦笑する。

 さすがのメルキュールも、どうすればいいのか見当がつかないのだろう。


「お待ち下さい……起動時点でこのようなケースも想定されており、マニュアルが存在するはずです。現在検索中……該当しました。プロジェクトズィー・ツー・イー。プログラムエム・アール。任務了解」


 水蒙竜の核体がゼトラに微笑みかけて、ゆっくり頷いた。


「まず私は七竜システムが一柱、水蒙竜です。別の愛称としてテュールと名付けられています。どうぞ好きにお呼びください」

「わかった。ありがとうテュール」

「はい。これよりマニュアルに従い、マイマスターに現在に至るまでの状況について説明いたします」

「え……はい……」


 戸惑いつつも、ニコリと笑うゼトラの反応を確かめて、テュールは微かに頷く。

 だがその仕草はどこか機械的で、事務的で、人間的な温かみを感じない。


「時は今からおよそ二十五万年前に遡ります……」

「はぁッ!? 二十五万!? 十二万じゃないのッ!?」


 いきなり飛び出した二十五万という数字にメルキュールが慌てて遮る。


「失礼、マスター。こちらの方々は?」

「僕のかけがえのない仲間だよ。同席を許してほしい」

「仲間……なるほど。従者と判断します。了解しました」

「従者って……」


 マーカスが苦笑しつつ、肩をすくめる。

 しかしそれには見向きもせずにテュールは口を開いた。


「およそ十二万年前は前回、二回めの『極めて深刻な(カタストロフィック)脅威(ディザスター)』が襲来した時を示しています。実際にはさらに遡り、二十五万前に最初の戦いがありました」

「なんてこと!」

「我々七竜システムはこの星に襲いかかる『極めて深刻な脅威』に備えてヒトの手により作り出された生体型人造決戦兵器」

「……ッ!」

「そしてマスターである貴方は、七竜システムの主制御を担うコアシステムとなります」

「ゼトラがコアシステムだってッ!?」


 マーカスが驚き、メルキュールが愕然とする。

 フィオリーナも、アイビスも、言葉を失い、ゼトラを見上げた。


「僕が……七竜システムの主制御……?」


 ゼトラもまた、当然ながらそんなことは初めて耳にする。

 眉をしかめて自分の両手を見た。

 しかしまたメルキュールがそれを遮り、テュールの肩を掴んだ。

 その目には抗議にも、怒りにも近い感情があった。


「ま、待ってよ! じゃあゼトラはアリス様の子供じゃないってこと? ゼトラは二十五万年前から存在してるって言うの!?」

「アリス様……とは?」

「アリスは……僕の母です」

「母……産みの親。人工子宮の揶揄ではなく、ヒト族の血が通う母体、という事ですか?」

「ええ。そう……だと思うんですけど……」


 テュールの問いに、ゼトラは自信なさげに消え入りそうな声で答えた。

 半ば泣きそうにも見えて、フィオリーナとアイビスがその手を握る。

 まるで不安をかき消すように。


「失礼、確認させてください」


 頭一つ分背の高いテュールがゼトラの頭に手を置いて、何か唱えようしたところで、弾かれるように手を離した。


「解析不可。絶対(アブソリュート)防壁ウォールの発動を確認。システム名ヒュイ・ラン・エルド。なるほど」


 テュールはじっとゼトラの目を見て、かすかに頷く。


「直接解析できませんでしたが、虹彩情報から体組織は自然生体由来で占められています。おそらくそのアリスという母体から産み落とされたものと推測されます」

「あ、そうなんだ……」


 ホッと胸をなでおろす一方でテュールは首を傾げて目を閉じた。


「ですが妙ですね。生体そのものはコアシステムのシグナルを発していますが、本来のものではない……。このパターンはマニュアルにはありません」

「……?」

「推定事項につき事象解析は保留。このまま話を続けます」

「あ、はい」


 また機械的な声で、冷徹に判断したテュールが再び口を開いた。



 二十五万年前、予見されていた『極めて深刻な脅威』の襲来に立ち向かうため、七竜システムと主制御たるコアシステムは誕生した。

 そして死闘を繰り広げた結果、星に住まう人類は全滅した。

 だが七竜システムに保管されていた人の卵が世界に解き放たれると、再び文明社会は蘇った。


 それを確認した七竜システムとゼトラ・システムは再度の襲来に備えて眠りについた。

 眠りについた場所は月である。


「月? 月って?」


 初めて聞く言葉に、メルキュールがまた遮って、どういうこと?と首を傾げる。

 しかしテュールは顔色一つ変えず、淡々と続ける。


「その答えは、十二万年前の襲来にあります」


 最初の戦いからおよそ十二万年後、再び襲来した『極めて深刻な脅威』との戦いは過酷を極めた。

 地上はまたも破壊しつくされ、人類は再び滅亡した。


 その戦いに於いて、七竜システムとコアシステムが眠りについた月も粉々に破壊された。


「これが在りし日の月です」


 空中にモニターが展開するとそこには美しく輝く白円が映った。


「キレイ……」

「これが……月……?」


 真円にも近いそれは、およそ半分ほどは薄暗いものの白く美しく光を放っていた。


「今や月の姿はなく、その破片が星を周回するばかり。人類は美しき月を見上げながら恋を語らった、と記録されています」

「こんな綺麗な星が、間近に周回してたのね……」



 再びの襲来を辛うじて撃退したものの、三度の襲来に備えなければならなかった。

 だが休眠地としていた月が破壊されたため、地上に移らざるを得なかった。


 七竜システムは地上に降臨し、誤って起動しないように、その行動を制限する封印鎖(シールアンカー)と制御システムを構築した。

 そしてコアシステムが七竜システムを封印しようとした時、何かが起きた。

 同時に七竜システムも暴走状態に陥った。


「暴走って……何があったの?」

「記録では何者かの攻撃を感知しています。詳細不明のそれを撃退するために我々は行動を起こしました」

「何者かの攻撃……」


 七竜は無秩序に攻撃を繰り返し、地上は次々と破壊されていった。

 だが人と亜人の勇気ある者たちによって、貴重な犠牲を払いながら辛うじて封印に成功し、ようやく七竜システムは眠りについた。


 そして十二万年の時が過ぎ、今に至る……。


「何があって、七竜は暴走したんだろう……」

「詳細は強制封印にあったため、不明です。記録には残っていません」

「そっか……」


 それにしても十二万年という年月である。

 よくぞここまで人類は生き残ったものである。

 その疑問をメルキュールがぶつけた。


「前々回、二十五万年前から十二万年前までの観察記録からの推測ですが、人類はそれまでも幾度か、数千年に一度の頻度で滅亡の危機に瀕しています。その事由については自然環境の悪化や自らの行いに依る物など。いずれにせよ滅亡寸前からの興隆を繰り返しながら、辛うじて今に至っているものと推測します」

「そっか、そりゃそうか……人類……人も亜人も、しぶといのね……」


 神話で語られていた真実を聞かされ、メルキュールは感慨深そうにため息をついた。


「鵜呑みにするのか?」

「十万年以上前の遺物であることは確定してるのよ? それともこんな凝りに凝った先史文明技術を使った(まが)い物をどこぞの誰かがわざわざ用意する?」

「そりゃそうだが……」


 マーカスは自分にとって理解を超えているのだろう。

 にわかには信じがたい、と首を振る。


「それで、その『極めて深刻な脅威』とは何なんだ?」

「はい。その原初の発生については記録にありませんので不明です。私たち七竜システム及びコアシステムは、『極めて深刻な脅威』をこの宇宙……世界に住まう全ての生命体、そして星そのものすら全て喰らい尽くす存在……。有機、無機に関わらずありとあらゆるモノ。万物の敵と認識しています」

「……人だけじゃなく、世界すらも……!?」


 メルキュールが衝撃を受けて息を呑んだ。


「それで……そいつはどこからやってくるんだ?」


 同じく絶句したマーカスが辛うじて発した言葉に、テュールはわずかに頷く。


「はるか遠い宇宙より」

「宇宙……!?」

「この星の外です。ヒトの一生では到底たどり着けない距離に、と推測します」

「そ、そんなところから……」


 その時だった。

 広い空間に突如として赤い光が明滅し、けたたましい音が鳴り響いた。


「な、なにッ!?」

「なんだこれはッ!?」


 一同がその反応に見渡し、警告を告げる知らせに表情を険しくする。

 しかし冷徹に告げたテュールの言葉に戦慄した。


「……『極めて深刻な脅威』の反応です」

予告。

突如として襲来した『極めて深刻な脅威』

未知の相手にゼトラは窮地に陥る。

そして少女たちの取る行動は。


次回「074.死闘の末」

お楽しみに。


ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。

本当にありがとうございます。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年11月16日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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