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065.機械は囁き

 ベアトリシュに勧められた宿にも最上階に五人で泊まれる大部屋はあったが、さすが安いだけあっていささか狭かった。

 セミダブルのベッドは二つ並んでいるが、その間隔は辛うじて一人分程度しかない。

 マーカスの寝床になる小さなシングルベッドは、その頭をセミダブルベッドにくっつくように置かれていた。

 何も考えずに、いつも通りの配置で奥のベッドにゼトラたち三人が、その横のセミダブルベッドにメルキュールが、そしてシングルベッドにマーカスが、とそれぞれ寝ることになった。


「ベアトリシュさん、幸せそうだったね」

「やっぱり結婚はいいわねー」


 寝間着に着替え、ベッドにそれぞれごろりと転がり、先程まで一緒になっていたベアトリシュ・デュアルト夫妻のことを思い出していた。

 再会を祝してこれまでのことや今後のことをたっぷり話してようやく夫妻の自宅を後にする頃にはいつもならもう寝ている時間である。

 それからお風呂に入って寝間着に着替えて、歯を磨いて、という頃にはだいぶ時計が回っており、倒れるようにベッドに転がり込んだ。

 既にフィオリーナはゼトラの腕を枕にウトウトとして幸せそうな顔で、アイビスも勿論、ぴったり寄り添って、ゼトラの腕に手を添えて眠そうに目を瞬かせた。


「もう寝ようぜ。明日も色々大変だしな」

「は~い」


 ふわ、と欠伸を殺したマーカスに促され室内灯をメルキュールが消す。

 おやすみ、と呟くように口々に挨拶をしてすぐに静かな寝息を立て始めた。



 そんな静寂を破るような灯りにマーカスが気づいて目を覚ました。

 時計をちらりと見ると、草木も眠る深夜である。


 その灯りの正体は、メルキュールのベッド、枕元を照らす光だった。


「……まだ起きてたのか……。寝ろよ……」


 モソモソと寝返りを打ち、寝ぼけ眼でマーカスが呟く。

 それに気づいたのか、メルキュールが明かりを消して、モソモソと毛布に潜り込む音が闇の中で聞こえた。


「ごめん。起こしちゃったね。ちょっと調べ物で思いついちゃってさ。急に目が覚めちゃった」

「熱心なのはいいが、夜更しは肌に悪いんだろ? 嫁の貰い手がなくなるぞ……」

「なによそれ。あんたは私のお父さんか」

「……兄のつもりだが」

「はいはい。お兄ちゃんは妹想いねぇ」


 いつもの軽口を叩き合いながら、マーカスはふと思い出したように、少しだけ頭をメルキュールに向けた。


「調べ物、邪魔しちまったな。すまん」


 その言葉は意外だったのか、プッとメルキュールが吹き出した。


「別に。なんとなく目処はついたから」

「そうか。ならいいんだが……」

「時々急にしおらしくなって気遣って優しくなるとこ、私は嫌いじゃないわよ」

「そりゃどーも……」


 クスクスと笑うメルキュールを無視するように、マーカスが背中を向ける。

 二人は微睡みの中に溶けるように眠りにつくのだった。



 なおこのベッドの配置だが、この判断は大変な誤りだったと気づくのは翌朝である。


 マーカスは強かにメルキュールに蹴られまくり、オープンスタイルな美しくも残念なお色気姿をこれでもかこれでもかと見せつけられた。

 朝起きて、マーカスはゼトラの肩に手を置いて懇願した。


「すまん……メルキュールとベッドを代わってくれないか……」

「あ……うん……」


 なんとなく察したゼトラは苦笑してそれを承諾したのだった。



 ともあれその日の午後、まずはカールウェルズ魔法工学研究所へと向かう事になり、駅前まで戻ると南区路線に乗った。

 始発駅の相変わらずのムギューっとした満車状態は次第に解消されて、ベアトリシュに教わった通り『カールウェルズ高等魔法術学校前』の停車場で降りる。


「ひゃー。面影なんもないわ~」


 降りた先、目の前にあった正門からキャンパスを覗きこんだメルキュールは半ば呆れるようにため息をついた。

 曰く、かつては古式ゆかしいレトロチックな建物な雰囲気だったのだが、今や様変わりして近代建築様式になっている。


 ちなみに午前中のうちに着替えの購入を済ませた一行は『郷に入っては郷に従え』の言葉に従って、現地人らしい身なりに変わっている。


 マーカスは袖のない白と茶色のチェック柄チョッキに白のシャツ、紺のパンツ。

 ゼトラは紺のチョッキに白のシャツ、濃いグレーのパンツ姿。


 女性陣はそれに合うようにコーディネートしたのか、メルキュールは濃紺のテールスカート、青色のストール風カーディガンを羽織った。

 フィオリーナは膝下のロングワンピースを腰でベルトで止めて、袖のないサマーカーディガン。

 一方アイビスは七分丈のパンツにミニワンピースを着て、薄手のサマーコートを羽織っている。

 脚元はもちろん、戦闘向きのブーツではなく、ヒールが低めのパンプスやレディースシューズといった可愛らしいデザインだった。


 どのスカートがいいかしら、と物色するメルキュールとフィオリーナと違い、肌を隠すような服を探すアイビスは、ゼトラの視線に気づいて頬を染めた。


「スカートは……ゼトラ以外に見せたくないから……」


 そう耳元で囁くアイビスにゼトラは高まる胸の鼓動を抑えるのに苦労した。


 無論、これ一着ばかりではなく何日か分の着替えも合わせて購入し女性陣は満足顔。

 マーカスは買い物くらい早く済ませてくれ、と呆れ顔。

 ゼトラはみんな可愛いなぁとニコニコ顔で、ようやく衣服店を後にしたのだった。


「研究所はこっちだと」


 マーカスがキャンパスの横に矢印を添えられた看板を見て、先頭に立った。

 それに続いて、フィオリーナがゼトラの左手に腕を回し、ゼトラの右手の袖をアイビスがちょこんとつまむ。

 メルキュールがマーカスの横に立って歩く、いつもの布陣になってキャンパスを囲む柵を横目にずんずん歩く。


「どんなやつなんだ? お前の知り合いって」

「研究者、発明家としては天才よ。超一流と言っていいわ」

「メルキュールにそこまで言われるとは相当なものだな」

「でも人間的にダメね。人格的に無理。かなり性格クズよ」

「辛辣だな」


 マーカスが思わず吹き出して、一体どんなやつなんだろう、と想像する。

 瓶底眼鏡にボサボサ頭、いかにもインテリ、学者然とした姿を想像しながら歩いている内に、キャンパスを囲う柵が切れ、また別の施設の柵があった。


「ここか。研究所ってのは」


 正門入口から堂々と入り、受付らしき所にメルキュールが覗き込む。

 受付はそのまま事務室に繋がっているようで、受付の女性職員の奥には机に向かって何やら書類仕事に勤しむ多くの事務職員の姿が見えた。


「ちょっといいかしら」

「はい、なんでしょう」

「こちらの研究所の所長さんって、テオドロ・レベンダールで合ってる?」

「え……まあ、はい」


 唐突に所長の名を出したメルキュールを相当警戒したのだろう。

 すわ何かの営業か、面倒事か、と露骨に顔をしかめてまるで睨みつけるように訝しがる。


「そう。んじゃ面会お願いできる? メルキー・マンハイムが会いに来たって伝えて」

「え……!?」


 その名を聞いて女性が耳を疑うように眉をしかめた。


「あの……メルキー・マンハイムさん……!?」

「そうよ。当時の学籍番号は1021-93568DCB」

「はうあっ!」


 女性職員が後ずさりながら、ガタガターン!と盛大に椅子から転がり落ちて尻もちをついた。


「メ、メ、メルキー・マンハイムさん……! 期末試験全教科満点を叩き出して首席卒業した、伝説の天才……ッ!」


 悲鳴にも近い声に、事務室にも動揺に近いざわめきが起きた。


「なんだって!?」

「嘘でしょ!?」

「キャー!」


 またもガタガターン!と盛大に椅子から蹴り飛ばす音を鳴らしながら受付の横、事務室の扉がおもむろに開いた。


「あ、あの、私は事務室長のマテオ・レティッツァと申しまして、メルキーさんがいらしたそうで……」

「ええ。あら? どこかで見た顔ね。確か広報室にいらした?」

「ひぇええーー! 本物ーッ!」


 まるでお化けの顔を見るかのように腰を抜かしかけて、後ずさる。

 だがすぐに立て直すと、揉み手をしながら頭をペコペコ下げた。


「えっと今日は所長にお会いになられたいと……」

「ええ。ちょっと相談ごとがあってね。在室かしら? 研究室を教えてくれたら直接いくけど」

「いえ! とんでもございません! どうぞ! 応接室にどうぞ!!」

「そう? あんま大げさにされてもねぇ」


 しかし事務室長も譲らず、後ろの方もどうぞ!と盛んにせがまれて、渋々応接室へと通されたのだった。

 腰まで沈み込むふかふかなソファーに腰掛けていると随分と高級そうな香りがする紅茶とクッキーを用意された。


「ただいま所長を呼んでおりますので、どうか今しばらく……」

「別に待つのは慣れてるから、そんなにかしこまらなくてもいいのよ」


 メルキュールも呆れたように笑い、早速ティーカップに手をのばす。


「なんかすげぇなお前」

「ふふん。見直したでしょ」

「ああ。下がりきった株がだいぶ上がってるぞ」

「その余計な一言!」


 メルキュールのパンプスが隣に座ったマーカスの足の甲を貫こうとして、ギリギリ回避した。

 マーカスも腰まで沈みこむこのソファーでは、メルキュールの膝丈スカートでは隠すべき所が見えてしまうのではないか、と一応気にして横目でチェックしつつ、膝の隙間をこっそりストールで隠す。


 メルキュールはそんなことは気づく事もなく、事務室に飾られた研究所が獲得したであろう賞状やらトロフィーやら、発明品の試作モデルやらを興味深そうに見渡す。

 と、そこに応接室をそっと覗き込む視線に気づいた。


「なぁに? なにかあった?」

「あう! すいません!」


 パタン、と閉じられた扉にメルキュールが近づくと、勢いよく開けた。

 そこには応接室の様子を伺おうと事務室のスタッフが押しかけていた。


「もーなんなのよー」

「す、す、すみません! あの、サインいただけますか!?」

「唐突ね」


 メルキュールが笑いながら、差し出された手帳にサインを入れる。

 すると私も俺にも僕にもと続々と差し出された。


「はいはい。順番ねー」


 メルキュールがそれに気前よく応じていると、応接室に向かってスリッパの足音が――。

 パタパタパタ、ドテッ、ガシャーン、パタパタパタと慌ただしく近づくのが聞こえた。

 ノックもせずに応接室の扉が乱暴に開かれ、駆け込んできた一人の男性。

 機械油で薄汚れた白衣のコートを翻し、肩で息をしながら膝に手をつく。


 全く手入れされてない茶褐色の髪、無精髭、熱で溶けたのかフレームの曲がったメガネがずり落ちそうになりながら、喜色満面の笑みを浮かべて顔を上げた。


「メルルン! 帰ってきてくれたんだね!」

「メ、メルルン……?」


 あまりに聞き慣れない呼び方に、メルキュール以外の四人が首を傾げる。

 一方メルルンと呼ばれたメルキュールは、うげぇと顔をしかめてそっぽを向いた。


「メルルンはやめてって言ってるでしょ!」


 露骨に嫌そうな顔をして、その白衣の男性……カールウェルズ魔法工学研究所所長、テオドロ・レベンダールを睨みつけた。


「首席と次席、君の最大のライバルであり無二の友人である僕だけが君をそう呼べる特権なんだ! 構わないじゃないか!」

「そんな特権認めてないし、ライバルとも思ってないし、無二の友人と認めた事もないわ」


 ぺっぺ、と唾を吐くようにしてメルキュールがへの字口を浮かべる。


「ハッハッハ! 相変わらず照れ屋さんだな君は!」


 そんな事は気にすることもなく、高らかに笑うのだった。

 はあ、とため息をついてメルキュールが顎をしゃくる。


「んで、あんた相変わらず機械いじりしてるんでしょ。エーテルモービルの研究どうなったのよ」

「おおっ! あれはようやくエンジンの小型化に成功して、コンパクトな車体に搭載可能な所まで落とし込むところまでこぎつけたよ!」

「じゃあ見せてよ」

「無論だ! 是非見ていってくれ!」


 さあさあ、とテオドロが先頭に立って、応接室を出た。


「それにしても勿体ないな! どうして君のような天才が冒険者なんかになったんだ! 君のような類まれな才能が冒険者だなんて、世界にとって、人類のとっての損失だよ!」


 テオドロの『なんか』という言葉にマーカスが少しムッとして睨みつけたが、メルキュールもそれを察してマーカスに頷き、肩をすくめる。


「その冒険者なんかの方が楽しそうだったからよ」

「ああっどうしてだ! 魔法と機械工学を融合させることで魔法を使えない者にも魔法の恩恵に預からせたい、と言っていた君の志はどこに行ってしまったのだ!」

「別に。在学中に残した基礎研究とか基礎理論とかで先鞭つけたから、後はそれを元に勝手に発展していくと思っただけよ」

「勿体ない! ああ、勿体ない! 君がここの所長ならどれほどよかったことか! 僕が所長になった所で、君が残した基礎研究や基礎理論を実現するのに精一杯だよ!」


 大げさに身振り手振りをしながら先を歩くテオドロに、呆気に取られながらついていく一行。

 廊下にはメルキュールが残した研究結果なのだろう、魔法と機械工学を融合させて実用化した内燃機関の試作モデルがずらりと並んでいる。


 そうしている内に、テオドロの研究室に到着したようで、扉を開けた先に広がる機械の数々に、思わずフィオリーナもわぁ、と感嘆の声を上げた。


 旋盤機といった工作機械からその成果物まで、そこら中に足の踏み場も無いほどに転がっている。

 何故か金貨や銀貨と行った現金硬貨まで散乱しており、その生活力の無さがよく伺えた。


「見たまえ! これが僕の最新研究結果、エーテルモービル実用試験モデル『サラマンダー』だよ!」


 そう自慢気に披露した一枚の金属の板。

 全長はおよそ二メートル程、幅は五十センチ、厚みは三十センチ。

 角は四辺とも丸みを帯びており、一見するとサーフボードのようにも見える。

 重量はかなりあり、八十キロと聞かされた。


「八十キロかー。まだちょっと重いわね」

「ハッハッハ!天才メルルンの手にかかれば厳しいね!もう少し軽量化はできそうだが、耐久性が落ちるから今はこれが精一杯だよ!」

「メルルンはやめろっつーの」


 舌打ちするメルキュールなど聞こえないように、ポーチを取り出すとカバーを開けて、棒の先端に押し付ける。

 すると金属の棒がスルスルと飲み込まれていき、あっという間にマジックポーチの中に消えていった。


「その代わりサイズ的にはご覧の通り、専用のポーチに収まる所まで小型化してあるから持ち運びには問題ないよ!」

「んで、使えるの?」

「無論だ。もう少し調整は必要だが、実用レベルでは問題ない」


 そう言ってまたマジックポーチから金属の板を取り出し、横のボタンを押した。

 するとどういうことか、板からハンドルらしき物が持ち上がり、二人がけの座席が持ち上がり、ガシャンガシャンとけたたましい音を鳴らしながら、あっという間に変形して大人二人程度が乗れそうな形状へと変わった。


「ふーん。まあまあ上手く出来てるわね。私の基礎設計をちゃんと見直してて改善点も見えるわ」

「そうだろうそうだろう。君の残した基礎設計資料は実に素晴らしいものだったが、変形機構のせいでやや耐久性に難があったため、試行錯誤の結果こういう形になった」


 自慢気に鼻をふくらませるテオドロを見て、メルキュールもやはり研究者の性がうずくのか興味深そうにそれを見る。

 そんなものを初めて見るマーカスはもちろん、ゼトラやアイビス、フィオリーナも、すごい!と目を輝かせた。


 メルキュールが基礎設計を行い、テオドロはその設計を元に五年の歳月をかけて実用試験モデルまでこぎつけたそれはエーテルモービルと名付けられ、小型のエーテルエンジンを備えた二人のりのハンディバイクだった。

 ポイントは車輪がない所であり、浮遊魔法で低空飛行し、推進力も別に備えることで、悪路走破性が極めて高い点である。


「ネックだった推進をエーテルエンジンに全て任せることで、浮遊魔法については搭乗者が魔力を流し込むだけで発動できるようにしてある。無論、魔力がない者ならエーテル電池で浮遊魔法を代用できるよ。速度は平均巡航速度は四十キロ、最大で時速九十キロ、耐久性を無視すれば百八十キロまで出せる」

「そんな無茶な速度は搭乗者にも扱えないでしょ」

「そんなことはないさ。慣れさ、慣れ」


 得意げに話すテオドロが、エーテルモービルのエンジンを始動させた。

 ガタン、ガタン、と大きな始動音が次第に安定すると、カタカタと小刻みな振動へと移った。


「ご覧の通り、調整ポイントとしてはエンジンの出力がやや安定しない所がまず一点」

「ふーん……ちょっと中を見せて」

「うむ!」


 メルキュールはエンジンを止め、床板の横の蓋を外すと、その中からエンジンと思われる基盤を引きだした。

 鉄板に覆われた隙間から高純度エーテル鉱の紅い輝きがあちこちに見えるそのエンジンにメルキュールが分析魔法と解読魔法を走らせる。

 そして詠唱文を引っ張り出すと、うわっと悲鳴を上げた。


「あんた機械いじりは得意なくせに、魔法詠唱文は相変わらずヒドイわね。無駄な記述がいっぱい」


 そう言うとものの十分もかからず詠唱の記述を整理し終えて、床板にエンジンを仕舞った。

 そして再びエンジンを始動させると、先程とは打って変わりフォン、と言う軽い始動音に続いて稼働状態に移行する。ほぼ音を発しない静かなものへと様変わりしたそれに、テオドロが感激したように目を見開いた。


「素晴らしい! さすがメルルンだよ! あっという間に解決してしまうなんて、さすが我が生涯のライバルであり唯一無二の友!」

「メルルンやめてって……」


 メルキュールがうんざりしたようなため息をつき、テオドロを睨む。


「んで、残りの調整は?」

「スピーカーさ!」

「は?」

「スピーカーの位置がなかなか決まらないんだ!」

「……それ、いる……?」

「なにを言ってるんだ! 小洒落た流行りの歌を流しながらクルージング! 快適な旅を支える音楽は欠かせないじゃないか!」

「……」


 メルキュールはやれやれ、と肩をすくめて、じゃあこことここのスペースに置いたら、と適当にアドバイスするとテオドロは嬉々としてそれをメモに取るのだった。


「じゃあ後はこの調整を済ませたら、あとは実用試験走行だよ! あぁ、素晴らしい。長年の課題が一気に解決するなんて!」

「テストドライバーは決まってるの?」

「まだだが、募集すればあっという間に埋まるだろう!」

「じゃあ私たちがやってあげるわ」

「本当かい!? それは願ったり叶ったりだが、一体どこまで行くつもりなんだい!?」

「少なくともバインクレ王国。ひょっとしたらそれ以上になるかもしれないわね」

「バインクレ! 随分と遠い……! だがそこまで安定して走破できれば間違いなくこのまま製品化だよ!」


 それはよかったわね、と肩をすくめてメルキュールが背筋を伸ばす。


「んじゃさすがにこれ一台に五人じゃ無理だから、もう一台と。あ、もう一台予備を用意してよ。あと消耗品とか耐久性に難があるパーツの予備とか。どれくらいかかりそう?」

「んんん……それなら一ヶ月ほどだろうか……」

「ちょうどよかったわ。それくらいここに滞在するつもりだから」

「そ、そうか! なら用意しよう! なんならその間ここに常駐しても構わないぞ!」

「そんなのお断りよ。私たちは忙しいの」


 つっけんどんなメルキュールの返答に、テオドロが顔を引きつらせて肩を落とす。

 そんなテオドロを睨むように見て、ポーチから何かを取り出した。


「もう一つあんたに聞きたいことあるんだけど」

「なんだい?」

「これ、見覚えある?」


 メルキュールが取り出した物。

 それはポルトガーベラで海の男が和国商人から手に入れたと言う爆発魔法が仕込まれた魔具だった。

予告。

メルキュールが突きつける和国製の魔具。

魔具製作の裏側に潜む恐るべき事実に、メルキュールの怒りが爆発する。


次回「066.真実を暴く」

お楽しみに。


ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。

本当にありがとうございます。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年10月30日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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