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059.曇天に振りかざし

 密かにドワーフ族救出作戦の打ち合わせを済ませた翌日。

 首都イザベリアでの再会を約束して、『明けの明星』はエストレーラ新婚夫妻と別れを告げた。

 まず向かった先は、メルホートの冒険者ギルドである。

 チラリチラリと背中に感じる視線に、メルキュールが苦笑する。


「尾行が下手くそなのか、遠慮なさすぎるのか……和国人も必死なのね」

「まさかギルドまで押しかけるつもりはないだろうがな」


 その視線を振り切るようにして、ギルドホールへ足早で駆け込んだのだった。


 カールウェルズ魔創公国の観光都市メルホートの冒険者ギルドホール。

 よもやギルド職員まで和国人だったらどうしようかと懸念される所だったが、幸いにも自由と公正、政治不干渉を謳う冒険者ギルドにまで和国政府の手は及んでいないようだ。

 職員もギルドマスターも地元出身の人間で固められていると聞いて、安堵した様子でほっと息をついた。


 窓口の受付開始間もない、朝早い事もあって冒険者の姿はまばらだった。

 およそ三十名ほどか。

 その人数を収容するには十分すぎる広さのホールは、寂しささえも感じた。

 しかし三十名ほどの冒険者のうち、地元カールウェルズ人の姿はおよそ十名。残りはすべて和国人だった。


「ったく。一体どこの国のギルドだよ……」


 マーカスは一人ボヤき、一行は報酬受取の窓口へ向かう。

 なお、アイビスは流石にちょっと慣れてきたのか、或いは予想はしていたのか、和国人を見かけても昨日のようにカタカタと身体を震わせる程ではない。

 もっとも、心細そうな表情でゼトラの腕にしがみついて歩く姿は哀れでもあったが。


 昨日完了させた護衛任務の報酬を受け取り、早速次なる依頼を受けるために掲示板に向かう。

 目的は既に決まっている。

 南へおよそ三十キロ。港町、ポルトガーベラである。


「やぁ、何か探してるのかい?」


 掲示板の前にいた和国人冒険者が、親しげな笑顔を浮かべて馴れ馴れしく話しかけてきたが、マーカスが曖昧な笑顔でそれに頷く。


「ああ、でかい帆船が入港してるって聞いてな。ポルトガーベラ辺りの依頼でも受けて、ついでに見物に行くかって話になってさ」

「へぇ。確かにあそこは、最近は大型帆船の入港多いね。なんでも南のアムスト大陸だけじゃなくて、遥か西へ、アルムス大陸に向かう船も多いらしいよ」

「そうなのか。それじゃあ相当賑やかそうだな。期待できそうだ」

「カールウェルズじゃ一番大きな港町だよ。期待に応えられると思う」


 この会話だけを聞いていれば、とても悪い人には思えない。

 とても人懐こい、良い友人にさえなりそうな第一印象である。

 しかしその裏でやっていることを既に知っているマーカスたちにとっては、やはりどこかで警戒する気持ちは残り続けた。


 依頼の一覧を見るマーカスの眉がピクリと動いた。

 同じ依頼を見つけたのか、メルキュールも軽く舌打ちして表情を曇らせる。


『亜人種の捕縛及び護送』

   ドワーフ族が住まう集落を発見した。これを捕縛しポルトガーベラまで護送せよ。

   報酬:金貨五十枚。

   達成期限:受注後一ヶ月とする。

   依頼主:在カールウェルズ魔創公国 秀和神民調和国大使館

   推奨ランク:シルバー級以上推奨


 ――クソが……ッ


 内心毒づきながら、興味なさそうにそれをスルーした。

 掲示板の一角にまとめられたポルトガーベラ近辺の依頼一覧から、目についた依頼の紙を何枚か剥ぎ取ると、円卓を囲むのだった。


「さて……と、どれがいいかな」


『建築資材倉庫の見張り』

『街周辺の巡回』

『建設現場の警備』

『商会会頭警護任務』


 等が書かれた依頼の紙を次々テーブルに置いていく。

 そのうちの一枚をメルキュールが取り上げた。


「なぁにこれ?『人食いクジラの討伐』?」

「なになにー?見せて見せてー」


 パタパタと手を泳がせて、それを奪い取るようにしてフィオリーナがその紙を受け取った。


『人食いクジラの討伐』

   ポルトガーベラ近海に人食いクジラが出没している。現地の人間と協力してこれを討伐せよ。

   報酬:一人に付き金貨二十枚を保証。討伐時は特別報酬としてギルドより金貨五枚。

   達成期限:受注後一ヶ月とする。

   依頼主:カールウェルズ魔創公国沿岸都市組合

   推奨ランク:カッパー級以上推奨


「すごいね。報酬は一人に付き金貨二十枚だって。討伐できたら特別報酬もギルドから金貨五枚出るみたい」


 フィオリーナに差し出された紙を見たゼトラが目を丸くする。

 アイビスもまたゼトラにぴったりくっついて、その紙を横から覗きこんで、うんうん、と頷く。


「一番報酬が美味しいのはそれか?あとは銀貨四枚、銀貨十枚……依頼内容も退屈そうなやつばかりだ」

「じゃ、それにする?」


 挑発するようにメルキュールが不敵な笑みを浮かべ、マーカスもニヤリとして頷いた。


「ああ……急ぎたいしな……」


 ポツリ、と言葉を残して依頼受注のために窓口へと向かう。

 現地の方と協力するように、と注文をつけられて、問題なく受注を済ませてギルドを後にした。


「さて、鬱陶しい視線も気にかかるし三十キロも歩くのも面倒だし、馬を借りるか」

「は~い」


 ギルドを離れると、馬をレンタルする場所に向かい、歩き出す。

 チラチラと背後に突き刺さる視線を振り払うように、つい足早になりながら向かう先の途中、公衆トイレがあった。

 それを見てマーカスがメルキュールに目配せをする。


「すまん、ちょっとトイレに寄るわ」

「あー。じゃあついでだし私も」

「じゃあここで待ってるよ」

「すまんな」


 フィオリーナが可愛く手を振って見送り、トイレから少し離れた所にある、通りのベンチに三人で腰掛けた。


「上手くいくかな……」


 少し不安げなゼトラに、アイビスが手を重ねる。


「大丈夫。二人なら、きっと……」


 その不安を和らげるように優しく微笑むのだった。


 朝早くとは言え、通りは通勤の現地の人もいてそれなりに人も多い。

 しかしやはり目につくのは和国人である。

 移住してきた者なのか、旅行者なのか、あるいは冒険者なのか。

 監視してるわけでも無く、単に興味本位なのだろうが、ベンチで待つ少年少女三人にチラチラと無遠慮に向けてくる視線が鬱陶しかった。

 アイビスが顔を伏せてそれを躱していると、そう待つこともなくマーカスとメルキュールがほぼ同時に戻ってきた。


「ま、待たせたな!」

「お待たせ~」


 メルキュールはいつも通りだが、マーカスがどこか少しぎこちなく笑って手を挙げる。

 どうやら上手くいったようだ、とゼトラは笑い返した。


「じゃ、レンタル馬屋に行こうよ」

「おう!」


 今度はゼトラが両脇に美少女を連れたち、先頭に立って厩舎へ向かった。


 その背後、公衆トイレから出てきたベアトリシュとデュアルトに振り向くこともなく。

 よもやそれが入れ替わったメルキュールとマーカスだとは遠くから監視する和国諜報員は気づいていまい。


 レンタル乗馬は冒険者だけでなく、一般観光客向けにも広く解放されていた。

 無論、乗馬のための技術は必要であるが街の外、近隣を歩き回るのに馬の脚は便利であるからだ。

 冒険者も嗜み程度には乗馬技術を身につけており、ゼトラもエイベルク王国で暇があった時にマーカスに教わって修得済みである。

 なお、どの馬も不意の事故で放馬したとしても、厩舎に戻ってくるように躾けられているため、専属の厩務員が同伴することはない。


 レンタル馬屋のオーナーが手もみをしながら案内された厩舎に入ると、十頭ほどの馬が一斉に嘶(いなな)き、仕事の時間か!と息こんでいるようにも見えた。

 深い衝撃を受けるような目をした賢そうな馬から、どこかおっとりとした表情で、遊ぼう、と誘ってくる馬、闖入者(ちんにゅうしゃ)に興味津々、と言った様子でじっと観察してくる馬。

 性格も実に様々で、一日見ているだけでも飽きないが、目的のために少々急ぐマーカスが、オーナーに声をかけた。


「オススメはいるかい?」

「こちらのサードステージは実にいいですよ。スピードだけならどの馬にも負けません。ただ脚元が少し弱いので長距離移動には向きません」

「ポルトガーベラまで行くつもりなんだ」

「ああ、でしたらこちらのクロスリングとダークレジェンドはいかがでしょう」


 そう言って二頭の芦毛の馬が並ぶ馬房に案内する。


「この二頭、単走では大したことないのですが、まるでお互いをライバルとでも思っているのか、競わせるとどこまでも走ろうとするんです。お急ぎならぜひオススメします」

「へぇ、いいね」


 他にもテイクオフ、アルシャイン、サンダーマウンテン、とオーナー自慢の馬を紹介されていったが、その先、一番奥の馬房でゼトラが足を止めた。


「おっと、申し訳ないですが、その子は貸し出していないんです」

「え?どうして?」


 その馬房のネームプレートを見ると、エクリプス、とあった。


「能力はとにかくピカイチなんです。無尽蔵のスタミナに、抜群のスピード。ただいかんせん気性が悪いんですよ。乗り手を選ぶどころか、この通り私にさえ威嚇する始末で」


 首をすくめるオーナーが手を出すと、白目を剥いて睨みつけ、威嚇するように、ブルン、と唸るようにして首を大きく振った。

 どうやら他のレンタル馬屋でも扱いに困り、回り回ってオーナーの所で引き取ったはいいものの、やはり扱いに困っていたようだ。


 しかし一方ゼトラはその馬に惹かれたのか、エクリプスの瞳をじっと見た。

 エクリプスもまた、ゼトラの視線から逸らすことなく、じっと見つめ返す。


「あ、ダメですよ、手を出しちゃ!ガブリとやられます!」


 慌てたオーナーの声が聞こえないかのように、ゼトラがそっと手を伸ばすとエクリプスは嬉しそうに鼻面を差し出し、その手の感触を楽しむかのように目を閉じた。


「……えぇ……?あんなに荒っぽい子なのに……」


 愛おしそうに瞳を閉じる名馬の美しい姿に、オーナーは呆然として立ち尽くした。


「エクリプス、ボクたち三人、乗せてくれるかい?」


 ゼトラがニコリと微笑むと、エクリプスが大きく嘶いて、それに返事をするように首を縦に振った。

 任せろ、と。どこまでも行こう、と言うように。


「オーナーさん、この子がいいんだけど、ダメかな」


 微笑むゼトラを見てオーナーは戸惑ったようだが、しかしいつも威嚇してばかりの気性の荒いエクリプスが、大人しく、というよりゼトラに甘える姿を見て、頷くしかなかった。


「分かりました。その子も最近はパドック以外じゃ運動できてないですし、ストレス解消にもいいでしょう。たっぷり乗ってやってください」

「ありがとう!」


 銀貨五十枚のレンタル料を支払うと、手綱に引かれて馬房から出てきたエクリプスは、さらにオーナーを驚かせる行動に出た。

 どうやって騎乗しようか、と戸惑うフィオリーナをちらりと一瞥すると、どうぞお乗りなさいな、と

 その場で前膝をついたのだ。


「えぇッ!?自分から膝をつくなんてッ!」


 人を乗せようと前膝をつく芸は当然ながら仕込んでいないし、前オーナーから仕込まれているとも聞いていない。

 人に従うどころか、威嚇すらして言うことを聞かない馬が、ここまで賢く従順になるとは予想もしなかったようで、オーナーは飛び上がるようにして驚いた。


 しかし長年馬の育成に携わってきたオーナーはすぐに理解した。

 この名馬は巡り合うべき主に、ようやく出会えたのだ、と。


 ゼトラを挟んで前にフィオリーナ、後ろにアイビスが乗り、エクリプスがさあ行こう!とまた大きく嘶く。


 マーカスとメルキュールはヘロドというスタミナが自慢の青毛が美しい馬を借りて、二人仲良く馬に乗った。


「手綱、しっかり頼むわよ」

「お、おう……」


 後ろからしがみついたメルキュールに促されて、マーカスが少しおっかなびっくりな様子でぎこちなく頷くと、二頭の馬は常歩(なみあし)で厩舎を後にしたのだった。



 急ぐのには、鬱陶しい和国諜報員と思われる視線を振り切りたい、という事もあったが、別にもう一つ理由あった。

 ドワーフ族救出作戦のために、少しでも早く三十キロ南の港町、ポルトガーベラに着きたかったからだ。


 街の外に出ると、ゼトラの指示を待ちきれなかったように、速歩(はやあし)で駆け出すエクリプス。

 久々の乗馬に気が乗ってきたのか、軽速歩(けいはやあし)、駈歩(かけあし)へと速度をあげていく。

 その後ろをヘロドにまたがるマーカスとメルキュールは、それについていくのが精一杯だった。

 約十三キロ離れた廃村に、ものの一時間も経たずに到着する頃には、エクリプスは襲歩(しゅうほ)に近い速度で到着したのだった。


 どうどう、とゼトラの停止指示に従うように、エクリプスは鞍上の三人を振り落とさないようにゆっくりと脚をとめて、勝利の雄叫びを上げるように嘶いた。

 ゼトラが先に降りて、フィオリーナとアイビスを受け止めると、エクリプスの首筋を優しく撫でる。


「ありがとね。すこし休もうか、好きにしてていいよ」

「すごく速かった!ありがとう!エクリプス!」


 フィオリーナの激賞とゼトラの優しい言葉に嬉しそうに頷くと、手綱を離されたエクリプスは、道端の青草を美味しそうに食むのだった。


 それから少し待っていると、遅れてマーカスたちもやってきた。


「ゼトラさん!さすがに早すぎますよ!」


 マーカスが苦笑しながらぜいぜいと息をつく。

 メルキュールもまたヘロドから降りると、痛たた、と腰を抑えてうずくまる。

 スタミナ自慢のヘロドもさすがに十三キロの道のりを駆け通しでは疲れたのか、大きく肩で息をしながら、もうここでいい?と懇願するようにゼトラを見た。


「ね、アイビス。馬にも回復魔法(ヒール)って効くのかな?」

「え……やったことないけど……どうかな……」


 アイビスが首をかしげる横で、ゼトラが回復魔法を発動させた。優しい光でヘロドを包み込むと、ふわりと鬣(たてがみ)が風に舞い上がる。

 元気が戻ったのか、ヘロドが大きく嘶いて、笑うように歯茎を剥き出しにした。


「あはっ、効いたみたい」


 フィオリーナも笑ってその首筋を撫でると、まかせて!と言うようにヘロドが大きく首を縦に降る。

 ポーチから水タンクを取り出すと、廃村に転がっていた馬桶に注ぎ足して、エクリプスとヘロドはそれに口をつけた。

 それを微笑んで見守っていたが、しかし急ぐ旅路である。


「じゃあベアトリシュさん……じゃなくて、メルキュールも大丈夫そうならポルトガーベラに急ごう」

「了解~」


 マーカスの回復魔法を腰に受けながら、メルキュールは手を挙げるのだった。



 それからまた約一時間後、一行は南の港町、ポルトガーベラに到着していた。

 一望できる丘から見下ろすと、カールウェルズ魔創公国最大の港町、という通り都市の規模も中核都市並の広さを誇っていた。

 また、整備された残橋に多くの帆船が横付けされている。

 行き交う商人が帆船に商品を運び込む指示を出しながら、それに従って人夫が行列を組んでいる。


「さて、こうしちゃいられない。トリシュ、頼むよ」

「は~い」


 あくまでメルキュールを演じるベアトリシュは呑気に返事をすると、馬を預けに厩舎へ向かう。


「じゃあエクリプス、ヘロドもそこでちょっと待っててね」


 ゼトラが首筋を撫でると、主人の健闘を祈るようにひん、と軽く嘶いて首を縦に振る。


 そしてドワーフ族救出急襲作戦を決行するべく、いかにも腹痛、と言わんばかりの顔色悪いメルキュールを支えるように五人で一部屋の宿に入るのだった。


 さて今回の作戦についてあらましを確認せねばならない。



 前日、ドワーフ族救出作戦を前に、マーカスはデュアルトに確認した。

 広場で見かけたドワーフ族は、どうなるのか?と。

 デュアルト曰く、恐らく和国に連れて行かれるであろう、と言うことだった。

 これまでも多くのドワーフ族が、帆船に詰め込まれて海へと出たので、恐らく和国へと連行されるのは間違いないそうだ。


「エイベルクは通らないんだな?」

「ええ、間違いありません。エイベルクと和国の間で結ばれている通商協定は、交易路を通っていいのは商人とその商品のみ、と定められています。それが愛玩奴隷であれ犯罪者であれ、人身輸送はこれに違反します。ですから間違いなくポルトガーベラへ連行されます」


 陸上経由ならまだしも、海に出られては手出しができなくなる。

 ならばポルトガーベラへ向かう途中でこれを強襲してドワーフ族を救出せねばなるまい。

 まさに最初で最後のチャンス、一回限りの勝負である。

 そこでマーカスとメルキュールが知恵を絞って考えた作戦はこうだ。


 ドワーフ族を連行する馬車を、途中で待ち受ける。

 地図を確認した所、おあつらえ向きに廃村があったため、そこを作戦決行の現場とした。

 そこで幻覚魔法で捉え、前後不覚となっている間にドワーフ族を救出する。

 そしてメルキュールが異界のゲートを開き、送り込む。

 それが終了したら、速やかに撤収する。


 だがこの作戦にあたって、いくつかの問題点があった。


 まず一つ目は、『明けの明星』を監視する和国諜報員が張り付いている事だった。

 そして二つ目は、いくらメルキュールと言えど、幻覚魔法と異界のゲートを繋ぐ魔法を同時に発動することはできない。


 異界のゲートを開くのはメルキュールにしか出来ないため、幻覚魔法はメルキュール以外にやってもらうしかない。

 さらに、異界のゲートを繋ぐためには『座標合わせ』のために一時間以上もかかるのも大きな問題だった。

 幻覚魔法で捉えてから一時間かけて、のんびり異界のゲートを繋いでいる間に目撃者が出る可能性が高くなる。

 そうなると、どうしても先行して異界のゲートを繋ぐ時間稼ぎが必要だった。


 これらの問題を一挙に解決する手段として、マーカスがデュアルトに、メルキュールがベアトリシュと入れ替わる、という策を考えた。


 その作戦は実行に移され、馬を借りる前にマーカスとメルキュールが公衆トイレに駆け込んだ際に無事にやってのけた。

 ベアトリシュの姿を幻装魔法(ミラージュ)でメルキュールに変える。

 メルキュールの姿をベアトリシュに変える。

 男性の方も、デュアルトがマーカスの姿を自身に変え、自身をマーカスの姿に変えた。


 この入れ替わり作戦は見事成功し、後をつける視線は疑うことなく、化けたマーカスとメルキュールを連れたゼトラに目を向けたようである。


 一方、ベアトリシュとデュアルトの姿に入れ替わったメルキュールとマーカスは、念の為尾行が着いていないことを確認してから、密かにドワーフを連行する馬車を待ち受けるため、先行して廃村へと向かっていた。

 廃村で幻覚魔法を仕掛ける魔力補助の元となるエーテル鉱石の仕込みをマーカスが。メルキュールは異界のゲートを繋ぐ『座標合わせ』を行っていた。


 そして幻覚魔法を発動させる役として、白羽の矢が立ったのは、ゼトラだった。

 エルフ族の幻覚魔法を喰らった後、見様見真似で詠唱文を構築したメルキュールオリジナルの幻覚魔法を詠唱送記でゼトラに渡した。


「発動範囲は四方を囲んだエーテル鉱の内側限定。発動基本原理はこれで問題ないのだけど、強度の加減が分からなかったから、一発勝負になるわ。引き出す魔力量で強度をざっくり調整できるようにしておいたから、ゼトラの直感で発動させてね」

「わかった」


 ニコリと笑い、ゼトラは幻覚魔法を修得したのだった。

予告。

決行されるドワーフ族救出作戦。

無事和国の手から取り戻す事ができるのか。


次回「060.急襲する光の矢」

お楽しみに。


ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。

本当にありがとうございます。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年10月24日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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