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051.絡みつく陰謀を

 ゼトラがレイモンド・フォークやオリバー・レクツァトと連絡するためのリンクドスネールを用意しておきたい、いうのでメルキュールはそれを快く引き受けた。

 そのためニアベルクには引き続きの滞在となった。

 メルキュールが宿に引きこもる中、マーカスとゼトラ、フィオリーナ、アイビスたち四人はいくつかの依頼を受注した。


 一つはスラム街の巡回警備。ニアベルク駐屯兵団が依頼主である。

 以前からスラム街は犯罪者の潜伏先になりうると懸念されていて、数週間後に情報提供を予定されていた依頼だったのだが、今回の『蒼炎』の事件を重く見たニアベルク駐屯兵団は、ニアベルク冒険者ギルドと協議した結果、その予定を繰り上げて依頼が提供された。

 全域に渡るため、冒険者たちの手も借りたい、ということで徹底的に巡回警備を行い、その犯罪の目を潰していっただけでなく、身寄りのない子供や、不幸にもスラム街へ流れ着いた者を積極的に保護し、更生施設へと届けたのだった。


 もう一つは駐屯王国兵団の練度向上依頼。

 この依頼は非常に珍しいらしく、一年に二度あるかないかと言う。

 目的は王国兵の強化にあり、普段は王国兵団の中だけで訓練が行われているが、様々な戦い方を知り、練度の向上に繋げたいという意向により、冒険者も自由に参加して合同で訓練を行うものである。

 報酬は銀貨二枚と極めて安価だったものの、冒険者たちも己の鍛錬につながるのであれば、多くが意気込んで参加した。

 三日に渡って行われた合同訓練の一貫で模擬戦も行われ、特にマーカスとゼトラの戦いぶりは絶賛の嵐となった。


 最終日には選抜三十二名によるトーナメント戦も行われた。

 ベスト四に勝ち進んだマーカスは、駐屯兵団最強と呼び声高いルクシュタール・エングフォアと名乗る剣士にあと一歩及ばす敗退した。

 しかし、その決勝の相手となったゼトラは、皆が息を飲む激しい攻防の末、ただの一度も致命打を貰うことなくこれを圧倒した。

 決め手となったのは、ルクシュタールの木剣をその根元から叩き折り、尻もちをついた所で喉元に当てた剣の切っ先だった。

 ルクシュタールが思わず手を挙げて、参った!と降参を告げると、審判が勝負ありッ!とゼトラの勝利を告げる。

 万雷の拍手、指笛、絶叫にも近い大歓声が嵐の如く駐屯兵団修練所に巻き起こった。


「いや、見事だ。あまりの動きの速さに、ついていくので精一杯だったよ。完敗だ」

「こちらこそ、本当に斬られるんじゃないかっていうくらいの裂帛(れっぱく)の気合に圧倒されました。紙一重でした」

「謙遜しなくていいさ。君の強さは本物だ。恐らくエイベルク王国において君に敵うものはいまい」


 固く握手を交わすと、ルクシュタールはひょい、とゼトラを肩車にする。

 その勝利を讃えるように、我が朋友に栄誉を!と叫ぶと、また一段と大きな歓声が湧き上がり、歓喜の渦の中で激賞されたのだった。


 なお、ルクシュタールは表向きの肩書はニアベルク駐屯兵団、駐屯兵隊長直属特務隊長である。

 だが裏の顔は、エイベルク王国最強の隠密部隊『夜鴉(やがらす)』の一員だった。

 王族……ギュスターヴ国王陛下の目の代わりとなって、エイベルク王国の隅々まで目を光らせ、何か異常があれば即時報告する任を受けている。

 その信は厚く、ルクシュタールの報告についてはギュスターヴ国王は何ら精査することなく鵜呑みにして対応の検討に入る。

 その裏の顔は当然エミリーも知る所であり、協力して国境都市を守護する任を受けている。


 そして、ゼトラが『蒼炎』と相対したあの廃屋の二階で、ゼトラの殺気をもろに浴びた一人でもある。

 そういう意味では、戦う前から既に決着はついていたと言ってもいいだろう。

 ルクシュタール本人はゼトラと相対した時点で恐怖に支配されており、半ば意地、ヤケになってゼトラに剣を振るっていたのだから。


 また、この訓練の最中、フィオリーナは自分に合う武器を見つけたようである。

 それまで護身術としてダガーナイフの取り扱いをマーカスに習う以外に、ゼトラと同じ武器を、ということで、ショートソードの練習をしていた。

 しかし片手で扱うにはまだまだ筋力も弱く、体の成長も追いついていないせいでバランスも悪いのか、いまいち合わなかったようだ。

 そこでフィオリーナの体躯でも扱える武器は何か、と王国兵に助言を請うた所、長槍を紹介された。

 これが実にフィオリーナの手にあったようだ。


「どう?すごくないっ!?」


 自分の背丈以上の、百五十センチの槍をクルクルと回して、えっへん、と構える。


「うん!かっこいい!」


 パチパチと拍手するゼトラに得意満面の笑みで応え、可愛らしく鼻をつん、と天に向ける。

 フィオリーナの指導役となった女性兵士から槍の扱いのコツ、扱うための基礎体力強化メニューを教わりフィオリーナはこれを日々実践していくことになる。


「いいかしら。先程も言った通り、長槍はリーチの短さをカバーする、突きと払いの連続技がコツよ。これを扱う筋力は勿論あった方がいいのだけど、筋力をつけすぎると肝心の動きのキレが悪くなるわ。自分が最も動けるベストな体型を探り続け、維持すること。特に下半身の強化は槍の扱いの決め手となるの。一日とて怠らず、しっかりと鍛錬を積み続けるように」

「はい!ありがとうございます!」


 ニッコリと、しかし勇ましく応える美しい少女に思わず見惚れる女性兵士。

 さながら魅了魔法にかかったように惚けたが、少し首を振って、がんばって!と激励する。


 後にその女性兵士は、あの『閃撃の瞬雷』に槍の扱いを最初に教えたのは私よ、と鼻高々に自慢して語ることになるのだが、その話はずーっと先の事である。




 その翌日の朝。


「おはよ……」

「おはよう」


 アイビスに頬をぷに、とつつかれて、ゼトラは目を覚ました。

 ゼトラは大きく欠伸をして左右を見る。

 フィオリーナはまだぐっすりと眠りこけ、体力回復中のようである。

 アイビスは横向きになって、ふふ、と上目遣いで悪戯っぽく笑い、ゼトラも、仕返し、とアイビスの頬を優しくつつく。

 アイビスはくすぐったそうに身をよじらせると、朝のシャワーを浴びるため鼻歌交じりの軽やかな足取りで部屋を出ていった。


 あれからアイビスは毎日のように同じベッドで寝るようになってしまった。

 あの日の翌日はまた元通りに、と思ったようだが、ゼトラの温もりが忘れられなかったのか。或いは寂しかったのか。まだ不安に思ったのか。


 しばらく一緒にいい?と顔を赤らめ、申し訳なさそうに俯く姿に、ゼトラは明るく笑ってその手を引いた。


「次からはダブルベッドの部屋にするか」


 マーカスは三人がシングルベッドにぎゅうぎゅう詰めになっているのを見て、呆れたように吹き出して言った。


「そうしてもらえると……」


 アイビスが恥ずかしそうにそっぽを向くのをみて、さらにマーカスは吹き出すのだった。


 マーカスの方針としては、年頃の女性もいるし、万が一シャワールームやトイレで鉢合わせするトラブルが起きればお互い気まずく、恥ずかしい思いをするだろうし、その対応も困るだろうから、と必ず部屋を二つ取っていた。

 だがメルキュールも交えて協議を重ねた結果、部屋代も割安になるし、その辺りのトラブルを避けるためのルールを徹底すれば良いのでは、と言う結論に達した。

 五人で一部屋を借りるようになったのはこの頃からである。


 以来、それまで遠慮がちにゼトラとフィオリーナのベッドに潜り込んでいたアイビスは、マーカス、メルキュール公認の元で堂々と同衾するようになった。


 さすがに俺たちもいる前で一線は超えないだろ?とヒソヒソ声のマーカスのメルキュールを、そんなことはしない!と顔を真赤にして眼力で殺しに来るような視線で訴えるアイビスに、首をすくめて笑うのだった。


「女子トーク時間は減っちゃうわねー」


 ボヤくメルキュールの膝の上でフィオリーナがごろりと転がった。

 最近宿の部屋にこもりっきりで構ってもらえず寂しかったのか、手足をパタパタとするフィオリーナに、メルキュールもくすぐるように脇をつついた。


「お風呂の時間が大事だね!」

「そうね!いい?今後は大浴場つきの宿は必須だからね!」

「はいはい」


 無邪気にじゃれあう女子二人の要望にマーカスが笑って承諾し、ゼトラも釣られて笑うのだった。


 もちろん、五人でいる時間が増えたメリットもあり、寝る間際まで情報の共有や戦いのアドバイス、連携の打ち合わせを濃密に行うようになった。

 戦闘での連携が飛躍的に向上するのもこの頃からである。




 さらにその翌日。

 さて今日はどんな依頼を受けようか、と掲示板を物色していた所、総合窓口の女性職員から声をかけられた。

 ギルドマスター、オリバー・レクツァトが呼んでいると言う。

 すぐにマスタールームを訪れると、オリバーが深刻そうな顔で待ち受けていた。


「何かあったか」

「ゼトラ様、ご足労申し訳ございませぬ。昨日の『蒼炎』の件で『明けの明星』全員に直接お伺いしたい事あるため、駐屯所に出頭するよう要請が届いてございます」

「駐屯所……?」

「ええ、正門通りの右、詰め所になります。ご足労願えますでしょうか」

「うん。構わないよ。マーカスは?」

「ふむ……。ま、事情聴取程度だろうし、構わんさ。とりあえずメルキュールも呼ぶぜ」

「宜しくお願い致します」


 オリバーの丁寧な一礼を受け、宿に引きこもっていたメルキュールを呼び出し、揃って駐屯所へと向かうのだった。



 駐屯所に入ると、滞りなく二階の小さな会議室へと通された。

 会議室には駐屯兵隊長のエミリー・ラインベルクは当然として、ルクシュタール・エングフォアも同席しており、そしてなんとレイモンド・フォークも既に着席してゼトラたちの到着を待っていた。


「おや、ゼトラ様もお呼ばれいたしましたか」

「ええ。レイモンドさんも……?」

「おかげで今日の小学校は自習になってしまいました。子どもたちに可哀想なことをしましたよ」


 小声のチクリとした嫌味が聞こえたか、エミリーの眉が一瞬動いたが、聞こえなかったようにまっすぐに顔を向ける。


 その目の前には、巨大なリンクドスネールがあった。

 その上には細長い筒のようなものが据えられている。


「君たちも空いている席に掛けたまえ」

「はあ」


 エミリーから空いている席に自由にと言われつつ、しっかりゼトラの両脇に、んしょ、と席を密着させるように近づけて着席する美少女が二人。

 それを見て、エミリーが驚いて、最近の子は随分と交際に積極的だな……とブツブツと呟いていたが、婚期の妙齢に差し掛かって危機感でもあるのか。


「そろそろ時間だ。よろしいな」


 時計がまもなく十時を指す頃に、エミリーはリンクドスネールを起動させた。

 ブン、と短い魔法の発動音がして、白い壁に映像が表示された。


「へー。最近のは映像まで転送できるようになったのね」


 メルキュールがその性に逆らえず、興味津々と言った様子でそれを見て、あとで解析してみたいわ、と呟いた。


 しばらくすると何も映っていなかった映像に、ギュスターヴ国王の姿が映った。

 フォーカス調整中なのか、何度かカメラのアングルが動くと、なんとギュスターヴ国王以外にも政府の諸大臣が全員出席しており、ダニエル・アルベルトの姿まで映る。

 アルベルトの顔は非常に厳しいものだったが、向こうの映像にもゼトラの姿が映ったのか、嬉しそうに微笑んだ。

 しかしギルドマスターであるダニエル・アルベルト、オリバー・レクツァトが出席するのは理解できるが、ユングスタイン亡王国宰相の子孫を名乗るレイモンド・フォークまで同席するとなると、一気に政治的な度合いが増す。

 ユングスタインに関わることが語られるのは間違いと思っていいだろう。

 それを理解しているのか、アルベルトの顔つきが再び厳しいものに戻っていた。


「さて、映像の調整は済んだようだし、早速始めようか」


 ギュスターヴ国王が促すように右手の男性に視線を向けた。


「はっ。では此度の会議はギュスターヴ国王陛下主催の許、進行は私、エイベルク王国政府宰相、アシュトン・ラインベルクがその任を賜りました。国王陛下を除き、出席者の発言は私の許可があって認められます」


 ピリッとした緊張感が走り、ゼトラは勿論、左右の美少女までも、まっすぐに背筋を伸ばして映像を見る。


「では最初に、此度の議題提起の前に、内務卿バーナード・ウィーバーよりその前提となった事件について報告を求める」

「ハッ」


 名を呼ばれた壮年の男性が起立して立礼すると、今回の『蒼炎拉致事件』及び、立て続けに発生した『魔獣氾濫事件』のあらましについて報告があった。


「……以上、此度の報告については国境都市ニアベルクに同席している冒険者パーティ『明けの明星』のメンバー、メルキュール・ディミエによる、この二つの魔具の分析結果が元になっております。その分析結果については王立魔法研究所より報告あり、相違なしとの見解がございます。報告は以上になります」


 うむ、と宰相が頷き、内務卿が着席する。


「以上により、秀和神民調和国による我が国に対する侵略行為は明白であり、これにどう対処すべきかが本議題となります」


 しかし宰相は一瞬言葉を言いよどみ、ただ……、と続ける。


「匿名の情報提供により、今回の情報提供者である『明けの明星』の素性について疑義があるとのこと。ついて和国の策謀と定めるのは早計との異議申立があります」


 ――素性だと……ッ!?


 それまで、何故エイベルク王国の政治の話に自分たちが同席しないといけないのか?と疑問を抱きながらその映像を見ていたマーカスの顔が、急に険しくなった。


「と、言うと……。どういうことかな?」


 ギュスターヴ国王は顔色一つ変えず、宰相に視線を向ける。


「はい……。その……」

「申したまえ」

「ハッ……。そちらのゼトラ・ユーベルクの真の名はゼトラ・ユングスタイン。そしてマーカス・マンハイム、メルキュール・ディミエ、アイビス・ゼオンドーター、フィオリーナ・ルシフェルドは、亜人種が一種族、魔族ではないか、との疑う報告です」

「ッ!?」

「……つまりは、ユングスタイン亡王国の遺児であるゼトラ・ユングスタイン。魔族であるマーカス・マンハイムらにとっては、秀和神民調和国は共通の敵と言えます。今回もたらされたこの二つの魔具。そして魔獣氾濫騒動は彼らによる策謀。すなわち、我がエイベルク王国と和国を仲違いさせ、武力衝突に持ち込むための策謀ではないか、というのがその主張です」


 宰相の発言を待たず、諸大臣からどよめきが湧いた。

 魔族だと!?ユングスタイン王家の生き残りとは!と囁きあう声がゼトラの耳にも届いた。


 つまり、『魔獣氾濫事件』を引き起こしたのは『明けの明星』である。

 和国人の冒険者から手に入れたという魔具、『蒼炎』が持っていた魔具すらも『明けの明星』が用意したものであり、それを和国の物であると主張し、『魔獣氾濫事件』と結びつけた。

 そしてユングスタイン王国再興と亜人諸国再興のために、エイベルク王国と和国を軍事衝突させ、その漁夫の利を得ようとするものである。

 ……という主張内容に、マーカスが机をバン、と叩きつける。


「待ってくれッ!冗談じゃないッ!そんな無茶苦茶な主張が通るものかッ!」


 マーカスが堪らず声を張り上げ、もう一度抗議するように、ふざけるなよッ!と椅子を蹴り飛ばした。


「静粛に!発言は私の許可あってから行うようにッ!」


 宰相の鋭い声で、そのざわめきはシンと静まる。マーカスも舌打ちして、椅子を戻して着座した。


「ではよろしいか」


 静まり返った所に挙手したのは、アルベルトだった。


「ダニエル・アルベルト殿、どうぞ」

「では僭越ながら申し上げれば、一介の冒険者である『明けの明星』一行にそのような政治的謀議をかけるとはギルドマスターとして看過できない。『相互不干渉協定』に明らかに違反する内容であり、厳重な抗議を行うと共に、その匿名の情報提供者に対して厳罰を要求する。発言は以上だ」

「……ふむ」


 ギュスターヴ国王の口角が少し上がり、列席する諸侯を見渡す。


「と、いうことであるが、他、大臣より反論はあるかね」

「では恐れながら」


 国王に促されるように、少し甲高い声の男性が手を挙げた。


「交易卿フレック・ラザフォード殿の発言を認めます」

「はっ。アルベルト殿が持ち出す『相互不干渉協定』こそ、その一介の冒険者たる『明けの明星』が抵触しているのではないか。すなわち冒険者を隠れ蓑に、ユングスタイン王国再興を主目的として政治活動を行っているのではないか?発言は以上だ」


 その発言を待たず、馬鹿な!とアルベルトが思わず机を叩く音が響く。


「では私からもよろしいか」

「うむ。財務卿モーガン・ドナルド殿」


 低音の、ボソボソとした声が聞こえる。


「では僭越ながら。ゼトラ・ユングスタインが真の名であれば、蒼雷の戦姫と讃えられたアリス殿はその母と聞く。であればアリス・ユングスタインが真の名か。その年齢から推測するに、噂に聞く二十五年前に脱出した王族の生き残りと言うことか。そして過去にはその冒険者パーティとして同行したダニエル・アルベルトはユングスタイン亡王国の生き残りであろう。されば冒険者ギルドマスターという要職にあって密かに王国再興を夢見るとは、君こそ『相互不干渉協定』に抵触するのではないかな。発言は以上」

「ふざけるなッ!言いがかりだッ!」

「静粛に!不規則発言はやめたまえ!」


 激昂するアルベルトの声を、宰相が制する。

 明らかに怒りを抑える表情が見て取れて、ゼトラは思わず泣きそうになってしまった。


 ――どうしてこんな事に……。


 最悪の状況だった。

 諸大臣の反応を映像で見る限りでは、明らかに分が悪いように見える。

 その疑いの眼差しが、ゼトラを始め、アルベルトにも突き刺さっている。

 味方であるはずのギュスターヴ国王までも疑っているのか、冷淡に目を細めていた。


 王国再興を夢見ているのは紛れもない事実である。

 だが決して冒険者を隠れ蓑に、政治活動をしているわけではない。

 あくまでも王国再興の手がかりを掴むため冒険者稼業をやっているのだ。

 或いはそれすらも政治活動と糾弾されることなのか。

 もっとも、本格的に王国再興を目指すことになれば、冒険者稼業は廃業となるのは間違いない事ではあるが。


 しかし見方、視点が変わると、或いは少ない情報から推測すると、そういう風に判断されても仕方のないようにも思えた。

 ゼトラは極めて不安定で危うい自分の立場を思い知った。


 よもやこんな形で陰謀の舞台に巻き込まれるとは、想像すらもしていなかっただろう。

 王国を再興したら、このような政治劇に身を置くことになる。

 ゼトラはそれを想像すると、双肩にかかる荷の重さに、気も重くなっていた。


 何も発言することもできず、俯いて、震える拳を見つめる。

 だが、その左手にフィオリーナが、そして右手にアイビスの手が重なった。

 優しい温もりに、ふっと気が晴れたように、二人を見る。

 二人もまた、ゼトラの心情を察したのか、その瞳を潤ませていた。


 大丈夫よ、私たちがついてる。


 そう訴える瞳に、ゼトラは力なく微笑んだ。

 しかしこの状況を打破しなければならない。


 ゼトラは当然のことながら、この状況を打破する術はない。

 ちらりとマーカスとメルキュールを見たが、二人共怒りを堪えるのが精一杯で、どう反論しようかと言いあぐねているようだ。

 また一方のオリバーはさらに酷く、怒りを全く抑えきれていない。

 普段の温厚な姿からは想像もつかないほど、眉間にシワを寄せ、怒鳴り散らすのを我慢するように歯を食いしばっている。


 そして……。


「ゼトラ様、どうかここは私めにお任せを」


 レイモンドがニコリと微笑み、忠義を示すように胸に手を当てて、一礼した。


 …………居た。

 この最悪の状況を打破する術を持つ者が、ここに居た。


 ユングスタイン王国宰相の子孫を名乗る、レイモンド・フォークの起死回生の策謀が炸裂する。

予告。

窮地に追い込まれる『明けの明星』とユングスタインの旧臣たち。

そこにレイモンド・フォークの智謀が炸裂する。

それを冷徹に見つめるギュスターヴ国王は果たして味方か、敵か。

次回「052.振り払うその手を取って」

お楽しみに。




ここまでお読み頂きありがとうございました。

執筆を続けるモチベーションになりますので、

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年10月16日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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