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040.蒼炎の火の粉は

 一行が予約していた宿はウルスタットの冒険者ギルドの近くにあって、その周囲には冒険者のための酒場が多く軒を並べていた。

 そのためか、通りにはまもなく夕暮れというのにひと仕事を終えた冒険者たちで賑わっている。

 同業者の女性にちょっかいをかけて張り倒される者、酒瓶を片手に酔いの回った様子で肩を組んで語らう者、何やら奇声を上げて笑い声を上げる者。

 喧嘩に発展したのか、胸ぐらを掴みあう冒険者に、駐屯の王国警備兵がその仲介にあたっている。


 その賑やかさは一般人にすれば近寄りがたい雰囲気はあったが、ゼトラたち子どもたちにとっては日常風景のように見えるほどすっかり慣れていた。


 酔っ払いたちを避けるように通りを歩いていると、ゼトラたち三人に向かって、フラフラと一人の男が酒瓶を片手に千鳥足で引き寄せられるように歩いてきた。

 今にもアイビスの肩にぶつかる、というタイミングでアイビスはスッと鮮やかな体捌きでそれを躱すと、ゼトラの背後に隠れた。


 故意なのか、偶然なのかはさておき、まるで支えが取れたかのようにゼトラたちの背後で、酔っぱらいが派手な音を立てて地面につんのめった。


「お兄さん、大丈夫?」

「あぁん?!なんらてめぇはぁ!」


 ゼトラは心配そうに声をかけたが、通りに大の字になって、ろれつが回らない口調で乱暴に睨みつける。派手な音がした割にはどこにも怪我はないようで、ゼトラはそれを認めてニコリと笑う。


「あんまり飲み過ぎちゃダメだよ。じゃあね」


 マーカスの、酔っぱらいにはまともに構うな、無視して退散しろ、という教えに従い、踵を返したが、男の乱暴な声がゼトラの背中にぶつけられる。


「なん()ガキがぁ!大人をなめくさった口ききやがってよぉ!待てやあ!」

「ゼトラ……」

「構わないで……いこ……」


 不安そうなフィオリーナを庇うようにアイビスも冷淡に酔っ払いを睨みつけると、ゼトラの背中を押した。

 だが酔っ払いはもやは何を言ってるかも分からない言葉を吐いて、空の酒瓶をゼトラの背中に向かって投げつけた。


「おらあ!待てってるらぁッ!」


 背中を見せていたにも関わらず、ゼトラは振り返るとその酒瓶をキャッチした。そしてソッと通りに置いて立ち去ろうとする。

 だが、それは火を注いぐ行為だったようだ。


「っざけんなおらあッ!」


 本当に酔っていたのか?というくらいに一足で距離を詰めると、腰から抜いたダガーを一気に突き立てる。

 だが今度はアイビスが振り返ってその手を取ると、軽くいなした。


「おっとっと」


 危うくつんのめりかけた所を踏ん張り、酔っぱらいが口から溢れる泡を拭う。


「クソなめたガキが一丁前に冒険者気取りやがってよ……おれぁ酔っても頭は冴えるんだ……知ってるぜ、お前ら最近調子こいてる『明けの明星』のガキ共()ろ……」

「だからなに?」


 アイビスの氷のような冷たい眼差しが酔っぱらいを突き放すように睨みつける。

 だが火照った身体に丁度いい、と下品な笑いを浮かべて手元のダガーナイフを弄ぶ。


「ひひっ。よく見りゃ可愛いメスガキじゃねえか。特にその小っこい方なんざ、あと数年もすれば……うへへ……。オイ、そんな青クセェガキなんかより俺んとこ来いよ。大人の女にしてやうぜ……うひひっ」

「きもっ」

「穢らわしい……」


 二人の美少女が汚物を見るような目で顔をしかめたが、酔っぱらいはその美しい顔を汚す想像をして嗜虐心をくすぐられたのか、さらに下品な笑みを浮かべてだらしなくヨダレを垂らす。


 いつの間にかその周囲には人だかりが出来ていた。

 なんだ喧嘩か、いいぞいいぞと無責任に囃し立てる者、子どもに絡む馬鹿な酔っぱらい、と蔑む者、大丈夫かい?と、声をかける者、ハラハラと固唾を飲んで見守る者。


 だが、二人の美少女と酔っ払いの間に割って入るように、ゼトラが立ちふさがった。


「大切な人を傷つけるなら、ボクが相手になるよ」


 冷徹に、だが強い意志を持って発した言葉は騒ぎ立てる野次馬を黙らせるには十分だった。

 シンと静まり返り、酔っ払いのゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえた。


「……ッ!」

「ステキ……」


 その背中にキュ~ンと胸を高鳴らせ、二人揃って頬を染めてその背中を見る。


 果たして、そのゼトラの立ち姿こそ王者のものであると、この野次馬の中にそれを認めた者がどれほどいたか。

 何者にも屈せぬ強い意志。

 あらゆる暴力を跳ね返す圧倒的な力。

 いずこの貴族の出か、と思わせる気品ある立ち姿。


 ゼトラから発せられる迫力を前にして、野次馬からぽつりと、すげぇ、という言葉が漏れた。

 酔っぱらいもまた、その堂々たる胆力に怖気づくように一歩後ずさったが、それを振り払うように声を上げた。


「ガキィ!なめんじゃねえぞ!!」


 ダガーナイフを逆手に振りかぶった瞬間、その手をマーカスが受け止めた。

 いつの間にか野次馬に加わっていたのか、マーカスの後ろでメルキュールがにこやかに手をふる。


「おいおい。酔っぱらいが子どもに絡むんじゃねえよ。みっともないな」

「痛っててぇええッ!おいこら離せやあッ!」


 そのまま逆関節に締め上げると、ダガーナイフを取りこぼした。


「騒ぐな騒ぐな。いい大人だろ」

「クソがッ!クソがぁッ!()いつもこいつもなめやがってッ!!」


 マーカスが余裕の表情で爽やかな笑みを浮かべるが、絶妙な力加減に酔っぱらいはどれだけ騒げども振りほどけそうにない。

 そこに騒ぎを聞きつけたのか、王国の警備兵が野次馬をかき分けてきた。


「何事か!これ以上騒ぐなら牢屋行きだぞ!」

「ようやくおでましか。ほらよ。酒を飲みすぎて子どもに絡む馬鹿だ」

「ん?またお前か!ゴードンッ!!」

「チィ!うざけやがって!」


 マーカスがその力を緩め、その腕を警備兵に渡そうとした一瞬のスキをついて振り払うと、その場を離れた。

 ゼトラとその背後に隠れる美少女を厭らしい目つきでギラギラと睨みつける。


「クソガキが!覚えてや()れッ!!」

「うっわー。典型的な雑魚のセリフねぇ。今どきホントに言う人いるんだぁ」


 ドン引きしたメルキュールの呆れ顔にギロリと殺意を向ける。

 舌打ちしたゴードンと呼ばれた酔っぱらいは、野次馬を殴りつけるようにかき分けると、雑踏へと消えていったのだった。


「マーカス!ありがとう!」

「おう。だから言ったろ。酔っぱらいなんか構うもんじゃないって」

「う~ん。派手に転んで心配だったから声をかけただけなんだけどなぁ」

「そういうのもトラブルの元になるから、酔っぱらいを見かけたらとにかく無視するんだよ」

「今度からそうするよ」


 ゼトラは首をすくめて苦笑いを浮かべたところに、フィオリーナが後ろから抱きついてきた。


「ゼトラァ!かっこよかったぁ!」


 ゼトラの腰に手を回すと、愛情いっぱいに背中に頬ずりして声を震わせる。

 やはりフィオリーナには怖かったのだろう。

 そしてそれを守るように立ちふさがった背中の逞しさに、今までにない胸の高まりがあったのか、グリグリと頭を背中に押し付ける。


「フィオ、これじゃあ歩けないよ」

「えへへ!だってぇ~」


 ゼトラが苦笑しながらその手をとると、フィオリーナが甘えるようにゴロニャンと腕にじゃれ付き、宿へ歩き出す。

 ちらりとアイビスを見ると、胸のトキメキを抑えるように手を添えて、頬を染めて俯いている。

 ゼトラの視線を感じたのか、そっと顔を背けると、足早にマーカスの背中を追うのだった。



 冒険者御用達の宿には食堂が併設されているのだが、多くの冒険者がそうするように、節約のために共用のダイニングキッチンが設けられている。

 アイビスは旅立つ前日になると共用のキッチンスペースで道中の食事の下ごしらえを済ませるのだと言う。

 普段は試食係兼つまみ食い担当としてメルキュールも付き添うのだが、本日の晩ごはんは珍しく全員揃っているということで、新メニューの試食会となった。


 そのメニューはと言うと、ゼトラが食べてみたい、といった羊肉料理コースである。

 まず一品目は香ばしく焼き上げたラムチョップ。

 ラム肉と野菜の串焼き。

 ラム肉のシチュー。

 オリーブオイルと唐辛子、ガーリック、岩塩でシンプルに味付けしたラム肉のパスタ。

 デザートとして北の農村部で取れたというウォーターメロンである。


「いただきます!」


 全員で手を合わせて唱和すると、まず手が汚れることも気にせず、ラムチョップを一口かじった。

 溢れる肉汁は牛肉や豚肉、鶏肉とも異なる独特の風味があった。アイビスが気にしていた余計な臭みは一切ない。

 胡椒をベースに味付けしているが、オリジナルのソースにほんのり甘みがあり、それが脂と合わさって例えようがない旨味へと昇華されている。

 肉も柔らかく、咀嚼すれば咀嚼するほど肉汁が旨味となって口に広がる。


「こ、これは……」

「うんめえな、これ」


 マーカスはあっという間に骨までしゃぶりついている一方で、絶句するゼトラの表情を見れば、今まで食べた中では一番美味しい、ということは一目瞭然だった。

 試作メニューということで少し不安そうな表情だったアイビスがホッとしたように上目遣いで微笑む。


 串焼きもまたラム肉の独特の風味と野菜の甘みが合わさると不思議な味わいとなって香りが鼻腔を通っていく。

 しっかりと煮込んだシチューは焼いたラム肉とは異なり、一口食んだだけでホロホロに繊維が解け、絶妙な味わいとなる。不思議なことに、噛めば噛むほど、やはり肉の甘味、旨味がふわりと優しく広がりその後味の良さはいつまでも楽しい。

 そしてラム肉のパスタは、だいぶお腹が膨れているはずなのに、シンプルな味付けながら、これもまた単に焼いたモノとは異なり、羊肉の風味がさらに食欲をそそった。

 どれも夢中になってあっという間に平らげてしまい、デザートのウォーターメロンの赤い果実を一口かじる。

 その水っぽい甘さで口に残った塩辛さを優しく中和していくのを感じながら、ゼトラが大きく息をついた。


「すごく美味しかった……これなら毎日でも食べたいよ」


 満足そうに天を仰ぐゼトラを見て、アイビスは困ったように笑う。


「毎日は……ダメ。どんなに美味しくても、毎日は飽きちゃうもの……」


 上目遣いで悪戯ぽく笑うアイビスに、それもそうか、と納得顔のゼトラと微笑み合う。

 他の三人からも絶賛のコメントが飛び交い、無事試作メニューはアイビスのレシピに加わったようである。


「さて明日は何か予定あるか?」

「私は……九日分の下ごしらえ……」

「私はそのお手伝い!」

「ボクはその付き添いかな」

「暇と言えば暇~」

「暇と言わなくてもどうせ暇だろ」

「うっさいわね!」


 イーッと口を尖らせるメルキュールを無視して、マーカスが不敵な笑みを浮かべてゼトラを見る。


「んじゃ、切りのいいところで修練に付き合ってくれよ。最近あんまり荒事に関わってないせいか、腕が鈍るのも嫌だからな」

「あらいいわね。久々にアイビスと組手しようかしら」

「えっ。メルキュールはアイビスの相手もできるの?」


 高位魔法使いのメルキュールが格闘家のアイビスと組手をできるのは意外だったようでゼトラは首を傾げた。


「甘いわねゼトラ。確かに私は魔法メインだけど、魔法を使いこなすには基礎体力はもちろん、徒手空拳の接近戦はもちろん、剣の扱いまで近接戦闘をこなせないといけないのよ」

「へぇ。どうして?」

「そりゃ魔力を最大限に引き出すためには身体を自由に使いこなせなくっちゃ。後ろでふんぞり返って杖を振り回すだけの魔法使いなんて時代遅れよ」

「そうなんだね」


 感心したようにゼトラは頷き、じゃあボクもメルキュールの相手になってみたい、と言うとメルキュールもまた、不敵な笑みを浮かべて細腕に力こぶを作り、遠慮しないわよ!とウインクするのだった。



 翌日。

 午前中はアイビスを手伝い、道中の食事の下ごしらえを済ませた一行は、冒険者ギルドの裏手にある修練所を借りることにした。

 同じ目的なのか他にも冒険者たちが木刀を打ち合っている。


「手加減が利かなくなるから魔法はなしだ。腕一本で勝負だぜ。いいな」

「もちろん!」


 無論、ゼトラが本気中の本気を出してしまえば例え木刀であってもマーカスどころか辺り一体まで灰燼に帰してしまうので、マーカスと同じくらいの力量になるように目を閉じて精神を統一し力を制御する。


「こっちはいいよ。いつでも」

「相変わらず天然(ナチュラル)に煽ってくるやつだな。遠慮しないぜッ!」


 ニコリと笑ったゼトラの顔面めがけて、マーカスが一気に距離を詰めると袈裟斬りに木刀を振り下ろす。

 ゼトラは体を横に捌きながらその力を逃がすように払うと、カウンターの横薙ぎの一閃をいれた。

 それを読んでいたのか一歩飛び下がったマーカスの目の前を、びゅう、と空気が裂ける。

 そして体勢が崩れた所に逆袈裟から斬り上げた。

 それもまたゼトラは読んでいたのか、木刀を持ち直すと斬撃を弾き返し、その反動を利用してクルリと体を回転させると逆の横薙ぎを入れる。

 マーカスは一瞬顔をしかめて弾かれた木刀を無理やり持ち直すと、辛うじて胴薙の一閃を受け止めた。


「くッ……やるじゃないかッ!」

「マーカスこそ!」


 お互いにニヤリと笑い、視線が絡み合う。

 刀身を合わせて力比べで押し合い、お互いに一歩飛び下がった。


「本気で行くぜッ!」

「うんッ!」


 また激しく刀身をぶつけ合いながら斬撃を繰り出すのだった。



 一方、メルキュールとアイビスの組手も激しいものだった。

 お互い拳をカバーする革のグローブに、両手両足にはプロテクターを装着しているが、遠慮無用とばかりに容赦なくメルキュールの顔面に向かってアイビスの回し蹴りが唸る。


「その動きはッ!」


 甘い!と言う言葉を切ってメルキュールが蹴りを身を低くして躱すと、身体を捻って鋭い回し蹴りが脚元を狙う。

 だがアイビスはそれを見切っていたかのように側宙で躱すと、一足飛びで詰めて、胴に向かって綺麗な正拳突きが入った。


「なんの!」


 メルキュールはニコリと笑うと、それを受け止めた両腕のカードを解くと、アイビスの腕を取って一本背負いで地面に叩きつける。

 だが腕を取られた時点で自ら地を蹴ったアイビスは空中で拘束する腕から抜け出し、クルリと回転して着地を決める。

 そして息をつかせないまま、前蹴りをいれ、一瞬体を引いたメルキュールに左のナックルパートから右のストレート、そしてヒザ蹴りまでの鮮やかな連携で襲いかかる。

 メルキュールは全てギリギリの所でガードし致命打を避けたが、やはり格闘術に於いてはアイビスに分があるのか、続けざまの猛ラッシュの前に防戦一方となっていき、次第に圧されていく。

 だが一瞬の攻撃の隙間を突いて、メルキュールの肘がアイビスの胸部を強打した。


 カウンター気味に入ったのか、アイビスが苦悶の表情を浮かべて胸を押さえて一歩、二歩、と後ずさる。

 だが、勝負ありかしら、と一瞬構えを解いたメルキュールに、目にも留まらぬアイビスの神速正拳突きが胴が炸裂した。

 肺からすべての空気を絞り出されて、メルキュールがその場で昏倒して勝負あり、となった。


「きゅ~」

「ご、ごめん、メルキュール」


 慌ててアイビスが駆け寄ると、ヒールを発動させた。

 温かな光がメルキュールを包み込むと、すぐに覚醒して大の字のまま大きく息を吐いた。


「あーあ。油断しちゃった。アイビス強くなったわねぇ」

「ううん。メルキュールのおかげ……」

「胸、大丈夫?結構いいの入ったけど」

「ちょっと痛い……」

「ほら。ヒールかけたげるから」

「ん……」


 メルキュールが胡座をかくと、アイビスの胸に手を当てヒールを発動させるた。

 柔らかな光が痛みを優しく癒やしていく。

 その優しさにアイビスが微笑み、メルキュールと目が合うとニコリと微笑み合う。


「久々だとつい夢中になっちゃうわね。手加減できなくなっちゃう」

「でも……ちょっと楽しかった……」

「うふふ、そうね」


 アイビスの頭を撫でてお互いに手を取り合って立ち上がった。

 その背中にかけるマーカスの声。


「そっちも終わったか」


 十分程度の組み合いだったが大汗をかいて肩で息をするマーカスが腕に出来た痣をおさえている。


「その様子を見ると、ゼトラの勝ちかしら」

「痛ってぇな。さわるなよ」


 その痣をイタズラっ子のようにちょい、と触るとメルキュールがヒールを発動させた。


「あと少しだったんだがな。動きの軽さはゼトラが上だ。やられちまった」

「当たったら斬れるんじゃないかってくらいマーカスのキレはすごいね。本当にギリギリだった」

「やるわね~。じゃあ次は私ね。剣を握るのは久しぶりだわ」

「うん!ボクも楽しみだよ!」


 そこにタオルを抱えたフィオリーナが駆けつけてきた。


「みんなお疲れ様っ!」


 ニコニコ顔でタオルを差し出し、それを受け取ると汗を拭う。

 それまで遮断されていた魔力の供給を補うように、腰に手を回してぎゅーっと力を込める。


「エヘヘ!ゼトラすっごくかっこよかった!」

「汗臭くない?」

「そんなことない!」


 フィオリーナは頬を染めて見上げるが、ゼトラにはそれが少し無理をして笑顔を作っているようにも見えたのか。


「……なにかあった?」

「えっ?」

「いや、なんとなくだけど」


 少しぎこちない笑みを浮かべ、寂しそうにうつむく。


「ん~……みんなすごいなぁて思ったの。私はなんにもできないなって」


 組手をしている間、フィオリーナは膝を抱えてそれを見守っていた。

 最初こそゼトラをうっとりと見つめて、かっこいい、ステキと胸をときめせていたが、アイビスとメルキュールを見ている内に、一体自分は何をやっているのだろう、と疑問を抱いたようだ。


 ゼトラと共に戦う他の三人を見て、守ってもらうだけの自分は果たしてこのままでいいのだろうか、という疑問に、自分が情けなくなったのか。


「何も出来ないってわけでもないんじゃない?魔獣の討伐もいいコンビプレーしてたじゃない」


 ここまでの道中での護衛任務において魔獣と鉢合わせしたことがある。

 メルキュールがフォローする通り、フィオリーナがマジックニードルで牽制して、怯んだ所にゼトラがトドメを刺す、というシーンもあった。

 その時はフィオリーナもナイスコンビプレーだと喜んだが、こうして目の前で、本気で技を磨き合う姿を見ると、自分の魔法は子供のお遊びレベルでしかないように見えて、ゼトラの足を引っ張っているように見えて、このままではダメだ、と思ったようだ。


「違うの。今みたいにちょっとお手伝いするだけじゃなくって、ゼトラの背中を守ってあげられるような……ゼトラが安心して背中を預けられるような……もっとちゃんと戦えるようにならないといけないのかなって」

「うーん……でもまだ十二歳……身体は十歳よ。まだそう無理しなくてもいいんじゃない?」

「でもアイビスは十歳のときにはもう大人のように戦えてたんでしょ?」

「私は……夢中だったから……今よりは全然だし……」

「でも今の私は、その時のアイビスよりは弱いし……」


 言葉を探すようにモジモジとして、まっすぐにメルキュールを見た。


「だから、その……私にも戦い方を教えてほしいの!」


 まっすぐな瞳と言葉に、メルキュールは優しく微笑む。

 フィオリーナが本気なのだ、と理解した。


「わかったわ。じゃあどんな武器がフィオに合うか、色々試してみましょ」

「うん!」


 フィオリーナは先程の作り笑いではない、本当の笑顔で頷く。


 後に『閃撃の瞬雷』の二つ名で恐れられる魔王の娘が誕生した瞬間でもあった。

予告。

汗を流した『明けの明星』は次なる街ニアベルクへ向かう。

だが商店街でのトラブルは悪名高い『蒼炎』のメンバーの一人と知る。

そして明かされるマーカスの過去。

マーカスはかつて『蒼炎』のメンバーだった。

次回「041.頭上に舞い散り」

お楽しみに。

ここまでお読み頂きありがとうございました。

執筆を続けるモチベーションになりますので、

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年10月05日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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