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026.勇者は自らの運命を知る

 マーカスとアルベルトら一行が応接室に通され、残ったのはギュスターヴ国王と『伝説の七竜』と言う少女二人だけだった。

 伝説の七竜と称されたその少女は、気の強そうな目つきで瞳は焦げ茶色だが、人としてはあり得ない桜色の髪の色は腰ほどまであり、サイドポニーで結わえている。

 白いワンピースの下の白い素肌は絹のように美しい。


 それよりも一行を戸惑わせたのは見た目の幼さである。フィオリーナと同じか、それよりも幼い。

 背丈も体つきも幼く見える可愛らしい少女だった。

 にも関わらず、尊大な態度で腕組し、ふん、と小さな鼻を膨らませて憤怒の表情でゼトラをギロリと睨みつけていた。

 またその少女を咎めるわけでもなく、ギュスターヴ国王は静かに目を閉じて静観しているようで、そのギャップがますます混乱させていた。


 執事が紅茶を淹れて一礼し部屋を退出するのを見届けて、ギュスターヴ国王が腕組して唸った。


「さて、どこから話せばよいものか」


 思案顔のギュスターヴ国王に助け舟を出すように、アルベルトが口を開く。


「この度の謁見、かの伝説の七竜と思しき巨大なモノを復活させた者たちとお会いしたいしたいと陛下のご意向を叶えるため、参じた次第でございますが……」

「そうだな。まずはそこから話を聞こう」


 頷いた国王が促すようにマーカスたちを見て、マーカスもことのあらましを説明した。

 自分たちが魔族……竜角族である、という点を除いて。


「なるほど。鎖の末端……封印らしきものにゼトラ君が触れて、それで覚醒を果たしたのか」


 頷いた国王が呟いてゼトラをじっと見る。

 ゼトラも緊張で身体を強張らせていると、その右手にアイビスがそっと手を重ねた。


「では改めて紹介させてもらおう。こちらの少女はその遺跡に封印されていた伝説の七竜が一柱、山剴竜(さんがいりゅう)と言う」

「山剴竜……」


 神話にも登場する名前。その名を実際に目の前にして一同も息を呑む。

 七竜―― 山剴竜と自称する少女が得意げに顎をくいっとあげた。


「はるか古の時代、人類が希望を込めて名付けた名よ。頭が高いぞ」

「はるか古……じゃあ、神話の話は本当だったんだ」

「たわけめ。神話などお主らヒトが口伝を適当に装飾しただけのおとぎ話に過ぎぬわ」


 ゼトラの問いに無下もなく答える少女。

 ふん、と小鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 アルベルトが一考して国王に目を向ける。


「恐れながら陛下。そちらの少女がかの巨体というのはまるで繋がりが見えませぬ。もう少し詳しくお聞かせ願えないでしょうか」

「だろうな。よかろう」


 ギュスターヴ国王もまた頷いて、あの日の出来事について語るのだった。


 山剴竜が復活したあの日、国王もまた三階の自室から目の前に立ち上がったあの巨躯を見あげていた。

 恐れおののく近衛騎士らが避難するよう腕を掴んだが、それを振り切って屋上へと向かった。


 そしてその視界に捉えた人影。

 あまりにも速く、その姿を捉えることは叶わなかったが、その人影が首を切り落としたのだ、ということだけは把握できた。

 首ごと力なく滑り落ちる刹那、首の先端が微かに開くと、その少女が目の前に落ちてきたのだ。


 ――強制起動させておいていきなり首を落とす奴がおるかッ!阿呆め……ッ!


 うわ言のように呟きながら、少女は気を失った。


 そうか、あの人影はまるでゼトラのようにも見えた。

 ギュスターヴ国王はそう思いながら少女を介抱するように指示を出すと、被災した城下町の救助活動に取り掛かったのだった。


 少女が目を覚ましたのは翌日の午前中のことだった。

 一体君は何者なのか。あれは七竜なのか。

 ギュスターヴ国王の問いに、「我が名は山剴竜じゃ」と名乗ったが、それ以外の記憶を失っていた。

 何故か。


「あの阿呆がいきなり首を落とすものだから記憶の大部分を強化外殻に残したままじゃ!ワシは山剴竜システムを制御する核体(コアボディ)に過ぎぬから、肝心の記憶を読み取れん!読込不良(リードエラー)じゃ!」


 そう言ってふんぞり返るのだった。

 にわかには信じがたいことではあったが、これを信じるに足る根拠はあった。

 それは王族のみが閲覧できる王城の書庫に、古の七王国を興した王族は、伝説の七竜の封印に関わった者たちの末裔である、と記された書があったからである。

 だが肝心の部分は虫喰いのため失われており、宮廷学者の研究によれば、恐らくマードルテーブルかアルーア・マルター島のどちらかが、山剴竜を封印した地ではないか、という所までは突き止めていた。

 それに加えて大水害の折、鎖の遺跡が露出したによって、ギュスターヴ国王にとっては七竜の存在は確信へと変わった。

 それ故に、確証を得るための痕跡を探してほしいと冒険者ギルドに依頼していたのだが、よもや一足飛びで復活まで成し遂げてしまう者がいたのは完全に誤算だった。


「それは……すいません……申し訳ございませんでした」


 己のしたことの重大さに気付いたゼトラが肩を震わせ顔を伏せる。

 左手にフィオリーナが、右手にアイビスが両手を重ねる。

 あなたのせいじゃない、そう言い聞かせるように。


「いや、君が謝ることではない。確かに今回のことで多くの者が巻き込まれたが、無論これが必要な犠牲とは思わぬ。だが予想しえぬことでもあった。過ちとも思っておらぬ。致し方のないことであろう。気に病む必要はない」

「……」

「それにかの島を貴族の別荘地として解放したのは他ならぬ余の先代である。王族のみに伝わる伝承を知らぬわけでもなかったろうに、それを軽々に扱って要らぬ被害を増やしたのは王族の罪であろう」


 ふう、とため息を付いたギュスターヴ国王が紅茶を一口つける。


「して如何するかな」

「如何する……とは?」


 ギュスターヴ国王の問いに、代わってマーカスが質問で返す。


「すまん。話が飛んだな。かの山剴竜が言うには、他の七竜は既に半覚醒状態になっているそうだ。君の目覚めの呼びかけを待っているそうだ」

「そうじゃ!ワシは緊急起動(エマージェンシー)命令(コード)を受けて覚醒したが、他の連中が覚醒している様子がないので目覚まし時計(モーニングコール)を鳴らしてやったのじゃ!ワッハッハ!」


 一体どこに可笑しいポイントがあったのかは分からないが、ふんぞり返ったまま笑う少女に、マーカスは厳しい視線を送る。そのマーカスの胸の内を代弁したのはメルキュールだった。


「ちょっと待ってよ、冗談じゃないわ。覚醒する度にこんな被害をもたらすような七竜を復活させろって言うの?人類滅亡しちゃうわよ」

「おうおう、安心せい。乳くさい小娘よ」

「ちち……ッ!?はぁ……ッ!?」


 怒りに任せてギロリと睨んだメルキュールの視線なぞ何するものぞと言わんばかりに流し、ふん、と顔を背ける。


「わしは訳も分からぬまま叩き起こされて、どっこいしょと身体を動かした程度じゃ。正規の再起動(リブート)指令(コード)を受け取っていれば大人しゅうしておったわい!尤も、早々に避難せんと強化外殻の起動で大地は吹っ飛ぶだろうがな!ワハハハ!」

「やっぱり被害でるんじゃない……」


 メルキュールが頭を抱えるのを見て、マーカスが腕組して考えに耽る。

 どうやらこの少女が言う強化外殻とはあの巨大な山体そのものを差しているようだ。

 海上に出ていたアルーア・マルター島はその本体の一部でしかなく、その巨体は地中深くに埋まっていた。

 それが覚醒して露出しただけでこの被害である。


「半覚醒状態……。つまり待機状態ということは、復活を急ぐ必要はあるのか?」

「さて、どうかな。起動自体はそやつ以外は叶わぬから、十年と言わず百年でも待てるだろうが……」


 首を捻った少女が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「実際の経過時間は強化外殻内のタイマーと照らし合わせないと正確な日にちは分からんが、沈黙(スリープ)状態(モード)に入ってからざっくり十二万年以上は経過しておる」

「じゅ、じゅうに……ッ!?」

「万ッ!?」


 その想像出来ない数字に、一同が愕然とする。

 だがそれに続いたキーワードに、言葉を失った。


「『極めて深刻な(カタストロフィック)脅威(ディザスター)』の襲来が差し迫っていると見ていいだろうな」

「……ッ!?」


 そこにいる者全てにとって『極めて深刻な驚異』という言葉は初めて耳にするものだった。

 一同の反応を楽しむように、ニヤリと笑って見渡す少女がツンと鼻を上げた。


「『極めて深刻な脅威』……。世界に破滅をもたらすほどの災厄……とは?」


 長い沈黙を破り、ギュスターヴ国王が眉間にシワを寄せたまま少女を見る。

 だが少女は得意げに胸を反らせた。


「その辺りの記憶は全て強化外殻の中じゃ!核体のワシには知る由もないわ!ワッハッハ!」

「なんだそりゃ」


 ガクッと肩を落としたマーカスが、腕組したまま天井を見る。


「『極めて深刻な脅威』か……神話にもそれらしい記述はないが……。メルキュールはその辺りは心当たりあるか?」

「う~ん……遺跡が発掘された地層年代から十万年前後に古代文明が存在した事は証明されているけど、それ自体何の遺跡かさっぱり分からない謎の遺跡だし、これに関する文献も聞いたことないわ。研究論文にしたってどれも根拠に乏しいトンデモ論ばっかりね」

「ふむ……」


 ギュスターヴ国王曰く、若い頃に王家の蔵書には一通り目を通した事があるものの『極めて深刻な脅威』に関する記述は見たことがないと言う。あくまで伝承として古の七王国と伝説の七竜が関わりがある、何処かの地にそれを封印している、という点のみである。

 う~ん、と唸る大人たちを見てフィオリーナも少しおっかなびっくりと言った様子でゼトラを見る。

 ゼトラもまた顎に手を添え、何やら考えことをしていた。

 その真剣な眼差しに、ステキ、と呟き頬を染める。


「これ以上考えてもどうしようもない、と思うけどどうかな、マスター」

「うむ……。いかんせん情報も手がかりも少なすぎる。その何やらの襲来があるとしても、どこから襲来するのか、例えば異世界からの襲撃といった異次元的な存在なのか、そもそもそれは一体何なのか分からなければ、今以上の備えは難しい」


 アルベルトの結論にはギュスターヴ国王も同意したようでこれ以上の詮索は無意味と言わざるを得なかった。

 だがやれるべきこと、確認すべきことは残っている。


「一応聞いておくが、その待機状態の他の七竜は古の七王国がある地のどこかに眠っていると思って間違いないんだよな?」

「それは間違いなかろう!お主らヒトが領地争いで国境とやらを引き直していない限りな!」


 少女の答えに、ギュスターヴ国王も頷いて補足する。


「少なくとも、この二千年に於いては古の七王国王都周辺の国境はほぼ変わっていない。さすがに一万年、二万年前ともなると王国勃興前の記録があまり残っていないので怪しくはなるが、王都が王都たらしめるのは地勢的に人が集まりやすい地であるからこそ。少なくとも王都の周辺に残りの七竜は存在すると見ていいだろう」

「だといいのだけど~」

「いま時点での情報でも、古の七王国に連絡を取り、七竜の存在は確かであったこと。これに関する遺跡が存在する場合は情報を共有したいという申し出は可能であろうと思う。よって今しばらくはこちらで情報収集に務め、判明次第そちらに連絡を取る、というのは如何かな」

「左様の通りで宜しいかと存じます」


 アルベルトが頷くと、マーカスも同意して頷いた。


「ああ、そうか」


 それまで何か考え事をしていたのか、ゼトラがぽんと膝を叩く。


「七竜って神話では世界を滅ぼす存在ってなってたけど、そうじゃなくて、その『極めて深刻な脅威』から守るためのものなんだね?」

「察しが良いなこわっぱ!」


 ガッハッハと胸を反らした少女が頷く。


「放っておけば勝手に滅んでいくヒトを、我らがいちいち滅ぼそうとするものかッ!ワシら七竜システムの真の目的は、この母なる世界の守護よッ!」

「世界の……守護……?」

「ヒトが滅ぼうなら勝手に滅べ。だが母なるこの世界は滅ぼさせぬ。世界が滅ぼねばヒトは何度でも立ち上がろうからな。それが『極めて深刻な脅威』から守護する我らが七竜システムじゃ!」

「なるほど」


 その少女の言葉に、ギュスターヴ国王は得心がいったようである。

 多くの者が命を落とした今回の被害において何ら悪びれるわけではなく、平然としていられるのは、この少女が人類を守るための存在ではなく、この世界を守る事を使命としているからなのか、と。

 人が百人や千人命を落とした所で、七竜にとっては些事なのだろう。世界を守る方が大事なのだから。

 どうやらこの山剴竜と名乗る少女は、人の命やここまで築き上げた文明そのものには何ら頓着していない。

 他の七竜もまた同様と見ていいだろう。


 だからこそ、危険すぎる、とも思った。

 完全な制御化、監視下に置かなければ、人類は七竜がそれこそ身動(みじろ)ぎしただけで滅びかねない。


「しかし肝心なことは分からん、ということか」

「そのとおりじゃ!このたわけが首を落とさなければナッ!!」

「ご、ごめん……」


 またガックリと凹んだゼトラに、フィオリーナがよしよし、と頭を撫でて、それ以上いじめないで、という視線を少女に送るのだった。


「これじゃあ、再興どころじゃないね……」

「んっ!?」


 ポツリと呟いたゼトラの言葉に、目ざとく反応したギュスターヴ国王が目を剥く。それを不自然すぎる咳払いでアルベルトが誤魔化そうとしたが、遅かったようである。

 あっ、と小さな声で自分の発言に気づいたゼトラが口を抑えるも、もはや後の祭りである。


「ワッハッハ!アルベルトよ、そう焦らずともよい。もう分かっていることよ。ただ本人の口からそれが聞きたかっただけのことだ」


 意地の悪そうな笑みを浮かべてギュスターヴ国王が笑いを堪える。

 はぁ、とため息をついたアルベルトを見て、泣きそうな顔で小さくなるゼトラ。

 マーカスとメルキュールもやれやれ、といった表情である。


「お察しの通りですよ、陛下」


 諦めがついたのか、アルベルトが肩をすくめる。

 ギュスターヴ国王は紅茶を一口含み、ニコリと微笑んでゼトラの肩に手を置いた。



「とは言え、今は一介の冒険者であるということに変わりはない。できれば他の七竜の封印対処のために支援金の一つでも持たせてやりたいところだが、『相互不干渉協定』もあるため敢えてそれは控えよう。己の力で彼の地を目指すが良い」

「はい……」

「しかし、もしユングスタイン王国再興の道を目指す日が来たなら、その時は冒険者という肩書は棄てねばなるまい。その時はこのギュスターヴも国を挙げて全力で支援させてもらうぞ。約束しよう」

「はい……!ありがとうございます!陛下!」

「うむ!」


 ゼトラの力強い瞳に、ギュスターヴ国王もまた嬉しそうに微笑む。

 マーカスもそれを見て、ゼトラが目指す人も亜人も仲良く暮らせる国の姿に思いを馳せるのだった。

 だが、マーカスにはもう一つ懸念があった。


「七竜の封印をどうにかする、という目的が俺たちの旅の目的に加わったのはいいが、どうするかね」

「どう、って?」


 ゼトラが首を傾げるのを見て、メルキュールがため息をついた。


「わかんない?遠すぎるのよ。古の七王国って」


 そう言って懐から世界地図を取り出して広げる。

挿絵(By みてみん)


「これは……確かに……」


 世界各地に散らばる古の七王国。

 アリスが六年以上の歳月をかけて徒歩で横断した事を考慮して、仮に馬で飛ばしたとして大陸の端から端まで一年以上はかかる計算である。


「さらに海の向こう、別大陸もあるし、そこまで船の旅として……一体何年かかるやら。全部の封印をどうにかする頃には、私もマーカスも冒険者稼業引退してるわね」


 それを理解したゼトラ含めてフィオリーナ、アイビスも沈黙する。

 この世界は徒歩にせよ馬にせよ船旅にせよ、あまりに広すぎた。


 だがその沈黙を横からひょい、と顔を出した山剴竜の少女が破る。


「それなら風崔竜の力を借りればよかろう。あやつならこの世界を飛び回ることなぞ造作もないぞ」

「まじかよ!」


 好奇の目でマーカスがよくやった、と言わんばかりに少女を見て、少女もまた得意げにふんぞり返ってソファにどっかと座る。


「で?どこにその風崔竜ってのが封印されてるんだ!?」

「知らん!全ては強化外殻の中よ!ガッハッハ!」

「またそれかよッ!」


 笑い飛ばす少女の無慈悲な一言に、マーカスはガクっと肩を落とす。

 だがマーカスがもげそうなくらい落ちた首を上げ、山剴竜の少女をジロリと見る。


「とりあえず、大体の所は理解した。一応聞いておくが、お前、俺たちに付いてくるなんて言わないよな?」

「安心せい!強化外殻が自動(オート)修復(リペア)モードに入っておるからワシはここから離れられぬ!」

「自動修復……回復ってことか?それはいつ頃終わるんだ?」

「さあな!当分の間はかかるじゃろ!」

「そうか……もし修復し終わっても……」

「安心せいガキンちょ!ワシとてまた首は落とされたくないからな!!ワッハッハ!」

「ガキって……」


 封印状態だったとは言え、少なくとも十二万年以上は生きているであろう少女にとってはマーカスは生まれて間もない赤子に等しい存在であろうが、その見た目と幼気な声でガキ呼ばわりにはどうしても慣れないマーカスだった。



 日は既に落ちようとしていた。

 いつの間にか時間は相当すぎている。

 これ以上山剴竜の少女との会話していても全ては強化外殻の中、で片付けられてしまいそうで時間が惜しいと思っただろう。

 一同の意を汲むように、メルキュールがパン、と手を合わせて明るい声でアルベルトに視線を送る。


「じゃあそろそろお暇しましょうかね~」

「そうですな。陛下。お時間を取らせてしまいました」

「うむ。有意義な時間であった。余としてはしばらくは復興に専念せねばならぬが、例の件については情報が入り次第連絡をつけよう」

「畏まりました」


 別れ際、ギュスターヴ国王から握手を求められたゼトラが恐る恐る手を差し伸べたが、それを力強く握り返してきた。

 特に何か一言あったわけではないが、ゼトラの手に世界の命運がかかっていることを自覚するには十分だった。



 下城するゼトラをギュスターヴ国王が二階の窓から見送る。

 その後ろからパタパタと可愛い足音が近づいてきて、振り返った。


「お、お、お父様!?今までゼトラ様がいらしてたのに、どうしてお声をかけてくださいませんでしたの?!」


 慌てた様子で窓に張り付いて一行の背中を追うシャーディ姫に、気まずそうな声でギュスターヴ国王が応える。


「非公式の謁見であったからな。あまり大事にはすべきではないという判断だ」


 苦しい言い訳ではあるものの道理ではある。

 だがその父の言葉はシャーディには届いていないようだ。


「嗚呼、あのように可愛らしい女の子を両脇に侍らせて……ゼトラ様ったら……」


 鎮痛な面持ちで見るシャーディ姫が、ギュッと口元を歪ませる。


「お父様……」

「ん……」

「せめて……せめて第三王妃の席くらいは空いているでしょうか……」

「さて、な」


 娘の心中を察して乾いた笑いで応えるしか無い、ギュスターヴ国王だった。

ここまでお読み頂きありがとうございました。

執筆を続けるモチベーションになりますので、

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年09月21日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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