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021.異界へと招かれる

 涙をこぼしながら抱擁する二人を見て、マーカスとメルキュールが目を合わせ、ふう、と肩の力をぬいた。


「ちょっと焦っちまったかな」

「ま、ちょっとパニクったわね~」


 バツが悪そうに頭をかいたマーカスも二人に駆け寄った。

 ごめんね、そう言って呟くゼトラに対してアイビスが、いいの、と耳元で囁く。


「あー。すまん。ゼトラ。さっきのは無しだ。前言撤回する。ひどいことを言った。申し訳ない」


 軽く頭を垂れたマーカスを横目にしながら、いつもの調子に戻ったメルキュールが、抱擁を交わす二人の頭を優しく撫で、二人まるごと抱きしめた。


「ごめんね。ちょっと慌てちゃった」


 押し付けられる柔らかさを感じてゼトラも我に返ったのか、ドギマギとしてアイビスの腰に回した手を離した。


「その、魔界に連れていくって……封印するって……」

「あー、うん……」


 言葉を濁すマーカスを見て、アイビスがクスリと笑った。

 初めて見た、その悪戯っぽく笑う笑顔は、アイビス本来のものなのか、ゼトラにはとても可愛らしく映った。

 メルキュールもまた驚きの顔を隠していない。

 しかしまっすぐに、真剣な眼差しでゼトラを見つめる。


「友達になろうって言っておきながら、こんなお願いをするのは……とてもずるいと思う……」


 そう言って、紅い瞳がうっすらと輝きを増す。


「だから、ゼトラが嫌だって思えば、私達は諦めるから……マーカスとメルキュールのお願いを、聞いてほしい……」


 アイビスの声に促されるようにして、メルキュールが頷く。


「ゼトラに私達が住む世界に来てほしいの。そして、ある女の子を助けてほしい。その女の子を助けられるのは、ゼトラしかいないの」

「ボクにしか……?」

「ああ、ゼトラにしか……な」


 マーカスも意を決したように、それに続いた。


「その子を助けることによって、ゼトラの力は恐らく封印されるか……今以上の力を発揮できなくなる可能性がある。……たぶんな」


 ――俺はこの期に及んで卑怯で最悪最低なやつだ。


 マーカスが内心一人ごちる。


 ――封印どころか、命を失う可能性だってあるというのに。


 だが意外にもその答えは早かった。


「分かった!助けにいくよ。だから連れて行って、その魔界に」

「いいのか?」

「構わないよ。ボクじゃなきゃ助けられないなら、ボクが行かなくちゃ」

「そうか……」


 笑顔を見せるゼトラだったが、意外そうな表情でマーカスはメルキュールと視線を交わす。

 その答えの早さに、恐らくゼトラはその深刻さをあまり理解できていないのではないか、とも思った。

 或いは単純、純粋無垢、お人好しの極み。

 マーカスはここにきて、ゼトラの人となりがよく分からなくなってきた。

 いずれにせよ、本人が行くとヤル気を出しているのなら、即行動すべきであろう。

 じゃあ頼む、と頷いたマーカスにメルキュールもうなずき返した。


「異界転送はヒト族にはちょっとキツイかもだから、予め謝っとくわね」

「そ、そうなの?」


 慌てたゼトラの手を、アイビスが優しく握る。そして大丈夫、と頷いた。


「じゃ、いくわよ」


 メルキュールが自分の肩に三人の手が乗った事を確認すると、その脚元に魔法陣の輝きを生じさせる。


「うッ!」


 まばゆい輝きに包まれたゼトラが目を明けると、そこは先程までの崖の上ではなく、薄暗い雲が垂れ込める不思議な場所だった。




 魔界。

 そこに住まう亜人たちが呼ぶ世界。

 しかしヒト族もまた、その地を見ればそう呼ぶだろう。

 昼なのか夜なのかも分からない薄暗い雲が立ち込め、おどろおどろしい瘴気が漂う。


「おや、マーカスさんじゃないですか。今お帰りで?」

「ああ、今戻った所だ」


 四人は石造りの祠のような所にいた。

 祠を満たすまばゆき輝きに気付いたのか、耳の長い、エルフ族の青年が覗き込んできた。


「おや、そちらの少年が、例の……?」

「そうだ」

「そうですか。どうかごゆるりと……」


 そう言って頭を下げ、避けるように顔を引っ込めた。


「どう?転送酔いとかない?歩ける?」

「少し頭がクラクラするかも」

「やっぱり?」


 そう言ってメルキュールがゼトラの右手を取り、腕を組む。

 ちらりとアイビスを見ると、ぷい、と視線をそむけゼトラの左手を取った。


「目的の場所はすぐそこよ。いきましょ」

「うん……」


 両手に華と言えば聞こえはいいが、ふらつく脚元を支えられながら、少し引きずられるように祠を出るのだった。

 そして林を抜けると、おや、とゼトラは思った。


 ――なにか懐かしい。


 ゼトラがそう思うのは間違っていない。

 ゼトラが生まれ育った村に、集落までたどり着くまでの道の構造がそっくりだった。

 作物を育てる畑、放牧地と思わしき牧場、川のせせらぎ。どれ一つとっても大きな違いがない。

 違うのは山に囲まれていないこと、はるか遠くまで草原や森、小高い山が広がっていること、そして空が紫色に濁っていることくらいだ。


 どういうことだろう、踊るはてなマークをなだめながら歩いていくと、急に視界が広がった。

 集落を抜けたそこには、エイベルク王国のグランマリナ城によく似た、巨大な城がそびえ立っていた。


「あれって……」


 呆然と見上げるゼトラの声に反応するように、マーカスが苦笑しながら振り返る。


「あれが我らが主が住まう城だ。魔王城……ってところかな」


 肩をすくめて苦笑するマーカスを見て、ゼトラは小首を傾げる。

 魔王城、と言う割には、そう呼称するのは受け入れがたい表情が見て取れたからだ。


「我らが主はどうせ暇してるだろうし、謁見はすぐ叶うだろう。その前にちょいと風呂を浴びて、身なりを整えて、腹ごしらえしよう。腹がペコペコだ」

「確かに……」


 くぅ、と可愛いお腹の虫が鳴く声が聞こえて、女性二人が自分じゃない!と言わんばかりに首を振る。

 昼食を取ることも忘れて封印の遺跡を発掘し、伝説の七竜を止め、そのまま流れでここまで来てしまっている。

 あれからどれほどの時間が経ったのか、空の色から判別することが出来ないが、かなりの時間が経っていることは間違いない。


「アハハ!お腹空いちゃったね!」


 お腹を擦りながら笑うゼトラの明るい笑顔に、三人とも釣られて、飢えた笑い声で誤魔化すのだった。



 城下の一角、マーカスに案内された大浴場の入り口に二人の侍女と思しき女性が立っていた。

 一人はエルフ族の女性、もう一人は角を生やした魔族の女性である。


「おかえりなさいませ。マーカス様」


 そう言って頭を下げる侍女を労うように、マーカスが手を挙げて応える。


「ひとっ風呂浴びて、食事を取りたい。あとコイツに合うサイズの服を頼む。その後、王に謁見したい」

「かしこまりました。お取次ぎします」


 そう言って遠慮することなく『男』と書かれた藍色の暖簾をくぐる。

 たくましい筋肉に覆われた身体を露わにしたマーカスに倣うように、ゼトラも服と下着を丁寧に畳んで竹の網籠に収めると、その後を追った。


 かかり湯で汗と汚れを軽く流し、身を投げだすように、ざぶりと大浴場に浸かる。


「あぁ~生き返るなぁ~」


 長旅の疲れを吐き出すように、年寄りのような長い溜息。

 マーカスなりに緊張の連続だったのだ、とゼトラは理解した。


 大浴場は湯気に覆われていたが、相当広い。

 百人以上も同時に入ってなお余裕があるのではないか、とゼトラには思えた。

 大きな獅子の頭部の形をした陶器から、暖かなお湯が絶えることなく大浴場に注がれている。


「おや、マーカスじゃないですか。お帰りだったんですね」


 キョロキョロと見渡すゼトラに気付いたような声が、湯気の向こうから聞こえた。


「よぅ、宰相殿じゃないか。こんな時間にこんなところに居ていいのか?」


 からかうようなマーカスの声。

 それに対して、勘弁してくださいよ、とエルフ族の青年が首をすくめた。


「難事がなければここは至って平和ですからね。暇といえば暇なんですよ」


 白い肌に橙色の瞳、青色の髪をオールバックにして、その長さは肩まであった。

 しげしげと見るその視線に気づき、ゼトラもペコリと頭を下げた。


「ほうほう、そちらが例の『星詠みの預言者』が言う少年ですね」

「そうだ。丁重に扱ってくれ。客人だ」

「もちろんですとも」


 そう言って胸に手をあて、エルフ族の青年が胸に手をあてて頭を下げる。


「このような所で失礼いたします。私はウルウェイッル・デァントットラッル。我が王に代わり、政治なぞ執り仕切っております。どうかお見知りおきを」

「エルフ族はどいつこいつも名前が長ったらしくて覚えにくいから、ウルでいいぞ」

「ヒドい言われようだ」


 抗議の口ぶりとは違い、アハハと明るくウルウェイッル。

 そう言われるのには慣れているのだろう。


「ど、どうも。ゼトラ・ユーベルクです」


 ウルウェイッルを真似るように頭を下げたゼトラに、ニコリと微笑みを返した。


「フフ、この後すぐ謁見ですか?」

「その前に腹ごしらえさせてくれ。昼飯を食べてないんだ」

「それはそれは。では私はこれにて失礼。謁見の準備をするといたしましょう」


 そう言ってそそくさと前を隠しながら大浴場を後にした。

 それを見送ったゼトラが、マーカスに肩を寄せる。


「星詠みの予言者って……?」

「三百歳を超えるエルフ族の婆さんだよ。いつもは寝てばっかりいるんだが、時々目を覚ましては不思議な予言で俺たちの運命を導くんだ」

「三百歳……」


 ゼトラは三百歳という途方も無い年齢に天を仰いだ。

 マーカスが大浴場から上がると洗い場に向かう。ゼトラもこれに倣って身体を洗い、それから何度も大浴場に浸かったり、上がったり、を繰り返すこと四十分。


「さすがにアイツらも上がってるだろ。俺たちも上がるとしようぜ」


 湯あたりするほどではないが、のぼせるような感覚があったのは事実で、ゼトラも苦笑して頷く。

 軽く水を浴びて汗を流し、ようやく脱衣場に戻ったのだった。


「あれ。ボクの服がない……」

「気を利かせた侍女が洗濯してると思うぜ。それを着ろってことだろう」


 ゼトラが服をしまった網籠には、代わりに朱色の服に、金色で奇妙な模様が刺繍された服があった。

 よく見れば魔族の角と同じく、竜の姿を意匠にしているように見える。


「そいつは俺たちの民族衣装だ。最高位の客人をもてなす時の服だ」

「へ、へえ……」


 ブーツの代わりに動物の革で編み込んだサンダル。

 白いズボンは目立った特徴はないが、同じく白色の長袖シャツ。

 その上に羽織った服は前後で大きく分かれ、腰辺りで白色と金色で染めた、絹糸で編み込まれた紐で止める仕組みになっていた。


 藍色の似たような服を着たマーカスにも手伝ってもらい、ようやく服を着たゼトラの頭をくしゃりと撫でる。


「よく似合ってるぜ」

「だといいのだけど」


 照れるように笑うゼトラにマーカスも納得させるように笑って頷くのだった。


「おっそ~い」


 出入り口の暖簾をくぐると、それを待ちわびていたようにメルキュールとアイビスの姿があった。

 衣装は色合いこそ違うが、マーカスと同じようなものだった。

 メルキュールが空色で、アイビスは黄色がかった爽やかな色合いである。


「どうせあんたたちならすぐ出るだろうからって、気を利かせたらこれだもの!」

「先にあがった俺を一時間も待たせて、何食わぬ顔してたやつがよく言うぜ!」

「何年前の話をぶり返してるのよ!」


 ぷーと頬を膨らませてお手上げのポーズを取るメルキュール。

 口をとがらせて抗議するマーカスのやり取りを横目にして、ゼトラの視線に気付いたアイビスが、挙動不審気味に視線を泳がせた。


「な、なに?」

「あ。ごめん。なんかすごく似合ってるなって」

「そう……?」


 頬を染めて、ぷいと視線をそらしたアイビスを見て、ニンマリとマーカスとメルキュールが笑う。


「さーて飯だ飯だ。腹が鳴って仕方ない!」


 マーカスを先頭に、城下の一角にある食堂に入ったのだった。



 四人がけのテーブルには出来たての食事が湯気を立てて並んでいた。


 トマトや人参といった野菜をすりおろし、蜂蜜とひとつまみの塩で味付けした野菜ジュース。

 同じく赤みがかったスパゲティは大ぶりのエビとイカ、ホタテといった豊富な海鮮物で和えてある。

 小さめながらベーコンとサラミ、輪切りにしたピーマン、スライスしたオニオン、そしてチーズが溶けたピザ。


「食材はこちらのものだけど、味付けはアイビスの助言でヒト好みに変えたのよ。お口に合うといいいのだけど」


 コップに水を注いだエプロン姿はマーカスの母だった。

 ナーシャ・マンハイムと名乗った女性の耳にあたる部分に、クルリと可愛らしく渦を巻く小さな角は黒、というよりは青色に近い。

 口元に小じわは入っているが長寿らしい竜角族らしい若々しさが残っている。見た目は三十台後半といっても差し支えないだろう。


「おふくろが作ったのか!」

「ほんと男の子は親に淡白なんだから。帰ったら真っ先に親に挨拶するものでしょう?」

「勘弁してくれよ。それどころじゃなかったんだよ」


 母を前にして肩をすくめて口を尖らせるマーカスも、さすがにタジタジと言った様子である。


「見てたってお腹は満たされないわ。召し上がりなさい」


 親子の会話に笑っていると、促すようにテーブルを指したナーシャにゼトラが一礼する。

 そしていただきます!と手を合わせて早速スパゲティに手を伸ばした。


「あっ、これ美味しい!すごく美味しいよ!」

「あら、よかった」


 一口頬張ったゼトラが感激して目を輝かせて浮かべた満面の笑みを見て、ほっと胸をなでおろした三人もフォークを手に取るのだった。


 あっという間に遅すぎる昼食をお腹に収めた四人が、背もたれに肩をつけて、軽く伸びをする。


「はあ、やっぱ故郷の味はいいわ~」

「そうか?向こうとそう変わらない気がするがな」

「相変わらず安上がりな舌してるわね~」


 んべっと舌を出して、からかうメルキュールの笑い声。マーカスが首をすくめて苦笑する。

 二人のやり取りを見て、ゼトラとアイビスもクスクスと笑うのだった。


「さて、腹も膨れたし、我らが王も待ちくたびれてるだろう。謁見といくか」

「『魔王様』ったら、なんだか張り切ってたわよ」


 マーカスに促されて席を立つ三人。

 母の言葉にうんざりとした表情を見せたマーカスを、ゼトラは不思議そうに見る。

 食堂を出ると、マーカスに先導されて城内を歩んでいく。そして城の奥、二階へあがる大階段に向かうのだった。


「大きいね……」

「見てくれだけだぜ」


 四人は人の背丈の倍以上あるような、大きな扉に立っていた。

 そしてゼトラにはどうしても気にかかることがあった。

 今から王に謁見するというのに、マーカスには畏まるような緊張感や素振りといったものが見えないのだ。


「このまま突っ立てても開いてはくれないぜ。いくぞ」


 その言葉の通り、マーカスが先頭をきって扉に近づくと、それを待っていたかのように扉が開いた。


 奥にはこれも人の背丈の倍はあるかのような玉座。

 その手前には大勢の亜人たちが並んでいる。


 ゼトラはその似たような光景として、エイベルク王との謁見を思い出したが、明確な違いが一つあった。

 列席する亜人たちはいずれも武器を持っていないのだ。

 近衛騎士のような姿は一人も見えない。


 竜の角を生やした魔族。

 耳の長いエルフ族。

 背丈は子供ほどに小さいが、がっしりと筋肉質の体つきをしたドワーフ族。

 そして白目がなく、その耳から魚の胸ビレのようなものを生やした魚人族。


 魔界に住まう亜人種たちの代表が、ここに列席しているようだ。

 だが、衣装こそ藍色の服で統一されているが、その佇まいはどこか緊張感に欠け、平和的にも、穏やかにも見えた。


「只今戻りました」

「うむ。ご苦労だった」


 玉座の主の、荘厳な声が広い空間に響き渡る。


「星詠みの預言者のお告げ通り、無事に勇者と邂逅を果たし、助力を得ることに了解を得て、こうして連れてまいりました」

「そうか。よくぞまいったな、勇者よ」

「ゆ、ゆうしゃ……?」


 今まで一度も呼ばれたことのない称号に、目を白黒させたゼトラが慌てた様子でマーカスを見る。

 ちょうどマーカスもゼトラを見たようで、何かアイコンタクトをするように何か訴えかけてきたが、ゼトラにはそれが何を言わんとするのか理解が及ばなかったようである。

 視線を上げてよく見れば、王座につく中年の男性はマーカスの角とそっくりな、大きくうねって渦を巻く形を成していた。

 魔族の共通なのか、白銀色の髪を大きく伸ばし、肩の向こうまでかかっているようだ。

 顎に申し訳程度の無精髭が生えているのが、イマイチだらしなくも見えるが……。


「ど、どうも……ゼトラ・ユーベルクです……」


 とりあえず、といった形で頭を下げるのを見て、玉座の主は瞳を紅く光らせ、マントを大きくはためかせて立ち上がった。


「クックック……。ぬけぬけとよく来たな勇者よッ!我こそは魔族の王、デストラクトであるッ!」


 爛々と紅い瞳を輝かせ、ガッハッハ、と恐怖を煽るようなおぞましい声が王室の間に響き渡る。


 だが、あちゃ~とため息をつくよう声が聞こえて、ゼトラも周囲を見渡した。

 マーカスとメルキュールは恥ずかしそうに頭を抱え、目をぎゅーっと瞑って早く時間が過ぎてくれと言わんばかりである。アイビスもまた白けた表情で無関心を装っていた。

 列席する亜人たちも、また始まったよ、と言わんばかりに顔を伏せている。


「ふッ。あまりの恐ろしさに声も出ぬか、勇者よッ!だが真に恐ろしきはこれからよッ!」

「えぇ?」


 妙な展開になってきた、とゼトラも理解したのか。戸惑いの声を遮るように、禍々しい爪先でゼトラを指差す。


「き、きき、貴様ごときに!我が可愛い娘などくれてやらぬッ!いざ尋常に勝負せいッ!勇者よッ!」


 青筋を浮かべ、唾を飛ばしながら、ゴウ、と唸るような魔王の咆哮で、空気がビリっと震えた。

 だがそれでも、列席する亜人たちはどこか緊張感がない雰囲気である。


 マーカスがゼトラの横までスルリと移動してきて、そっと耳打ちした。


「すまん、もう少し茶番につきあってくれ」

「茶番……?」


 訝しげに唸るゼトラを無視するように王座から退く魔王。

 唐突に勇者と魔王の最終決戦が始まろうとしていた。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年09月16日12時頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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