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015.新たな依頼に胸は高鳴り

 

 そして翌日。

 冒険者ギルドに集まったマーカスたちは依頼が張り出された掲示板前に居た。


「さて、今日受ける依頼はこれにしようと思う」


 マーカスが指差した一枚の依頼に、メルキュールが苦笑して肩をすくめる。


「あんたもモノ好きね」

「そう言うなって。昨日の勉強会の復習みたいなもんさ」



 『伝説の七竜の探索』

 遺跡の痕跡より存在が推測される伝説の七竜。

 その存在を証明しうる痕跡を探せ。

 報酬;金貨十枚。

 ただし確実に存在すると証明できる痕跡を発見した場合は特別報奨あり。

 達成期限:受注後一ヶ月とする。依頼未達成でも調査報告書を提出すれば銀貨百枚を保証。

 依頼主:エイベルク王家

 推奨ランク『???』


「これってジョークミッションみたいなもので、依頼を達成できる見込みはないんだよね?」

「まぁ、な」


 不思議そうな顔で首を傾げるゼトラに、マーカスが意味ありげな笑みを浮かべて応え、顎をしゃくる。


「依頼文をよく読んでみな」

「『遺跡の痕跡より存在が推測される』……?じゃあ、神話の伝説に過ぎないものなのに、その存在を示すものがあるんだ?」

「そういうことだ。あくまで推測レベルで、何の根拠もないがな」


 マーカスは満足気に頷き、メルキュールがやれやれと言った表情でお手上げのポーズを取る。

 アイビスは相変わらず興味なさそうである。


「まあ、俺なりに考証の余地はあると思って今回この依頼を受ける。ついでにゼトラには、この世には俺たち人の想像もつかないようなものがあるって事を知っておいて欲しいんだ。ま、ちょっとした観光ついでのつもりでな」


 度肝抜かれるぜ、と付け加え、依頼の受注手続きを取るのだった。


 依頼を受注した後、一行はギルドを出ると正面城門ではなく、粗民街から南西の通りを歩いた。


「街道沿いじゃないの?」

「こっちのほうが近いのさ」


 それを疑問に思ったゼトラにマーカスは答え、迷うことなく進む。

 通りは城下から離れるに従って平屋建てが増えていき、さらに外観も徐々に粗末なものになっていく。

 それに合わせて海の匂いが強くなっていく。

 そしていつの間にか城壁が無くなっていることに気づくと、白い砂浜が広がる海にでた。


「わあ。海だ。こうして間近で見るのは初めてだよ!」

「そうだったのか」

「もうちょっと暑くなると海開きねー。このあたりにも海の家がたっくさん建って、賑やかになるのよ」


 砂浜に押し寄せる穏やかな海を楽しむように、小さな子どもを連れた家族連れが何組か見受けられた。


「こっからまだしばらく歩くから、あんま気合入れないほうがいいぜ」

「あ。うん」


 浮かれたような素振りで砂浜の感触を楽しむゼトラをたしなめ、砂浜沿いの土手に上がった。

 そこには砂利道で整備され、その道は遠く崖の方に繋がっている。

 高さはおよそ五十メートルにもなるか。海岸まで垂直に落ちる断崖に向かって続いていた。


 この道を戻れば街道につながる脇道にあたる、という説明を受けながら、黙々と勾配がきつくなる坂道を歩くのだった。

 一時間弱歩いた所でようやく坂道を登りきり、草原が広がる見晴らしのいい崖に登りきったところで、マーカスが指差した。


「あそこが目的地さ」


 マーカスが指差した先にはマードル大森林と呼ばれる広大な森が地平線の彼方まで広がっている。


「その手前」


 ゼトラが視線を少し下げると、森の手前、草原との境目の小高い丘にそれはあった。


「あれは……鎖……?」

「そうだ」


 指差した先には地崩れでむき出しになった大地があった。そして鎖らしき輪が転がっており、その半分以上は地面に埋まっている。

 その周囲には何組もの観光客が群がってその鎖を囲んで見上げていた。


「ん……?あれ……?」


 ゼトラはその違和感に気づいた。鎖と周囲のスケール感の不自然さに。


「え……?」


 その正体を確かめようと、自然と速くなるゼトラの歩みに合わせるように、マーカスたちも思わず笑みを浮かべながらついていく。


「え、えぇ……!?」


 もはや駆け足という程に足早で坂道を駆け下り、遺跡に付いたゼトラが大きく手を広げる。


「デカイ!」

「だろ?」

「マーカスさん、これすっごいデカイ!」

「そうだろ、そうだろ」

「なにこれ!?めちゃくちゃデカイんだけど!?」

「わかったっつーの」


 笑いながら周りの観光客の視線を気にしてゼトラをたしなめる。


「こいつが神話の伝説に過ぎない七竜が実は存在するんじゃないかって疑うきっかけになった代物さ」


 ゼトラは自然とポカーンと口を開けながら、大きく見上げる。

 それは人の何倍も大きい、高さは二十メートルはあろうかという巨大な鎖。輪を形作る紐の太さは五メートルほどもある。日に照らされてやや銀がかっているが、黒く美しく輝いていた。


「デカイ……」


 ゼトラがそう言う他なにもないほどに、あまりにも巨大すぎる鎖が、地面から半分だけ出ていた。

 その輪から続く別の鎖素子が、抉られた地面に続いてる。


「八年前の豪雨被害でここら一帯で山崩れが起きてな。こいつはその時に露出したらしく、しばらくして発見されたんだ」

「へぇ……」

「当時は魔獣襲撃被害で混乱の最中だったが、そりゃ大騒ぎになったもんだぜ」

「そりゃそうだよね……こんなデカイ鎖が見つかったら……」

「で、学者閥を中心に発掘作業を進めたんだが、固い岩盤層に阻まれて遅々として進まず現在もこのままだ」


 ゼトラが視線を落として地面を見ると、確かに掘削した痕跡が見て取れるものの、二メートルだけ掘り進めた程度で放置されているようである。

 だが鎖はその地面に埋まってなお続いているようにも見えた。


 マーカスが地面に続くその物体を拳で軽く叩く。

 カンカン、と金属を叩いたときと同じような乾いた音が鳴った。


「どうやらコイツは主に鉄で出来ているらしい。他にはエーテリウムやクロム、チタン、アルミニウムなんかも混ざってるって事らしいが、これだけ雨風に晒されても錆びる様子がない。不思議なもんだよな」

「ふぇぇぇぇ……」


 また大きく見上げて光を反射する鎖を撫でるゼトラ。その様子を楽しそうに見ていたメルキュールが割り込んで同じくその表面を撫でる。


「ちなみに魔法学的見地から、この鎖は魔力を強く流す性質があるっていう結論よ。だからこれは伝説の七竜を封印、拘束している鎖なんじゃないかって話になったのは当然の流れね」

「そうなんだね……」

「さて問題だ。じゃあこの鎖の先に伝説の七竜を拘束されていると仮定するなら、その七竜はどこにいる?」

「え!?」


 マーカスから出された思わぬ問いに、ゼトラは周囲三百六十度ぐるりと見渡し、首をかしげる。


「あっちよあっち」


 それを見かねてメルキュールが笑って指差した先は海。


「海……の、島……?」

「そうだ」


 海に接する王都から南へおよそ五キロほど。指差した先に、ポツンと浮かぶ島が見えた。

 鎖の向きから言えば、その島に繋がっているのではないか、という推測は妥当のようにも思えた。


「まさかあれが……!?」


 興奮して目を輝かせるゼトラに、マーカスとメルキュールが大きく頷く。


「そう思うだろう」

「ねー」

「じゃあ……!?」

「ところがどっこいってやつよ、ざーんねん」


 メルキュールが戯けてお手上げのポーズを取り、マーカスが頷く。


 その島の名は、アルーア・マルター島。かつて島を所有していた大貴族の名を取ってそう呼ばれた。

 南北二キロ、東西三キロ。楕円形に近く、高さ四百メートルの急峻な山がそびえる島である。

 所有者だった貴族は五十年以上前に相互不干渉協定に抵触した罪で爵位を剥奪されて没落したため王家の所有へと遷ったが、以後、貴族の別荘地として栄えた経緯がある。


 伝説の七竜なのでは、という疑いから冒険者はじめ学者閥が島へ渡り、その調査にあたった。

 地上をくまなく調査し、近海一キロまで範囲を広げて潜水調査も行った。


「その結論としては、どこからどう見てもただの島。玄武岩が多く含まれる岩質から、古い時代に隆起した火山の成れの果てではないか、ということだ」

「そうなんだぁ」


 がっくりと肩を落とすゼトラにマーカスがニヤリと笑う。


「で。じゃあこの鎖は陸地側に繋がっているんじゃないのか、とマードル大森林に目を向けたわけだ」

「おー!じゃあ!?」

「ざーんねん!成果なし!」


 メルキュールの戯けた声に、目を輝かせたゼトラがガクっとつまずく。


「依頼が王家から提供されてから四年近くは大勢の冒険者が盛んに調査のため森に入ったが、いっさい成果なし。いつしか冒険者たちは興味を失って、この三年は掲示板に張り出されたまま、ジョークミッションと化して今に至るってわけだな」

「う~~~~~ん」


 腕組して唸るゼトラに、クスクスと笑う周囲の声。

 いつの間にか、マーカスとメルキュールのガイドトークに聞き入っていた観光客たちの視線を集めていたようである。


「さて、ちと場所を移すか」


 観光客のパチパチと小さな拍手に見送られ、小高い丘から大森林に少し近づいた。


「で、今回依頼受けたのは何も観光目的だけじゃない。俺なりに調査の価値ありと判断する理由がある。それがあれさ」


 マーカスが指差した地平線の彼方。濃い緑が広がるマードル大森林のさらに先、雲で霞むそこに不自然にニョッキと立ち上がる地形が微かに見えた。


「あれって?」

「ここからおよそ四十キロ先、マードルの宿場町から南東へ二十キロ。南の海岸からおおよそ十キロってとこか。高さはおよそ百五十メートル。マードルテーブルと呼ばれる山だ」

「え~!?あそこも散々調査入ってて何もなしって話だったじゃない」


 明らかに嫌そうなメルキュールの声を食い気味にマーカスが遮る。


「だがあの山に登ったって調査記録はないぜ」

「冗談!」


 メルキュールが天を仰いで早口でまくし立てる。


「あそこの頂上はリトルワイバーンの巣になってるらしいって報告あったし、断崖絶壁を命がけで登るのも馬鹿らしいから放置されてるだけじゃない!」

「だからこそだろ?これだけ探しても見つからないなら、調査の手が入っていない所に何かあるんじゃないかって考えるのが冒険者ってもんだろ」

「命がけで登って何もなかったら、それこそ無駄骨じゃない!」


 ぷう、と口を尖らせるメルキュールに、悪巧みをするように口角を釣り上げたマーカスがそっと耳打ちする。


「新たな痕跡を見つけた時の特別報酬は、金貨二千枚らしいぜ、メルキュールさんよ」

「二千!!」

「確定的な証拠なら、さらに十倍らしい」

「二万!?」


 クワッと目を見開いたメルキュールに続き、ゼトラが驚きの声を上げる。


「山分けしても最低でも金貨五百枚、マックス五千枚。死ぬまで豪遊しても使い切れないし、なんならどこぞの小国なら伯爵位も買える報酬だ」

「うーーーんんうぬぬぬぬうぅ!」


 腕組みするメルキュールは悲鳴にも近い唸り声を上げて天を仰ぐ。

 息を止めていたのか、ハァと大きく息を吐いて、マーカスを睨んだ。


「勝算あるのね?」

「まぁな。冒険者の勘ってやつだが」

「勘ねぇ……」


 こいつマジだわ、どうしよ、夢が叶う大金、でもリスクが……とブツブツ呟くメルキュールは損得勘定を必死に計算しているようである。


「爵位なんかどうでもいいけど、金貨五千枚なら世界中の魔導書だけを集めた夢の図書館も建てられるわね……でも命がけであんなとこ……」

「ま。降りるってんならそれでもいいさ。俺たちだけもいくぜ?なあ、ゼトラ」

「え……!?そ、そうだね!?」


 突然話の矛先を振られたゼトラが慌てて肯首するのを見て、メルキュールが再びため息をついた。


「はぁ……、もー。分かったわよー。いくわよー」


 ようやく覚悟を決めたのか、メルキュールが肩を落とす。


「そうこなくっちゃな!」


 ニヤリと笑うマーカスに、メルキュールはジト目でにらみつける。


「もし何もなかったら、一生ネチネチ文句言い続けるからね!?」

「うへー。怖い怖い」


 戯けて笑うマーカスが、顎をしゃくる。


「さて楽しい旅の始まりだ!」

「街道に戻らないの?宿場町の方が近いんでしょ?」


 そのまま森へ下る急坂を進もうとするマーカスの背中にゼトラが慌てて声をかける。


「もし万が一何もなかったら調査報告書を提出して銀貨百枚ぽっちじゃ割りに合わないからな。ついでに森に巣食う魔獣を討伐して特別報酬を狙うのがこの手の調査系依頼のコツなのさ」

「なるほど!」

「はー……先が思いやられるぅ~」


 マーカスの言葉に頭を抱えるメルキュールは、判断誤ったかしら、と呟いて重い足取りで後を追う。

 アイビスは最初からまるで興味なし、という表情で大人しくマーカスの後についていく。


「ここから四十キロといっても道なき森の中を進むからな。一日の野宿は覚悟しとけよ」

「あーはいはい。んじゃこの辺に帰還用の転送魔法陣を作っとけってことでしょ」

「話がわかるじゃないか」


 ニヤリと笑うマーカスに、渋々魔法陣設置の準備するメルキュールなのだった。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年09月10日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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