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099.陽の下の亜人

 エイベルク王国王都グランマリナ。

 ゼトラ暗殺未遂事件という惨事を前にしても、なお事態はゼトラに王たる働きを求めた。

 エイベルク王国政府での軍議を元に細かく作戦を詰めた後、ようやくゆっくり出来たのは日が沈んだ後だった。


 軽めの夕食を済ませ、お風呂の前に少しだけ休みたいと言ったゼトラは、フィオリーナとアイビスを連れて、ばたりとダブルサイズのベッドに倒れ込む。


「はぁ……」


 忙しく、辛く……気の重い一日だったことを思い出して、深いため息が出た。


「ゼトラ……」

「ん……?」


 その横に腰掛けたアイビスが、ポンポン、と胸を叩いて両手を広げた。


「ほら、おいで」


 優しく微笑みかける、愛しい眼差しにゼトラはその胸に甘えるように飛び込んだ。

 ベッドに押し倒し、心臓の音に耳を傾ける。


 その上からフィオリーナも覆いかぶさり、ゼトラに押し付けた。

 ぎゅっとゼトラの胴に脚をからめて、抱きしめる。


「お疲れ様」

「大変だったね……」


 ユングスタインを背負う未来の王。

 人々の期待を一新に集める救世主。

 和国の非道を正す勇者。


 様々な肩書がゼトラに重く、重く圧しかかる。

 ゼトラはいつも胸を張り、時には虚勢さえ張って、その期待に応えようとしていた。

 だがゼトラは、愛する者の前でだけは、どこにでもいそうな()()()一人の人間だった。


 大勢の民衆の前では、忠臣の前でも、マーカスとメルキュールの前ですら見せることのない、ゼトラの弱る姿。

 その姿を知る者はフィオリーナとアイビスしかいない。

 疲れ果てた勇者を慈しみ、癒せるのは魔王と恐れられた者の血を引く娘たちしかいない。


 人前で見せる勇ましい姿と、目の前で見せている弱りきった姿とのギャップも、二人にはたまらなく愛おしかった。

 その事実はフィオリーナとアイビスの独占欲を満たし、ゼトラのために何でもしてあげたい、という無限大の愛となって、包み込んでいた。


 幼女が無残に命を散らしたときのことを思い出したのか、ゼトラがグスッと胸の中で涙ぐむ。


「よしよし」

「可哀想だね……」

「うん……」


 悲しみを紛らわすようにゼトラの頭を撫でて悲しみを共有し、共に涙を流す二人。


「そういえば、さ……」

「ん……?」

「なーに?」


 二人の胸に顔をうずめたまま、ゼトラがモゴ、と声を出す。


「あの時……フィオはどうしてすぐに気づいたの? 僕、すっかり油断してたよ……」

「あぁ……」


 うーん、とフィオリーナが首を傾げる。


「なんかさ、頭の中でなんとなく思ったの。ゼトラが危ないって」

「へぇ?」


 ぷは、と顔をだしたゼトラが不思議そうにフィオリーナの顔を見る。


「不思議だね……」

「ねー」


 まるで他人事のように笑うフィオリーナ。

 その笑顔が、ゼトラにはあの時命を落とした幼い少女と重なって、また辛そうに目を閉じる。


 それでも、一歩前に。

 涙を拭いて、顔をあげて、一歩だけ前に。


「お風呂、あがったわよー」

「はぁい」


 しばらくそうしている内に、トントン、と扉がノックされてくぐもったメルキュールの声にフィオリーナが返事をする。


「じゃ、お風呂入ろっか」

「うんっ」

「うん……」


 すっかり元気を取り戻したゼトラが満面の笑顔を上げて、二人の手を引いてバスルームへと向かうのだった。



 その日の夜、ベッドに潜り込んだゼトラはいつものようにピッタリと身を寄せてきた二人を抱きすくめた。

 フィオリーナはエネルギー切れになってすぐにスヤスヤと幸せな寝息を立て始めて、それを見たゼトラとアイビスが見つめ合って微笑む。

 そしてゼトラは、視界に入ったアイビスの竜角をマジマジと見た。


 ゼトラの興味津々な表情を見て、アイビスはモジモジとして、しかし少しだけ不安げに視線を反らす。

 それを察したゼトラはニコリと微笑み、額に唇を押し当てた。


「どんな姿になったって、僕の思いは変わらないよ。愛してる」

「うん……ありがとう……大好き……」


 お返しのキスをしてアイビスも安心したようにニコリと微笑み返す。


「触っていい?」

「え……うん……」


 恥ずかしそうに、だが触りやすいように顔を少しだけ傾けるアイビス。

 ゼトラはそっとその竜の角のような耳に触れた。


 その感触は硬そうに見えて、ヒトの耳とそう変わらないものだった。

 つまむとクニっと形が変わり、手を離すと元に戻る。


「ン……くすぐったいよ……」


 アイビスが笑いを堪えきれずにゼトラの胸元に顔を埋める。

 ぴょこぴょこと、まるで独立した生き物のように竜角の耳が動いて、ゼトラの指が戯れる猫のように触れる。


「もー。仕返し……」


 それでもアイビスは嫌がる素振りはせず、むしろ嬉しそうに微笑んで、ゼトラの耳にカプリとかぶりついた。


「うひゃ」


 甘噛する感触に思わずゼトラも声をあげてくすぐったそうに身をよじらせた。

 どっちが先に飽きるか、どっちが先に音を上げるか、みたいな勝負の様相を呈してきて、アイビスの耳をイジイジ、ゼトラの耳をハミハミしていたが、どうやらこの勝負はアイビスに軍配が上がったようだ。


 ゼトラがモジっと大きく身体をよじらせて、それに気づいたアイビスがハッと顔を上げて、目を合わせる。


「……」

「……ごめん」


 顔を赤らめるゼトラにそっと口づけしたアイビスは、満面の笑みを浮かべた。

 勝ち誇ったようにドヤ顔を決めると、背中を向けたゼトラに抱きついてクスクスと笑うのだった。




 翌朝。

 朝食の後、早速会議室に集まったところで、マーカスが相談を持ちかけた。


「異界を閉じる?」

「ああ、昨日メルキュールとも話し合ってな」

「遅かれ早かれ、だしね」


 マーカスとメルキュールは話し合い、異界に住まう亜人たちをこちらの世界に住まわせたい、と相談を持ちかけた。

 ゼトラが目指す人と亜人が仲良く暮らす国の実現のために。

 そしてこれは単に和国とエイベルク、ユングスタインの戦いではなく、和国によって辛酸を舐めてきた亜人たちの戦いでもある、と国内外に示すために。


「なるほど」


 一同はこれに両手をあげて賛成した。

 無論、戦力としてアテになることが最も大きい。


 およそ九十年前の征魔大戦。

 秀和帝国を相手に死闘を繰り広げた亜人の超絶魔力は、人のそれなど足元にも及びもつかないのは誰もが知る所である。


 だがそれにはマーカスが首を振る。


「亜人たちの中に一緒に戦いたいってやつがいれば勿論それを止めるつもりはないが、強制はしないで欲しい。特にエルフ族は元々争いを嫌う種族だ」

「それは当然のことです」


 レイモンドは何度も頷いて、夢にまで見たエルフ族の姿を早く見てみたい、とでも思っているようだ。


「しかしこれは我々だけの問題ではありません。エイベルク側にも相談せねば」

「ですな。早速国王陛下に打診いたします」

「頼む」


 早速レイモンド・フォークが代表してギュスターヴ国王に議題の俎上に乗せるよう打診した所、強く興味を惹いたようで、今日にでも昼食を取りながらその話を聞きたい、という連絡があった。



 久しぶりの謁見の間。

 ポークソテーやポトフといったエイベルク料理に舌鼓を打ちながらマーカスの提案をギュスターヴ国王は目を輝かせて何度も小さく頷きながら聞いた。


「なるほど、余が懸念する所としては三点ほどある」

「なんでしょう?」

「亜人とは言え、住まう場所がなければ苦労はしよう。或いは自然と共に生きる種族と聞いている。街に住まう者、自然に帰る者、それぞれとしても、エイベルクの法に従うか、というのが一点」

「そうですね」


 ギュスターヴ国王の問に、マーカスが慣れない敬語で答えた。


「それについては条件次第でしょう。エイベルク領内にとどまる限り害されない、という確約があれば受け容れるものと」

「ふむ」

「例えばエルフ族はそもそもヒト嫌いですから、マードル大森林の守護を任せる代わりに好きにしていい、とかなら喜んで応じると思いますよ。他にもドワーフ族には山の奥地をあてがい、その代わりに水源を守護してほしい、と頼めば鉱物産出も含めてそれなりの貢献はするかと」

「そうか、それはよいな」


 その答えに満足そうに頷いたギュスターヴ国王がさらに続ける。


「二点目、街に住まうなら、住まいの方はどうか」

「現在、異界の人口は全ての種族を合わせておよそ五千人程。街の生活に適応しやすい竜角族はおよそ二千人。王都グランマリナのユングスタイン人保護特区にまだ空きはあるんだよな?」

「ええ。あと五万人は住処を提供できる余地はあります」

「ならば問題なしか」


 マーカスに問われたレイモンドが答え、これも納得したギュスターヴ国王が頷いた。


「三点目は先の質問とも重複するが、実際戦力としてどれほど期待できようか? 我が国の軍律に従えようか?」

「戦力については俺たちが参考になるんじゃないんですか?」


 マーカスがその問いにニヤリと笑い、胸をトントン、と掌で叩いてアピールする。


「単純な魔力量で言えば、メルキュール以上の者はいくらでもいます」

「それは凄まじいな」


 メルキュールもまたプラチナ級として名を馳せている。

 その活躍こそゼトラの前に霞がちだが、その実力は誰もが認めるところだった。


「だた、軍律については期待に添えないでしょう。征魔大戦がそうだったように、元々集団での戦いには向いていないんですよ。個の圧倒的な魔力をもって大軍を征することこそ、亜人の戦い方。せめて仲間に誤爆するな、くらいが関の山です」

「なるほど、それは仕方ないか。ある程度はそちらに合わせるべきか。どうか?」


 ギュスターヴ国王が、同席していたエイベルク王国第一軍軍団長、ザイアス将軍に視線を向ける。


「言葉は悪いですが、亜人を利用しつつ、お互い邪魔しないような戦い方になるでしょう」


 将軍の意見にそれも仕方ないと首をすくめたマーカスを見て、ギュスターヴ国王が力強く頷き、笑みを浮かべた。


「あいわかった。その提案を受け入れよう。ただしそちらのユングスタイン人もそうだが、我が国民もそうだ。人的交流に支障ない者たちはなるべく積極的に街に繰り出し、慣れさせてほしい、と注文はつけておく」

「了解した。午後にも異界に戻りますよ」


 二つ返事で昼食を終えようとした時、ゼトラが手を上げた。


「いかがしたかな、ゼトラ殿下」

「えっと、陛下に頼みたいことがありまして……」

「何なりと申してみよ」

「その……僕たちの装備を王宮鍛冶師に作って欲しい、とたった今、思いつきまして」


 ゼトラのチラリと見る視線に、マーカスとメルキュールがどういうこと?と肩をすくめる。


「その、これは政治ショーだと思うんです。戦いやすい、いつもの冒険者装束でもいいんでしょうけど、もっとこう、見栄えの良い装備でもいいのかなって……どう?」


 いたずらっぽく笑いかけるゼトラにマーカスが仕方ないな、と笑みを返す。


「ハハ、それはいい。是非とも用意させてくれ。思い切り英雄然とした装備を(こしら)えよう」

「あー。その代わり動きづらそうなのは勘弁してほしいな、機能性重視でお願いしたい」

「無論だ。遠慮なく注文つけてくれ」


 ギュスターヴ国王が童心に帰ったように笑い、採寸してから帰城するように、と申し伝えるとその場は散会となった。




 保護特区の屋敷へと戻った後のこと。


「さて、俺たちはこれから異界に戻るが、お前たちはどうする?」


 メルキュールが屋敷の裏庭で異界へ繋ぐゲートを開く間、マーカスがアイビスとフィオリーナを見た。


「うーん……ゼトラはどうするの?」


 フィオリーナがゼトラを見上げて腕に絡みつく。


「僕は行けないかな……。何かあれば相談に乗らなくちゃいけないし」

「じゃあ私はこっちに残る」

「私も……」

「聞くまでもなかったか」


 ククク、とマーカスが笑いを堪える。


「うん! 父様と母様にもよろしく伝えて! こっちで暮らそうって!」

「おう。じゃあ行ってくるわ」

「んじゃねー」


 そう言うと、メルキュールと二人、異界へと消えていった。



 異界に住まう亜人はおよそ五千人程。

 全員が全員を説得させるのは難しいだろう。


 或いはどうしてもヒトなぞ信用できない。異界に残る、という者がいるかもしれなかった。


 だが意外にも、たった二日後に異界のゲートは開いた。

 ぞろぞろと亜人たちが行列を成して、ゲートから出現してくる。

 およそ九十年ぶりに、陽の光の元に亜人たちが姿を現すことになったのである。


「すんごい早かったね!?」


 流石にゼトラも驚きを隠せず、頭をかいて苦笑するマーカスと顔を綻ばせた。


 マーカスもメルキュールも、説得にはそれなりに苦労するだろう、と覚悟して異界に戻った。

 だが、フィオリーナの義父、ジョージ・マンハイム始め全ての亜人たちは既に荷物をまとめ終わっており、待ち構えていたのだ。


「ど、どういうこと?」


 曰く、およそ三週間前。

 久しぶりに目を覚ました星詠みの預言者が、予言を授けた。


「ヒトの世界に旅立ちし若人二人が我らに吉報をもたらすだろう。陽の光を浴びるか、紫光の空の下で一生を過ごすか、問いかけるだろう」


 ……と。


 それからおよそ二週間、亜人たちは激論を繰り返した。

 これはマーカスとメルキュールが元の世界に戻れる算段をつけて異界に帰ってくる、というお告げである。


 だが異界に留まるか、元の世界に戻るか、二択を突きつけてくるということでもある。

 これにどうするか、と揉めに揉めた。


 だがユングスタイン人が望郷の思いを募らせるように、約九十年の長きに渡って異界に閉じこもっていた亜人たちもまた、元の世界に恋い焦がれていた。


 多少の反対意見、懸念する意見もあったが、概ね意見はまとまり、元の世界に戻ることを選択したのだった。

 そして一週間で引っ越し荷物をまとめあげた亜人たちは、マーカスたちを待ち構えていたのである。


 そして予言通り姿を現したマーカスとメルキュールが提示した条件。


 一つ、和国との戦いが終わるまではエイベルク王国内を住処とし、エイベルクの法に従うこと。

 一つ、森での生活を希望するエルフ族はマードル大森林を住処としてこれを守護し、ヒトに害しないこと。

 一つ、山での生活を希望するドワーフ族は北の山地を住処とし、近隣水源を守護すること。

 一つ、自ら望む者のみ、和国との戦いに参加し、ヒトに協力すること。


 これに多少の抵抗はあったが、和国に勝利すればユングスタイン王国が再興する。

 そしてその王となるゼトラの願いである、人と亜人が仲良く暮らす国を実現するため、人を害しない限りは自由になるだろう、と言うと、是が非でも、どうせ一時の我慢、と全てを受け入れた。


 ここに、人に近しく人ならざる者たちが住まう異界はおよそ九十年の歴史を閉じたのだった。


 一方、いきなりゾロゾロと現れた亜人たち……竜角族、エルフ族、ドワーフ族、魚人族の姿を見て、保護特区で暮らすユングスタイン人は勿論、たまたま保護特区を訪れていたエイベルク王国民、他国の商人らは大いに驚いた。


 息を呑み、一体何事かと警戒するような空気に包まれた。


 だがゼトラの傍にあって仲睦まじく語らう竜角族の四人、マーカス、メルキュール、アイビス、フィオリーナの姿を見てその警戒する空気はパッと晴れ上がるように薄まっていった。


 そして『祝福の鐘』の広場に全ての亜人たちとユングスタイン人を集めて、ゼトラは丁寧に説明した。


 およそ九十年前の征魔大戦の戦いのことを。

 和国に破れ、世界に拒絶された亜人たちが異界へ逃げ込んだ事を。


「ここにいる亜人たちもみな、僕たちと同じ和国に虐げられた者たちだ。僕も一度異界に赴き、亜人たちと心を交わした。それで分かったことは、亜人も人も何も変わらない。平和を愛し、穏やかな生活を過ごしたいと願う民の一人なんだ」


 ゼトラが目を輝かせて訴える言葉に、その場に集った人々は熱心に耳を傾けた。


「僕はユングスタイン王国を再興した暁には、人と亜人が仲良く暮らせる国を目指したい。今はここで、共に平和な未来を語らうことを許してほしい」


 そこまで言って、万雷の拍手が巻き起こった。

 ゼトラの言葉を全面的に支持するように。

 それはユングスタイン人に限らず、その場に居合わせたエイベルク王国民、他国の商人さえも熱狂の渦の中で歓喜の声を震わせ、新たな未来を夢を見た。


 特にユングスタイン人の生来の寛容な国民性もあって、まるで最初から共に生活していたかのように亜人たちはあっという間に溶け込んでいくことになる。



 エイベルクに失われたはずの亜人が戻る。

 ユングスタイン王国再興を目指し、共に戦うことを表明。



 この報はあっという間に世界中に駆け回る。

 ゼトラが思い描いていた、国内外に人と亜人が結託して立ち向かう、というイメージ戦略は功を奏して新たな秩序、新たな未来を目指し、人々の心はまた一つ大きく団結するのだった。



 ちなみに、事前の打ち合わせ通りエルフ族はマードル大森林に、ドワーフ族は北の山地へ向かった。

 また魚人族は近くの岩礁を住処と決めて、そこに居を作ったが、それらの中から一部の者はゼトラの元に残った。


 竜角族から約二百名、エルフ族から十五名、ドワーフ族から三十二名、魚人族から十二名。


 戦いは嫌い。だが与えられた土地で安穏と暮らすのは心苦しい。

 ならば共に苦難の道を歩もう。


 その思いを胸にユングスタイン人保護特区に残ることを決意した。

 亜人たちもまた、気高き理想を掲げるゼトラに心を打たれて少しづつ変わろうとしていた。


 それはいずれ、エイベルク王国王都グランマリナ、ユングスタイン人保護特区に行けば、幻の亜人たちに逢える、という触れ込みに変わっていく。

 大勢の人でごった返す、世界で最も賑やかな町並みへと変わることになる。


 そして、それからおよそ一週間後。

 先発隊を見送り、ゼトラたちも和国に奇襲をかけるべく着々と準備を進める中、事態が大きく動く。



 北軍動く。

 ヴァリーク王国を目指し、進軍開始。


 その報せにゼトラは驚いてテーブルを叩いた。


「どうして? 別名あるまで待機せよと命じたはずだ」

「ラファエルクロム・クーガーの独断のようです」


 ゼトラの命を待たず、北軍が勝手に進軍を開始した事に動揺が走ったのはゼトラたちでなく、エイベルク側も同じだった。

 現在レイモンド・フォークはヴァリーク王国側と北軍の通過を認めて欲しいと交渉中であり、それまで進軍させない、という約束を交わしていたからだった。


「どうやらラファエルクロム・クーガーという者は直情的な性格のようで、国を滅ぼした元凶として汚名を被ったまま病に斃れた伯父の名誉を取り戻したい、という思いがそうさせたものと」

「そうか……」


 ゼトラはレイモンドの説明を聞いて、ふと考え込む。


「いや、これは僕の落ち度だ。再興を目指すと宣言した以上はすぐに会いにいかなくちゃいけなかったんだ。日々に忙殺されて放置していた僕が悪い」

「それではゼトラ様……」

「うん」


 アルベルトが伺うようにゼトラを見て、これに応えて頷く。


「みんな、予定を少し繰り上げる。まずは北へ。それから和国へ……」

「はッ!」

「おう」

「おっけー」


 ギュスターヴ国王に用意してもらった真新しい綺羅びやかな戦装束に身を包んだマーカスたちが頷く。

 これに付き従う旧臣たちいずれも戦闘に備えた軽甲冑を付け、北国の寒さに耐えれるようにマントを羽織った。


 いざ、出陣のときを迎えようとしていた。

予告。

進軍を開始したユングスタイン再興軍・北軍。

これを止めるため対峙するヴァリーク王国軍勢の間にゼトラたちは降り立つ。

そして出逢う、ゼトラの祖父母を自ら手にかけた将軍の子孫。

ゼトラはその眼差しに何を見るのか。




次回「100.将軍の遺志、その無念」

お楽しみに。


ブクマ、評価をつけて頂き御礼申し上げます。

本当にありがとうございます。

ブクマ、評価、感想などいただけると嬉しいです。

次回更新は2020年12月12日お昼頃の予定です。

よろしくお願いいたします。

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