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ついてない子(千鶴)

作者: 狼花

 「た・・ただいま」

掠れた声をあげ、桃花が帰ってきた。

「おかえ・・・・変わり果てた姿になったわね」

おかえり、と言おうとしたが娘の変わり果てた姿を見て言葉を失う。

全身ずぶ濡れで消沈した顔の娘。

袖や髪からは水滴がしたたり、小さな水たまりが玄関にできていた。

「傘持って出かけたんじゃなかったの?」

「行くときは雨降ってなかったんだよ。そしたら帰りがけに…」

「降ってきたのね…」

首を縦に振り桃花は風呂場に行った。

・・・   運のない子  ・・・


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「あー、ついてない。雨に打たれるわ、靴は濡れるわ」

バスタオルで髪を拭きながら、まだ文句を言っている。

「ちょ、ちょっと下着姿で出てこないの」

あられもない姿でお風呂場から出てきた桃花。

「え、だって暑いもん」

「そういう問題じゃなくて、・・・・って!きちんと髪と体拭いてから出てきなさいよ」

水滴の足跡がフローリングの床に散乱する。

「えー」

「『えー』じゃないの!」

いちいちうるさいなぁ、と言って風呂場に戻る桃花。

残された水浸しの床、タオルを持ってこなければ

・・・   なんでこう仕事を増やすのか… ・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 


 『ただいま速報が入りました。

    今回の豪雨の影響で近隣の鉄道が被害を受けている模様です』


 あら、そんなに今回の雨ひどいの。

これは明日、職場の方にも何かしら影響があるかもしれないなと思いながら。

床を拭いたタオルを洗濯機に放り込む。


 「あー さっぱり、さっぱり」

「それはようございましたね。お姫様」

「ほんとに災難な1日だよ」

「あんたは日頃の行いが悪いから運が悪いのよ」

「え? 家事を手伝って、宿題もしてるのに何でそうなるの?」

・・・ニヤニヤした顔で威張られてもねぇ・・・


 「この間、学校から記念碑にヒビを入れたって連絡あったんだけど」

「あー、あれは・・・ねぇ」

ニヤケ顔も都合が悪くなるとできないようだ。

あはは・・、とごまかしてトラブルガールは居間に向かった。

「はぁ」

言ってるこっちが疲れてくる。

・・・  私もコーヒーを淹れてゆっくりしよう。  ・・・


 「あのさ、お母さん」

居間でテレビを見ていた桃花が口を開く。

「何よ」

コーヒーメーカーを操作しながら桃花の話を聞く。

「日頃の行いが悪くてもついてない人っているんだね」

テレビの画面を見たまま喋る娘。

どこの芸能人の話だろうか?

「例えば誰よ」

私が聞くと桃花はテレビの画面を指差した。


 『こちらは駅のホームからの中継になります。この豪雨の影響は凄まじく列車の運転再開のめどが立っておりません』

 

 「ん? そこって奈々が通ってる高校付近の駅じゃない」

「うん。ほら、あそこに突っ立ってるのってさ」

テレビをよく見ると見覚えのある制服とカバンを持った女の子が立ち尽くしていた。

「・・・・ た…他人の空似でしょ」

言っては見たもののその面影は奈々と認めざるを得なかった…


「迎え行かなくていいの?」

窓を見れば弾丸のような激しい雨が窓を打ち付けていた。

迎えに行こうにも少し身構えてしまうほどの天候。

・・・  え?この雨の中、迎えに行くの?   ・・・


「ね? やっぱり日頃の行いは関係ないんだよ。

 さてと、私はカップラーメンでもつーくろ♪」

無邪気にソファーから飛び上がり鼻歌を歌いながら台所に向かう桃花。

私は奈々のスマホに電話するがその着信音が本人の部屋から聞こえてきたので電話を切った。

よりにもよってスマホを忘れているらしい。

・・・  連絡手段もないし、行くしかないのか  ・・・


   しかし、私がこの雨の中出かけるのに桃花が家でくつろぐ状況は大変腹ただしい。


 「迎えに行くわよ」

「うん、行ってらっしゃい♪」

「あんたもくるのよ」

「な!!なんで!?」

「何となく。腹が立ったから」

「ちょ、私はもう雨に打たれたんだって」

「ほら、早く準備する!!」

「横暴だよ!!」

抵抗する娘を引きずり、この豪雨の中もう1人の娘を迎えに行くのだった。


・・・   今日はついてないわね… ・・・


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